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[インデックス 10507] ファイルの概要

このコミットは、Go言語の標準ライブラリ os パッケージにおいて、Windows環境で os.Open("") のように空文字列を引数として Open 関数が呼び出された際に、適切にエラーを返すように修正するものです。具体的には、OpenFile 関数に空文字列のパスが渡された場合に、syscall.ENOENT (No such file or directory) エラーを含む PathError を返すように変更し、その挙動を検証するテストケースを追加しています。

コミット

os: fail if Open("") is called on windows

R=golang-dev, bradfitz
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5432071

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/e38a1053a9a0be021d6d93ebbd3deeb81ed28115

元コミット内容

commit e38a1053a9a0be021d6d93ebbd3deeb81ed28115
Author: Alex Brainman <alex.brainman@gmail.com>
Date:   Sat Nov 26 11:01:49 2011 +1100

    os: fail if Open("") is called on windows
    
    R=golang-dev, bradfitz
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/5432071
---
 src/pkg/os/file_windows.go | 3 +++
 src/pkg/os/os_test.go      | 8 ++++++++
 2 files changed, 11 insertions(+)

diff --git a/src/pkg/os/file_windows.go b/src/pkg/os/file_windows.go
index 3a252fb2d8..81fdbe3051 100644
--- a/src/pkg/os/file_windows.go
+++ b/src/pkg/os/file_windows.go
@@ -89,6 +89,9 @@ func openDir(name string) (file *File, err error) {
 // methods on the returned File can be used for I/O.
 // It returns the File and an error, if any.
 func OpenFile(name string, flag int, perm uint32) (file *File, err error) {
+	if name == "" {
+		return nil, &PathError{"open", name, syscall.ENOENT}
+	}
 	// TODO(brainman): not sure about my logic of assuming it is dir first, then fall back to file
 	r, e := openDir(name)
 	if e == nil {
diff --git a/src/pkg/os/os_test.go b/src/pkg/os/os_test.go
index 7041136ec9..c2fbc9fdd5 100644
--- a/src/pkg/os/os_test.go
+++ b/src/pkg/os/os_test.go
@@ -901,6 +901,14 @@ func TestOpenError(t *testing.T) {
 	}\n}\n\n+func TestOpenNoName(t *testing.T) {\n+\tf, err := Open(\"\")\n+\tif err == nil {\n+\t\tt.Fatal(`Open(\"\") succeeded`)\n+\t\tf.Close()\n+\t}\n+}\n+\n func run(t *testing.T, cmd []string) string {\n     // Run /bin/hostname and collect output.\n     r, w, err := Pipe()\

変更の背景

この変更の背景には、Go言語の os パッケージにおけるファイル操作の堅牢性とクロスプラットフォーム互換性の向上が挙げられます。特にWindows環境において、os.Openos.OpenFile のようなファイルを開く関数に空文字列 "" がパスとして渡された場合、その挙動が未定義であったり、予期せぬエラーやパニックを引き起こす可能性がありました。

ファイルシステム操作において、空のパスは通常、無効な入力と見なされます。しかし、Goの初期の実装では、このようなエッジケースに対する明示的なチェックが不足していることがありました。このコミットは、Windows固有のファイルシステムAPIの挙動を考慮し、空のパスが渡された場合に、他のオペレーティングシステム(例えばUnix系システム)と同様に、ファイルが見つからないことを示す標準的なエラー(ENOENT)を返すように統一的なエラーハンドリングを導入することを目的としています。これにより、アプリケーションが予期せぬ動作をすることなく、エラーを適切に処理できるようになります。

前提知識の解説

Go言語の os パッケージ

os パッケージは、オペレーティングシステム(OS)の機能にアクセスするためのGo言語の標準ライブラリです。ファイル操作、プロセス管理、環境変数へのアクセスなど、OSレベルの多くの機能を提供します。

  • os.Open(name string) (*File, error): 指定された名前のファイルを読み取り専用で開きます。成功すると *os.Filenil エラーを返します。失敗すると nil とエラーを返します。
  • os.OpenFile(name string, flag int, perm os.FileMode) (*File, error): より詳細なオプション(読み書きモード、作成、追記など)を指定してファイルを開きます。os.Open はこの関数のラッパーです。

os.PathError

os.PathError は、パスに関連する操作(ファイルを開く、読み書きするなど)でエラーが発生した場合に返されるエラー型です。以下のフィールドを持ちます。

  • Op (string): 実行された操作(例: "open", "read", "write")
  • Path (string): 操作の対象となったパス
  • Err (error): 基となるOSからのエラー(例: syscall.ENOENT

