[インデックス 12977] ファイルの概要
このコミットは、Go言語の公式ドキュメントの一部である doc/devel/release.html
ファイルに対する変更です。具体的には、Go 1.0.1 リリースに関するリリースノートの情報を追加しています。
コミット
- コミットハッシュ:
314df5226a812b25f480a0f13cb3aed7dd140475
- 作者: Andrew Gerrand adg@golang.org
- コミット日時: 2012年4月26日 12:02:06 -0700
- 変更ファイル:
doc/devel/release.html
(1ファイル) - 変更行数: 14行追加
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/314df5226a812b25f480a0f13cb3aed7dd140475
元コミット内容
doc: go1.0.1 release notes
R=golang-dev, rsc
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/6123055
変更の背景
このコミットの主な目的は、Go 1.0.1 のリリース情報を公式のリリースノートドキュメント (doc/devel/release.html
) に追加することです。Go 1.0.1 は、Go 1.0 のリリース後に発見された重要なバグ、特にエスケープ解析のバグ(メモリ破損につながる可能性があった)を修正するために緊急でリリースされたマイナーバージョンです。このドキュメントの更新は、ユーザーに対して Go 1.0.1 のリリース理由と、それが修正した主要な問題(エスケープ解析のバグ)を明確に伝えるために行われました。
前提知識の解説
Go 1.0.1
Go 1.0.1 は、Go言語の最初の安定版リリースである Go 1.0 の直後にリリースされたパッチバージョンです。通常、X.Y.Z
のバージョン番号において、Z
の部分が変更されるマイナーリリースは、既存の機能に大きな変更を加えることなく、バグ修正やセキュリティパッチを提供するために行われます。Go 1.0.1 の場合、特に重要なエスケープ解析のバグ修正がそのリリースを正当化しました。
エスケープ解析 (Escape Analysis)
エスケープ解析は、コンパイラ最適化の一種で、変数がヒープに割り当てられるべきか、それともスタックに割り当てられるべきかを決定します。
- スタック (Stack): 関数呼び出しやローカル変数のためのメモリ領域です。スタックに割り当てられたメモリは、関数が終了すると自動的に解放されます。高速で、ガベージコレクションのオーバーヘッドがありません。
- ヒープ (Heap): プログラムの実行中に動的にメモリを割り当てるための領域です。ヒープに割り当てられたメモリは、ガベージコレクタによって管理され、不要になった時点で解放されます。スタックに比べてアクセスが遅く、ガベージコレクションのオーバーヘッドがあります。
エスケープ解析は、変数がそのスコープを「エスケープ」(つまり、関数が戻った後も参照され続ける可能性がある)するかどうかを判断します。
- エスケープしない場合: 変数はスタックに割り当てられます。
- エスケープする場合: 変数はヒープに割り当てられます。
例えば、関数内で作成されたポインタが関数の戻り値として返される場合、そのポインタが指すデータは関数のスコープ外でも使用される可能性があるため、ヒープに割り当てられる必要があります。
メモリ破損 (Memory Corruption)
メモリ破損は、プログラムが意図しないメモリ領域に書き込みを行うことで発生するバグです。これにより、データが破壊されたり、プログラムがクラッシュしたり、セキュリティ上の脆弱性が生じたりする可能性があります。エスケープ解析のバグがメモリ破損につながる場合、コンパイラが本来ヒープに割り当てるべき変数を誤ってスタックに割り当ててしまい、その関数が終了した後に、解放されたスタック領域のデータにアクセスしようとしたり、別の関数がそのスタック領域を再利用した際にデータが上書きされたりする、といったシナリオが考えられます。
技術的詳細
Go 1.0.1 のリリースは、特に重要なエスケープ解析のバグを修正するために行われました。このバグは、コンパイラが特定の状況下で変数のメモリ割り当てを誤り、結果としてメモリ破損を引き起こす可能性がありました。
コミットメッセージと追加されたドキュメントの内容から、以下の詳細が読み取れます。
- リリース日: Go 1.0.1 は2012年4月25日にリリースされました。
- 主要な修正: 「メモリ破損につながる可能性のあるエスケープ解析のバグ」の修正が主要な目的でした。
- 具体的なバグ: このバグは、Go issue 3545 (https://code.google.com/p/go/issues/detail?id=3545) として追跡されていました。
- 修正コミット: バグを修正した具体的なコミットは
a890477d3dfb
(https://code.google.com/p/go/source/detail?r=a890477d3dfb) です。 - その他の修正: エスケープ解析のバグ修正に加えて、いくつかのマイナーなコード修正とドキュメント修正も含まれていました。
- 変更履歴: Go 1 リリースブランチの完全な変更リストは、
http://code.google.com/p/go/source/list?name=release-branch.go1
で確認できます。
このエスケープ解析のバグは、コンパイラが変数の生存期間を誤って判断し、本来ヒープに配置すべきオブジェクトをスタックに配置してしまうことで発生しました。スタックに配置されたオブジェクトは、その関数がリターンすると無効になりますが、もしそのオブジェクトへのポインタが関数の外に「エスケープ」して使用され続けた場合、無効なメモリ領域へのアクセスが発生し、メモリ破損やクラッシュにつながる可能性がありました。このようなバグは、プログラムの安定性と信頼性に深刻な影響を与えるため、迅速な修正とリリースが必要とされました。
