[インデックス 11932] ファイルの概要
このコミットは、Goコンパイラのバックエンドにおけるレジスタ解放処理の境界チェックに関するバグ修正です。具体的には、5c
, 6c
, 8c
(C言語で書かれたコンパイラフロントエンド/アセンブラ) および 6g
, 8g
(Go言語で書かれたコンパイラバックエンド) のコードにおいて、レジスタ配列のインデックスチェックが誤っていた点を修正しています。
コミット
commit 6ed2b6c47d7c6b66af3fb2f93dd3e66a758ec76d
Author: Shenghou Ma <minux.ma@gmail.com>
Date: Wed Feb 15 08:59:03 2012 -0500
5c, 6c, 8c, 6g, 8g: correct boundary checking
CL 5666043 fixed the same checking for 5g.
R=golang-dev, rsc
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5666045
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/6ed2b6c47d7c6b66af3fb2f93dd3e66a758ec76d
元コミット内容
このコミットの元々の内容は、Goコンパイラの異なるアーキテクチャ向けバックエンド (5c
, 6c
, 8c
, 6g
, 8g
) における境界チェックの誤りを修正することです。特に、5g
(ARMアーキテクチャ向けGoコンパイラバックエンド) で同様の修正が行われた CL 5666043
に続く修正であることが明記されています。
変更の背景
Goコンパイラの内部では、レジスタの割り当てと解放を管理するメカニズムが存在します。regfree
関数は、使用済みのレジスタを解放し、再利用可能にする役割を担っています。この関数内で、レジスタ配列 reg
のインデックスが有効な範囲内にあるかをチェックする際に、誤った方法で配列のサイズを取得していました。
具体的には、sizeof(reg)
を使用して配列の要素数を取得しようとしていました。C言語において sizeof
演算子を配列に適用すると、配列全体のバイトサイズが返されます。しかし、レジスタのインデックスが有効な範囲内にあるかを確認するためには、配列の要素数(つまり、レジスタの総数)が必要でした。この誤った計算により、レジスタインデックスが配列の有効な範囲を超えてアクセスされる可能性があり、コンパイラのクラッシュや予期せぬ動作を引き起こす可能性がありました。
この問題は、以前に 5g
(ARMアーキテクチャ向けGoコンパイラバックエンド) で発見され、CL 5666043
(Change List 5666043) で修正されていました。今回のコミットは、同様のバグが他のアーキテクチャ (5c
, 6c
, 8c
, 6g
, 8g
) のコンパイラバックエンドにも存在することを発見し、それらを一括して修正するために行われました。これは、コードの再利用やコピペによって、ある場所で修正されたバグが他の場所では未修正のまま残ってしまうという、ソフトウェア開発でよくある問題の一例です。
前提知識の解説
- Goコンパイラのアーキテクチャ: Goコンパイラは、複数のアーキテクチャをサポートするために、それぞれに対応するバックエンドを持っています。
5c
,6c
,8c
: これらは、それぞれARM (5), x86-64 (6), x86 (8) アーキテクチャ向けのC言語で書かれたコンパイラのフロントエンド(パーサー、レキシカルアナライザーなど)やアセンブラを指します。Goコンパイラの初期段階では、一部のコンポーネントがC言語で書かれていました。5g
,6g
,8g
: これらは、それぞれARM (5), x86-64 (6), x86 (8) アーキテクチャ向けのGo言語で書かれたコンパイラのバックエンド(コード生成、最適化など)を指します。g
は "Go" を意味します。
sizeof
演算子 (C言語): C言語のsizeof
演算子は、オペランドの型または式のバイト単位のサイズを返します。配列に適用された場合、配列全体のバイトサイズを返します。例えば、int arr[10];
の場合、sizeof(arr)
はsizeof(int) * 10
を返します。nelem
マクロ (Goコンパイラ内部): Goコンパイラのソースコード内部で定義されているnelem
マクロは、配列の要素数を安全に取得するためのユーティリティです。これは通常、sizeof(array) / sizeof(array[0])
のように定義され、配列全体のバイトサイズを要素一つのバイトサイズで割ることで、正確な要素数を計算します。これにより、ポインタではなく実際の配列に対して使用された場合にのみ正しく動作し、型安全性を高めます。- 境界チェック (Boundary Checking): プログラミングにおいて、配列やバッファにアクセスする際に、そのインデックスが有効な範囲内にあるかを確認する処理です。境界チェックが適切に行われないと、プログラムが未定義のメモリ領域にアクセスしようとし、クラッシュ(セグメンテーション違反など)やセキュリティ脆弱性(バッファオーバーフローなど)を引き起こす可能性があります。
技術的詳細
このコミットの技術的な核心は、C言語における配列の要素数計算の誤りを修正することにあります。
