[インデックス 14681] ファイルの概要
このコミットは、Go言語の実験的なツールである exp/gotype
のテストファイル src/pkg/exp/gotype/gotype_test.go
に関連するものです。gotype
は、Goのソースコードを解析し、型情報を表示するためのツールです。このテストファイルは、Go標準ライブラリの様々なパッケージに対して gotype
が正しく動作するかどうかを検証するために使用されます。
コミット
このコミットは、exp/gotype
のテストにおいて、当時失敗していたいくつかのテストを無効化し、同時に新しいテストを追加することを目的としています。具体的には、crypto/rsa
、net
、syscall
パッケージに関連するテストがコメントアウトされ、crypto/x509
パッケージのテストが有効化されています。また、build.Import
の呼び出しに CgoEnabled = false
のコンテキストが追加されています。
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/acbf011d965f6b6f787f415a7e3e0dfe21f1e9f8
元コミット内容
exp/gotype: disable failing tests and add a few more
R=rsc, alex.brainman
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/6948066
変更の背景
このコミットの背景には、exp/gotype
のテストスイートが不安定であったこと、特にCgo(GoとC言語の相互運用機能)に関連する問題や、特定のプラットフォーム(Windowsなど)でのビルド環境に依存する問題があったことが示唆されます。
コミットメッセージとコードの変更点から、以下の問題が推測されます。
- テストの失敗:
crypto/rsa
、net
、syscall
パッケージのテストが継続的に失敗していたため、一時的に無効化する必要がありました。コメントには具体的なエラーメッセージが記載されており、これらはgotype
がこれらのパッケージの型情報を正しく解析できないことを示しています。crypto/rsa
:undeclared name: io
-io
パッケージの型が正しく認識されていない可能性。net
:undeclared name: cgoLookupHost
またはinvalid operation: division by zero
- ネットワーク関連のCgo関数や、Windows環境でのインターフェース処理に問題があった可能性。syscall
:cannot convert EINVAL (constant 536870951) to error
-syscall
パッケージの定数変換に問題があった可能性。
- Cgoの扱い:
gotype
がパッケージをインポートする際に、Cgoが有効になっていると問題が発生するケースがあったようです。build.Import
にCgoEnabled = false
を設定することで、Cgoに依存する部分をスキップし、テストの安定性を向上させようとしています。 - テストスイートの改善: 失敗するテストを無効化するだけでなく、
crypto/x509
のように以前は無効化されていたが、現在は安定しているテストを再度有効化することで、テストカバレッジを維持・向上させようとしています。
これらの変更は、gotype
ツールの開発初期段階における安定化と、テスト環境の整備の一環として行われたと考えられます。
前提知識の解説
exp/gotype
exp/gotype
は、Go言語のソースコードを静的に解析し、型情報を抽出・表示するための実験的なツールです。Goコンパイラが内部的に行っている型チェックのロジックの一部を外部から利用できるようにしたもので、IDEのコード補完や静的解析ツールなどで利用されることを想定していました。exp
パッケージは、Goの標準ライブラリに将来的に取り込まれる可能性のある、実験的な機能やツールが置かれる場所です。
go test
go test
は、Go言語のテストを実行するためのコマンドです。Goのテストは、_test.go
で終わるファイルに記述され、Test
で始まる関数がテスト関数として認識されます。go test
はこれらのテスト関数を実行し、結果を報告します。
build.Import
go/build
パッケージは、Goのパッケージをビルドする際のコンテキスト情報を提供し、パッケージのインポートパスを解決するための機能を提供します。build.Import
関数は、指定されたパスからGoパッケージの情報をインポートしようとします。これには、ソースファイルの解析、依存関係の解決などが含まれます。
go/build.Context
go/build.Context
は、Goのビルド環境に関する情報(例: GOPATH、GOROOT、OS、アーキテクチャ、Cgoの有効/無効など)をカプセル化する構造体です。build.Default
は、現在のシステム環境に基づくデフォルトのビルドコンテキストを提供します。
Cgo
