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[インデックス 12001] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のテストスイートにおけるテストファイルの実行指示方法を標準化し、簡素化することを目的としています。具体的には、テストファイルの先頭に記述されていた複雑なシェルコマンド形式の指示(例: // $G $D/$F.go && $L $F.$A && ./$A.out)を、// run// compile// errorcheck といった、より簡潔で意図が明確なディレクティブに置き換えています。これにより、テストコードの可読性とメンテナンス性が向上し、Goのテストフレームワークである testlib の利用を促進しています。

コミット

commit 57eb06fe93db49501ab61340a1bf41b95a3474b3
Author: Russ Cox <rsc@golang.org>
Date:   Thu Feb 16 23:51:04 2012 -0500

    test: use testlib (final 61)

    X ,s;^// $G ($D/)?$F\.go *$;// compile;g
    X ,s;^// $G ($D/)?$F\.go && $L $F.$A *$;// build;g
    X ,s;^// $G ($D/)?$F\.go && $L $F.$A && ./$A.out *$;// run;g
    X ,s;^// errchk $G( -e)? ($D/)?$F\.go *$;// errorcheck;g

    R=golang-dev, bradfitz
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/5671080

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/57eb06fe93db49501ab61340a1bf41b95a3474b3

元コミット内容

test: use testlib (final 61)

X ,s;^// $G ($D/)?$F\.go *$;// compile;g
X ,s;^// $G ($D/)?$F\.go && $L $F.$A *$;// build;g
X ,s;^// $G ($D/)?$F\.go && $L $F.$A && ./$A.out *$;// run;g
X ,s;^// errchk $G( -e)? ($D/)?$F\.go *$;// errorcheck;g

R=golang-dev, bradfitz
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5671080

変更の背景

Go言語の初期のテストフレームワークでは、テストファイルの実行方法をファイルの先頭にコメント形式で直接記述していました。これは、シェルスクリプトのコマンドライン引数に似た形式で、コンパイル、ビルド、実行、エラーチェックなどの手順を詳細に指定するものでした。しかし、この方法は冗長であり、テストの意図を直感的に理解しにくく、またテストフレームワーク自体の進化や変更があった場合に、多数のテストファイルを一括で更新する必要があるというメンテナンス上の課題を抱えていました。

このコミットは、Goのテストシステムが testlib と呼ばれるより洗練されたライブラリやツール群へと移行する過程の一部です。testlib は、テストの実行ロジックを抽象化し、テストファイル自体にはその意図のみを簡潔に記述できるようにすることを目指しています。この変更により、テストの記述が簡潔になり、テストフレームワーク側の変更がテストファイルに与える影響を最小限に抑えることが可能になります。コミットメッセージにある「final 61」は、この種の変更が61個のファイルに対して行われたことを示唆しており、大規模なリファクタリングの一環であることがわかります。

前提知識の解説

Go言語のテストシステム

Go言語には、標準ライブラリとして testing パッケージが提供されており、これを用いてユニットテストやベンチマークテストを記述します。テストファイルは通常、テスト対象のGoファイルと同じディレクトリに _test.go というサフィックスを付けて配置されます。テストは go test コマンドによって実行されます。

Goのテストディレクティブ(旧形式)

このコミットで変更される前のGoのテストファイルでは、ファイルの先頭に特別なコメント行を記述することで、そのテストファイルの実行方法をGoのテストランナーに指示していました。これらのディレクティブは、シェルコマンドの形式を模倣しており、以下のような意味を持っていました。

  • // $G: Goコンパイラ(go tool compile)を指すプレースホルダー。
  • // $D: 現在のテストファイルのディレクトリを指すプレースホルダー。
  • // $F: 現在のテストファイルのファイル名を指すプレースホルダー。
  • // $L: Goリンカ(go tool link)を指すプレースホルダー。
  • // $A: 生成される実行可能ファイルの名前を指すプレースホルダー。
  • // errchk: エラーチェックを行うテストであることを示すディレクティブ。

例えば、// $G $D/$F.go && $L $F.$A && ./$A.out は、「現在のGoファイルをコンパイルし、リンクして実行可能ファイルを生成し、その実行可能ファイルを実行する」という一連の操作を指示していました。

testlib

testlib は、Goプロジェクト内部で利用されるテストヘルパーライブラリやスクリプトの集合体を指す概念です。これは、Goのテストシステムが進化する中で、より高度なテストシナリオをサポートし、テストの記述を簡素化するために導入されました。testlib を利用することで、開発者はテストの実行方法の詳細を意識することなく、テストの目的(コンパイルが成功するか、実行が成功するか、特定のエラーが発生するかなど)を簡潔なディレクティブで表現できるようになります。

