[インデックス 12276] ファイルの概要
このコミットは、Go言語の標準ライブラリ net/http
パッケージ内のテストコード fs_test.go
に対する変更です。具体的には、TestFileServerCleans
および TestFileServerImplicitLeadingSlash
というテスト関数において、一時ディレクトリのクリーンアップ処理とHTTPレスポンスボディのクローズ処理をより堅牢にするための修正が行われています。特にWindows環境でのテストの信頼性向上を目的としています。
コミット
commit 3684ae9da0ad00db01596393f2ac992fa3b0b05f
Author: Brad Fitzpatrick <bradfitz@golang.org>
Date: Wed Feb 29 09:53:20 2012 -0800
net/http: make a test more paranoid & reliable on Windows, maybe.
Part of diagnosing issue 3050.
R=golang-dev, rsc
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5707056
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/3684ae9da0ad00db01596393f2ac992fa3b0b05f
元コミット内容
net/http: make a test more paranoid & reliable on Windows, maybe.
Part of diagnosing issue 3050.
R=golang-dev, rsc
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5707056
変更の背景
この変更は、issue 3050
の診断の一環として行われました。コミットメッセージによると、特にWindows環境において、net/http
パッケージのテストの信頼性を向上させることが目的です。Windowsではファイルシステム操作のセマンティクスがUnix系OSと異なる場合があり、特にファイルのロックや削除のタイミングが問題となることがあります。このコミットは、テストが一時ファイルを確実にクリーンアップし、HTTPレスポンスの処理を適切に行うことで、テストの不安定さを解消しようとしています。
前提知識の解説
net/http
パッケージ: Go言語の標準ライブラリで、HTTPクライアントとサーバーの実装を提供します。Webアプリケーションの構築やHTTP通信を行う際に利用されます。ioutil.TempDir(dir, pattern string) (name string, err error)
:io/ioutil
パッケージ(Go 1.16以降はos
パッケージに移行)の関数で、指定されたディレクトリdir
内に一意な名前の一時ディレクトリを作成します。pattern
は作成されるディレクトリ名のプレフィックスとして使用されます。os.RemoveAll(path string) error
:os
パッケージの関数で、指定されたパスpath
にあるファイルまたはディレクトリ(およびその内容すべて)を削除します。ディレクトリの場合、再帰的に削除されます。filepath.Join(elem ...string) string
:path/filepath
パッケージの関数で、複数のパス要素を結合して単一のパスを構築します。OS固有のパス区切り文字(Windowsでは\
、Unix系では/
)が適切に挿入されます。res.Body.Close()
: HTTPレスポンスのボディ(io.ReadCloser
インターフェースを実装)をクローズするためのメソッドです。HTTPレスポンスボディは通常、ネットワーク接続を介してデータをストリーミングするため、読み取りが完了したら必ずクローズする必要があります。これを怠ると、リソースリーク(ソケットの枯渇など)が発生し、特にテスト環境のような短期間に多数のリクエストを処理するシナリオで問題を引き起こす可能性があります。
技術的詳細
このコミットは、主に以下の2つの側面でテストの信頼性を向上させています。
-
一時ディレクトリの確実なクリーンアップ:
- 元のコードでは
defer os.RemoveAll(tempDir)
を使用していましたが、これはos.RemoveAll
がエラーを返した場合にそのエラーが無視されることを意味します。特にWindows環境では、ファイルがまだ開かれている、またはロックされている場合にos.RemoveAll
が失敗することがあります。 - 新しい
mustRemoveAll
関数は、os.RemoveAll
の呼び出しをラップし、エラーが発生した場合にはpanic
を発生させます。これにより、テスト中に一時ディレクトリの削除に失敗した場合、その失敗が即座にテストの失敗として報告されるようになります。これは「より偏執的 (more paranoid)」なアプローチであり、テストの信頼性を高めます。テストが失敗することで、潜在的なリソースリークやファイルシステム関連の問題を早期に発見できます。
- 元のコードでは
-
HTTPレスポンスボディの確実なクローズ:
get
ヘルパー関数内でHTTPレスポンスボディを読み取った後、res.Body.Close()
が明示的に呼び出されていませんでした。これは、HTTPリクエストごとに新しいTCP接続が確立され、レスポンスボディが完全に読み取られた後も接続が閉じられずに残ってしまう可能性を意味します。- 特にテストスイートのように多数のHTTPリクエストが連続して行われる場合、開かれたままの接続が蓄積され、最終的に「Too many open files」のようなエラーや、ネットワークリソースの枯渇を引き起こす可能性があります。