Cgoは、GoプログラムからC言語のコードを呼び出したり、C言語のコードからGoの関数を呼び出したりするためのGoの機能です。Cgoを使用すると、既存のCライブラリをGoから利用したり、パフォーマンスが重要な部分をCで記述したりすることができます。しかし、Cgoはビルドプロセスを複雑にし、クロスコンパイルや特定の環境での問題を引き起こすことがあります。
Go標準ライブラリのパッケージ構造
Goの標準ライブラリは、src/pkg
ディレクトリ以下に配置されています。例えば、crypto/rsa
パッケージは src/pkg/crypto/rsa
に、net
パッケージは src/pkg/net
にあります。
技術的詳細
このコミットの主要な技術的変更点は、gotype_test.go
ファイル内の runTest
関数における build.Import
の呼び出し方法の変更と、テスト対象パッケージのリストの更新です。
build.Import
のコンテキスト変更
元のコードでは、build.Import(path, "", 0)
のように、デフォルトのビルドコンテキストでパッケージをインポートしようとしていました。
変更後、以下のコードが追加されました。
ctxt := build.Default
ctxt.CgoEnabled = false
pkg, err := ctxt.Import(path, "", 0)
これは、build.Default
から現在のビルドコンテキストのコピーを作成し、そのコピーの CgoEnabled
フィールドを false
に設定しています。そして、この変更されたコンテキスト (ctxt
) を使用して Import
関数を呼び出しています。
この変更の意図は、gotype
がパッケージを解析する際にCgoに関連する問題を回避することです。Cgoが有効な場合、build.Import
はCgoの依存関係を解決しようとしますが、これが gotype
の静的解析プロセスと競合したり、特定の環境でビルドエラーを引き起こしたりする可能性がありました。CgoEnabled = false
に設定することで、gotype
はCgoに依存する部分を無視してパッケージを解析するようになります。これは、gotype
が主にGoのコードの型情報を解析することに焦点を当てており、Cgoのランタイム依存関係は不要であるため、適切な対応と言えます。
テスト対象パッケージの変更
var tests = []string{...}
リストでは、gotype
が型チェックを行うGo標準ライブラリのパッケージが列挙されています。このリストの変更は、gotype
のテストの安定性を向上させるためのものです。
-
crypto/rsa
の無効化:- 変更前:
// "crypto/rsa", // src/pkg/crypto/rsa/pkcs1v15.go:21:27: undeclared name: io
- 変更後:
// "crypto/rsa", // intermittent failure: /home/gri/go2/src/pkg/crypto/rsa/pkcs1v15.go:21:27: undeclared name: io
crypto/rsa
パッケージのテストは、io
という名前が宣言されていないというエラーで失敗していました。これは、gotype
がio
パッケージを正しく解決できないか、またはcrypto/rsa
内でio
パッケージの型が予期しない方法で使用されていることを示唆しています。intermittent failure
(断続的な失敗) というコメントが追加されており、この問題が常に発生するわけではないが、不安定であるため無効化されたことがわかります。
- 変更前:
-
crypto/x509
の有効化:- 変更前:
// "crypto/x509", // src/pkg/crypto/x509/root.go:15:10: undeclared name: initSystemRoots
- 変更後:
"crypto/x509",
以前はinitSystemRoots
という未宣言の名前のエラーで無効化されていたcrypto/x509
パッケージのテストが有効化されました。これは、この問題が解決されたか、またはgotype
の解析ロジックが改善されたことを示しています。
- 変更前:
-
net
の無効化:- 変更前:
// "net", // src/pkg/net/lookup_unix.go:56:20: undeclared name: cgoLookupHost
- 変更後:
// "net", // c:\\go\\root\\src\\pkg\\net\\interface_windows.go:54:13: invalid operation: division by zero
net
パッケージのテストは、当初cgoLookupHost
という未宣言の名前のエラーで失敗していました。変更後、Windows環境でのinterface_windows.go
ファイルにおける「ゼロ除算」エラーが示されています。これは、net
パッケージがプラットフォーム固有のCgoコードや、特定の環境での数値計算に依存しており、gotype
がこれを正しく扱えないか、またはテスト環境自体に問題があったことを示唆しています。
