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[インデックス 1032] ファイルの概要

このコミットは、Go言語の標準ライブラリの一部である src/lib/strings.go ファイルに対する変更です。このファイルは、文字列操作に関する基本的なユーティリティ関数を提供していました。具体的には、文字列を数値型に変換する関数が含まれていました。

コミット

このコミットは、文字列を数値に変換する既存の atol 関数を、符号なし整数 (uint64) を扱う atoui64 関数と、それを基盤として符号付き整数 (int64) を扱う atoi64 関数に分割し、再構築するものです。これにより、文字列から符号なし整数への変換が明確に分離され、より堅牢な数値変換ロジックの基礎が築かれました。

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/6524b82fed01c37486c6e3c9d0c8ce8b8946b371

元コミット内容

ascii to unsigned integer

R=rsc
DELTA=60  (35 added, 17 deleted, 8 changed)
OCL=18339
CL=18343
---
 src/lib/strings.go | 56 ++++++++++++++++++++++++++++++++++++------------------
 1 file changed, 37 insertions(+), 19 deletions(-)

変更の背景

この変更の背景には、文字列から数値への変換における型安全性の向上と、より明確なセマンティクスの確立があります。元の atol 関数は、符号付きの int64 を返していましたが、文字列が符号なしの数値表現である場合(例えば、ハッシュ値やIDなど)には、そのセマンティクスが曖昧になる可能性がありました。

Go言語は静的型付け言語であり、型の厳密性を重視します。このコミットが行われたGo言語の初期段階において、文字列から数値への変換は基本的な機能であり、その設計は将来の言語の方向性を決定づける重要な要素でした。符号付きと符号なしの変換ロジックを分離することで、以下の利点が得られます。

  1. 明確な意図: 開発者が文字列を符号なし整数として解釈したい場合、atoui64 を明示的に使用できるようになります。これにより、コードの意図がより明確になります。
  2. 再利用性: 符号なし整数への変換ロジック (atoui64) を独立させることで、符号付き整数への変換 (atoi64) がそのロジックを再利用できるようになり、コードの重複が削減されます。
  3. 堅牢性: 符号の有無による処理の分岐を atoi64 に集約し、純粋な数値変換を atoui64 に任せることで、それぞれの関数の責任が明確になり、将来的なバグの混入を防ぎやすくなります。
  4. 将来の拡張性: オーバーフローチェックなどの機能を追加する際に、符号付きと符号なしで異なるロジックが必要になる場合でも、分離された構造は変更を容易にします。

この変更は、Go言語がその設計思想である「シンプルさ」と「明確さ」を追求する過程で、基本的なライブラリ機能においても型とセマンティクスを重視していたことを示しています。

前提知識の解説

Go言語の基本的な数値型

Go言語には、符号付き整数型と符号なし整数型があります。

  • 符号付き整数型: int, int8, int16, int32, int64
    • int: 32ビットシステムでは32ビット、64ビットシステムでは64ビットの符号付き整数。
    • int64: 常に64ビットの符号付き整数。
  • 符号なし整数型: uint, uint8, uint16, uint32, uint64, uintptr
    • uint: int と同様に、システムに依存するビット幅の符号なし整数。
    • uint64: 常に64ビットの符号なし整数。

これらの型は、表現できる数値の範囲が異なります。符号付き整数は正と負の値を表現できますが、符号なし整数は非負の値(0以上の値)のみを表現できます。

文字列から数値への変換

プログラミングにおいて、ユーザー入力やファイルからの読み込みなど、文字列形式で表現された数値を実際の数値型に変換する処理は非常に一般的です。この変換処理は、以下の点を考慮する必要があります。

