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[インデックス 12000] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のテストスイートにおけるテスト実行方法の定義を、より抽象化されたtestlibというメカニズムに移行するものです。具体的には、各テストファイルの先頭に記述されていたシェルコマンド形式のテスト指示(例: // $G $D/$F.go && $L $F.$A && ./$A.out)を、// run// compileといった簡潔なディレクティブに置き換える変更が、多数のテストファイルに対して一括で行われています。これにより、テストの記述が簡素化され、Goテストインフラストラクチャの保守性が向上しています。

コミット

commit d2cc9884296e84f18ff23550a4561e7b0109efd5
Author: Russ Cox <rsc@golang.org>
Date:   Thu Feb 16 23:50:37 2012 -0500

    test: use testlib (fourth 100)
    
    X ,s;^// \$G (\$D/)?\$F\.go *$;// compile;g
    X ,s;^// \$G (\$D/)?\$F\.go && \$L \$F\.\$A *$;// build;g
    X ,s;^// \$G (\$D/)?\$F\.go && \$L \$F\.\$A && \./\$A\.out *$;// run;g
    X ,s;^// errchk \$G( -e)? (\$D/)?\$F\.go *$;// errorcheck;g
    
    R=golang-dev, bradfitz
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/5673079

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/d2cc9884296e84f18ff23550a4561e7b0109efd5

元コミット内容

このコミットは、Go言語のテストスイート内の多数のテストファイル(99ファイル)に対して、テスト実行方法の指定を簡素化する変更を適用しています。変更前の各テストファイルの先頭には、以下のようなコメント行でテストの実行コマンドが直接記述されていました。

  • // $G ($D/)?$F.go *$:Goコンパイラ($G)を使用して現在のファイル($D/$F.go)をコンパイルする指示。
  • // $G ($D/)?$F.go && $L $F.$A *$:コンパイル後、リンカ($L)を使用して実行可能ファイル($F.$A)をビルドする指示。
  • // $G ($D/)?$F.go && $L $F.$A && ./$A.out *$:ビルド後、生成された実行可能ファイル(./$A.out)を実行する指示。
  • // errchk $G( -e)? ($D/)?$F.go *$:エラーチェックテストの指示。コンパイル時に特定のエラーが発生することを期待するテスト。

これらの行は、Goのテストハーネスがテストファイルを実行する際に解釈する特殊なコメントであり、実質的にシェルスクリプトのコマンドラインを埋め込んでいました。

変更の背景

Go言語の初期のテストインフラストラクチャでは、各テストファイルの先頭にシェルコマンドを直接記述することで、そのテストの実行方法を定義していました。これは柔軟性を提供する一方で、以下のような課題がありました。

  1. 複雑性: コマンドラインが長く、$G, $D, $F, $L, $Aといった特殊な変数を含むため、可読性が低く、理解しにくい。
  2. 保守性: テスト実行環境やツールの変更があった場合、多数のテストファイルのコメント行を一括で更新する必要があり、メンテナンスコストが高い。
  3. 一貫性: テストの種類(コンパイルのみ、実行、エラーチェックなど)ごとに異なるコマンドを記述する必要があり、テスト定義に一貫性を持たせにくい。

これらの課題を解決するため、Goのテストインフラストラクチャはtestlibと呼ばれるより抽象的なメカニズムを導入しました。testlibは、テストの種類をシンプルなキーワード(ディレクティブ)で指定できるようにすることで、テスト定義の簡素化と標準化を図るものです。このコミットは、既存のテストファイルをこの新しいtestlib形式に移行する作業の一環であり、「fourth 100」という記述から、この移行が複数回に分けて行われていることが示唆されます。

前提知識の解説

Go言語のテストインフラストラクチャ

Go言語には、標準ライブラリとしてtestingパッケージが提供されており、go testコマンドと組み合わせてテストを実行するのが一般的です。しかし、Goプロジェクト自体のテストスイート(特にコンパイラやランタイムのテスト)では、より低レベルなテストハーネスが使用されており、各テストファイルの先頭に特殊なコメントを記述することで、そのテストの実行方法を制御していました。

testlib

testlibは、Go言語のテストスイート内部で使用されるテストハーネスの一部であり、テストファイルの先頭に記述された特殊なコメント(ディレクティブ)を解釈してテストを実行する役割を担います。これにより、テストの実行ロジックがテストファイル自体から分離され、より宣言的な方法でテストを定義できるようになります。

特殊変数

変更前のテストコマンドで使用されていた特殊変数は以下の通りです。

  • $G: Goコンパイラへのパス。
  • $D: 現在のテストファイルが存在するディレクトリへのパス。
  • $F: 現在のテストファイルのファイル名(拡張子なし)。
  • $L: Goリンカへのパス。
  • $A: 生成される実行可能ファイルのアーティファクト名(通常はa)。

これらの変数は、テストハーネスがテスト実行時に実際のパスに展開していました。

テストの種類とディレクティブ

このコミットで導入されたtestlibのディレクティブは、主に以下の4種類です。

  • // compile: テストファイルをコンパイルするのみ。コンパイルエラーがないことを確認するテストなどに使用されます。
  • // build: テストファイルをコンパイルし、実行可能ファイルをビルドするのみ。ビルドが成功することを確認するテストなどに使用されます。
  • // run: テストファイルをコンパイルし、ビルドし、実行する。プログラムの出力や動作を確認するテストなどに使用されます。
  • // errorcheck: テストファイルをコンパイルし、特定のエラーメッセージが出力されることを確認する。コンパイラのエラー報告をテストする際に使用されます。

sedライクな置換コマンド

コミットメッセージに含まれる以下の行は、この変更を適用するために使用されたsedライクな置換コマンドのパターンを示しています。

X ,s;^// \$G (\$D/)?\$F\.go *$;// compile;g
X ,s;^// \$G (\$D/)?\$F\.go && \$L \$F\.\$A *$;// build;g
X ,s;^// \$G (\$D/)?\$F\.go && \$L \$F\.\$A && \./\$A\.out *$;// run;g
X ,s;^// errchk \$G( -e)? (\$D/)?\$F\.go *$;// errorcheck;g

