[インデックス 10023] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のマップ（map）から要素を削除する機能の重要な進化を示すものです。Russ Coxによる2011年10月18日のコミットで、新しいdelete(m, x)関数の導入と、従来のm[x] = 0, false構文の廃止準備を行いました。

コミット

コミットハッシュ: 1d687c742ddad0be83314019c03e17bad7235535
作成者: Russ Cox rsc@golang.org
日付: 2011年10月18日 09:41:32 -0400
コミットメッセージ: gc: add delete(m, x) but leave in m[x] = 0, false.

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/1d687c742ddad0be83314019c03e17bad7235535

元コミット内容

gc: add delete(m, x) but leave in m[x] = 0, false.

The old m[x] = 0, false syntax will be deleted
in a month or so, once people have had time to
change their code (there is a gofix in a separate CL).

R=ken2
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5265048

変更されたファイル:

src/cmd/gc/builtin.c.boot (1行追加)
src/cmd/gc/go.h (4行追加, 1行削除)
src/cmd/gc/lex.c (1行追加)
src/cmd/gc/runtime.go (1行追加)
src/cmd/gc/subr.c (1行追加)
src/cmd/gc/typecheck.c (37行追加, 3行削除)
src/cmd/gc/walk.c (31行追加)
src/pkg/runtime/hashmap.c (22行追加)

合計: 8ファイル、94行追加、4行削除

変更の背景

このコミットは、Go 1.0リリース（2012年3月）に向けた言語仕様の最終化の一環として実施されました。2011年当時、Goはまだ実験的な段階にあり、言語の設計に関する重要な決定が行われていました。

マップからの要素削除に関して、従来のm[x] = 0, false構文は以下の問題を抱えていました：

直感的でない構文: 削除操作であることが明確でない
型安全性の問題: 第一引数の値は無視されるが、型チェックが必要
一貫性の欠如: 他の組み込み操作と構文が異なる
コミュニティからの懸念: 開発者コミュニティから批判的な意見が寄せられていた

前提知識の解説

Go言語のマップ（Map）

Go言語のマップは、キーと値のペアを格納するハッシュテーブルベースのデータ構造です。以下の特徴を持ちます：

参照型: マップは参照型であり、実際のデータは別の場所に格納される
動的サイズ: 実行時にサイズを変更可能
型安全: キーと値の型は宣言時に決定される
ハッシュベース: 内部的にハッシュテーブルとして実装

Go言語の歴史的コンテキスト

2011年時点のGoは以下の状況でした：

開発初期段階: 2009年に発表され、まだ実験的な言語
言語仕様の確定作業: Go 1.0リリースに向けた仕様の最終化
後方互換性への配慮: 既存コードへの影響を最小限に抑える必要性
コミュニティの成長: 開発者コミュニティからのフィードバック増加

Russ Coxの役割

Russ Coxは、Go言語の開発において以下の重要な役割を果たしていました：

技術リーダー: Go言語の技術的方向性を決定
コンパイラ開発: gcコンパイラの主要開発者
言語設計: 言語仕様の設計と実装
標準ライブラリ: 標準ライブラリの設計と実装

技術的詳細

delete関数の実装

新しいdelete関数は以下の特徴を持ちます：

func delete(m map[Type]Type1, key Type)

組み込み関数: 言語レベルでサポートされる組み込み関数
戻り値なし: 削除操作は副作用のみを持つ
安全な操作: 存在しないキーを削除してもエラーにならない
型安全: コンパイル時に型チェックが行われる

従来の構文との比較

従来の構文（廃止予定）:

m[key] = 0, false  // 第一引数は無視される、第二引数は常にfalse

新しい構文:

delete(m, key)  // 明確で直感的

実装箇所の詳細

コミットで変更された主要な箇所：

コンパイラ（gc）の変更:
- builtin.c.boot: 組み込み関数の定義追加
- go.h: 新しい構文解析のための定義
- lex.c: 字句解析でのdelete関数認識
- typecheck.c: 型チェック機能の実装
- walk.c: 中間表現での処理実装
ランタイムの変更:
- runtime.go: ランタイム関数の宣言
- hashmap.c: ハッシュマップの削除機能実装

コアとなるコードの変更箇所

1. typecheck.c（37行追加）

この変更により、delete関数の型チェック機能が追加されました。具体的には：

第一引数がマップ型であることの確認
第二引数がマップのキー型と一致することの確認
戻り値の型チェック（戻り値なし）

引数の数チェック: delete関数は正確に2つの引数を必要とする
マップ型チェック: 第一引数は必ずマップ型でなければならない
キー型チェック: 第二引数はマップのキー型と互換性がなければならない

中間表現での処理

walk.cでの変更により、以下の変換が行われます：

関数呼び出しの認識: delete(m, key)をコンパイラが認識
内部関数への変換: 適切なランタイム関数呼び出しに変換
最適化: 不要な処理の除去とパフォーマンスの最適化

ランタイム実装

hashmap.cでの変更により、以下の機能が提供されます：

ハッシュ値計算: キーからハッシュ値を計算
要素の検索: ハッシュテーブル内での要素の位置特定
要素の削除: メモリからの要素除去とテーブル再構築

comemo