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[インデックス 19733] ファイルの概要

このコミットは、Go言語の抽象構文木(AST)を走査するgo/astパッケージ内のWalk関数におけるバグ修正に関するものです。具体的には、for range x形式のループにおいて、Keyが指定されない場合にWalk関数がパニックを起こす可能性があった問題を解決しています。

コミット

commit deae10e0384c3224662946bc33e3a5badff782c6
Author: Robert Griesemer <gri@golang.org>
Date:   Mon Jul 14 19:14:27 2014 -0700

    go/ast: fix walk to handle "for range x"
    
    LGTM=rsc
    R=rsc
    CC=golang-codereviews
    https://golang.org/cl/117790043

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/deae10e0384c3224662946bc33e3a5badff782c6

元コミット内容

go/ast: fix walk to handle "for range x"

このコミットは、go/astパッケージのWalk関数が、for range xという形式のループ(キー変数を省略したrangeループ)を正しく処理できるように修正するものです。

変更の背景

Go言語には、スライス、配列、文字列、マップ、チャネルなどのコレクションを反復処理するためのfor range構文があります。この構文は、キーと値の両方、または片方のみを受け取ることができます。例えば、for i, v := range sliceはインデックスと値の両方を取得し、for _, v := range sliceは値のみを取得し、for i := range sliceはインデックスのみを取得します。そして、for range sliceのように、キーも値も明示的に受け取らない形式も存在します。

go/astパッケージは、Goのソースコードを抽象構文木(AST)として表現し、そのASTを走査するための機能を提供します。ast.Walk関数は、ASTのノードを深さ優先で巡回するための汎用的なメカニズムです。この関数は、Visitorインターフェースを実装したオブジェクトを受け取り、ASTの各ノードを訪問する際にVisitメソッドを呼び出します。

問題は、ast.Walk関数がRangeStmtfor rangeループを表すASTノード)を処理する際に、常にn.Keyが存在することを前提としていた点にありました。しかし、for range xのようにキー変数が省略された場合、RangeStmtKeyフィールドはnilになります。このnilKeyに対してWalk関数がWalk(v, n.Key)を呼び出そうとすると、nilポインタ参照が発生し、プログラムがパニックを起こす可能性がありました。

このコミットは、このようなnilKeyに対する安全な処理を追加することで、Walk関数がfor range x形式のループを堅牢に処理できるようにすることを目的としています。

前提知識の解説

抽象構文木 (Abstract Syntax Tree: AST)

ASTは、プログラミング言語のソースコードの抽象的な構文構造を木構造で表現したものです。コンパイラやインタープリタがソースコードを解析する際の中間表現として広く利用されます。ASTは、コードの構造を意味的に表現するため、コメントや空白などの構文的な詳細は通常含まれません。Go言語では、go/astパッケージがASTのデータ構造を定義し、go/parserパッケージがソースコードを解析してASTを生成します。

go/astパッケージ

go/astパッケージは、Go言語のASTを構成する様々なノード型(例えば、式、文、宣言など)を定義しています。これらのノードは、ソースコード内の対応する要素の位置情報(行番号、列番号)も保持しています。このパッケージは、コード分析、リファクタリングツール、コード生成、リンターなどの開発において中心的な役割を果たします。

ast.Walk関数とast.Visitorインターフェース

ast.Walk関数は、GoのASTを深さ優先で走査するためのユーティリティ関数です。この関数は、ast.Visitorインターフェースを実装したオブジェクトを引数として受け取ります。ast.Visitorインターフェースは、Visit(node ast.Node) (w ast.Visitor)という単一のメソッドを定義しています。

Walk関数は、ASTの各ノードを訪問する際に、引数として渡されたVisitorVisitメソッドを呼び出します。Visitメソッドが非nilVisitorを返した場合、Walk関数はそのノードの子ノードに対して再帰的に自身を呼び出します。nilを返した場合は、そのノードの子ノードは走査されません。これにより、特定のサブツリーの走査をスキップするなどの制御が可能になります。

ast.RangeStmt構造体

ast.RangeStmtは、Goのfor...rangeループを表すASTノードです。この構造体は、for rangeループの様々な要素をフィールドとして持っています。

