[インデックス 12431] ファイルの概要
このコミットは、Go言語の標準ライブラリpath/filepath
パッケージ内のテストファイルpath_test.go
に対する変更を記録しています。具体的には、TestAbs
というテスト関数がWindowsオペレーティングシステム上で実行される際にスキップされるように修正が加えられています。この変更の主な理由は、関連するSameFile
関数にバグが存在するため、Windows環境でのTestAbs
の信頼性が損なわれることを避けるためです。
コミット
commit aeefe0fa6e667c3c9c26d6fc9dd8c7b3281d51ac
Author: Rob Pike <r@golang.org>
Date: Wed Mar 7 08:14:12 2012 +1100
path/filepath: disable AbsTest on windows
SameFile has a bug.
R=golang-dev
TBR=rsc
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5754055
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/aeefe0fa6e667c3c9c26d6fc9dd8c7b3281d51ac
元コミット内容
path/filepath: disable AbsTest on windows
SameFile has a bug.
このコミットは、path/filepath
パッケージのAbsTest
をWindows上で無効化するものです。その理由は、SameFile
関数にバグがあるためとされています。
変更の背景
Go言語はクロスプラットフォーム対応を重視しており、異なるオペレーティングシステム(OS)間で一貫した動作を提供することを目指しています。しかし、ファイルシステム操作のようなOS固有の機能においては、プラットフォーム間の差異が問題を引き起こすことがあります。
このコミットが行われた2012年3月時点では、Go言語のpath/filepath
パッケージ内のSameFile
関数にWindows環境で特定のバグが存在していました。SameFile
関数は、2つのファイルパスが同じファイルを参照しているかどうかを判断するために使用されます。このバグが原因で、TestAbs
(絶対パスの解決をテストする関数)がWindows上で誤った結果を返したり、テストが失敗したりする可能性がありました。
開発チームは、テストスイート全体の安定性と信頼性を維持するため、一時的な措置として、バグが修正されるまでの間、影響を受けるTestAbs
をWindows環境でスキップすることを決定しました。これにより、CI/CDパイプラインでの不必要なテスト失敗を防ぎ、他のプラットフォームでのテスト結果の信頼性を保つことができました。
前提知識の解説
path/filepath
パッケージ: Go言語の標準ライブラリの一部で、ファイルパスの操作(結合、分割、クリーンアップ、絶対パスへの変換など)を行うための機能を提供します。OS固有のパス区切り文字(Windowsでは\
、Unix系では/
)などを適切に処理し、クロスプラットフォームなパス操作を可能にします。TestAbs
関数:path/filepath
パッケージのテストスイートの一部であり、Abs
関数(与えられたパスを絶対パスに変換する関数)の正確性を検証します。SameFile
関数:path/filepath
パッケージ内の関数で、2つのos.FileInfo
インターフェース(ファイルに関する情報を提供する)を比較し、それらが同じファイルシステム上の同じファイルを参照しているかどうかを判断します。これは、ハードリンクやシンボリックリンク、あるいは異なるパス表記で同じファイルを参照している場合などに重要となります。runtime.GOOS
: Go言語のruntime
パッケージで提供される定数で、プログラムが実行されているオペレーティングシステムの名前(例:"windows"
,"linux"
,"darwin"
)を文字列で返します。これを利用することで、特定のOSに依存するコードパスを条件分岐させることができます。- テストのスキップ: テストフレームワークには、特定の条件が満たされた場合にテストケースの実行をスキップする機能があります。Goの
testing
パッケージでは、t.Skip()
やt.Skipf()
、あるいはt.Log()
とreturn
を組み合わせることで、テストをスキップできます。これは、特定の環境でのみ発生するバグや、まだ実装されていない機能のテストなど、一時的にテストを無効化したい場合に有用です。
技術的詳細
このコミットの技術的な変更は非常にシンプルですが、その背後にはクロスプラットフォーム開発におけるテスト戦略の考慮があります。
Goのテストフレームワーク(testing
パッケージ)では、テスト関数はTestXxx(*testing.T)
というシグネチャを持ちます。*testing.T
型の引数t
は、テストのログ出力、エラー報告、そしてテストのスキップなどの機能を提供します。
このコミットでは、TestAbs
関数の冒頭に以下のコードが追加されました。
