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[インデックス 11323] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のドキュメンテーション生成ツールである go/doc パッケージにおいて、Type 構造体の Name フィールドが正しく設定されるように修正するものです。これにより、型情報のソートや表示が適切に行われるようになります。

コミット

  • コミットハッシュ: e37792191f41764ca33dc26c445494bc1475136b
  • 作者: Robert Griesemer gri@golang.org
  • コミット日時: 2012年1月22日 18:52:38 -0800

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/e37792191f41764ca33dc26c445494bc1475136b

元コミット内容

go/doc: set Type.Name field

R=golang-dev, adg
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5569043

変更の背景

Go言語のドキュメンテーションツール go/doc は、Goのソースコードを解析し、その構造(パッケージ、型、関数、変数など)を抽出してドキュメントを生成します。このプロセスにおいて、型(Type)に関する情報を扱う際に、その型の名前(Nameフィールド)が適切に設定されていないという問題がありました。

具体的には、go/doc パッケージ内部で型情報をソートする際(sortType.Less関数内)に、型の名前を参照しようとすると、その名前が空文字列であるか、あるいは期待されるパスでアクセスできないために、ソートが正しく行われない、または予期せぬ動作を引き起こす可能性がありました。このコミットは、Type 構造体の Name フィールドが確実に初期化され、利用可能になるようにすることで、この問題を解決し、ドキュメント生成の正確性と信頼性を向上させることを目的としています。

前提知識の解説

go/doc パッケージ

go/doc パッケージは、Goのソースコードからドキュメンテーションを生成するための標準ライブラリです。Goのソースコードを抽象構文木(AST)として解析し、パッケージ、型、関数、変数、定数などの情報を抽出し、それらを構造化されたデータとして提供します。このデータは、go doc コマンドや godoc サーバーなどで利用され、開発者がGoのコードベースを理解するのに役立ちます。

抽象構文木(AST)と go/ast パッケージ

Goコンパイラは、ソースコードを直接実行するのではなく、まずソースコードを解析して抽象構文木(Abstract Syntax Tree, AST)と呼ばれるツリー構造に変換します。ASTは、プログラムの構造を抽象的に表現したもので、各ノードがコードの要素(変数宣言、関数呼び出し、型定義など)に対応します。

go/ast パッケージは、GoのソースコードをASTとして表現するためのデータ構造と、それを操作するための関数を提供します。go/parser パッケージでソースコードをASTに変換した後、go/ast を使ってASTを走査し、プログラムの構造や意味を分析することができます。go/doc パッケージも内部で go/ast を利用してソースコードを解析しています。

go/doc.Type 構造体

go/doc パッケージには、Goの型に関する情報を保持するための Type 構造体が存在します。この構造体は、型の名前、関連するメソッド、ドキュメンテーションコメントなど、その型に関する様々なメタデータを含んでいます。このコミットの焦点は、この Type 構造体内の Name フィールドが正しく設定されるようにすることです。

ドキュメンテーション生成のフロー

一般的なGoのドキュメンテーション生成のフローは以下のようになります。

  1. ソースコードの読み込み: go/parser を使用してGoのソースコードファイルを読み込み、ASTを生成します。
  2. ASTの解析: 生成されたASTを go/ast パッケージの機能を使って走査し、パッケージ、型、関数などの定義を特定します。
  3. ドキュメント構造の構築: 抽出された情報に基づいて、go/doc パッケージの PackageTypeFunc などの構造体を構築します。この際、各要素の名前、ドキュメンテーションコメント、関連するコードスニペットなどが格納されます。
  4. 情報の整理とソート: 構築されたドキュメント構造は、表示のために特定の順序でソートされる必要があります。例えば、型は名前順にソートされることが一般的です。
  5. ドキュメントの出力: 最終的に、整理された情報がHTML、プレーンテキストなどの形式で出力されます。

このコミットは、ステップ3と4の間の、Type 構造体の Name フィールドが正しく設定されること、そしてそれによってソートが正しく行われることに直接影響を与えます。

技術的詳細

このコミットは、src/pkg/go/doc/reader.go ファイル内の2つの箇所を変更しています。

  1. sortType.Less メソッドの変更: sortType は、go/doc パッケージ内で型情報をソートするために使用されるヘルパー型です。その Less メソッドは、2つの型 p[i]p[j] のどちらがソート順で前になるかを決定します。 変更前は、型の名前を p[i].Type.Name.Name のように多段階でアクセスしていました。これは、Type 構造体の中にさらに Name というフィールドがあり、その Name フィールドがさらに Name というフィールドを持っているような、ネストされた構造を想定しているように見えます。 変更後は、p[i].Name と直接アクセスするように修正されています。これは、sortType の要素(おそらく typeInfo 構造体)が、ソートに必要な型の名前を直接 Name フィールドとして持つようになったか、あるいは Type.Name が直接文字列型になったことを示唆しています。この変更は、後述の makeTypest.Name が直接設定されるようになったことと整合性が取れています。

