[インデックス 10159] ファイルの概要
このコミットは、Go言語のテストスイート内のtest/fixedbugs/bug107.go
ファイルに対する変更です。具体的には、このテストファイルがos.Error
型に依存しないように修正され、代わりにos.FileInfo
型を使用するように変更されています。これにより、os.Error
の変更または非推奨化の影響を受けずに、テストの本来の目的(パッケージ名と変数名のシャドウイングに関するコンパイラの挙動のテスト)が維持されるようになります。
コミット
commit a07841e21ebe371f7b9f45cba1e0d1a8090c58fb
Author: Russ Cox <rsc@golang.org>
Date: Mon Oct 31 17:50:38 2011 -0400
test: make bug107 os.Error-proof
R=golang-dev, bradfitz
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5306087
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/a07841e21ebe371f7b9f45cba1e0d1a8090c58fb
元コミット内容
このコミットの目的は、bug107
というテストケースをos.Error
の変更に対して堅牢にすることです。具体的には、os.Error
型への依存を取り除き、テストが将来のGo言語の変更によって壊れないようにしています。
変更の背景
Go言語の開発初期段階では、APIや言語仕様が頻繁に変更されていました。特にエラーハンドリングのメカニズムは進化を遂げ、初期のos.Error
インターフェースは後に組み込みのerror
インターフェースに統合され、os.Error
は非推奨となりました。
test/fixedbugs/bug107.go
は、Goコンパイラがパッケージ名とローカル変数名が同じ場合に、ローカル変数がパッケージ名を「シャドウイング(shadowing)」する挙動を正しく処理するかどうかをテストするためのものです。このテストの元々のバージョンでは、os
パッケージからos.Error
型をインポートして使用していました。
type _ os.Error
という行は、os.Error
型自体を直接使用するわけではなく、単にos
パッケージから何らかの型をインポートし、その存在をコンパイラに認識させることで、後続のコードでos
という名前がローカル変数としてシャドウイングされるシナリオを確立するために存在していました。
os.Error
が非推奨となり、最終的に削除される可能性があったため、このテストが将来的にコンパイルエラーになることを避ける必要がありました。テストの目的はos.Error
の機能そのものをテストすることではなく、シャドウイングの挙動をテストすることであったため、os
パッケージ内の別の型(この場合はos.FileInfo
)に置き換えることで、テストの意図を損なわずに将来の互換性を確保することができました。
前提知識の解説
Go言語のエラーハンドリングの変遷 (os.Error
からerror
へ)
Go言語の初期バージョンでは、エラーを表すためにos.Error
というインターフェースがos
パッケージ内に定義されていました。これは以下のようなものでした。
package os
type Error interface {
String() string
}
しかし、Go言語の設計思想として、エラーは言語の基本的な機能として扱われるべきであるという考えから、後にerror
という組み込みインターフェースが導入されました。
type error interface {
Error() string
}
この変更により、os.Error
は非推奨となり、最終的には削除されました。現在では、Go言語の標準的なエラーハンドリングは、この組み込みのerror
インターフェースを使用します。
os.FileInfo
インターフェース
os.FileInfo
は、Go言語のos
パッケージで定義されているインターフェースで、ファイルやディレクトリに関する情報(名前、サイズ、パーミッション、最終更新時刻など)を提供します。
package os
type FileInfo interface {
Name() string // base name of the file
Size() int64 // length in bytes for regular files; system-dependent for others
Mode() FileMode // file mode bits
ModTime() time.Time // modification time
IsDir() bool // abbreviation for Mode().IsDir()
Sys() interface{} // underlying data source (can return nil)
}
このインターフェースは、ファイルシステム操作において広く利用されます。
Go言語におけるシャドウイング (Shadowing)
シャドウイングとは、あるスコープ内で宣言された識別子(変数、関数、型など)が、その外側のスコープで宣言された同じ名前の識別子を「隠す」現象を指します。Go言語では、内側のスコープで宣言された識別子が優先され、外側のスコープの識別子にはアクセスできなくなります。
このコミットで関連するbug107.go
のテストケースでは、os
という名前がパッケージ名と関数の戻り値の変数名として両方で使われています。
package main
import os "os" // osパッケージをインポート
func f() (os int) { // 戻り値の変数名もos
// In the next line "os" should refer to the result variable, not
// to the package.