技術的詳細

このコミットの技術的な核心は、Goのテストランナーがテストファイルの先頭にあるコメント行を解析し、その内容に基づいてテストを実行するロジックの変更にあります。

旧来のディレクティブは、シェルコマンドの構文に依存しており、&&$ といった特殊文字を多用していました。これは柔軟性がある一方で、以下のような課題がありました。

  1. 可読性の低さ: 一見して何が行われるのか理解しにくい。
  2. メンテナンスの複雑さ: Goツールチェインのコマンドやオプションが変更された場合、多数のテストファイルを一括で修正する必要がある。
  3. エラーハンドリングの難しさ: シェルコマンドの実行結果を正確に解釈し、テストの合否を判定するロジックが複雑になりがち。

新しいディレクティブ(// run// compile// errorcheck)は、これらの課題を解決するために導入されました。

  • // run: テストファイルをコンパイルし、実行し、その結果が成功することを期待します。
  • // compile: テストファイルが正常にコンパイルされることを期待します。実行は行いません。
  • // errorcheck: テストファイルがコンパイルエラーまたは実行時エラーを発生させることを期待します。これは、特定の不正なコードが正しく検出されることをテストする際に使用されます。

これらの新しいディレクティブは、Goのテストランナー内部で testlib の機能と連携して動作します。テストランナーは、これらの簡潔なディレクティブを読み取り、内部的に適切なコンパイル、実行、エラーチェックのコマンドを構築し、実行します。これにより、テストファイルの記述はテストの「意図」に集中できるようになり、テスト実行の詳細なロジックは testlib にカプセル化されます。

この変更は、Goのテストインフラストラクチャの成熟を示すものであり、テストの記述と実行をより堅牢で効率的なものにするための重要なステップです。

コアとなるコードの変更箇所

このコミットでは、test/ ディレクトリ以下の多数のGoテストファイル(61ファイル)が変更されています。各ファイルの変更は非常にシンプルで、ファイルの先頭にあるコメント行が1行変更されています。

例: test/mallocrep1.go の変更

--- a/test/mallocrep1.go
+++ b/test/mallocrep1.go
@@ -1,4 +1,4 @@
-// $G $D/$F.go && $L $F.$A && ./$A.out
+// run

 // Copyright 2009 The Go Authors. All rights reserved.
 // Use of this source code is governed by a BSD-style

この例では、旧形式の // $G $D/$F.go && $L $F.$A && ./$A.out が、新しい // run に置き換えられています。

同様に、他のファイルでも以下のような置換が行われています。

  • // $G $D/$F.go -> // compile (例: test/parentype.go, test/rune.go, test/sizeof.go)
  • // errchk $G( -e)? ($D/)?$F.go -> // errorcheck (例: test/map1.go, test/method1.go, test/syntax/chan.go など多数)
  • // $G $F.go && $L $F.$A && ./$A.out -> // run (例: test/map.go, test/nil.go, test/simassign.go など多数)

コアとなるコードの解説

変更された各行は、Goのテストファイルにおける「テストディレクティブ」です。

旧形式のディレクティブ:

  • // $G ($D/)?$F\.go *$;// compile;g
    • これは、Goコンパイラ ($G) を使って、現在のファイル ($F.go) をコンパイルする指示です。$D/ はディレクトリパスのオプション部分です。
  • // $G ($D/)?$F\.go && $L $F.$A *$;// build;g
    • Goコンパイラ ($G) でファイルをコンパイルし、さらにGoリンカ ($L) で実行可能ファイル ($F.$A) をビルドする指示です。
  • // $G ($D/)?$F\.go && $L $F.$A && ./$A.out *$;// run;g
    • ファイルをコンパイルし、リンクして実行可能ファイルを生成し、その実行可能ファイル (./$A.out) を実行する指示です。
  • // errchk $G( -e)? ($D/)?$F\.go *$;// errorcheck;g
    • Goコンパイラ ($G) を使ってファイルをコンパイルし、その際にエラーが発生することを期待する(エラーチェック)指示です。-e オプションはエラーの種類に関する追加の指定かもしれません。

これらの旧形式のディレクティブは、Goのテストランナーが内部的に解釈し、対応するシェルコマンドを実行していました。

新形式のディレクティブ:

  • // run
    • テストファイルが正常にコンパイルされ、実行され、期待される出力や動作をすることを示します。これは、最も一般的なテストケースです。
  • // compile
    • テストファイルが文法的に正しく、コンパイルエラーなしでコンパイルできることを示します。実行は行いません。主に、コンパイラの構文解析や型チェックのテストに使用されます。
  • // errorcheck
    • テストファイルが意図的にコンパイルエラーや実行時エラーを引き起こすことを示します。これは、Goコンパイラやランタイムが特定の不正なコードパターンを正しく検出できることを検証するために使用されます。

これらの新しいディレクティブは、テストの「意図」を直接的に表現しており、Goのテストランナーが testlib を介して、その意図に応じた適切なコンパイル・実行・検証プロセスを自動的に処理します。これにより、テストコードの記述が大幅に簡素化され、テストの目的がより明確になります。

関連リンク

参考にした情報源リンク

  • Go言語の公式ドキュメント
  • Go言語のソースコード(特に src/cmd/go/test.gosrc/cmd/go/internal/test/test.go など、テスト実行に関連する部分)
  • Goコミュニティの議論やメーリングリストのアーカイブ(golang-dev など)