これは、Goのテストハーネスが内部的に使用するスクリプト(おそらくtest.bashのようなもの)が、これらのパターンを認識し、対応する新しいディレクティブに変換してテストを実行することを示唆しています。s;pattern;replacement;gsedの置換コマンドの一般的な形式で、patternにマッチする文字列をreplacementに置換し、gフラグは行内の全てのマッチを置換することを意味します。

技術的詳細

この変更の核心は、テスト実行の「意図」と「実装」を分離することにあります。変更前は、テストファイル自体が「どのように実行されるべきか」という具体的なシェルコマンドを記述していました。これは、テストハーネスがそのコマンドを直接実行することを意味します。

一方、testlibの導入により、テストファイルは「何をテストしたいのか」(例: コンパイルが成功するか、実行結果が正しいか、特定のエラーが発生するか)という意図を// compile// runといったシンプルなディレクティブで表現するようになりました。実際のコンパイル、ビルド、実行、エラーチェックのロジックはtestlibの内部にカプセル化されます。

この抽象化には以下の技術的利点があります。

  1. テスト定義の簡素化: テスト作成者は、複雑なシェルコマンドの構文を覚える必要がなくなり、テストの目的を直接的に記述できるようになります。
  2. テストインフラの柔軟性: テスト実行環境(例: コンパイラのパス、ビルドオプション)が変更されても、testlibの実装を更新するだけで済み、個々のテストファイルを修正する必要がなくなります。これにより、Goのツールチェインの進化に合わせてテストインフラを容易に調整できます。
  3. テストの一貫性: すべてのテストが標準化されたディレクティブを使用するため、テストスイート全体で一貫したテスト実行パターンが保証されます。
  4. エラーハンドリングの改善: testlibは、テストの実行中に発生する可能性のあるエラー(コンパイルエラー、ランタイムエラーなど)をより適切に処理し、統一された方法で報告できます。特にerrorcheckディレクティブは、コンパイラのエラーメッセージを正規表現でチェックする機能を提供し、コンパイラの診断機能のテストを容易にします。

このコミットは、Go言語のテストインフラストラクチャが成熟し、より堅牢で保守しやすい形へと進化している過程を示しています。

コアとなるコードの変更箇所

このコミットでは、test/ディレクトリ以下の多数のGoテストファイルにおいて、ファイルの先頭にあるコメント行が変更されています。以下に代表的な変更例をいくつか示します。

test/fixedbugs/bug397.go

--- a/test/fixedbugs/bug397.go
+++ b/test/fixedbugs/bug397.go
@@ -1,4 +1,4 @@
-// errchk $G -e $D/$F.go
+// errorcheck
 
 // Copyright 2011 The Go Authors.  All rights reserved.
 // Use of this source code is governed by a BSD-style

test/fixedbugs/bug398.go

--- a/test/fixedbugs/bug398.go
+++ b/test/fixedbugs/bug398.go
@@ -1,4 +1,4 @@
-// $G $D/$F.go
+// compile
 
 // Copyright 2012 The Go Authors.  All rights reserved.
 // Use of this source code is governed by a BSD-style

test/fixedbugs/bug402.go

--- a/test/fixedbugs/bug402.go
+++ b/test/fixedbugs/bug402.go
@@ -1,4 +1,4 @@
-// $G $D/$F.go && $L $F.$A && ./$A.out
+// run
 
 // Copyright 2012 The Go Authors.  All rights reserved.
 // Use of this source code is governed by a BSD-style

これらの変更は、99個のファイルに対して同様に適用されており、古いシェルコマンド形式のコメントが、対応する新しいtestlibディレクティブに置き換えられています。

コアとなるコードの解説

変更された各ファイルの先頭のコメント行は、Goのテストハーネスに対する指示として機能します。

  • // errchk $G -e $D/$F.go から // errorcheck への変更: これは、コンパイル時に特定のエラーが発生することを期待するテストであることを示します。変更前は、errchkというカスタムコマンドとGoコンパイラ($G)を直接呼び出す形式でしたが、変更後はerrorcheckという単一のディレクティブでその意図が表現されています。testlibは、このディレクティブを解釈し、内部的に適切なコンパイルコマンドを実行し、その出力から期待されるエラーメッセージを検出します。

  • // $G $D/$F.go から // compile への変更: これは、テストファイルをコンパイルするのみで、実行はしないテストであることを示します。変更前はGoコンパイラを直接呼び出していましたが、変更後はcompileというディレクティブで、コンパイルが成功することを確認するという意図が明確に示されています。

  • // $G $D/$F.go && $L $F.$A && ./$A.out から // run への変更: これは、テストファイルをコンパイルし、ビルドし、実行するテストであることを示します。変更前は、コンパイル、リンク、実行という一連のシェルコマンドを&&で連結していましたが、変更後はrunという単一のディレクティブで、この一連の操作が抽象化されています。testlibがこれらのステップを自動的に処理します。

これらの変更により、テストファイルの可読性が大幅に向上し、テストの目的がより明確になりました。また、Goのテストインフラストラクチャが進化しても、個々のテストファイルを修正することなく、testlibの内部実装を更新するだけで対応できるようになります。

関連リンク

参考にした情報源リンク