  • 数値以外の文字: 文字列に数値として解釈できない文字が含まれている場合のエラーハンドリング。
  • 符号: 文字列が正の数(例: "123")か負の数(例: "-456")か。
  • 基数: 10進数、16進数、2進数など、数値の表現形式。このコミットでは10進数を扱っています。
  • オーバーフロー: 変換後の数値が、ターゲットの数値型で表現できる範囲を超えてしまう場合。このコミットでは、まだオーバーフローチェックが実装されていないことが TODO コメントで示されています。
  • 空文字列: 空の文字列が入力された場合の処理。

atol, atoi, atoui などの関数名の慣習

これらの関数名は、C言語の標準ライブラリに由来する慣習です。

  • atoi: "ASCII to Integer" の略で、文字列を符号付き整数に変換します。
  • atol: "ASCII to Long" の略で、文字列を符号付き長整数(通常は long 型)に変換します。
  • atoll: "ASCII to Long Long" の略で、文字列を符号付き超長整数(通常は long long 型)に変換します。
  • atof: "ASCII to Float" の略で、文字列を浮動小数点数に変換します。
  • atoui: "ASCII to Unsigned Integer" の略で、文字列を符号なし整数に変換します。

Go言語では、これらの慣習を踏襲しつつ、Goの型システムに合わせて int64uint64 などの具体的なビット幅を持つ型を使用しています。

技術的詳細

このコミットの主要な技術的変更点は、文字列から数値への変換ロジックの再設計です。

  1. atol 関数の削除と atoui64 の導入:

    • 元の export func atol(s string) (i int64, ok bool) 関数が削除されました。
    • 代わりに、export func atoui64(s string) (i uint64, ok bool) という新しい関数が導入されました。この関数は、文字列を符号なしの64ビット整数 (uint64) に変換することに特化しています。
    • atoui64 の実装は、入力文字列の先頭の符号(+-)を処理せず、純粋に数字の並びを符号なし整数として解釈します。
    • 数値のパースロジックは、n = n*10 + uint64(s[i] - '0') のように、uint64 型で計算されるように変更されました。
  2. atoi64 関数の導入:

    • export func atoi64(s string) (i int64, ok bool) という新しい関数が導入されました。この関数は、文字列を符号付きの64ビット整数 (int64) に変換します。
    • atoi64 は、まず入力文字列の先頭に符号(+ または -)があるかどうかをチェックし、その符号を記録します。
    • 符号を取り除いた残りの文字列を、新しく導入された atoui64 関数に渡して符号なし整数としてパースします。
    • atoui64 から返された符号なし整数 (uint64) を int64 にキャストし、元の文字列に負の符号があった場合は、その結果を負の値に変換します。
    • この構造により、符号付き変換のロジックが符号なし変換のロジックの上に構築され、コードの再利用性が高まっています。
  3. atoui 関数の導入:

    • export func atoui(s string) (i uint, ok bool) という新しい関数が導入されました。
    • この関数は、atoui64 を呼び出して64ビットの符号なし整数を取得し、それをシステム依存の uint 型にキャストして返します。
  4. atoi 関数の変更:

    • 既存の export func atoi(s string) (i int, ok bool) 関数は、以前は atol を呼び出していましたが、新しい atoi64 関数を呼び出すように変更されました。
    • atoi64 から返された64ビットの符号付き整数を、システム依存の int 型にキャストして返します。
  5. オーバーフローチェックの保留:

    • atoui64 および atoi64 の両方で、TODO: Doesn't check for overflow. というコメントが残されており、数値が型で表現できる最大値を超えた場合の処理がまだ実装されていないことが示されています。これは、Go言語の初期段階であり、基本的な機能の実装が優先されていたことを示唆しています。

これらの変更により、文字列から数値への変換処理が、符号の有無によって明確に分離され、よりモジュール化された設計になりました。

コアとなるコードの変更箇所

src/lib/strings.go ファイルにおける主要な変更は以下の通りです。

--- a/src/lib/strings.go
+++ b/src/lib/strings.go
@@ -116,23 +116,9 @@ export func join(a *[]string, sep string) string {
 	return string(b)
 }

-// Convert decimal string to integer.
+// Convert decimal string to unsigned integer.
 // TODO: Doesn't check for overflow.
-export func atol(s string) (i int64, ok bool) {
-	// empty string bad
-	if len(s) == 0 {
-		return 0, false
-	}
-
-	// pick off leading sign
-	neg := false;
-	if s[0] == '+' {
-		s = s[1:len(s)]
-	} else if s[0] == '-' {
-		neg = true;
-		s = s[1:len(s)]
-	}
-
+export func atoui64(s string) (i uint64, ok bool) {
 	// empty string bad
 	if len(s) == 0 {
 		return 0, false
@@ -149,21 +135,53 @@ export func atol(s string) (i int64, ok bool) {
 	}