  • Key: rangeループのキー変数を表すast.Exprfor _, v := range xfor v := range xのようにキーが省略された場合はnilになる可能性があります。
  • Value: rangeループの値変数を表すast.Exprfor i := range xのように値が省略された場合はnilになる可能性があります。
  • X: 反復処理されるコレクション(スライス、マップ、チャネルなど)を表すast.Expr
  • Body: ループの本体を表す*ast.BlockStmt

for range x構文

Go言語のfor rangeループにおいて、for range xという形式は、キーも値も明示的に受け取らないループです。これは、単にコレクションを反復処理し、その副作用(例えば、チャネルからの受信)を利用したい場合や、ループ回数だけが重要な場合に用いられます。この形式では、RangeStmtKeyフィールドとValueフィールドの両方がnilになります。

技術的詳細

このコミットの技術的な核心は、go/astパッケージのwalk.goファイル内のWalk関数がRangeStmtノードを処理するロジックに条件分岐を追加した点です。

修正前のコードでは、RangeStmtのケースにおいて、n.Keyn.Valueに対して無条件にWalk関数を呼び出していました。

case *RangeStmt:
    Walk(v, n.Key) // ここでn.Keyがnilの場合にパニック
    if n.Value != nil {
        Walk(v, n.Value)
    }
    Walk(v, n.X)
    Walk(v, n.Body)

しかし、前述の通り、for range xのような構文ではn.Keynilになるため、Walk(v, n.Key)の呼び出しがnilポインタデリファレンスを引き起こしていました。

このコミットでは、n.Keynilでない場合にのみWalk(v, n.Key)を呼び出すように修正されました。

case *RangeStmt:
    if n.Key != nil { // n.Keyがnilでないかチェックを追加
        Walk(v, n.Key)
    }
    if n.Value != nil {
        Walk(v, n.Value)
    }
    Walk(v, n.X)
    Walk(v, n.Body)

このシンプルなif n.Key != nilチェックの追加により、Walk関数はKeyが省略されたfor rangeループでも安全に動作するようになりました。これにより、ASTの走査中に予期せぬパニックが発生する可能性が排除され、go/astパッケージの堅牢性が向上しました。

コアとなるコードの変更箇所

変更はsrc/pkg/go/ast/walk.goファイルの一箇所のみです。

--- a/src/pkg/go/ast/walk.go
+++ b/src/pkg/go/ast/walk.go
@@ -275,7 +275,9 @@ func Walk(v Visitor, node Node) {
 		Walk(v, n.Body)
 
 	case *RangeStmt:
-		Walk(v, n.Key)
+		if n.Key != nil {
+			Walk(v, n.Key)
+		}
 		if n.Value != nil {
 			Walk(v, n.Value)
 		}

コアとなるコードの解説

変更されたコードは、Walk関数内のswitch文の一部で、*RangeStmt型(for range文を表すASTノード)を処理するcaseブロックです。

元のコードでは、RangeStmtKeyフィールドに対して無条件にWalk関数を呼び出していました。 Walk(v, n.Key)

修正後のコードでは、この呼び出しの前にif n.Key != nilという条件が追加されています。 if n.Key != nil { Walk(v, n.Key) }

この変更により、n.Keynil(つまり、for range xのようにキー変数が省略されている場合)であっても、Walk関数はnilポインタデリファレンスを起こすことなく、安全に処理を続行できるようになりました。n.Valueに対するチェックは元々存在しており、n.Xn.Bodyは常に存在すると仮定できるため、それらに対する変更はありません。

この修正は、Go言語のAST処理の正確性と堅牢性を高める上で重要であり、go/astパッケージを利用するツール(例えば、gofmt、リンター、静的解析ツールなど)の安定性にも寄与します。