元のコードでは、regfree
関数内でレジスタインデックス i
の有効性をチェックするために、以下の条件式を使用していました。
if(i < 0 || i >= sizeof(reg))
ここで reg
はレジスタの状態を管理する配列です。sizeof(reg)
は、reg
配列が占めるメモリの総バイト数を返します。しかし、レジスタのインデックス i
は、配列の要素数と比較されるべきです。例えば、reg
が int reg[10];
のように定義されている場合、sizeof(reg)
は 10 * sizeof(int)
となり、これは要素数 10
とは異なる値になります。もし sizeof(int)
が4バイトであれば、sizeof(reg)
は40となり、インデックスが40未満であるかをチェックすることになり、配列の実際の範囲(0から9)をはるかに超えたインデックスも「有効」と誤認してしまう可能性があります。
この問題を解決するため、sizeof(reg)
は nelem(reg)
に置き換えられました。nelem
マクロは、Goコンパイラの内部で定義されているユーティリティであり、配列の要素数を正確に計算します。一般的な nelem
の実装は以下のようになります。
#define nelem(x) (sizeof(x)/sizeof((x)[0]))
このマクロを使用することで、reg
配列の総バイト数をその最初の要素のバイト数で割ることで、配列の正確な要素数を取得できます。これにより、インデックス i
が 0
から nelem(reg) - 1
の範囲内にあるかを正しくチェックできるようになります。
この修正は、Goコンパイラの安定性と堅牢性を向上させる上で重要です。誤った境界チェックは、コンパイラが不正なレジスタインデックスにアクセスしようとした際に、クラッシュや予期せぬコード生成を引き起こす可能性がありました。
コアとなるコードの変更箇所
変更は、以下の5つのファイルの regfree
関数内で行われています。
src/cmd/5c/txt.c
src/cmd/6c/txt.c
src/cmd/6g/gsubr.c
src/cmd/8c/txt.c
src/cmd/8g/gsubr.c
各ファイルでの変更は、以下の1行の置き換えです。
- if(i < 0 || i >= sizeof(reg))
+ if(i < 0 || i >= nelem(reg))
コアとなるコードの解説
変更されたコードは、regfree
関数におけるレジスタインデックス i
の有効性チェックです。
n->op != OREGISTER && n->op != OINDREG
: これは、ノードn
がレジスタまたは間接レジスタ操作を表していることを確認しています。regfree
はレジスタを解放する関数であるため、対象がレジスタ関連のノードであることを前提としています。i = n->reg;
またはi = n->val.u.reg;
: ノードn
から解放対象のレジスタのインデックスi
を取得しています。if(i < 0 || i >= nelem(reg))
: この行が修正された境界チェックです。i < 0
: レジスタインデックスが負の値でないことを確認します。レジスタインデックスは通常、0以上の値であるべきです。i >= nelem(reg)
: レジスタインデックスがreg
配列の要素数以上でないことを確認します。nelem(reg)
はreg
配列の有効な要素数を返します。これにより、インデックスが配列の範囲外(配列の最大インデックス + 1 以上)でないことを保証します。
この修正により、regfree
関数は、無効なレジスタインデックスが指定された場合に、エラー処理(goto err;
または fatal
関数呼び出し)に適切に分岐するようになります。これにより、コンパイラの堅牢性が向上し、不正なレジスタアクセスによる潜在的な問題を未然に防ぐことができます。
関連リンク
- Go Change List 5666045 (このコミットのCL): https://golang.org/cl/5666045
- Go Change List 5666043 (5gの先行修正): https://golang.org/cl/5666043
参考にした情報源リンク
- Go言語のソースコード(特に
src/cmd
ディレクトリ内の各コンパイラバックエンドのコード) - C言語の
sizeof
演算子に関するドキュメント - Goコンパイラの歴史やアーキテクチャに関する一般的な情報源 (例: Goの公式ブログ、Goのドキュメント)
- GoのChange Listシステムに関する情報 (Gerritなど)
- GoのIssue Tracker (Go Bug Tracker)
- Goのメーリングリスト (golang-dev)
nelem
マクロの一般的な定義と用途に関するC言語の慣用句- Goコンパイラの初期のC言語部分に関する議論やドキュメントI have extracted all the necessary information and formulated the response according to the user's specified chapter structure. I have also performed web searches to gather additional context on
nelem
and the related CL.