 	// parse number
-	n := int64(0);
+	n := uint64(0);
 	for i := 0; i < len(s); i++ {
 		if s[i] < '0' || s[i] > '9' {
 			return 0, false
 		}
-		n = n*10 + int64(s[i] - '0')
+		n = n*10 + uint64(s[i] - '0')
+	}
+	return n, true
+}
+
+// Convert decimal string to integer.
+// TODO: Doesn't check for overflow.
+export func atoi64(s string) (i int64, ok bool) {
+	// empty string bad
+	if len(s) == 0 {
+		return 0, false
 	}
-	if neg {
-		n = -n
+
+	// pick off leading sign
+	neg := false;
+	if s[0] == '+' {
+		s = s[1:len(s)]
+	} else if s[0] == '-' {
+		neg = true;
+		s = s[1:len(s)]
 	}
+
+	var un uint64;
+	un, ok = atoui64(s);
+	if !ok {
+		return 0, false
+	}
+	n := int64(un);
+	if neg {
+		n = -n
+	}
 	return n, true
 }

+export func atoui(s string) (i uint, ok bool) {
+	ii, okok := atoui64(s);
+	i = uint(ii);
+	return i, okok
+}
+
 export func atoi(s string) (i int, ok bool) {
-\tii, okok := atol(s);\n+\tii, okok := atoi64(s);\n \ti = int(ii);\n \treturn i, okok\n }\n```

## コアとなるコードの解説

### `atoui64(s string) (i uint64, ok bool)`

この関数は、文字列 `s` を符号なし64ビット整数 (`uint64`) に変換します。

1.  **空文字列のチェック**: `if len(s) == 0` で空文字列をチェックし、空の場合は `0, false` を返します。これは、有効な数値ではないためです。
2.  **数値のパース**:
    *   `n := uint64(0)` で結果を格納する `uint64` 型の変数 `n` を初期化します。
    *   文字列 `s` を1文字ずつループ処理します。
    *   各文字が `'0'` から `'9'` の範囲にある数字であるかをチェックします。数字でない場合は `0, false` を返してエラーとします。
    *   `n = n*10 + uint64(s[i] - '0')` の計算で、現在の `n` を10倍し、現在の文字の数値(ASCII値から `'0'` のASCII値を引くことで得られる)を加算します。これにより、10進数としての値を構築していきます。この計算は `uint64` 型で行われます。
3.  **結果の返却**: ループが正常に終了した場合、構築された `n` と `true` を返します。

この関数は、符号の処理を一切行わず、純粋に数字列を符号なし整数として解釈する役割を担います。

### `atoi64(s string) (i int64, ok bool)`

この関数は、文字列 `s` を符号付き64ビット整数 (`int64`) に変換します。

1.  **空文字列のチェック**: `atoui64` と同様に、空文字列をチェックします。
2.  **符号の処理**:
    *   `neg := false` で負の符号があるかどうかのフラグを初期化します。
    *   `if s[0] == '+'` で先頭文字が `+` の場合は、符号なしとして処理するために文字列から `+` を取り除きます (`s = s[1:len(s)]`)。
    *   `else if s[0] == '-'` で先頭文字が `-` の場合は、`neg` フラグを `true` に設定し、文字列から `-` を取り除きます。
3.  **符号なし変換の利用**:
    *   `un, ok = atoui64(s)` を呼び出し、符号を取り除いた文字列を `atoui64` に渡して符号なし整数としてパースさせます。
    *   `atoui64` がエラーを返した場合 (`!ok`)、`atoi64` もエラー (`0, false`) を返します。
4.  **符号の適用**:
    *   `n := int64(un)` で、`atoui64` から得られた符号なし整数 `un` を `int64` にキャストします。
    *   `if neg { n = -n }` で、元の文字列に負の符号があった場合、`n` を負の値に変換します。
5.  **結果の返却**: 最終的な `n` と `true` を返します。

この関数は、符号の有無を判断し、その処理を `atoui64` の結果に適用することで、符号付き整数への変換を実現しています。これにより、数値パースのコアロジックを `atoui64` に集約し、コードの重複を避けています。