- 変更前:
-
syscall
の無効化:- 変更前:
"syscall",
- 変更後:
// "syscall", c:\\go\\root\\src\\pkg\\syscall\\syscall_windows.go:35:16: cannot convert EINVAL (constant 536870951) to error
syscall
パッケージのテストは、Windows環境のsyscall_windows.go
ファイルで、EINVAL
定数をerror
型に変換できないというエラーで失敗していました。これは、Goの型システムとCgoを介したシステムコールインターフェースの間の不整合、または特定の定数の扱いに関する問題を示しています。
- 変更前:
これらの変更は、gotype
がGo標準ライブラリのすべてのパッケージを完璧に解析できるわけではないという現実を反映しており、特にCgoやプラットフォーム固有のコードが絡む場合に課題があることを示しています。テストを無効化することで、CI/CDパイプラインの安定性を保ちつつ、問題の根本原因を特定し、将来的に解決するための時間を稼ぐことができます。
コアとなるコードの変更箇所
--- a/src/pkg/exp/gotype/gotype_test.go
+++ b/src/pkg/exp/gotype/gotype_test.go
@@ -25,7 +25,9 @@ func runTest(t *testing.T, path string) {
} else {
// package directory
// TODO(gri) gotype should use the build package instead
- pkg, err := build.Import(path, "", 0)
+ ctxt := build.Default
+ ctxt.CgoEnabled = false
+ pkg, err := ctxt.Import(path, "", 0)
if err != nil {
t.Errorf("build.Import error for path = %s: %s", path, err)
return
@@ -77,13 +79,13 @@ var tests = []string{\n \"crypto/md5\",\n \"crypto/rand\",\n \"crypto/rc4\",\n-\t// \"crypto/rsa\", // src/pkg/crypto/rsa/pkcs1v15.go:21:27: undeclared name: io\n+\t// \"crypto/rsa\", // intermittent failure: /home/gri/go2/src/pkg/crypto/rsa/pkcs1v15.go:21:27: undeclared name: io\n \t\"crypto/sha1\",\n \t\"crypto/sha256\",\n \t\"crypto/sha512\",\n \t\"crypto/subtle\",\n \t\"crypto/tls\",\n-\t// \"crypto/x509\", // src/pkg/crypto/x509/root.go:15:10: undeclared name: initSystemRoots\n+\t\"crypto/x509\",\n \t\"crypto/x509/pkix\",\n \n \t\"database/sql\",\n@@ -152,7 +154,7 @@ var tests = []string{\n \t\"mime\",\n \t\"mime/multipart\",\n \n-\t// \"net\", // src/pkg/net/lookup_unix.go:56:20: undeclared name: cgoLookupHost\n+\t// \"net\", // c:\\go\\root\\src\\pkg\\net\\interface_windows.go:54:13: invalid operation: division by zero\n \t\"net/http\",\n \t\"net/http/cgi\",\n \t\"net/http/fcgi\",\n@@ -186,7 +188,7 @@ var tests = []string{\n \t\"sync\",\n \t\"sync/atomic\",\n \n-\t\"syscall\",\n+\t// \"syscall\", c:\\go\\root\\src\\pkg\\syscall\\syscall_windows.go:35:16: cannot convert EINVAL (constant 536870951) to error\n \n \t\"testing\",\n \t\"testing/iotest\",\n```
## コアとなるコードの解説
### `runTest` 関数の変更
`runTest` 関数は、指定されたGoパッケージに対して `gotype` を実行し、その結果を検証するテストヘルパー関数です。
```go
