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コミット
commit 6d7e9382b49cbb0969f352af10def6c84740a0d3
Author: Robert Griesemer <gri@golang.org>
Date: Mon Jan 23 16:53:19 2012 -0800
go/doc: removed unused field "Type.Type"
CL 5572043 removed the last uses of this field.
The information is readily available from Type.Decl.
R=rsc, golang-dev
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5570049
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/6d7e9382b49cbb0969f352af10def6c84740a0d3
元コミット内容
このコミットは、Go言語の標準ライブラリgo/doc
パッケージ内のType
構造体から、未使用のフィールドType.Type
を削除するものです。コミットメッセージによると、CL 5572043
という変更がこのフィールドの最後の使用箇所を削除したため、このフィールドは不要になりました。必要な情報はType.Decl
から容易に取得できるとされています。
変更の背景
Go言語のgo/doc
パッケージは、Goのソースコードからドキュメンテーションを生成するためのツールです。このパッケージは、Goの抽象構文木(AST)を解析し、パッケージ、型、関数、変数などの情報を抽出し、それらを構造化された形式で表現します。
Type
構造体は、Goの型宣言に関するドキュメンテーション情報を保持するために使用されます。以前は、この構造体にはType *ast.TypeSpec
というフィールドが含まれていました。ast.TypeSpec
は、GoのASTにおいて型宣言(例: type MyType int
)を表すノードです。
コミットメッセージにあるCL 5572043
は、このType.Type
フィールドを参照するコードをすべて削除した先行する変更リスト(Change List)を指しています。Goプロジェクトでは、コードベースの健全性を保つために、未使用のコードやフィールドは定期的に削除されます。これは、コードの複雑性を減らし、メンテナンス性を向上させ、将来的なバグのリスクを低減するためです。
この変更の背景には、Type.Type
フィールドが冗長であり、その情報が既にType.Decl
フィールド(*ast.GenDecl
型)からアクセス可能であるという認識があります。ast.GenDecl
は、const
, type
, var
などの一般的な宣言を表すASTノードであり、その中にTypeSpec
を含むことができます。したがって、Type.Decl
を通じて必要なTypeSpec
情報にアクセスできるため、Type.Type
フィールドは不要と判断されました。
前提知識の解説
- Go言語の
go/doc
パッケージ: Go言語のソースコードからドキュメンテーションを生成するための標準ライブラリです。Goのソースコードを解析し、その構造(パッケージ、型、関数、変数など)を表現するデータ構造を提供します。go doc
コマンドやgodoc
ツールはこのパッケージを利用しています。 - 抽象構文木 (AST): プログラミング言語のソースコードの抽象的な構文構造を木構造で表現したものです。コンパイラやリンタ、コード分析ツールなどがソースコードを解析する際に利用します。Go言語では、
go/ast
パッケージがASTの表現と操作を提供します。 ast.TypeSpec
: GoのASTにおいて、型宣言(例:type MyType int
)を表す構造体です。型名やその基底型などの情報を含みます。ast.GenDecl
: GoのASTにおいて、const
、type
、var
などの一般的な宣言ブロックを表す構造体です。複数の宣言(Spec
)を含むことができます。例えば、type ( A int; B string )
のような宣言は一つのGenDecl
として表現されます。- 冗長なフィールドの削除: ソフトウェア開発において、使用されていない、または他の既存のフィールドから導出可能なフィールドを削除することは、コードベースをスリム化し、理解しやすくし、バグの発生源を減らすための一般的なプラクティスです。
技術的詳細
このコミットの技術的な変更は、go/doc
パッケージ内のType
構造体と、そのフィールドを初期化するロジックに集中しています。
-
src/pkg/go/doc/doc.go
の変更:Type
構造体からType *ast.TypeSpec
フィールドが削除されました。- 同時に、構造体のコメントが整理され、
Consts
,Vars
,Funcs
フィールドが// associated declarations
という新しいコメントブロックの下に移動されました。これは機能的な変更ではなく、コードの可読性と整理を目的としたものです。
変更前:
type Type struct { Doc string Name string Type *ast.TypeSpec // 削除対象 Decl *ast.GenDecl Consts []*Value // sorted list of constants of (mostly) this type Vars []*Value // sorted list of variables of (mostly) this type Funcs []*Func // sorted list of functions returning this type }
変更後:
type Type struct { Doc string Name string Decl *ast.GenDecl // associated declarations Consts []*Value // sorted list of constants of (mostly) this type Vars []*Value // sorted list of variables of (mostly) this type Funcs []*Func // sorted list of functions returning this type }
-
src/pkg/go/doc/reader.go
の変更:docReader
構造体のmakeTypes
メソッド内で、Type.Type
フィールドへの代入処理が削除されました。このメソッドは、ASTから型情報を読み取り、go/doc
パッケージのType
構造体を構築する役割を担っています。
変更前:
// ... t.Doc = doc.Text() t.Type = typespec // 削除対象 // ...