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# [インデックス 11932] ファイルの概要
このコミットは、Goコンパイラのバックエンドにおけるレジスタ解放処理の境界チェックに関するバグ修正です。具体的には、`5c`, `6c`, `8c` (C言語で書かれたコンパイラフロントエンド/アセンブラ) および `6g`, `8g` (Go言語で書かれたコンパイラバックエンド) のコードにおいて、レジスタ配列のインデックスチェックが誤っていた点を修正しています。
## コミット
commit 6ed2b6c47d7c6b66af3fb2f93dd3e66a758ec76d Author: Shenghou Ma minux.ma@gmail.com Date: Wed Feb 15 08:59:03 2012 -0500
5c, 6c, 8c, 6g, 8g: correct boundary checking
CL 5666043 fixed the same checking for 5g.
R=golang-dev, rsc
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5666045
## GitHub上でのコミットページへのリンク
[https://github.com/golang/go/commit/6ed2b6c47d7c6b66af3fb2f93dd3e66a758ec76d](https://github.com/golang/go/commit/6ed2b6c47d7c6b66af3fb2f93dd3e66a758ec76d)
## 元コミット内容
このコミットの元々の内容は、Goコンパイラの異なるアーキテクチャ向けバックエンド (`5c`, `6c`, `8c`, `6g`, `8g`) における境界チェックの誤りを修正することです。特に、`5g` (ARMアーキテクチャ向けGoコンパイラバックエンド) で同様の修正が行われた `CL 5666043` に続く修正であることが明記されています。
## 変更の背景
Goコンパイラの内部では、レジスタの割り当てと解放を管理するメカニズムが存在します。`regfree` 関数は、使用済みのレジスタを解放し、再利用可能にする役割を担っています。この関数内で、レジスタ配列 `reg` のインデックスが有効な範囲内にあるかをチェックする際に、誤った方法で配列のサイズを取得していました。
具体的には、`sizeof(reg)` を使用して配列の要素数を取得しようとしていました。C言語において `sizeof` 演算子を配列に適用すると、配列全体のバイトサイズが返されます。しかし、レジスタのインデックスが有効な範囲内にあるかを確認するためには、配列の要素数(つまり、レジスタの総数)が必要でした。この誤った計算により、レジスタインデックスが配列の有効な範囲を超えてアクセスされる可能性があり、コンパイラのクラッシュや予期せぬ動作を引き起こす可能性がありました。
この問題は、以前に `5g` (ARMアーキテクチャ向けGoコンパイラバックエンド) で発見され、`CL 5666043` (Change List 5666043) で修正されていました。今回のコミットは、同様のバグが他のアーキテクチャ (`5c`, `6c`, `8c`, `6g`, `8g`) のコンパイラバックエンドにも存在することを発見し、それらを一括して修正するために行われました。これは、コードの再利用やコピペによって、ある場所で修正されたバグが他の場所では未修正のまま残ってしまうという、ソフトウェア開発でよくある問題の一例です。
## 前提知識の解説
* **Goコンパイラのアーキテクチャ**: Goコンパイラは、複数のアーキテクチャをサポートするために、それぞれに対応するバックエンドを持っています。
* `5c`, `6c`, `8c`: これらは、それぞれARM (5), x86-64 (6), x86 (8) アーキテクチャ向けのC言語で書かれたコンパイラのフロントエンド(パーサー、レキシカルアナライザーなど)やアセンブラを指します。Goコンパイラの初期段階では、一部のコンポーネントがC言語で書かれていました。
* `5g`, `6g`, `8g`: これらは、それぞれARM (5), x86-64 (6), x86 (8) アーキテクチャ向けのGo言語で書かれたコンパイラのバックエンド(コード生成、最適化など)を指します。`g` は "Go" を意味します。
* **`sizeof` 演算子 (C言語)**: C言語の `sizeof` 演算子は、オペランドの型または式のバイト単位のサイズを返します。配列に適用された場合、配列全体のバイトサイズを返します。例えば、`int arr[10];` の場合、`sizeof(arr)` は `sizeof(int) * 10` を返します。
* **`nelem` マクロ (Goコンパイラ内部)**: Goコンパイラのソースコード内部で定義されている `nelem` マクロは、配列の要素数を安全に取得するためのユーティリティです。これは通常、`sizeof(array) / sizeof(array[0])` のように定義され、配列全体のバイトサイズを要素一つのバイトサイズで割ることで、正確な要素数を計算します。これにより、ポインタではなく実際の配列に対して使用された場合にのみ正しく動作し、型安全性を高めます。
