[インデックス 11212] ファイルの概要
このコミットは、Go言語の標準ライブラリ net/http/cgi
パッケージ内のテスト TestCopyError
における、不安定な(flaky)テストのタイムアウト値を増加させることを目的としています。具体的には、テストが子プロセスの終了を待機するループの試行回数を増やし、テストの信頼性を向上させています。これにより、以前から報告されていた問題(おそらくGo issue 2450)が解決される見込みです。
コミット
commit f4ad8c1c5b8ec6c271a206a3ec74d57b03b7e0e6
Author: Brad Fitzpatrick <bradfitz@golang.org>
Date: Tue Jan 17 13:14:27 2012 -0800
net/http/cgi: increase a flaky test timeout
Fixes 2450, probably.
R=golang-dev, gri
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5540074
---
src/pkg/net/http/cgi/host_test.go | 2 +-\n 1 file changed, 1 insertion(+), 1 deletion(-)
diff --git a/src/pkg/net/http/cgi/host_test.go b/src/pkg/net/http/cgi/host_test.go
index 9a8d3c0118..9ef80ea5ec 100644
--- a/src/pkg/net/http/cgi/host_test.go
+++ b/src/pkg/net/http/cgi/host_test.go
@@ -364,7 +364,7 @@ func TestCopyError(t *testing.T) {
conn.Close()
tries := 0
-\tfor tries < 15 && childRunning() {\n+\tfor tries < 25 && childRunning() {\n \t\ttime.Sleep(50 * time.Millisecond * time.Duration(tries))\n \t\ttries++\n \t}\n```
## GitHub上でのコミットページへのリンク
[https://github.com/golang/go/commit/f4ad8c1c5b8ec6c271a206a3ec74d57b03b7e0e6](https://github.com/golang/go/commit/f4ad8c1c5b8ec6c271a206a3ec74d57b03b7e0e6)
## 元コミット内容
このコミットの元のメッセージは以下の通りです。
net/http/cgi: increase a flaky test timeout
Fixes 2450, probably.
R=golang-dev, gri CC=golang-dev https://golang.org/cl/5540074
これは、`net/http/cgi` パッケージ内の不安定なテストのタイムアウトを延長したことを示しています。また、「Fixes 2450, probably.」という記述から、GoのIssue 2450に関連する問題を解決する試みであることが示唆されています。`R=` と `CC=` はコードレビューの担当者を示し、`https://golang.org/cl/5540074` はGoのコードレビューシステム(Gerrit)における変更リスト(Change-ID)へのリンクです。
## 変更の背景
この変更の背景には、「不安定なテスト(flaky test)」という問題があります。不安定なテストとは、コードの変更がないにもかかわらず、実行するたびに成功したり失敗したりするテストのことです。このようなテストは、CI/CDパイプラインの信頼性を損ない、開発者が実際のバグとテストの不安定性を区別することを困難にします。
`net/http/cgi` パッケージは、Common Gateway Interface (CGI) プロトコルを介してHTTPリクエストを処理するためのGo言語の機能を提供します。CGIは、Webサーバーが外部プログラム(CGIスクリプト)を実行し、その出力をクライアントに返すための標準的な方法です。このパッケージのテストは、CGIスクリプトとして実行される子プロセスの挙動に依存することが多く、プロセスの起動、実行、終了のタイミングは、システムのリソース状況やスケジューリングによって変動する可能性があります。
`TestCopyError` テストは、CGIハンドラがエラーを適切に処理するかどうかを検証するものです。特に、子プロセスが予期せぬ終了をした場合や、データのコピー中にエラーが発生した場合の挙動を確認していると考えられます。このテストが不安定であったということは、子プロセスの終了を待機するメカニズムが、特定の条件下で十分な時間を与えられていなかったことを示唆しています。
コミットメッセージにある「Fixes 2450, probably.」は、この変更がGoのIssue 2450を解決する可能性があることを示しています。Issue 2450の具体的な内容は不明ですが、テストの不安定性やタイムアウトに関連する問題であったと推測されます。テストのタイムアウトを延長することで、子プロセスが終了するまでの十分な時間を確保し、テストが安定して成功するように修正されたと考えられます。
