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[インデックス 1234] ファイルの概要

コミット

commit 46f89d53c66ddef8dab0d28365c770c04b476ef9
Author: Rob Pike <r@golang.org>
Date:   Mon Nov 24 14:15:53 2008 -0800

    restore helpful error rules
    
    R=rsc
    OCL=19928
    CL=19928

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/46f89d53c66ddef8dab0d28365c770c04b476ef9

元コミット内容

このコミットは、src/cmd/gc/go.y ファイルに対して行われた変更です。コミットメッセージは「restore helpful error rules」と簡潔に述べられており、以前の変更によって失われた、または無効化されていた「役立つエラー規則」を復元することが目的であることが示唆されます。

変更の背景

このコミットの背景は、コミットメッセージ「restore helpful error rules」から推測できます。Go言語のコンパイラ(gc)の構文解析器を定義するgo.yファイルにおいて、何らかの理由でエラー報告に関する規則が変更されたか、一時的に無効化されていたと考えられます。このコミットは、その変更を元に戻し、より有用なエラーメッセージやエラーハンドリングの挙動を回復させることを意図しています。

具体的な背景としては、コンパイラの開発過程で、構文解析器のデバッグや最適化のために一時的にエラー規則を緩和したり、特定の競合(reduce/reduce conflicts)を解決するためにコメントアウトしたりすることがあります。このコミットは、その作業が完了し、本来あるべきエラー規則を再度有効にする段階に入ったことを示している可能性が高いです。

前提知識の解説

このコミットを理解するためには、以下の前提知識が必要です。

  • Yacc/Bison (go.y): go.yファイルは、Yacc(Yet Another Compiler Compiler)またはそのGNU版であるBisonの文法定義ファイルです。これらのツールは、BNF(Backus-Naur Form)に似た形式で記述された文法定義から、C言語などのソースコードを生成し、コンパイラの構文解析器(パーサー)を構築します。go.yはGo言語の構文を定義しており、コンパイラがGoのソースコードをどのように解釈するかを規定しています。
  • コンパイラの構文解析器: コンパイラは、ソースコードを解析して機械語に変換するソフトウェアです。その過程で、字句解析(トークン化)、構文解析(パース)、意味解析、最適化、コード生成などの段階があります。構文解析器は、字句解析器から受け取ったトークンの並びが、言語の文法規則に合致するかどうかを検証し、抽象構文木(AST)を構築します。
  • Reduce/Reduce Conflict: Yacc/BisonのようなLALR(1)パーサーでは、文法定義に曖昧さがあると「競合(conflict)」が発生します。Reduce/Reduce Conflictは、パーサーが現在の入力トークンとスタックの状態から、どの文法規則を適用して「還元(reduce)」すべきか決定できない場合に発生します。これは文法設計上の問題であり、通常は文法を修正するか、Yacc/Bisonの優先順位規則を使って解決します。
  • エラーハンドリング: コンパイラは、不正な構文を持つソースコードを検出した場合、適切なエラーメッセージを生成し、可能であればエラーから回復して解析を続行する必要があります。go.yのような文法定義ファイルには、エラー検出時の挙動や、エラーメッセージの生成に関する規則が記述されることがあります。

技術的詳細

このコミットは、src/cmd/gc/go.yファイル内のコメントアウトされたセクションの変更に焦点を当てています。

元のコード:

 */
lpack:

変更後のコード:

 *
lpack:

この変更は、go.yファイル内の特定のコメントブロックの閉じ方を変えることで、そのブロック内のコードの有効/無効を切り替えています。

Yacc/Bisonの文法定義ファイルでは、C言語のコメントスタイル(/* ... */)が使用できます。

  • /* はコメントブロックの開始
  • */ はコメントブロックの終了

元のコードでは、*/ が行の先頭にあり、その直後にlpack:という文法規則の定義が続いています。これは、lpack:より前の部分がコメントアウトされていることを示唆しています。

変更後のコードでは、*/ の代わりに * が置かれています。これにより、lpack:の前の行がコメントブロックの終了ではなく、単なるコメント行の一部として扱われるようになります。結果として、lpack:より前の部分がコメントアウトされなくなり、その部分のコードが有効になります。

コミットメッセージの「restore helpful error rules」と、変更箇所の直前にあるコメント「to check whether the rest of the grammar is free of reduce/reduce conflicts, comment this section out by removing the slash on the next line.」を組み合わせると、以下の技術的詳細が明らかになります。

  1. 目的: このコードブロックは、文法がreduce/reduce conflictから解放されているかを確認するために、一時的にコメントアウトされていた部分です。
  2. 一時的な無効化: 以前のコミットまたは開発作業において、構文解析器のデバッグや文法修正のために、この「役立つエラー規則」を含むセクションが一時的に無効化されていました。これは、*/ を削除することで、そのセクション全体がコメントブロックの一部として扱われるようにしていたためです。
  3. 復元: このコミットでは、*/* のみを残すことで、コメントブロックを閉じ、そのセクションを再度有効にしています。これにより、コンパイラは以前無効化されていたエラー規則を再び利用できるようになります。
  4. 影響: この変更により、Goコンパイラは、特定の構文エラーに対してより詳細で役立つエラーメッセージを生成したり、エラーからの回復挙動を改善したりする可能性があります。これは、開発者やユーザーがGoコードの構文エラーをデバッグする際に役立ちます。

コアとなるコードの変更箇所

変更は src/cmd/gc/go.y ファイルの1箇所のみです。

--- a/src/cmd/gc/go.y
+++ b/src/cmd/gc/go.y
@@ -2011,7 +2011,7 @@ hidden_importsym:
  * to check whether the rest of the grammar is free of
  * reduce/reduce conflicts, comment this section out by
  * removing the slash on the next line.
- */
+ *
 lpack:
  	LATYPE
  	{

具体的には、2014行目の */ * に変更されています。

コアとなるコードの解説

変更された行は、Yacc/Bisonの文法定義ファイルにおけるコメントの閉じ方に関するものです。

元のコードの */ は、その前の行にある /* と対になり、その間のコードブロック全体をコメントアウトしていました。このコメントブロックの直前には、以下のような説明があります。

 * to check whether the rest of the grammar is free of
 * reduce/reduce conflicts, comment this section out by
 * removing the slash on the next line.

この説明は、「文法の残りの部分がreduce/reduce conflictから解放されているかを確認するために、次の行のスラッシュを削除してこのセクションをコメントアウトしてください」と指示しています。

つまり、以前のコミットでは、この指示に従って */ からスラッシュ(/)が削除され、* のみになっていた状態(つまり、このセクションがコメントアウトされて有効になっていた状態)から、このコミットで */ に戻すことで、このセクションをコメントアウトし、無効化していたと考えられます。

しかし、今回のコミットでは、*/* に変更されています。これは、上記のコメントの指示とは逆の操作です。

  • 元の状態 ( */): この行がコメントブロックの終わりを示し、その前のコードがコメントアウトされている。
  • 変更後の状態 ( *): この行は単なるコメント行の一部となり、その前のコードがコメントアウトされなくなる。

したがって、このコミットは、以前に「reduce/reduce conflictのチェックのためにコメントアウトされていた」セクションを、再度有効にする(コメントアウトを解除する)変更であると解釈できます。これにより、そのセクションに含まれる「役立つエラー規則」がコンパイラによって再び利用されるようになります。

この変更は、Goコンパイラの構文解析器の挙動に直接影響を与え、特にエラー検出と報告のロジックを復元するものです。

関連リンク

参考にした情報源リンク