変更後:
// ... t.Doc = doc.Text() // t.Type = typespec (この行が削除された) // ...
この変更により、Type
構造体はよりシンプルになり、冗長なデータが保持されなくなりました。Type.Decl
フィールドを通じてast.GenDecl
にアクセスし、そこから必要なast.TypeSpec
情報を取得するという設計が明確化されました。これは、GoのASTの構造とgo/doc
パッケージの設計原則に合致する変更です。
コアとなるコードの変更箇所
このコミットにおけるコアとなるコードの変更箇所は以下の2ファイルです。
src/pkg/go/doc/doc.go
:Type
構造体の定義からType *ast.TypeSpec
フィールドが削除されました。src/pkg/go/doc/reader.go
:makeTypes
関数内で、削除されたType.Type
フィールドへの値の代入処理が削除されました。
コアとなるコードの解説
src/pkg/go/doc/doc.go
このファイルでは、go/doc
パッケージが提供する主要なデータ構造が定義されています。Type
構造体は、Goの型宣言に関するドキュメンテーション情報をカプセル化します。
--- a/src/pkg/go/doc/doc.go
+++ b/src/pkg/go/doc/doc.go
@@ -42,10 +44,11 @@ type Method struct {\n
// Type is the documentation for type declaration.
type Type struct {
- Doc string
- Name string
- Type *ast.TypeSpec // この行が削除された
- Decl *ast.GenDecl
+ Doc string
+ Name string
+ Decl *ast.GenDecl
+ // associated declarations // このコメントが追加された
Consts []*Value // sorted list of constants of (mostly) this type
Vars []*Value // sorted list of variables of (mostly) this type
Funcs []*Func // sorted list of functions returning this type
この変更は、Type
構造体からType *ast.TypeSpec
フィールドを物理的に削除しています。これにより、このフィールドにアクセスしようとする既存のコードはコンパイルエラーとなるため、reader.go
での対応する変更が必要になります。また、Package
構造体内のフィールドの並び替えとコメントの追加も行われていますが、これは機能的な変更ではなく、コードの整理と可読性向上を目的としています。
src/pkg/go/doc/reader.go
このファイルには、GoのASTを読み込み、go/doc
パッケージのデータ構造に変換するロジックが含まれています。makeTypes
関数は、型宣言を処理し、Type
構造体のインスタンスを生成します。
--- a/src/pkg/go/doc/reader.go
+++ b/src/pkg/go/doc/reader.go
@@ -520,7 +520,6 @@ func (doc *docReader) makeTypes(m map[string]*typeInfo) []*Type {\n
\t\t\t\t}\n
\t\t\t\tdecl.Doc = nil // doc consumed - remove from ast.Decl node
\t\t\t\tt.Doc = doc.Text()\n
-\t\t\t\t\tt.Type = typespec // この行が削除された
\t\t\t}\n
\t\t\tt.Consts = makeValues(old.values, token.CONST)\n
\t\t\tt.Vars = makeValues(old.values, token.VAR)\n
この変更は、makeTypes
関数内でt.Type = typespec
という行を削除しています。これは、doc.go
でType
構造体からType
フィールドが削除されたことに伴う修正です。この行が削除されることで、存在しないフィールドへの代入を防ぎ、コンパイルエラーを回避します。
これらの変更は、Type.Type
フィールドが不要になったという前提に基づいています。これは、Type.Decl
フィールド(*ast.GenDecl
型)を通じて、型宣言のASTノード(ast.TypeSpec
)にアクセスできるためです。ast.GenDecl
は、そのSpecs
フィールドにast.TypeSpec
を含むことができます。したがって、Type.Decl
から必要な情報を取得できるため、Type.Type
フィールドは冗長でした。
関連リンク
- Go言語の公式ドキュメンテーション: https://golang.org/doc/
go/doc
パッケージのドキュメンテーション: https://pkg.go.dev/go/docgo/ast
パッケージのドキュメンテーション: https://pkg.go.dev/go/ast- このコミットのGitHubページ: https://github.com/golang/go/commit/6d7e9382b49cbb0969f352af10def6c84740a0d3
- 関連するGo Change List (CL) 5570049: https://golang.org/cl/5570049 (コミットメッセージに記載されているが、
CL 5572043
は検索で特定できませんでした。)
参考にした情報源リンク
- Go言語のソースコード(特に
go/doc
パッケージ) - Go言語の抽象構文木(AST)に関する一般的な知識
- Gitのコミットログと差分表示
- Go言語のドキュメンテーション生成に関する情報