if runtime.GOOS == "windows" {
t.Log("TestAbs disabled on windows")
return
}
このコードブロックは、以下の処理を行います。
runtime.GOOS == "windows"
: 現在の実行環境のOSがWindowsであるかどうかをチェックします。t.Log("TestAbs disabled on windows")
: もしWindowsであれば、テストログに「TestAbs disabled on windows」というメッセージを出力します。これは、テストがスキップされた理由を明確にするためのものです。return
: テスト関数の残りの部分の実行を即座に終了させます。これにより、TestAbs
の本来のロジック(os.Getwd()
の呼び出しやabsTests
のイテレーションなど)がWindows上で実行されるのを防ぎます。
このアプローチは、バグが修正されるまで、問題のあるテストがCI/CDパイプラインや開発者のローカル環境で継続的に失敗するのを防ぐための実用的な解決策です。テストが失敗し続けると、開発者はその失敗が既知の問題によるものなのか、それとも新たな回帰バグなのかを判断するのに余計な労力を費やすことになります。テストを一時的にスキップすることで、このオーバーヘッドを削減し、他のテストの信頼性を維持できます。
コアとなるコードの変更箇所
変更はsrc/pkg/path/filepath/path_test.go
ファイルにのみ行われました。
--- a/src/pkg/path/filepath/path_test.go
+++ b/src/pkg/path/filepath/path_test.go
@@ -666,6 +666,10 @@ var absTests = []string{
}
func TestAbs(t *testing.T) {
+ if runtime.GOOS == "windows" {
+ t.Log("TestAbs disabled on windows")
+ return
+ }
oldwd, err := os.Getwd()
if err != nil {
t.Fatal("Getwd failed: ", err)
コアとなるコードの解説
上記の差分が示すように、TestAbs
関数の定義の直後、既存のテストロジックが始まる前に、4行のコードが追加されています。
if runtime.GOOS == "windows" { ... }
: これはGo言語の標準ライブラリruntime
パッケージが提供するGOOS
変数を利用した条件分岐です。GOOS
はビルドターゲットのオペレーティングシステムを示す文字列(例: "linux", "windows", "darwin")を保持しています。この条件文は、現在の実行環境がWindowsである場合にのみ、中括弧内のコードブロックを実行します。t.Log("TestAbs disabled on windows")
:testing.T
型のt
オブジェクトのLog
メソッドを呼び出し、テストの実行ログに指定された文字列を出力します。これにより、テストがスキップされた際に、その旨がログに記録され、後からテスト結果を確認する際に何が起こったのかを理解しやすくなります。return
: このキーワードは、現在の関数(この場合はTestAbs
)の実行を直ちに終了させます。これにより、if
ブロックの条件が真(つまりWindows上で実行されている)の場合、TestAbs
関数の残りの部分(絶対パスのテストロジック)は実行されません。
この変更により、Windows環境でgo test
コマンドが実行された場合、TestAbs
はログメッセージを出力してすぐに終了し、テストスイート全体がSameFile
バグの影響を受けることなく、他のテストの実行を継続できるようになります。
関連リンク
- Go言語の
path/filepath
パッケージのドキュメント: https://pkg.go.dev/path/filepath - Go言語の
testing
パッケージのドキュメント: https://pkg.go.dev/testing - Go言語の
runtime
パッケージのドキュメント: https://pkg.go.dev/runtime - Go言語の
os
パッケージのドキュメント (特にSameFile
): https://pkg.go.dev/os#SameFile
参考にした情報源リンク
- GitHubのGoリポジトリ: https://github.com/golang/go
- Goのコードレビューシステム (Gerrit): https://go-review.googlesource.com/ (コミットメッセージに記載されている
https://golang.org/cl/5754055
は、このGerritシステムへのリンクです。現在はリダイレクトされるか、古いCL番号のため直接アクセスできない可能性がありますが、当時のコードレビュープロセスで使われていました。) - Go言語の公式ドキュメント: https://go.dev/doc/
- Go言語のテストに関する公式ブログ記事やチュートリアル (一般的な情報源として)
- Go言語のクロスプラットフォーム開発に関する情報 (一般的な情報源として)