_ = os // ここでのosは戻り値の変数osを指すべき
}
この場合、func f() (os int)
の内部では、戻り値の変数os
がos
パッケージをシャドウイングします。したがって、_ = os
の行では、os
はint
型の変数として扱われるべきであり、os
パッケージへの参照ではないことをコンパイラが正しく認識するかどうかがテストされています。
技術的詳細
このコミットの技術的な詳細は、Go言語のコンパイラの挙動と、テストの堅牢性に関するものです。
test/fixedbugs/bug107.go
の元のコードには、type _ os.Error
という行がありました。この行の目的は、os
パッケージがインポートされていることを確認し、そのパッケージから何らかの型(この場合はos.Error
)を参照することで、os
という名前がパッケージとして有効であることをコンパイラに認識させることでした。これにより、後続のfunc f() (os int)
内でos
というローカル変数が宣言されたときに、コンパイラがパッケージ名とローカル変数名のシャドウイングを正しく処理するかどうかをテストする準備が整います。
os.Error
がGo言語の進化の過程で非推奨となり、最終的に削除される可能性があったため、このテストが将来的にコンパイルエラーになるリスクがありました。テストの本来の目的はos.Error
の具体的な機能ではなく、os
という名前のシャドウイング挙動を検証することでした。
そこで、コミットではtype _ os.Error
をtype _ os.FileInfo
に置き換えました。os.FileInfo
もos
パッケージ内に存在する型であり、os.Error
と同様に、os
パッケージが正しくインポートされ、その中の型が参照可能であることを示す役割を果たします。この変更により、テストの意図は完全に維持されつつ、os.Error
の将来的な変更や削除による影響を受けなくなりました。
この修正は、Go言語の標準ライブラリやコンパイラのテストが、言語自体の進化に合わせてどのように保守されているかを示す良い例です。特定のAPIの変更が、そのAPIの機能とは直接関係のないテストに影響を与える可能性がある場合、テストの目的を維持しつつ、依存関係を更新することが重要になります。
コアとなるコードの変更箇所
変更はtest/fixedbugs/bug107.go
ファイルの一箇所のみです。
--- a/test/fixedbugs/bug107.go
+++ b/test/fixedbugs/bug107.go
@@ -6,7 +6,7 @@
package main
import os "os"
-type _ os.Error
+type _ os.FileInfo
func f() (os int) {
// In the next line "os" should refer to the result variable, not
// to the package.
具体的には、以下の行が変更されました。
-type _ os.Error
+type _ os.FileInfo
コアとなるコードの解説
変更された行type _ os.Error
とtype _ os.FileInfo
は、Go言語の型宣言の一種です。ここで_
(ブランク識別子)が型名の代わりに使われているのは、その型を実際に使用する意図はなく、単にその型が存在し、コンパイラがそれを解決できることを確認するためです。
元のコードのtype _ os.Error
は、os
パッケージからError
型をインポートし、その型が有効であることをコンパイラに認識させていました。これは、os
パッケージが正しくインポートされていることを暗黙的に確認し、os
という名前がパッケージ名として利用可能であることを保証する役割がありました。
変更後のtype _ os.FileInfo
も同様の役割を果たします。os.FileInfo
はos
パッケージ内に存在する別の型であり、os.Error
が非推奨になった後でも、os
パッケージが正しくインポートされ、その中の型が参照可能であることを示すことができます。
この行の真の目的は、その直後の関数f()
の定義にあるコメントで説明されています。
func f() (os int) {
// In the next line "os" should refer to the result variable, not
// to the package.
_ = os
}
このコメントが示すように、テストの核心は、func f() (os int)
という関数シグネチャ内でos
という名前が戻り値の変数名として宣言されたときに、その関数スコープ内でos
という名前がos
パッケージではなく、このローカル変数os
を指すことをコンパイラが正しく理解するかどうかを検証することです。
type _ os.Error
やtype _ os.FileInfo
の行は、このシャドウイングのシナリオを確立するための「お膳立て」に過ぎません。os.Error
が非推奨になったため、テストの目的を維持しつつ、コンパイルエラーを避けるために、os
パッケージ内の別の適切な型であるos.FileInfo
に置き換えられたのです。
関連リンク
- Go Code Review 5306087: https://golang.org/cl/5306087
参考にした情報源リンク
- Go言語の公式ドキュメント (osパッケージ、errorインターフェースに関する情報)
- Go言語のシャドウイングに関する一般的な情報
- このコミットのGitリポジトリ上の情報
- Go言語のエラーハンドリングの歴史に関する情報 (Go 1.0以前の
os.Error
について) os.FileInfo
インターフェースの定義と使用法に関する情報- Go言語のテストコードの慣習に関する情報
- Go言語のブランク識別子 (
_
) の使用法に関する情報I have generated the comprehensive technical explanation for the commit as requested.