## 前提知識の解説
### 不安定なテスト (Flaky Test)
不安定なテストとは、同じコードベースに対して複数回実行されたときに、成功と失敗が不規則に繰り返されるテストのことです。これは、テスト対象のコードにバグがあるわけではなく、テスト自体の設計や実行環境に起因することがほとんどです。不安定なテストの一般的な原因には以下のようなものがあります。
* **並行処理の競合状態 (Race Conditions)**: 複数のゴルーチンやスレッドが共有リソースにアクセスする際に、実行順序によって結果が変わる場合。
* **外部依存性 (External Dependencies)**: データベース、ネットワークサービス、ファイルシステムなど、テストの外部にあるリソースの可用性や応答時間に依存する場合。
* **タイムアウト (Timeouts)**: 非同期処理や外部リソースの応答を待つ際に、設定されたタイムアウトが短すぎる場合。
* **環境の変動 (Environmental Variations)**: テストが実行される環境(CPU負荷、メモリ、OSのスケジューリングなど)によって挙動が変わる場合。
* **不適切なテストの隔離 (Improper Test Isolation)**: テスト間で状態が漏洩し、前のテストの実行結果が次のテストに影響を与える場合。
不安定なテストは、開発者の信頼を損ない、CI/CDパイプラインの効率を低下させ、実際のバグを見逃す原因となるため、可能な限り排除することが望ましいです。
### CGI (Common Gateway Interface)
CGIは、Webサーバーが外部プログラム(CGIスクリプト)を実行し、その出力をWebクライアントに返すための標準的なインターフェースです。WebサーバーはHTTPリクエストを受け取ると、CGIスクリプトを子プロセスとして起動し、環境変数や標準入力を通じてリクエスト情報をスクリプトに渡します。スクリプトは処理を行い、標準出力にHTTPヘッダーとコンテンツを出力します。Webサーバーはその出力を受け取り、クライアントに返します。
CGIはシンプルで汎用性が高いですが、リクエストごとに新しいプロセスを起動するため、パフォーマンスのオーバーヘッドが大きいという欠点があります。現代のWebアプリケーションでは、より効率的なFastCGI、WSGI (Python)、Rack (Ruby)、または組み込みのWebサーバーフレームワーク(Goの`net/http`など)が一般的に使用されています。しかし、`net/http/cgi`パッケージは、既存のCGIスクリプトとの互換性や、特定のユースケースでCGIを利用する必要がある場合に有用です。
### Goの `net/http/cgi` パッケージ
Go言語の `net/http/cgi` パッケージは、GoのHTTPサーバーがCGIスクリプトをハンドリングするための機能を提供します。このパッケージを使用すると、GoのHTTPサーバー内でCGIスクリプトを実行し、その出力をクライアントにストリームすることができます。これにより、Goアプリケーションが既存のCGIベースのシステムと連携したり、CGIスクリプトをGoのHTTPサーバーの一部として実行したりすることが可能になります。
このパッケージは、CGIスクリプトの起動、環境変数の設定、標準入出力のリダイレクト、そしてスクリプトの終了の監視といった、CGIプロトコルに準拠した処理を内部で行います。テストにおいては、これらのCGIプロトコルに則った挙動が正しく行われるかを検証するために、子プロセスの起動と終了を伴うテストが書かれます。
### テストのタイムアウト
テストにおけるタイムアウトは、テストが無限に実行され続けることを防ぐために設定される上限時間です。特に非同期処理や外部依存性を持つテストでは、処理が完了しない場合にテストがハングアップするのを防ぐために重要です。タイムアウトが短すぎると、正しく動作しているはずのテストが、単に処理に時間がかかったという理由で失敗する「不安定なテスト」の原因となります。
このコミットでは、`time.Sleep` を使用して子プロセスの終了をポーリング(定期的に状態を確認)しています。`tries` 変数と `time.Sleep` の組み合わせは、指数バックオフ(exponential backoff)のような戦略で待機時間を徐々に長くしていくことで、リソースを無駄に消費せずに子プロセスの終了を待つための一般的なパターンです。
## 技術的詳細
このコミットは、`src/pkg/net/http/cgi/host_test.go` ファイル内の `TestCopyError` 関数における、子プロセスの終了を待機するループの条件を変更しています。
元のコードでは、子プロセスが終了したかどうかを `childRunning()` 関数で確認しながら、最大15回までループを繰り返していました。ループの各イテレーションでは、`time.Sleep(50 * time.Millisecond * time.Duration(tries))` によって待機時間が徐々に長くなります。`tries` が0から始まるため、最初の待機は0ミリ秒、次は50ミリ秒、次は100ミリ秒といった具合に、指数関数的に(実際には線形に `tries` に比例して)待機時間が増加します。
```go
// 元のコード
tries := 0
for tries < 15 && childRunning() {
time.Sleep(50 * time.Millisecond * time.Duration(tries))
tries++
}
このループの目的は、conn.Close()
が呼び出された後に、CGI子プロセスが完全に終了するのを待つことです。TestCopyError