関連リンク

参考にした情報源リンク

[インデックス 19733] ファイルの概要

このコミットは、Go言語の抽象構文木(AST)を走査するgo/astパッケージ内のWalk関数におけるバグ修正に関するものです。具体的には、for range x形式のループにおいて、Keyが指定されない場合にWalk関数がパニックを起こす可能性があった問題を解決しています。

コミット

commit deae10e0384c3224662946bc33e3a5badff782c6
Author: Robert Griesemer <gri@golang.org>
Date:   Mon Jul 14 19:14:27 2014 -0700

    go/ast: fix walk to handle "for range x"
    
    LGTM=rsc
    R=rsc
    CC=golang-codereviews
    https://golang.org/cl/117790043

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/deae10e0384c3224662946bc33e3a5badff782c6

元コミット内容

go/ast: fix walk to handle "for range x"

このコミットは、go/astパッケージのWalk関数が、for range xという形式のループ(キー変数を省略したrangeループ)を正しく処理できるように修正するものです。

変更の背景

Go言語には、スライス、配列、文字列、マップ、チャネルなどのコレクションを反復処理するためのfor range構文があります。この構文は、キーと値の両方、または片方のみを受け取ることができます。例えば、for i, v := range sliceはインデックスと値の両方を取得し、for _, v := range sliceは値のみを取得し、for i := range sliceはインデックスのみを取得します。そして、for range sliceのように、キーも値も明示的に受け取らない形式も存在します。

go/astパッケージは、Goのソースコードを抽象構文木(AST)として表現し、そのASTを走査するための機能を提供します。ast.Walk関数は、ASTのノードを深さ優先で巡回するための汎用的なメカニズムです。この関数は、Visitorインターフェースを実装したオブジェクトを受け取り、ASTの各ノードを訪問する際にVisitメソッドを呼び出します。

問題は、ast.Walk関数がRangeStmtfor rangeループを表すASTノード)を処理する際に、常にn.Keyが存在することを前提としていた点にありました。しかし、for range xのようにキー変数が省略された場合、RangeStmtKeyフィールドはnilになります。このnilKeyに対してWalk関数がWalk(v, n.Key)を呼び出そうとすると、nilポインタ参照が発生し、プログラムがパニックを起こす可能性がありました。

このコミットは、このようなnilKeyに対する安全な処理を追加することで、Walk関数がfor range x形式のループを堅牢に処理できるようにすることを目的としています。

前提知識の解説

抽象構文木 (Abstract Syntax Tree: AST)

ASTは、プログラミング言語のソースコードの抽象的な構文構造を木構造で表現したものです。コンパイラやインタープリタがソースコードを解析する際の中間表現として広く利用されます。ASTは、コードの構造を意味的に表現するため、コメントや空白などの構文的な詳細は通常含まれません。Go言語では、go/astパッケージがASTのデータ構造を定義し、go/parserパッケージがソースコードを解析してASTを生成します。

go/astパッケージ

go/astパッケージは、Go言語のASTを構成する様々なノード型(例えば、式、文、宣言など)を定義しています。これらのノードは、ソースコード内の対応する要素の位置情報(行番号、列番号)も保持しています。このパッケージは、コード分析、リファクタリングツール、コード生成、リンターなどの開発において中心的な役割を果たします。

ast.Walk関数とast.Visitorインターフェース

ast.Walk関数は、GoのASTを深さ優先で走査するためのユーティリティ関数です。この関数は、ast.Visitorインターフェースを実装したオブジェクトを引数として受け取ります。ast.Visitorインターフェースは、Visit(node ast.Node) (w ast.Visitor)という単一のメソッドを定義しています。

Walk関数は、ASTの各ノードを訪問する際に、引数として渡されたVisitorVisitメソッドを呼び出します。Visitメソッドが非nilVisitorを返した場合、Walk関数はそのノードの子ノードに対して再帰的に自身を呼び出します。nilを返した場合は、そのノードの子ノードは走査されません。これにより、特定のサブツリーの走査をスキップするなどの制御が可能になります。

ast.RangeStmt構造体

ast.RangeStmtは、Goのfor...rangeループを表すASTノードです。この構造体は、for rangeループの様々な要素をフィールドとして持っています。

