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[インデックス 1235] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のコンパイラ(gc)の文法定義ファイルである src/cmd/gc/go.y における微細な変更を記録しています。具体的には、文法解析器の「reduce/reduce conflict(還元/還元衝突)」に関するコメントブロックの修正が行われました。

コミット

commit d7c1048771ad193b456fd28f46cec8cf207430aa
Author: Rob Pike <r@golang.org>
Date:   Mon Nov 24 14:23:53 2008 -0800

    really restore helpful error rules

    R=rsc
    OCL=19929
    CL=19929

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/d7c1048771ad193b456fd28f46cec8cf207430aa

元コミット内容

really restore helpful error rules

R=rsc
OCL=19929
CL=19929

変更の背景

このコミットは、Go言語の初期開発段階におけるコンパイラの文法定義に関するものです。go.y ファイルは、Yacc(Yet Another Compiler Compiler)またはBisonのようなツールで使用される文法ファイルであり、Go言語の構文規則を定義しています。

コミットメッセージ「really restore helpful error rules」が示唆するように、以前の変更によって、文法解析器の生成時に役立つエラーチェック(特にreduce/reduce衝突の検出)が無効になっていた可能性があります。このコミットは、そのチェックを再度有効にすることで、コンパイラ開発者が文法上の問題をより早期に、かつ効果的に特定できるようにすることを目的としています。

文法解析器の衝突は、コンパイラの安定性と正確性に直接影響するため、これらの問題を早期に発見し解決することは、言語開発において非常に重要です。

前提知識の解説

Yacc/Bisonと文法ファイル(.yファイル)

Yacc(Yet Another Compiler Compiler)やGNU Bisonは、プログラミング言語のコンパイラやインタプリタを作成する際に使用されるパーサジェネレータです。これらは、BNF(Backus-Naur Form)に似た形式で記述された文法規則(.y ファイル)を読み込み、その文法を解析するためのC言語のコード(パーサ)を自動生成します。

.y ファイルは通常、以下のセクションで構成されます。

  1. 定義セクション: トークン、型、Cコードのインクルードなど。
  2. 規則セクション: 文法規則(プロダクションルール)と、各規則が認識されたときに実行されるアクション(Cコード)。
  3. ユーザーコードセクション: 追加のC関数など。

コンパイラの構文解析(Parsing)

コンパイラは、ソースコードを機械語に変換する過程で、いくつかのフェーズを経ます。構文解析(Parsing)はその重要なフェーズの一つで、字句解析器(Lexer)によって生成されたトークンのストリームが、言語の文法規則に従っているかを検証し、抽象構文木(AST)を構築します。

LRパーサと衝突(Conflicts)

Yacc/Bisonによって生成されるパーサの多くは、LR(Left-to-right, Rightmost derivation)パーサの一種です。LRパーサは非常に強力で、多くのプログラミング言語の文法を効率的に解析できます。しかし、文法が曖昧である場合、パーサは次にどの規則を適用すべきか判断できない状況に陥ることがあります。これを「衝突(Conflict)」と呼びます。

主な衝突の種類は以下の二つです。

  • Shift/Reduce Conflict(シフト/還元衝突): パーサが次の入力トークンをスタックに「シフト」すべきか、それともスタック上のシンボルを文法規則に従って「還元(reduce)」すべきか判断できない場合。
  • Reduce/Reduce Conflict(還元/還元衝突): パーサがスタック上のシンボルを、複数の異なる文法規則のいずれかに「還元」できる場合。これは通常、文法に深刻な曖昧さがあることを示します。

Reduce/reduce衝突は、shift/reduce衝突よりも解決が難しく、文法設計上の根本的な問題を示唆していることが多いです。Yacc/Bisonは、衝突が発生した場合に警告を出し、デフォルトの解決策(通常はshiftを優先、または最初に定義された規則を優先)を適用しますが、これは意図しない動作を引き起こす可能性があります。そのため、衝突は可能な限り解消することが推奨されます。

技術的詳細

このコミットの技術的詳細は、src/cmd/gc/go.y ファイル内のコメントアウトされた行の変更に集約されます。

--- a/src/cmd/gc/go.y
+++ b/src/cmd/gc/go.y
@@ -2011,7 +2011,7 @@ hidden_importsym:
  * to check whether the rest of the grammar is free of
  * reduce/reduce conflicts, comment this section out by
  * removing the slash on the next line.
- *\n+ */\n
 lpack:
  LATYPE
  {

変更された行は、go.y ファイルの2012行目にあたります。 元のコード: * 変更後のコード: */

この変更は、/* ... */ という形式のC言語スタイルのコメントブロックの閉じタグ */ を完成させています。これにより、その直前の行にある * to check whether the rest of the grammar is free of から始まるコメントブロックが、実際にコメントとして機能するようになります。

このコメントブロックは、文法がreduce/reduce衝突から解放されているかを確認するための指示を含んでいます。コメントを有効にすることで、Yacc/Bisonがパーサを生成する際に、このチェックが有効になり、もし文法にreduce/reduce衝突が存在すれば、コンパイラ生成プロセス中に警告またはエラーとして報告されるようになります。

つまり、この変更は、Goコンパイラの文法定義の健全性を確保するための開発支援機能を「復元」するものです。これにより、文法上の潜在的な問題を早期に発見し、修正することが可能になります。

コアとなるコードの変更箇所

src/cmd/gc/go.y ファイルの以下の部分が変更されました。

--- a/src/cmd/gc/go.y
+++ b/src/cmd/gc/go.y
@@ -2011,7 +2011,7 @@ hidden_importsym:
  * to check whether the rest of the grammar is free of
  * reduce/reduce conflicts, comment this section out by
  * removing the slash on the next line.
- *\n+ */\n
 lpack:
  LATYPE
  {

具体的には、2012行目の **/ に変更されています。

コアとなるコードの解説

変更された行は、Yacc/Bisonの文法ファイル内でC言語のコメントとして扱われる部分です。

 * to check whether the rest of the grammar is free of
 * reduce/reduce conflicts, comment this section out by
 * removing the slash on the next line.
 */  <-- この行が変更された

このコメントブロックは、文法定義の健全性を検証するための指示です。

  • to check whether the rest of the grammar is free of reduce/reduce conflicts:文法の残りの部分がreduce/reduce衝突から解放されているかを確認するため。
  • comment this section out by removing the slash on the next line.:次の行のスラッシュを削除することで、このセクションをコメントアウトする。

元のコードでは、このコメントブロックの閉じタグ */ が不完全でした(* のみ)。そのため、このコメントブロックは正しく閉じられておらず、その後のコードが意図せずコメントとして扱われてしまっていた可能性があります。

今回の変更で **/ に修正されたことにより、コメントブロックが正しく閉じられ、その後の lpack: から始まる文法規則の定義が、再び有効な文法規則としてYacc/Bisonによって解釈されるようになりました。

これにより、Yacc/Bisonがパーサを生成する際に、文法全体のreduce/reduce衝突のチェックが適切に行われるようになり、コンパイラ開発者は文法上の問題をより正確に把握できるようになります。これは、コンパイラの安定性と正確性を高める上で重要な修正です。

関連リンク

参考にした情報源リンク