[インデックス 12744] ファイルの概要
このコミットは、Go言語の公式ツールチェインの一部である cmd/go パッケージ内の get.go ファイルに対する変更です。get.go は、go get コマンドの主要なロジックを実装しており、リモートリポジトリからGoパッケージのソースコードを取得し、ローカルのGOPATHに配置する役割を担っています。具体的には、バージョン管理システム (VCS) の検出、リポジトリのクローンまたは更新、依存関係の解決などを行います。
コミット
このコミットは、「cmd/go: 欠落していたエラーチェックを追加」という目的で、go get コマンドの内部処理において、vcsForDir 関数の戻り値に対するエラーハンドリングが欠落していた問題を修正します。これにより、vcsForDir がエラーを返した場合に、そのエラーが適切に処理されず、予期せぬ動作やパニックが発生する可能性があった脆弱性が解消されます。
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/c26b504b0d6a678be85f71cb02a7ca32e2a6979a
元コミット内容
commit c26b504b0d6a678be85f71cb02a7ca32e2a6979a
Author: Evan Shaw <chickencha@gmail.com>
Date: Mon Mar 26 09:52:29 2012 +0800
cmd/go: add missing error check
R=golang-dev, minux.ma, bradfitz
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5874055
---
src/cmd/go/get.go | 3 +++
1 file changed, 3 insertions(+)
diff --git a/src/cmd/go/get.go b/src/cmd/go/get.go
index abaf5ffa0a..5db1ff873b 100644
--- a/src/cmd/go/get.go
+++ b/src/cmd/go/get.go
@@ -227,6 +227,9 @@ func downloadPackage(p *Package) error {
if p.build.SrcRoot != "" {
// Directory exists. Look for checkout along path to src.
vcs, rootPath, err = vcsForDir(p)
+ if err != nil {
+ return err
+ }
repo = "<local>" // should be unused; make distinctive
} else {
// Analyze the import path to determine the version control system,
変更の背景
Go言語では、エラーは例外ではなく「値」として扱われます。これは、関数がエラーを返す可能性がある場合、そのエラーを明示的にチェックし、適切に処理することが推奨されるという設計思想に基づいています。このコミットが行われる前は、src/cmd/go/get.go 内の downloadPackage 関数において、vcsForDir 関数の呼び出し結果に対するエラーチェックが欠落していました。
vcsForDir 関数は、指定されたディレクトリがどのバージョン管理システム(Git, Mercurialなど)によって管理されているかを判断する役割を担っています。この関数が何らかの理由でエラーを返した場合(例えば、ディレクトリが存在しない、アクセス権がない、認識できないVCSタイプであるなど)、そのエラーが捕捉されずに後続の処理が実行されてしまう可能性がありました。これにより、go get コマンドが予期せぬ動作をしたり、最悪の場合、パニック(プログラムの異常終了)を引き起こす可能性がありました。
この変更は、Goのエラーハンドリングのベストプラクティスに従い、潜在的なバグや不安定性を排除し、go get コマンドの堅牢性を向上させるために行われました。
前提知識の解説
Go言語のエラーハンドリング
Go言語におけるエラーハンドリングは、他の多くの言語の例外処理とは異なり、エラーを通常の戻り値として扱います。
- エラーは値: Goでは、エラーは
errorインターフェースを実装する値です。関数は通常、最後の戻り値としてerror型を返します。 - 明示的なチェック: エラーを返す可能性のある関数を呼び出した後、開発者は
if err != nilというイディオムを使ってエラーの有無を明示的にチェックする必要があります。 - エラーの伝播: エラーが発生した場合、多くの場合、そのエラーを呼び出し元に返すことで、エラー処理の責任を上位の関数に委ねます。
func someFunction() error {
// ... 処理 ...
if somethingWentWrong {
return errors.New("something went wrong") // エラーを返す
}
return nil // 成功時はnilを返す
}
func main() {
err := someFunction()
if err != nil {
// エラー処理
log.Fatalf("Error: %v", err)
}
// ... 成功時の処理 ...