### `atoui(s string) (i uint, ok bool)`

この関数は、文字列 `s` をシステム依存の符号なし整数 (`uint`) に変換します。
内部で `atoui64` を呼び出し、その結果を `uint` にキャストしています。

### `atoi(s string) (i int, ok bool)`

この関数は、文字列 `s` をシステム依存の符号付き整数 (`int`) に変換します。
以前は `atol` を呼び出していましたが、このコミットにより `atoi64` を呼び出すように変更されました。`atoi64` の結果を `int` にキャストして返します。

## 関連リンク

*   Go言語公式ドキュメント: [https://go.dev/doc/](https://go.dev/doc/)
*   Go言語 `strings` パッケージ (現在のバージョン): [https://pkg.go.dev/strings](https://pkg.go.dev/strings)
    *   このコミットはGo言語の非常に初期のものであるため、現在の `strings` パッケージとは大きく異なる可能性があります。しかし、基本的な文字列操作の概念は共通しています。
*   Go言語の数値型に関するドキュメント: [https://go.dev/ref/spec#Numeric_types](https://go.dev/ref/spec#Numeric_types)

## 参考にした情報源リンク

*   Go言語のソースコード (特に初期のコミット履歴): Go言語のGitHubリポジトリのコミット履歴を直接参照することで、この変更の文脈と意図を理解しました。
*   C言語の `atoi`, `atol` 関数に関する一般的な知識: これらの関数名の慣習と基本的な動作は、Go言語の設計にも影響を与えています。
*   Go言語の設計思想に関する記事やドキュメント: Go言語がなぜ特定の設計判断をしたのかを理解する上で役立ちました。
    *   例: "The Go Programming Language" (書籍) や、Goブログの初期の記事など。
*   Go言語の型システムに関する一般的な情報。
*   文字列パースの一般的なアルゴリズム。
```markdown
# [インデックス 1032] ファイルの概要

このコミットは、Go言語の標準ライブラリの一部である `src/lib/strings.go` ファイルに対する変更です。このファイルは、文字列操作に関する基本的なユーティリティ関数を提供していました。具体的には、文字列を数値型に変換する関数が含まれていました。

## コミット

このコミットは、文字列を数値に変換する既存の `atol` 関数を、符号なし整数 (`uint64`) を扱う `atoui64` 関数と、それを基盤として符号付き整数 (`int64`) を扱う `atoi64` 関数に分割し、再構築するものです。これにより、文字列から符号なし整数への変換が明確に分離され、より堅牢な数値変換ロジックの基礎が築かれました。

## GitHub上でのコミットページへのリンク

[https://github.com/golang/go/commit/6524b82fed01c37486c6e3c9d0c8ce8b8946b371](https://github.com/golang/go/commit/6524b82fed01c37486c6e3c9d0c8ce8b8946b371)

## 元コミット内容

ascii to unsigned integer

R=rsc DELTA=60 (35 added, 17 deleted, 8 changed) OCL=18339 CL=18343

src/lib/strings.go | 56 ++++++++++++++++++++++++++++++++++++------------------ 1 file changed, 37 insertions(+), 19 deletions(-)


## 変更の背景

この変更の背景には、文字列から数値への変換における型安全性の向上と、より明確なセマンティクスの確立があります。元の `atol` 関数は、符号付きの `int64` を返していましたが、文字列が符号なしの数値表現である場合(例えば、ハッシュ値やIDなど)には、そのセマンティクスが曖昧になる可能性がありました。

Go言語は静的型付け言語であり、型の厳密性を重視します。このコミットが行われたGo言語の初期段階において、文字列から数値への変換は基本的な機能であり、その設計は将来の言語の方向性を決定づける重要な要素でした。符号付きと符号なしの変換ロジックを分離することで、以下の利点が得られます。

1.  **明確な意図**: 開発者が文字列を符号なし整数として解釈したい場合、`atoui64` を明示的に使用できるようになります。これにより、コードの意図がより明確になります。
2.  **再利用性**: 符号なし整数への変換ロジック (`atoui64`) を独立させることで、符号付き整数への変換 (`atoi64`) がそのロジックを再利用できるようになり、コードの重複が削減されます。
3.  **堅牢性**: 符号の有無による処理の分岐を `atoi64` に集約し、純粋な数値変換を `atoui64` に任せることで、それぞれの関数の責任が明確になり、将来的なバグの混入を防ぎやすくなります。
4.  **将来の拡張性**: オーバーフローチェックなどの機能を追加する際に、符号付きと符号なしで異なるロジックが必要になる場合でも、分離された構造は変更を容易にします。

この変更は、Go言語がその設計思想である「シンプルさ」と「明確さ」を追求する過程で、基本的なライブラリ機能においても型とセマンティクスを重視していたことを示しています。

## 前提知識の解説

### Go言語の基本的な数値型

Go言語には、符号付き整数型と符号なし整数型があります。

*   **符号付き整数型**: `int`, `int8`, `int16`, `int32`, `int64`
    *   `int`: 32ビットシステムでは32ビット、64ビットシステムでは64ビットの符号付き整数。
