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[インデックス 11566] ファイルの概要

このコミットは、Goコンパイラ(gc)のデバッグフラグに関する説明を更新するものです。特に、-m フラグの挙動変更と、その他のデバッグに有用なフラグの説明が追加されています。

コミット

commit 4b6cd239c56f40a152ea4f7abbc72b8b3c9c9342
Author: Anthony Martin <ality@pbrane.org>
Date:   Thu Feb 2 14:02:54 2012 -0800

    gc: describe debugging flags
    
    The change to -m is the only one necessary
    to close the issue.  The others are useful
    to know about when debugging but shouldn't
    be in the usage message since they may go
    away or change at any time.
    
    Fixes #2802.
    
    R=lvd, rsc
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/5606046

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/4b6cd239c56f40a152ea4f7abbc72b8b3c9c9342

元コミット内容

このコミットの目的は、Goコンパイラ gc のヘルプメッセージ(usage() 関数)を更新し、デバッグに役立ついくつかのフラグの説明を追加することです。特に、-m フラグの挙動変更がIssue #2802を解決するために必要であり、その他のフラグはデバッグ時に有用であるものの、将来的に変更される可能性があるため、通常の利用メッセージには含めるべきではないとされています。

変更の背景

この変更は、GoのIssue #2802「cmd/gc: document -m flag」を修正するために行われました。このIssueは、Goコンパイラの-mフラグに関するドキュメントが不足していることを指摘していました。-mフラグは、コンパイラがヒープへの移動(エスケープ解析の結果)に関する情報を出力するために使用されますが、その機能が明確に文書化されていませんでした。

Goコンパイラは、コードの最適化やデバッグのために様々な内部フラグを持っています。これらのフラグは、開発者やコンパイラの挙動を深く理解したいユーザーにとって非常に有用です。しかし、すべての内部フラグが公式なusageメッセージに記載されるわけではありません。これは、一部のフラグが実験的であったり、将来的に変更される可能性があったりするためです。

このコミットでは、-mフラグの重要性が認識され、その説明がusageメッセージに追加されました。また、その他のデバッグに有用なフラグ(-A, -B, -E, -K, -M, -P, -R, -g, -i, -j, -r, -s, -v, -y, -%, +)もコメントとして追加され、コードベース内でその存在が明確にされました。これにより、コンパイラの内部挙動を調査する際に、これらのフラグの存在を知ることができるようになりました。

前提知識の解説

  • Goコンパイラ (gc): Go言語の公式コンパイラです。Goのソースコードを機械語に変換する役割を担います。gcは、最適化、型チェック、コード生成など、コンパイルの様々な段階を実行します。
  • コンパイラフラグ: コンパイラの挙動を制御するためのコマンドライン引数です。例えば、最適化の有効/無効、デバッグ情報の出力レベル、特定の機能の有効/無効などを指定できます。
  • エスケープ解析 (Escape Analysis): Goコンパイラが行う最適化の一つです。変数がヒープに割り当てられるべきか、それともスタックに割り当てられるべきかを決定します。スタック割り当てはヒープ割り当てよりも高速であるため、エスケープ解析はパフォーマンス向上に寄与します。-mフラグはこのエスケープ解析の結果に関する情報(どの変数がヒープにエスケープしたかなど)を出力します。
  • インライン化 (Inlining): 関数呼び出しのオーバーヘッドを削減するために、呼び出し元のコードに関数本体を直接埋め込む最適化手法です。-lフラグはインライン化を無効にします。
  • 最適化 (Optimization): コンパイラが生成するコードのパフォーマンスを向上させるためのプロセスです。これには、不要なコードの削除、命令の並べ替え、レジスタ割り当ての最適化などが含まれます。-Nフラグは最適化を無効にします。
  • src/cmd/gc/lex.c: Goコンパイラのソースコードの一部で、字句解析(lexical analysis)に関連する処理や、コンパイラのコマンドライン引数の処理、usage()メッセージの生成などが行われるファイルです。

技術的詳細

このコミットの主要な変更は、src/cmd/gc/lex.cファイル内のusage()関数の更新です。usage()関数は、ユーザーがgcコマンドを引数なしで実行したり、無効な引数を指定したりした場合に表示されるヘルプメッセージを生成します。

変更前は、-mフラグの説明が「print about moves to heap」(ヒープへの移動について出力する)となっていました。これはエスケープ解析の結果に関する情報出力を示唆していましたが、より一般的な「最適化の決定」に関する情報も出力するようになりました。

変更後、-mフラグの説明は「print optimization decisions」(最適化の決定を出力する)に変更されました。これは、-mフラグがエスケープ解析だけでなく、より広範なコンパイラの最適化に関する詳細な情報(例えば、インライン化の決定、不要なコードの削除など)を出力するようになったことを反映しています。

また、以下のデバッグフラグがコメントとしてusage()関数内に追記されました。これらのフラグは、通常のユーザー向けヘルプメッセージには表示されませんが、ソースコードを読むことでその存在と機能を知ることができます。