res.Body.Close()
を追加することで、レスポンスボディの読み取りが完了した後に基礎となるネットワーク接続が適切に解放され、リソースリークを防ぎ、テストの安定性を向上させます。
これらの変更は、テストが実行される環境、特にWindowsのようなファイルシステム操作のセマンティクスが異なる環境での潜在的な問題を軽減し、テスト結果の再現性と信頼性を高めることを目的としています。
コアとなるコードの変更箇所
src/pkg/net/http/fs_test.go
ファイルにおいて、以下の変更が行われました。
-
mustRemoveAll
関数の追加:+func mustRemoveAll(dir string) { + err := os.RemoveAll(dir) + if err != nil { + panic(err) + } +}
-
TestFileServerImplicitLeadingSlash
関数内でのos.RemoveAll
の置き換え:--- a/src/pkg/net/http/fs_test.go +++ b/src/pkg/net/http/fs_test.go @@ -152,12 +152,19 @@ func TestFileServerCleans(t *testing.T) { }\n }\n \n +func mustRemoveAll(dir string) {\n +\terr := os.RemoveAll(dir)\n +\tif err != nil {\n +\t\tpanic(err)\n +\t}\n +}\n +\n func TestFileServerImplicitLeadingSlash(t *testing.T) {\n tempDir, err := ioutil.TempDir(\"\", \"\")\n if err != nil {\n \tt.Fatalf(\"TempDir: %v\", err)\n }\n -\tdefer os.RemoveAll(tempDir)\n +\tdefer mustRemoveAll(tempDir)\n if err := ioutil.WriteFile(filepath.Join(tempDir, \"foo.txt\"), []byte(\"Hello world\"), 0644); err != nil {\n \tt.Fatalf(\"WriteFile: %v\", err)\n }\n @@ -172,6 +179,7 @@ func TestFileServerImplicitLeadingSlash(t *testing.T) {\n \tif err != nil {\n \t\tt.Fatalf(\"ReadAll %s: %v\", suffix, err)\n \t}\n +\t\tres.Body.Close()\n \treturn string(b)\n }\n \tif s := get(\"/bar/\"); !strings.Contains(s, \">foo.txt<\") {\n ```
コアとなるコードの解説
-
mustRemoveAll
関数の導入: この新しいヘルパー関数は、os.RemoveAll
の呼び出しをカプセル化し、エラーハンドリングを強制します。os.RemoveAll
がエラーを返した場合、panic
を発生させることで、テストが一時ディレクトリをクリーンアップできなかったという事実を明確に示します。これにより、テストの実行環境に依存する潜在的な問題を早期に特定できます。特にWindowsでは、ファイルがロックされているなどの理由で削除が失敗することがあり、このpanic
はそのような状況をテストの失敗として表面化させます。 -
defer os.RemoveAll(tempDir)
からdefer mustRemoveAll(tempDir)
への変更:TestFileServerImplicitLeadingSlash
関数内で、テスト終了時に一時ディレクトリを削除するためにdefer
ステートメントが使用されています。この変更により、単に削除を試みるだけでなく、削除が失敗した場合にはテストがpanic
するようになり、テストの堅牢性が向上します。 -
res.Body.Close()
の追加:get
ヘルパー関数は、HTTPリクエストを実行し、そのレスポンスボディを読み取る役割を担っています。元のコードでは、レスポンスボディを読み取った後、res.Body.Close()
が呼び出されていませんでした。これは、基礎となるTCP接続が閉じられずに残る可能性があり、特に多数のテストが連続して実行される場合に、リソースリークや「Too many open files」エラーを引き起こす原因となります。res.Body.Close()
を明示的に呼び出すことで、レスポンスボディの読み取りが完了した後にネットワークリソースが適切に解放され、テストの安定性と信頼性が向上します。
これらの変更は、Goのテストにおけるベストプラクティス、特にリソース管理とエラーハンドリングの重要性を示しています。
関連リンク
- GitHubコミットページ: https://github.com/golang/go/commit/3684ae9da0ad00db01596393f2ac992fa3b0b05f
- Gerrit Change-ID: https://golang.org/cl/5707056
参考にした情報源リンク
- Go言語の公式ドキュメント(
net/http
,os
,io/ioutil
,path/filepath
パッケージ) - Go言語のテストに関する一般的な情報
- Windowsにおけるファイルシステム操作の特性に関する情報