    *   `int64`: 常に64ビットの符号付き整数。
*   **符号なし整数型**: `uint`, `uint8`, `uint16`, `uint32`, `uint64`, `uintptr`
    *   `uint`: `int` と同様に、システムに依存するビット幅の符号なし整数。
    *   `uint64`: 常に64ビットの符号なし整数。

これらの型は、表現できる数値の範囲が異なります。符号付き整数は正と負の値を表現できますが、符号なし整数は非負の値(0以上の値)のみを表現できます。

### 文字列から数値への変換

プログラミングにおいて、ユーザー入力やファイルからの読み込みなど、文字列形式で表現された数値を実際の数値型に変換する処理は非常に一般的です。この変換処理は、以下の点を考慮する必要があります。

*   **数値以外の文字**: 文字列に数値として解釈できない文字が含まれている場合のエラーハンドリング。
*   **符号**: 文字列が正の数(例: "123")か負の数(例: "-456")か。
*   **基数**: 10進数、16進数、2進数など、数値の表現形式。このコミットでは10進数を扱っています。
*   **オーバーフロー**: 変換後の数値が、ターゲットの数値型で表現できる範囲を超えてしまう場合。このコミットでは、まだオーバーフローチェックが実装されていないことが `TODO` コメントで示されています。
*   **空文字列**: 空の文字列が入力された場合の処理。

### `atol`, `atoi`, `atoui` などの関数名の慣習

これらの関数名は、C言語の標準ライブラリに由来する慣習です。

*   `atoi`: "ASCII to Integer" の略で、文字列を符号付き整数に変換します。
*   `atol`: "ASCII to Long" の略で、文字列を符号付き長整数(通常は `long` 型)に変換します。
*   `atoll`: "ASCII to Long Long" の略で、文字列を符号付き超長整数(通常は `long long` 型)に変換します。
*   `atof`: "ASCII to Float" の略で、文字列を浮動小数点数に変換します。
*   `atoui`: "ASCII to Unsigned Integer" の略で、文字列を符号なし整数に変換します。

Go言語では、これらの慣習を踏襲しつつ、Goの型システムに合わせて `int64` や `uint64` などの具体的なビット幅を持つ型を使用しています。

## 技術的詳細

このコミットの主要な技術的変更点は、文字列から数値への変換ロジックの再設計です。

1.  **`atol` 関数の削除と `atoui64` の導入**:
    *   元の `export func atol(s string) (i int64, ok bool)` 関数が削除されました。
    *   代わりに、`export func atoui64(s string) (i uint64, ok bool)` という新しい関数が導入されました。この関数は、文字列を符号なしの64ビット整数 (`uint64`) に変換することに特化しています。
    *   `atoui64` の実装は、入力文字列の先頭の符号(`+` や `-`)を処理せず、純粋に数字の並びを符号なし整数として解釈します。
    *   数値のパースロジックは、`n = n*10 + uint64(s[i] - '0')` のように、`uint64` 型で計算されるように変更されました。

2.  **`atoi64` 関数の導入**:
    *   `export func atoi64(s string) (i int64, ok bool)` という新しい関数が導入されました。この関数は、文字列を符号付きの64ビット整数 (`int64`) に変換します。
    *   `atoi64` は、まず入力文字列の先頭に符号(`+` または `-`)があるかどうかをチェックし、その符号を記録します。
    *   符号を取り除いた残りの文字列を、新しく導入された `atoui64` 関数に渡して符号なし整数としてパースします。
    *   `atoui64` から返された符号なし整数 (`uint64`) を `int64` にキャストし、元の文字列に負の符号があった場合は、その結果を負の値に変換します。
    *   この構造により、符号付き変換のロジックが符号なし変換のロジックの上に構築され、コードの再利用性が高まっています。

3.  **`atoui` 関数の導入**:
    *   `export func atoui(s string) (i uint, ok bool)` という新しい関数が導入されました。
    *   この関数は、`atoui64` を呼び出して64ビットの符号なし整数を取得し、それをシステム依存の `uint` 型にキャストして返します。

4.  **`atoi` 関数の変更**:
    *   既存の `export func atoi(s string) (i int, ok bool)` 関数は、以前は `atol` を呼び出していましたが、新しい `atoi64` 関数を呼び出すように変更されました。
    *   `atoi64` から返された64ビットの符号付き整数を、システム依存の `int` 型にキャストして返します。

5.  **オーバーフローチェックの保留**:
    *   `atoui64` および `atoi64` の両方で、`TODO: Doesn't check for overflow.` というコメントが残されており、数値が型で表現できる最大値を超えた場合の処理がまだ実装されていないことが示されています。これは、Go言語の初期段階であり、基本的な機能の実装が優先されていたことを示唆しています。

これらの変更により、文字列から数値への変換処理が、符号の有無によって明確に分離され、よりモジュール化された設計になりました。

## コアとなるコードの変更箇所

`src/lib/strings.go` ファイルにおける主要な変更は以下の通りです。