この構造により、エラーが発生した操作、対象パス、そして具体的なエラーコードをプログラムで識別し、より詳細なエラーハンドリングを行うことができます。

syscall.ENOENT

syscall パッケージは、OSのシステムコールに直接アクセスするためのGo言語の標準ライブラリです。syscall.ENOENT は、"Error NO ENTry" の略で、ファイルやディレクトリが見つからないことを示すエラーコードです。これはUnix系システムで広く使われているエラーコードですが、Windows環境でも同様のセマンティクスを持つエラーが内部的にマッピングされ、Goの syscall パッケージを通じて提供されます。ファイルシステム操作において、存在しないファイルやディレクトリにアクセスしようとした場合に返される一般的なエラーです。

Go言語のエラーハンドリング

Go言語では、エラーは戻り値として明示的に扱われます。関数は通常、最後の戻り値として error 型の値を返します。エラーがない場合は nil を返します。呼び出し元は if err != nil の形式でエラーをチェックし、適切に処理することが期待されます。このコミットでは、os.OpenFile がエラーを返す際に、具体的な PathError 型と syscall.ENOENT を使用することで、呼び出し元がエラーの種類を正確に判断できるようにしています。

技術的詳細

このコミットの技術的詳細は、Windows環境におけるファイルパスの処理とエラーハンドリングの改善にあります。

Goの os.Open 関数は、内部的に os.OpenFile を呼び出します。os.OpenFile は、指定されたパスのファイルをOSのAPI(WindowsではWin32 API)を介して開こうとします。

問題は、空文字列 "" がパスとして渡された場合に、WindowsのファイルシステムAPIがどのように振る舞うかという点にありました。一般的なファイルシステムでは、空のパスは無効であり、ファイルが見つからないことを示すエラーを返すのが適切です。しかし、Goの以前のWindows実装では、この特定のエッジケースが明示的に処理されていなかった可能性があります。これにより、以下のような問題が発生する可能性がありました。

  1. 未定義の挙動: 空のパスがOS APIに渡された際に、APIが予期せぬエラーコードを返したり、あるいは成功と見なして不正なファイルハンドルを返したりする可能性がありました。
  2. 一貫性の欠如: Unix系システムでは空のパスに対して ENOENT のようなエラーが返されるのが一般的ですが、Windowsでは異なる挙動を示すことで、クロスプラットフォームアプリケーションの移植性が損なわれる可能性がありました。
  3. パニックの可能性: 最悪の場合、不正なファイルハンドルやOS APIからの予期せぬ戻り値がGoランタイムに渡され、パニック(プログラムの異常終了)を引き起こす可能性も考えられます。

このコミットでは、src/pkg/os/file_windows.go 内の OpenFile 関数に、パスが空文字列であるかどうかの明示的なチェックを追加することで、この問題を解決しています。

if name == "" {
    return nil, &PathError{"open", name, syscall.ENOENT}
}

このコードは、name が空文字列である場合に、ファイルを開く操作("open")が、空のパス(name)に対して、syscall.ENOENT(ファイルまたはディレクトリが見つからない)というエラーで失敗したことを示す PathError を生成して返します。これにより、Windows環境でも空のパスに対する os.Open の挙動が明確になり、他のプラットフォームとの一貫性が保たれ、アプリケーションがより堅牢にエラーを処理できるようになります。

また、src/pkg/os/os_test.go に追加された TestOpenNoName テストケースは、この新しいエラーハンドリングが正しく機能することを検証します。このテストは Open("") を呼び出し、エラーが返されることを期待します。もしエラーが返されずに成功した場合、テストは t.Fatal を呼び出して失敗させます。これにより、将来の変更によってこの重要なエラーハンドリングが誤って削除されたり、変更されたりするのを防ぎます。