  • -A: "any" 型の使用を許可する(ブートストラップ用)
  • -B: 境界チェックを無効にする
  • -E: インポートされた宣言を出力する
  • -K: 行番号がゼロの場合に警告する
  • -M: gmoveへの引数を出力する
  • -P: ピーフホール最適化の診断を出力する
  • -R: オプティマイザの診断を出力する
  • -g: コード生成の診断を出力する
  • -i: 行履歴を出力する
  • -j: ランタイムで初期化される変数を出力する
  • -r: 生成されたヘルパー関数を出力する
  • -s: 複合リテラル内の冗長な型を出力する(変更前は「disable escape analysis」だったが、このコミットで削除され、別の意味で再利用された可能性が高い)
  • -v: -Pまたは-Rと併用してより多くの情報を出力する
  • -y: cannedimports内の宣言を出力する(-dと併用)
  • -%: 非静的初期化子を出力する
  • -+: ランタイムがコンパイルされていることを示す

さらに、-Nフラグの説明が「disable optimizer」から「disable optimizations」に変更され、より正確な表現になりました。-lフラグ(インライン化を無効にする)が新しく追加され、-sフラグ(エスケープ解析を無効にする)は削除されました。これは、エスケープ解析の制御が-mフラグの出力に統合されたか、あるいは別の方法で制御されるようになったことを示唆しています。

これらの変更は、Goコンパイラのデバッグと最適化の挙動をより詳細に理解するための情報を提供し、開発者がコンパイラの内部動作を調査する際の助けとなります。

コアとなるコードの変更箇所

--- a/src/cmd/gc/lex.c
+++ b/src/cmd/gc/lex.c
@@ -132,10 +132,25 @@ usage(void)
  {
  	print("gc: usage: %cg [flags] file.go...\\n", thechar);
  	print("flags:\\n");
- 	// -A is allow use of "any" type, for bootstrapping
+ 	// -A allow use of "any" type, for bootstrapping
+ 	// -B disable bounds checking
+ 	// -E print imported declarations
+ 	// -K warn when lineno is zero
+ 	// -M print arguments to gmove
+ 	// -P print peephole diagnostics
+ 	// -R print optimizer diagnostics
+ 	// -g print code generation diagnostics
+ 	// -i print line history
+ 	// -j print variables to be initialized at runtime
+ 	// -r print generated helper functions
+ 	// -s print redundant types in composite literals
+ 	// -v print more information with -P or -R
+ 	// -y print declarations in cannedimports (used with -d)
+ 	// -% print non-static initializers
+ 	// -+ indicate that the runtime is being compiled
  	print("  -I DIR search for packages in DIR\\n");
  	print("  -L show full path in file:line prints\\n");
- 	print("  -N disable optimizer\\n");
+ 	print("  -N disable optimizations\\n");
  	print("  -S print the assembly language\\n");
  	print("  -V print the compiler version\\n");
  	print("  -W print the parse tree after typing\\n");
@@ -143,10 +158,10 @@ usage(void)
  	print("  -e no limit on number of errors printed\\n");
  	print("  -f print stack frame structure\\n");
  	print("  -h panic on an error\\n");
- 	print("  -m print about moves to heap\\n");
+ 	print("  -l disable inlining\\n");
+ 	print("  -m print optimization decisions\\n");
  	print("  -o file specify output file\\n");
  	print("  -p assumed import path for this code\\n");
- 	print("  -s disable escape analysis\\n");
  	print("  -u disable package unsafe\\n");
  	print("  -w print type checking details\\n");
  	print("  -x print lex tokens\\n");

コアとなるコードの解説

この変更は、src/cmd/gc/lex.cファイル内のusage()関数に集中しています。

  1. デバッグフラグの追加:

    • print("flags:\\n"); の直後に、多数の新しいコメント行が追加されています。これらは、Goコンパイラの内部的なデバッグフラグとその簡単な説明です。これらのフラグは、通常のgc -help出力には表示されませんが、ソースコードを読むことでその存在を知ることができます。これは、コンパイラの開発者や、コンパイラの詳細な挙動を調査したいユーザーにとって有用な情報です。
    • 例: // -B disable bounds checking (境界チェックを無効にする), // -P print peephole diagnostics (ピーフホール最適化の診断を出力する) など。
  2. -Nフラグの説明の変更:

    • 変更前: print(" -N disable optimizer\\n");
    • 変更後: print(" -N disable optimizations\\n");
    • 「optimizer」(最適化器)という単数形から「optimizations」(最適化)という複数形に変更され、より一般的な最適化全般を無効にすることを示す、より正確な表現になりました。
  3. -mフラグの説明の変更:

    • 変更前: print(" -m print about moves to heap\\n");
    • 変更後: print(" -m print optimization decisions\\n");
    • -mフラグの機能が「ヒープへの移動に関する情報出力」から「最適化の決定に関する情報出力」へと拡張されました。これは、-mフラグがエスケープ解析の結果だけでなく、インライン化やその他の最適化に関する詳細な情報も出力するようになったことを示しています。
  4. -lフラグの追加:

    • print(" -l disable inlining\\n"); が新しく追加されました。これは、コンパイラのインライン化最適化を無効にするためのフラグです。
  5. -sフラグの削除:

    • 変更前は「print(" -s disable escape analysis\\n");」という行がありましたが、このコミットで削除されました。これは、エスケープ解析の制御方法が変更されたか、あるいは-mフラグの機能に統合されたことを示唆しています。ただし、コメントとして「// -s print redundant types in composite literals」が追加されており、-sフラグが別の意味で再利用された可能性もあります。

これらの変更は、Goコンパイラのコマンドラインインターフェースのヘルプメッセージを改善し、特にデバッグや最適化の挙動に関する情報提供を強化することを目的としています。

関連リンク

参考にした情報源リンク