```diff
--- a/src/lib/strings.go
+++ b/src/lib/strings.go
@@ -116,23 +116,9 @@ export func join(a *[]string, sep string) string {
 	return string(b)
 }

-// Convert decimal string to integer.
+// Convert decimal string to unsigned integer.
 // TODO: Doesn't check for overflow.
-export func atol(s string) (i int64, ok bool) {
-	// empty string bad
-	if len(s) == 0 {
-		return 0, false
-	}
-
-	// pick off leading sign
-	neg := false;
-	if s[0] == '+' {
-		s = s[1:len(s)]
-	} else if s[0] == '-' {
-		neg = true;
-		s = s[1:len(s)]
-	}
-
+export func atoui64(s string) (i uint64, ok bool) {
 	// empty string bad
 	if len(s) == 0 {
 		return 0, false
@@ -149,21 +135,53 @@ export func atol(s string) (i int64, ok bool) {
 	}

 	// parse number
-	n := int64(0);
+	n := uint64(0);
 	for i := 0; i < len(s); i++ {
 		if s[i] < '0' || s[i] > '9' {
 			return 0, false
 		}
-		n = n*10 + int64(s[i] - '0')
+		n = n*10 + uint64(s[i] - '0')
+	}
+	return n, true
+}
+
+// Convert decimal string to integer.
+// TODO: Doesn't check for overflow.
+export func atoi64(s string) (i int64, ok bool) {
+	// empty string bad
+	if len(s) == 0 {
+		return 0, false
 	}
-	if neg {
-		n = -n
+
+	// pick off leading sign
+	neg := false;
+	if s[0] == '+' {
+		s = s[1:len(s)]
+	} else if s[0] == '-' {
+		neg = true;
+		s = s[1:len(s)]
 	}
+
+	var un uint64;
+	un, ok = atoui64(s);
+	if !ok {
+		return 0, false
+	}
+	n := int64(un);
+	if neg {
+		n = -n
+	}
 	return n, true
 }

+export func atoui(s string) (i uint, ok bool) {
+	ii, okok := atoui64(s);
+	i = uint(ii);
+	return i, okok
+}
+
 export func atoi(s string) (i int, ok bool) {
-\tii, okok := atol(s);\n+\tii, okok := atoi64(s);\n \ti = int(ii);\n \treturn i, okok\n }\n```