  • Key: rangeループのキー変数を表すast.Exprfor _, v := range xfor v := range xのようにキーが省略された場合はnilになる可能性があります。
  • Value: rangeループの値変数を表すast.Exprfor i := range xのように値が省略された場合はnilになる可能性があります。
  • X: 反復処理されるコレクション(スライス、マップ、チャネルなど)を表すast.Expr
  • Body: ループの本体を表す*ast.BlockStmt

for range x構文

Go言語のfor rangeループにおいて、for range xという形式は、キーも値も明示的に受け取らないループです。これは、単にコレクションを反復処理し、その副作用(例えば、チャネルからの受信)を利用したい場合や、ループ回数だけが重要な場合に用いられます。この形式では、RangeStmtKeyフィールドとValueフィールドの両方がnilになります。

技術的詳細

このコミットの技術的な核心は、go/astパッケージのwalk.goファイル内のWalk関数がRangeStmtノードを処理するロジックに条件分岐を追加した点です。

修正前のコードでは、RangeStmtのケースにおいて、n.Keyn.Valueに対して無条件にWalk関数を呼び出していました。

case *RangeStmt:
    Walk(v, n.Key) // ここでn.Keyがnilの場合にパニック
    if n.Value != nil {
        Walk(v, n.Value)
    }
    Walk(v, n.X)
    Walk(v, n.Body)

しかし、前述の通り、for range xのような構文ではn.Keynilになるため、Walk(v, n.Key)の呼び出しがnilポインタデリファレンスを引き起こしていました。

このコミットでは、n.Keynilでない場合にのみWalk(v, n.Key)を呼び出すように修正されました。

case *RangeStmt:
    if n.Key != nil { // n.Keyがnilでないかチェックを追加
        Walk(v, n.Key)
    }
    if n.Value != nil {
        Walk(v, n.Value)
    }
    Walk(v, n.X)
    Walk(v, n.Body)

このシンプルなif n.Key != nilチェックの追加により、Walk関数はKeyが省略されたfor rangeループでも安全に動作するようになりました。これにより、ASTの走査中に予期せぬパニックが発生する可能性が排除され、go/astパッケージの堅牢性が向上しました。

コアとなるコードの変更箇所

変更はsrc/pkg/go/ast/walk.goファイルの一箇所のみです。

--- a/src/pkg/go/ast/walk.go
+++ b/src/pkg/go/ast/walk.go
@@ -275,7 +275,9 @@ func Walk(v Visitor, node Node) {
 		Walk(v, n.Body)
 
 	case *RangeStmt:
-		Walk(v, n.Key)
+		if n.Key != nil {
+			Walk(v, n.Key)
+		}
 		if n.Value != nil {
 			Walk(v, n.Value)
 		}

コアとなるコードの解説

変更されたコードは、Walk関数内のswitch文の一部で、*RangeStmt型(for range文を表すASTノード)を処理するcaseブロックです。

元のコードでは、RangeStmtKeyフィールドに対して無条件にWalk関数を呼び出していました。 Walk(v, n.Key)

修正後のコードでは、この呼び出しの前にif n.Key != nilという条件が追加されています。 if n.Key != nil { Walk(v, n.Key) }

この変更により、n.Keynil(つまり、for range xのようにキー変数が省略されている場合)であっても、Walk関数はnilポインタデリファレンスを起こすことなく、安全に処理を続行できるようになりました。n.Valueに対するチェックは元々存在しており、n.Xn.Bodyは常に存在すると仮定できるため、それらに対する変更はありません。

この修正は、Go言語のAST処理の正確性と堅牢性を高める上で重要であり、go/astパッケージを利用するツール(例えば、gofmt、リンター、静的解析ツールなど)の安定性にも寄与します。

関連リンク

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