}
go get コマンド
go get は、Go言語のパッケージ管理ツールであり、指定されたインポートパスに対応するパッケージのソースコードをリモートリポジトリからダウンロードし、ローカルのGOPATHにインストールするために使用されます。このコマンドは、依存関係の解決と取得を自動的に行い、Goプロジェクトのビルドプロセスを簡素化します。
vcsForDir 関数
vcsForDir は go get コマンドの内部関数であり、特定のディレクトリがどのバージョン管理システム(VCS)によって管理されているかを識別する役割を担います。例えば、.git ディレクトリが存在すればGitリポジトリであると判断し、そのVCSに関する情報(コマンドパスなど)を返します。この関数は、go get が既存のローカルリポジトリを更新したり、新しいリポジトリをクローンしたりする際に、適切なVCSコマンドを選択するために不可欠です。
技術的詳細
このコミットの技術的詳細は、src/cmd/go/get.go ファイル内の downloadPackage 関数に焦点を当てています。downloadPackage 関数は、Goパッケージのダウンロードとセットアップの主要なロジックを含んでいます。
変更前のコードでは、p.build.SrcRoot != "" の条件分岐内で、既存のディレクトリが存在する場合に vcsForDir(p) が呼び出されていました。この vcsForDir 関数は、vcs (バージョン管理システムの情報)、rootPath (リポジトリのルートパス)、そして err (エラー) の3つの値を返します。
変更前は、この err 戻り値がチェックされていませんでした。これは、vcsForDir が何らかの理由でエラーを返した場合(例: ディレクトリが破損している、VCSのメタデータが見つからないなど)、err 変数には非nilの値が格納されるにもかかわらず、その後のコードがエラーの存在を認識せずに実行され続けることを意味します。これにより、vcs や rootPath に無効な値が含まれている可能性があり、その後の処理でパニックや不正な動作を引き起こす可能性がありました。
このコミットは、Goのエラーハンドリングの原則に従い、vcsForDir の呼び出し直後に if err != nil というチェックを追加することで、この脆弱性を修正しています。エラーが検出された場合、downloadPackage 関数は直ちにそのエラーを呼び出し元に返し、不正な状態での処理の続行を防ぎます。これにより、go get コマンドの堅牢性と信頼性が向上しました。
コアとなるコードの変更箇所
--- a/src/cmd/go/get.go
+++ b/src/cmd/go/get.go
@@ -227,6 +227,9 @@ func downloadPackage(p *Package) error {
if p.build.SrcRoot != "" {
// Directory exists. Look for checkout along path to src.
vcs, rootPath, err = vcsForDir(p)
+ if err != nil {
+ return err
+ }
repo = "<local>" // should be unused; make distinctive
} else {
// Analyze the import path to determine the version control system,
コアとなるコードの解説
変更は src/cmd/go/get.go ファイルの downloadPackage 関数内、具体的には229行目から231行目にかけての3行の追加です。
vcs, rootPath, err = vcsForDir(p)
if err != nil {
return err
}
vcs, rootPath, err = vcsForDir(p): この行は、vcsForDir関数を呼び出し、その戻り値をvcs、rootPath、errの各変数に代入しています。vcsForDirは、与えられたパッケージpに関連するディレクトリのバージョン管理システムを特定しようとします。if err != nil: この行は、Go言語における標準的なエラーチェックのイディオムです。vcsForDirがエラーを返した場合(つまり、errがnilではない場合)、条件が真となります。return err:vcsForDirがエラーを返した場合、この行が実行され、downloadPackage関数は直ちにそのエラーを呼び出し元に返します。これにより、エラーが発生したことを上位の関数に通知し、エラー状態での不適切な処理の続行を防ぎます。
このシンプルな追加により、go get コマンドは、VCSの検出中に発生する可能性のあるエラーを適切に処理できるようになり、より堅牢な動作が保証されます。
関連リンク
- Go言語の公式ドキュメント: https://go.dev/
- Goのエラーハンドリングに関する公式ブログ記事: https://go.dev/blog/error-handling-and-go
go getコマンドのドキュメント: https://go.dev/cmd/go/#hdr-Download_and_install_packages_and_dependencies
参考にした情報源リンク
- GeeksforGeeks: Go Language | Error Handling: https://www.geeksforgeeks.org/go-language-error-handling/
- Dev.to: Go Error Handling Best Practices: https://dev.to/jmfayard/go-error-handling-best-practices-2023-420
- JetBrains: Error handling in Go: https://www.jetbrains.com/guide/go/tips/error-handling/
- Google Source: go/src/cmd/go/get.go: https://go.googlesource.com/go/+/refs/heads/master/src/cmd/go/get.go
- GitHub: golang/go/src/cmd/go/get.go: https://github.com/golang/go/blob/master/src/cmd/go/get.go