  2. docReader.makeTypes メソッドの変更: makeTypes メソッドは、ソースコードから抽出された型定義に基づいて go/doc.Type 構造体のインスタンスを生成する役割を担っています。 変更前は、新しく作成された Type インスタンス tName フィールドが明示的に設定されていませんでした。 変更後、t := new(Type) で新しい Type インスタンスが作成された直後に、t.Name = old.name という行が追加されました。ここで old.name は、解析中の型定義から取得された実際の型の名前を指します。この修正により、Type 構造体の Name フィールドが、その型が持つべき正しい名前で確実に初期化されるようになりました。

この2つの変更は密接に関連しています。makeTypesType.Name が正しく設定されるようになったことで、sortType.Lessp[i].Name のように直接アクセスしても正しい名前が取得できるようになり、型のソートが期待通りに機能するようになります。

コアとなるコードの変更箇所

--- a/src/pkg/go/doc/reader.go
+++ b/src/pkg/go/doc/reader.go
@@ -483,7 +483,7 @@ func (p sortType) Less(i, j int) bool {
 	// sort by name
 	// pull blocks (name = "") up to top
 	// in original order
-	if ni, nj := p[i].Type.Name.Name, p[j].Type.Name.Name; ni != nj {
+	if ni, nj := p[i].Name, p[j].Name; ni != nj {
 		return ni < nj
 	}
 	return p[i].order < p[j].order
@@ -509,6 +509,7 @@ func (doc *docReader) makeTypes(m map[string]*typeInfo) []*Type {
 			// process the type even if not exported so that we have
 			// its methods in case they are embedded somewhere
 			t := new(Type)
+			t.Name = old.name
 			if decl != nil {
 				typespec := decl.Specs[0].(*ast.TypeSpec)
 				doc := typespec.Doc

コアとなるコードの解説

sortType.Less メソッドの変更

-	if ni, nj := p[i].Type.Name.Name, p[j].Type.Name.Name; ni != nj {
+	if ni, nj := p[i].Name, p[j].Name; ni != nj {
 		return ni < nj
 	}

この変更は、型をソートする際の比較ロジックを修正しています。以前は p[i].Type.Name.Name のように、Type 構造体内のさらにネストされた Name フィールドにアクセスしていました。これは、Type 構造体の Name フィールドが、それ自体が名前を持つ別の構造体であったか、あるいは誤ったアクセスパスであったことを示唆しています。 新しいコードでは p[i].Name と直接アクセスしています。これは、sortType の要素(typeInfo 型のインスタンス)が、ソートに必要な型の名前を直接 Name フィールドとして持つようになったことを意味します。この変更は、makeTypes 関数で Type.Name が正しく設定されるようになった結果として、よりシンプルで直接的なアクセスが可能になったことを反映しています。

docReader.makeTypes メソッドの変更

 			t := new(Type)
+			t.Name = old.name
 			if decl != nil {
 				typespec := decl.Specs[0].(*ast.TypeSpec)
 				doc := typespec.Doc

この変更は、go/doc.Type 構造体のインスタンスが生成される際に、その Name フィールドを明示的に設定するものです。 t := new(Type) で新しい Type オブジェクトが作成された後、t.Name = old.name という行が追加されました。ここで old.name は、ソースコードから解析された実際の型の名前(例えば、struct MyStructMyStruct)を保持しています。 この一行の追加により、Type オブジェクトが生成される時点で、その名前が確実に設定されるようになります。これにより、後続の処理(特にソート)で型の名前を参照する際に、常に正しい値が利用可能になります。

関連リンク

  • Gerrit Change-ID: https://golang.org/cl/5569043 (GoプロジェクトのコードレビューシステムであるGerritにおけるこの変更のID)

参考にした情報源リンク

  • Go言語の公式ドキュメント: go/doc パッケージ
  • Go言語の公式ドキュメント: go/ast パッケージ
  • Go言語の公式ドキュメント: go/parser パッケージ
  • Gitの差分表示(diff)に関する一般的な知識
  • 抽象構文木(AST)に関する一般的な知識