## コアとなるコードの解説

### `atoui64(s string) (i uint64, ok bool)`

この関数は、文字列 `s` を符号なし64ビット整数 (`uint64`) に変換します。

1.  **空文字列のチェック**: `if len(s) == 0` で空文字列をチェックし、空の場合は `0, false` を返します。これは、有効な数値ではないためです。
2.  **数値のパース**:
    *   `n := uint64(0)` で結果を格納する `uint64` 型の変数 `n` を初期化します。
    *   文字列 `s` を1文字ずつループ処理します。
    *   各文字が `'0'` から `'9'` の範囲にある数字であるかをチェックします。数字でない場合は `0, false` を返してエラーとします。
    *   `n = n*10 + uint64(s[i] - '0')` の計算で、現在の `n` を10倍し、現在の文字の数値(ASCII値から `'0'` のASCII値を引くことで得られる)を加算します。これにより、10進数としての値を構築していきます。この計算は `uint64` 型で行われます。
3.  **結果の返却**: ループが正常に終了した場合、構築された `n` と `true` を返します。

この関数は、符号の処理を一切行わず、純粋に数字列を符号なし整数として解釈する役割を担います。

### `atoi64(s string) (i int64, ok bool)`

この関数は、文字列 `s` を符号付き64ビット整数 (`int64`) に変換します。

1.  **空文字列のチェック**: `atoui64` と同様に、空文字列をチェックします。
2.  **符号の処理**:
    *   `neg := false` で負の符号があるかどうかのフラグを初期化します。
    *   `if s[0] == '+'` で先頭文字が `+` の場合は、符号なしとして処理するために文字列から `+` を取り除きます (`s = s[1:len(s)]`)。
    *   `else if s[0] == '-'` で先頭文字が `-` の場合は、`neg` フラグを `true` に設定し、文字列から `-` を取り除きます。
3.  **符号なし変換の利用**:
    *   `un, ok = atoui64(s)` を呼び出し、符号を取り除いた文字列を `atoui64` に渡して符号なし整数としてパースさせます。
    *   `atoui64` がエラーを返した場合 (`!ok`)、`atoi64` もエラー (`0, false`) を返します。
4.  **符号の適用**:
    *   `n := int64(un)` で、`atoui64` から得られた符号なし整数 `un` を `int64` にキャストします。
    *   `if neg { n = -n }` で、元の文字列に負の符号があった場合、`n` を負の値に変換します。
5.  **結果の返却**: 最終的な `n` と `true` を返します。

この関数は、符号の有無を判断し、その処理を `atoui64` の結果に適用することで、符号付き整数への変換を実現しています。これにより、数値パースのコアロジックを `atoui64` に集約し、コードの重複を避けています。

### `atoui(s string) (i uint, ok bool)`

この関数は、文字列 `s` をシステム依存の符号なし整数 (`uint`) に変換します。
内部で `atoui64` を呼び出し、その結果を `uint` にキャストしています。

### `atoi(s string) (i int, ok bool)`

この関数は、文字列 `s` をシステム依存の符号付き整数 (`int`) に変換します。
以前は `atol` を呼び出していましたが、このコミットにより `atoi64` を呼び出すように変更されました。`atoi64` の結果を `int` にキャストして返します。

## 関連リンク

*   Go言語公式ドキュメント: [https://go.dev/doc/](https://go.dev/doc/)
*   Go言語 `strings` パッケージ (現在のバージョン): [https://pkg.go.dev/strings](https://pkg.go.dev/strings)
    *   このコミットはGo言語の非常に初期のものであるため、現在の `strings` パッケージとは大きく異なる可能性があります。しかし、基本的な文字列操作の概念は共通しています。
*   Go言語の数値型に関するドキュメント: [https://go.dev/ref/spec#Numeric_types](https://go.dev/ref/spec#Numeric_types)

## 参考にした情報源リンク

*   Go言語のソースコード (特に初期のコミット履歴): Go言語のGitHubリポジトリのコミット履歴を直接参照することで、この変更の文脈と意図を理解しました。
*   C言語の `atoi`, `atol` 関数に関する一般的な知識: これらの関数名の慣習と基本的な動作は、Go言語の設計にも影響を与えています。
*   Go言語の設計思想に関する記事やドキュメント: Go言語がなぜ特定の設計判断をしたのかを理解する上で役立ちました。
    *   例: "The Go Programming Language" (書籍) や、Goブログの初期の記事など。
*   Go言語の型システムに関する一般的な情報。
*   文字列パースの一般的なアルゴリズム。