- pkg, err := build.Import(path, "", 0)
+ ctxt := build.Default
+ ctxt.CgoEnabled = false
+ pkg, err := ctxt.Import(path, "", 0)
この変更は、build.Import
を呼び出す際に、Cgoを無効にしたカスタムのビルドコンテキストを使用するようにしています。
ctxt := build.Default
:go/build
パッケージのDefault
コンテキスト(現在のシステム環境に基づくデフォルト設定)をctxt
変数にコピーします。これにより、元のbuild.Default
が変更されることなく、ローカルな変更が可能になります。ctxt.CgoEnabled = false
: コピーしたコンテキストctxt
のCgoEnabled
フィールドをfalse
に設定します。これにより、このコンテキストを使用してパッケージをインポートする際に、Cgoに関連する処理(Cソースファイルのコンパイルなど)がスキップされます。pkg, err := ctxt.Import(path, "", 0)
: 変更されたctxt
コンテキストを使用してbuild.Import
を呼び出します。これにより、gotype
はCgoに依存しない形でパッケージの情報を取得しようとします。
この変更は、gotype
がCgoを含むパッケージを解析する際に発生していた問題を回避するためのものです。gotype
は静的解析ツールであり、Cgoのランタイム依存関係は通常必要ありません。そのため、Cgoを無効にすることで、解析の安定性と速度を向上させることができます。
tests
変数の変更
tests
変数は、gotype
が型チェックを行うGo標準ライブラリのパッケージパスの文字列スライスです。このリストの変更は、テストの安定化とカバレッジの調整を目的としています。
-
crypto/rsa
:- 以前はコメントアウトされており、
src/pkg/crypto/rsa/pkcs1v15.go:21:27: undeclared name: io
というエラーメッセージが付記されていました。 - 変更後もコメントアウトされたままですが、エラーメッセージが
intermittent failure: /home/gri/go2/src/pkg/crypto/rsa/pkcs1v15.go:21:27: undeclared name: io
に更新されています。これは、このテストが断続的に失敗することを示しており、問題が解決されていないため引き続き無効化されていることを意味します。
- 以前はコメントアウトされており、
-
crypto/x509
:- 以前はコメントアウトされており、
src/pkg/crypto/x509/root.go:15:10: undeclared name: initSystemRoots
というエラーメッセージが付記されていました。 - 変更後はコメントアウトが解除され、
"crypto/x509"
が有効なテスト対象として追加されています。これは、以前の問題が解決されたか、gotype
の解析能力が向上したため、このパッケージのテストを再度実行できるようになったことを示します。
- 以前はコメントアウトされており、
-
net
:- 以前はコメントアウトされており、
src/pkg/net/lookup_unix.go:56:20: undeclared name: cgoLookupHost
というエラーメッセージが付記されていました。 - 変更後もコメントアウトされたままですが、エラーメッセージが
c:\go\root\src\pkg\net\interface_windows.go:54:13: invalid operation: division by zero
に更新されています。これは、net
パッケージのテストが引き続き失敗しており、特にWindows環境での問題が顕著であることを示しています。
- 以前はコメントアウトされており、
-
syscall
:- 以前は有効なテスト対象として
"syscall"
が含まれていました。 - 変更後はコメントアウトされ、
c:\go\root\src\pkg\syscall\syscall_windows.go:35:16: cannot convert EINVAL (constant 536870951) to error
というエラーメッセージが付記されています。これは、syscall
パッケージのテストがWindows環境で失敗するようになったため、一時的に無効化されたことを示します。
- 以前は有効なテスト対象として
これらの変更は、gotype
のテストスイートの現実的な状態を反映しており、安定したCI/CDパイプラインを維持するために、失敗するテストを一時的に無効化し、問題が解決されたテストを再度有効化するというプラクティスに従っています。
関連リンク
- Go言語の
go/build
パッケージ: https://pkg.go.dev/go/build - Go言語の Cgo ドキュメント: https://go.dev/blog/cgo
参考にした情報源リンク
- なし (提供されたコミット情報と一般的なGoの知識に基づいています)