コアとなるコードの変更箇所

src/pkg/os/file_windows.go

--- a/src/pkg/os/file_windows.go
+++ b/src/pkg/os/file_windows.go
@@ -89,6 +89,9 @@ func openDir(name string) (file *File, err error) {
 // methods on the returned File can be used for I/O.
 // It returns the File and an error, if any.
 func OpenFile(name string, flag int, perm uint32) (file *File, err error) {
+	if name == "" {
+		return nil, &PathError{"open", name, syscall.ENOENT}
+	}
 	// TODO(brainman): not sure about my logic of assuming it is dir first, then fall back to file
 	r, e := openDir(name)
 	if e == nil {

src/pkg/os/os_test.go

--- a/src/pkg/os/os_test.go
+++ b/src/pkg/os/os_test.go
@@ -901,6 +901,14 @@ func TestOpenError(t *testing.T) {
 	}\n}\n\n+func TestOpenNoName(t *testing.T) {\n+\tf, err := Open(\"\")\n+\tif err == nil {\n+\t\tt.Fatal(`Open(\"\") succeeded`)\n+\t\tf.Close()\n+\t}\n+}\n+\n func run(t *testing.T, cmd []string) string {\

コアとなるコードの解説

src/pkg/os/file_windows.go の変更

OpenFile 関数は、Goの os パッケージにおけるファイル操作の基盤となる関数の一つです。この関数は、指定された name(ファイルパス)、flag(開くモード)、perm(パーミッション)に基づいてファイルを開きます。

追加された3行のコードは以下の通りです。

if name == "" {
    return nil, &PathError{"open", name, syscall.ENOENT}
}
  • if name == "": これは、OpenFile 関数に渡された name 引数が空文字列であるかどうかをチェックする条件文です。
  • return nil, &PathError{"open", name, syscall.ENOENT}: もし name が空文字列であれば、関数は直ちに nil*File ポインタと、新しい PathError のインスタンスを返します。
    • nil: ファイルを開くことに失敗したため、有効なファイルハンドルは返されません。
    • &PathError{"open", name, syscall.ENOENT}:
      • "open": エラーが発生した操作が「開く」操作であることを示します。
      • name: エラーが発生したパス。この場合は空文字列 "" です。
      • syscall.ENOENT: 基となるエラーコードで、「そのようなファイルまたはディレクトリがない」ことを意味します。これは、空のパスは有効なファイルやディレクトリを指さないため、ファイルが見つからないというエラーが適切であるという判断に基づいています。

この変更により、Windows環境で os.Open("") が呼び出された際に、明確かつ予測可能なエラーが返されるようになり、アプリケーション側でこのエラーを適切にハンドリングできるようになります。

src/pkg/os/os_test.go の変更

os_test.goos パッケージのテストファイルです。ここに追加された TestOpenNoName 関数は、上記の OpenFile の変更が正しく機能することを検証するための単体テストです。

func TestOpenNoName(t *testing.T) {
    f, err := Open("")
    if err == nil {
        t.Fatal(`Open("") succeeded`)
        f.Close()
    }
}
  • f, err := Open(""): os.Open 関数を空文字列 "" を引数として呼び出し、戻り値としてファイルポインタ f とエラー err を受け取ります。
  • if err == nil: このテストの目的は、Open("") がエラーを返すことを確認することです。したがって、もし errnil(つまりエラーが発生しなかった)であれば、それは予期せぬ成功を意味します。
  • t.Fatal(Open("") succeeded): errnil の場合、t.Fatal を呼び出してテストを即座に失敗させます。これは、期待されるエラーが返されなかったことを示します。t.Fatal はメッセージを出力し、テストの実行を停止します。
  • f.Close(): もし誤ってファイルが開いてしまった場合(err == nil の場合)、リソースリークを防ぐために f.Close() を呼び出してファイルを閉じます。

このテストケースの追加により、os.Open("") がWindows上で常にエラーを返すという挙動が保証され、将来のコード変更によってこの重要なエラーハンドリングが損なわれることを防ぎます。

関連リンク

  • Go Change-ID 5432071: https://golang.org/cl/5432071
    • Goプロジェクトでは、Gerritというコードレビューシステムを使用しており、各変更セット(コミット)には一意のChange-IDが割り当てられます。このリンクは、このコミットがGerrit上でレビューされた際のページを指しており、レビューコメントや変更の経緯などの詳細な情報が確認できます。

参考にした情報源リンク

  • Go言語公式ドキュメント: os パッケージ (https://pkg.go.dev/os)
  • Go言語公式ドキュメント: syscall パッケージ (https://pkg.go.dev/syscall)
  • Go言語におけるエラーハンドリングの基本概念
  • WindowsファイルシステムAPIに関する一般的な知識 (Win32 API)