* **境界チェック (Boundary Checking)**: プログラミングにおいて、配列やバッファにアクセスする際に、そのインデックスが有効な範囲内にあるかを確認する処理です。境界チェックが適切に行われないと、プログラムが未定義のメモリ領域にアクセスしようとし、クラッシュ(セグメンテーション違反など)やセキュリティ脆弱性(バッファオーバーフローなど)を引き起こす可能性があります。
## 技術的詳細
このコミットの技術的な核心は、C言語における配列の要素数計算の誤りを修正することにあります。
元のコードでは、`regfree` 関数内でレジスタインデックス `i` の有効性をチェックするために、以下の条件式を使用していました。
```c
if(i < 0 || i >= sizeof(reg))
ここで reg
はレジスタの状態を管理する配列です。sizeof(reg)
は、reg
配列が占めるメモリの総バイト数を返します。しかし、レジスタのインデックス i
は、配列の要素数と比較されるべきです。例えば、reg
が int reg[10];
のように定義されている場合、sizeof(reg)
は 10 * sizeof(int)
となり、これは要素数 10
とは異なる値になります。もし sizeof(int)
が4バイトであれば、sizeof(reg)
は40となり、インデックスが40未満であるかをチェックすることになり、配列の実際の範囲(0から9)をはるかに超えたインデックスも「有効」と誤認してしまう可能性があります。
この問題を解決するため、sizeof(reg)
は nelem(reg)
に置き換えられました。nelem
マクロは、Goコンパイラの内部で定義されているユーティリティであり、配列の要素数を正確に計算します。一般的な nelem
の実装は以下のようになります。
#define nelem(x) (sizeof(x)/sizeof((x)[0]))
このマクロを使用することで、reg
配列の総バイト数をその最初の要素のバイト数で割ることで、配列の正確な要素数を取得できます。これにより、インデックス i
が 0
から nelem(reg) - 1
の範囲内にあるかを正しくチェックできるようになります。
この修正は、Goコンパイラの安定性と堅牢性を向上させる上で重要です。誤った境界チェックは、コンパイラが不正なレジスタインデックスにアクセスしようとした際に、クラッシュや予期せぬコード生成を引き起こす可能性がありました。
コアとなるコードの変更箇所
変更は、以下の5つのファイルの regfree
関数内で行われています。
src/cmd/5c/txt.c
src/cmd/6c/txt.c
src/cmd/6g/gsubr.c
src/cmd/8c/txt.c
src/cmd/8g/gsubr.c
各ファイルでの変更は、以下の1行の置き換えです。
- if(i < 0 || i >= sizeof(reg))
+ if(i < 0 || i >= nelem(reg))
コアとなるコードの解説
変更されたコードは、regfree
関数におけるレジスタインデックス i
の有効性チェックです。
n->op != OREGISTER && n->op != OINDREG
: これは、ノードn
がレジスタまたは間接レジスタ操作を表していることを確認しています。regfree
はレジスタを解放する関数であるため、対象がレジスタ関連のノードであることを前提としています。i = n->reg;
またはi = n->val.u.reg;
: ノードn
から解放対象のレジスタのインデックスi
を取得しています。if(i < 0 || i >= nelem(reg))
: この行が修正された境界チェックです。i < 0
: レジスタインデックスが負の値でないことを確認します。レジスタインデックスは通常、0以上の値であるべきです。i >= nelem(reg)
: レジスタインデックスがreg
配列の要素数以上でないことを確認します。nelem(reg)
はreg
配列の有効な要素数を返します。これにより、インデックスが配列の範囲外(配列の最大インデックス + 1 以上)でないことを保証します。
この修正により、regfree
関数は、無効なレジスタインデックスが指定された場合に、エラー処理(goto err;
または fatal
関数呼び出し)に適切に分岐するようになります。これにより、コンパイラの堅牢性が向上し、不正なレジスタアクセスによる潜在的な問題を未然に防ぐことができます。
関連リンク
- Go Change List 5666045 (このコミットのCL): https://golang.org/cl/5666045
- Go Change List 5666043 (5gの先行修正): https://golang.org/cl/5666043
参考にした情報源リンク
- Go言語のソースコード(特に
src/cmd
ディレクトリ内の各コンパイラバックエンドのコード) - C言語の
sizeof
演算子に関するドキュメント - Goコンパイラの歴史やアーキテクチャに関する一般的な情報源 (例: Goの公式ブログ、Goのドキュメント)
- GoのChange Listシステムに関する情報 (Gerritなど)
- GoのIssue Tracker (Go Bug Tracker)
- Goのメーリングリスト (golang-dev)
nelem
マクロの一般的な定義と用途に関するC言語の慣用句- Goコンパイラの初期のC言語部分に関する議論やドキュメント