コアとなるコードの変更箇所
doc/devel/release.html
ファイルに以下のHTMLスニペットが追加されました。
--- a/doc/devel/release.html
+++ b/doc/devel/release.html
@@ -35,6 +35,20 @@ The go1 release corresponds to
<code><a href=\"weekly.html#2012-03-27\">weekly.2012-03-27</a></code>.\n </p>\n \n+<h3 id=\"go1.minor\">Minor revisions</h3>\n+\n+<p>\n+go1.0.1 (released 2012/04/25) was issued to\n+<a href=\"https://code.google.com/p/go/source/detail?r=a890477d3dfb\">fix</a> an\n+<a href=\"https://code.google.com/p/go/issues/detail?id=3545\">escape analysis\n+bug</a> that can lead to memory corruption.\n+It also includes several minor code and documentation fixes.\n+</p>\n+\n+<p>\n+See the <a href=\"http://code.google.com/p/go/source/list?name=release-branch.go1\">go1 release branch history</a> for the complete list of changes.\n+</p>\n+\n <h2 id=\"r60\">r60 (released 2011/09/07)</h2>\n \n <p>\n```
## コアとなるコードの解説
追加されたコードは、Go 1.0.1 のリリースに関する新しいセクションを `doc/devel/release.html` に挿入しています。
1. **`<h3 id="go1.minor">Minor revisions</h3>`**:
* 「マイナーリビジョン」という見出しを追加し、Go 1.x.x 系のパッチリリースに関する情報をまとめるセクションを設けています。`id="go1.minor"` は、このセクションへの直接リンクを可能にするためのアンカーです。
2. **`go1.0.1 (released 2012/04/25) was issued to ...`**:
* Go 1.0.1 が2012年4月25日にリリースされたことを明記しています。
* 主要なリリース理由として、「メモリ破損につながる可能性のあるエスケープ解析のバグ」を修正するためであったことを強調しています。
* このバグの修正コミット (`a890477d3dfb`) と、関連するGo issue (`3545`) への直接リンクを提供し、ユーザーが詳細を追跡できるようにしています。
* さらに、このリリースには他のマイナーなコード修正とドキュメント修正も含まれていることを補足しています。
3. **`See the <a href="http://code.google.com/p/go/source/list?name=release-branch.go1">go1 release branch history</a> for the complete list of changes.`**:
* Go 1 リリースブランチの完全な変更履歴へのリンクを提供し、ユーザーが Go 1.0.1 に含まれるすべての変更を詳細に確認できるようにしています。
これらの変更は、Go 1.0.1 のリリースが単なる定期的なアップデートではなく、重要なバグ修正を伴うものであったことを公式に記録し、ユーザーにその重要性を伝えるためのものです。
## 関連リンク
* **Go 1.0.1 修正コミット**: [https://code.google.com/p/go/source/detail?r=a890477d3dfb](https://code.google.com/p/go/source/detail?r=a890477d3dfb)
* **Go Issue 3545 (エスケープ解析バグ)**: [https://code.google.com/p/go/issues/detail?id=3545](https://code.google.com/p/go/issues/detail?id=3545)
* **Go 1 リリースブランチ履歴**: [http://code.google.com/p/go/source/list?name=release-branch.go1](http://code.google.com/p/go/source/list?name=release-branch.go1)
* **Gerrit Change-ID (CL)**: [https://golang.org/cl/6123055](https://golang.org/cl/6123055)
## 参考にした情報源リンク
* Go言語の公式ドキュメント (Go 1.0.1 リリースノートの追加内容)
* Go言語のIssue Tracker (Issue 3545)
* Go言語のソースコードリポジトリ (コミット `a890477d3dfb`)
* エスケープ解析に関する一般的なプログラミング知識
* メモリ破損に関する一般的なプログラミング知識
* Go言語のバージョン管理とリリースプロセスに関する知識