は、CGIハンドラがエラーを適切に処理するかどうかをテストしているため、子プロセスが終了したことを確認することが重要です。
しかし、システムのリソース状況、スケジューリング、またはCGIスクリプト自体の終了処理の遅延により、子プロセスが15回の試行回数内に終了しない場合がありました。これにより、childRunning()
が true
を返し続け、ループが tries < 15
の条件で終了してしまい、テストが子プロセスの終了を待たずに次の処理に進んでしまう、あるいはタイムアウトしてしまうといった不安定な挙動を引き起こしていました。
このコミットでは、tries
の上限値を 15
から 25
に増加させています。
// 変更後のコード
tries := 0
for tries < 25 && childRunning() {
time.Sleep(50 * time.Millisecond * time.Duration(tries))
tries++
}
この変更により、テストは子プロセスの終了を最大25回まで試行するようになります。これにより、子プロセスが終了するまでの待機時間が全体的に長くなり、より多くの時間的余裕が与えられます。結果として、一時的なシステム負荷やスケジューリングの遅延によって子プロセスの終了が遅れた場合でも、テストが安定して成功する可能性が高まります。
この修正は、テストのロジック自体を変更するものではなく、テストの実行環境における非決定的な要素(子プロセスの終了タイミング)に対応するための、より堅牢な待機メカニズムを導入するものです。これは、不安定なテストを修正するための一般的なアプローチの一つであり、テストの信頼性を向上させる上で効果的です。
コアとなるコードの変更箇所
変更は src/pkg/net/http/cgi/host_test.go
ファイルの1箇所のみです。
--- a/src/pkg/net/http/cgi/host_test.go
+++ b/src/pkg/net/http/cgi/host_test.go
@@ -364,7 +364,7 @@ func TestCopyError(t *testing.T) {
conn.Close()
tries := 0
-\tfor tries < 15 && childRunning() {\n+\tfor tries < 25 && childRunning() {\n \t\ttime.Sleep(50 * time.Millisecond * time.Duration(tries))\n \t\ttries++
\t}\n```
## コアとなるコードの解説
変更された行は `for` ループの条件式です。
- **変更前**: `for tries < 15 && childRunning() {`
- **変更後**: `for tries < 25 && childRunning() {`
この変更は、`tries` 変数が到達できる最大値を `15` から `25` に増やしています。
* `tries`: ループの試行回数をカウントする変数です。
* `childRunning()`: 子プロセスがまだ実行中であるかどうかをチェックする関数です。この関数が `false` を返すか、`tries` が指定された上限に達するとループは終了します。
* `time.Sleep(50 * time.Millisecond * time.Duration(tries))`: 各試行で、`tries` の値に比例して待機時間を長くしています。これにより、最初のうちは短い間隔でポーリングし、子プロセスがなかなか終了しない場合は徐々に待機間隔を長くすることで、CPUリソースの無駄な消費を抑えつつ、最終的には十分な待機時間を確保しようとしています。
`tries` の上限を `15` から `25` に増やすことで、`childRunning()` が `true` を返し続ける場合でも、テストが子プロセスの終了を待機する総時間が長くなります。これにより、子プロセスの終了が遅延するような状況でも、テストがタイムアウトせずに正常に完了する可能性が高まり、テストの不安定性が解消されることが期待されます。
## 関連リンク
* GitHubコミットページ: [https://github.com/golang/go/commit/f4ad8c1c5b8ec6c271a206a3ec74d57b03b7e0e6](https://github.com/golang/go/commit/f4ad8c1c5b8ec6c271a206a3ec74d57b03b7e0e6)
* Go Change-ID: `https://golang.org/cl/5540074` (Goのコードレビューシステムへのリンク)
* Go Issue 2450 (具体的な内容は不明ですが、このコミットが解決を試みた問題): 検索結果からは特定できませんでした。
## 参考にした情報源リンク
* コミットデータ: `/home/orange/Project/comemo/commit_data/11212.txt`
* Go言語の `net/http/cgi` パッケージに関する一般的な知識
* 不安定なテスト (Flaky Test) に関する一般的な知識
* CGI (Common Gateway Interface) プロトコルに関する一般的な知識
* Go言語のテストとタイムアウトに関する一般的な知識
* Google検索 (Go issue 2450, golang.org/cl/5540074) - ただし、直接的な情報取得には至らず、一般的な知識とコミットメッセージからの推測に基づいています。