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[インデックス 14682] ファイルの概要

このコミットは、src/pkg/go/doc/comment.go ファイルに1つの変更を加えています。具体的には、2行の追加と1行の削除が行われています。

コミット

  • コミットハッシュ: 5b46fc417fdc908fd41d1e88a909d8e92a29504c
  • 作者: David Symonds dsymonds@golang.org
  • 日付: Tue Dec 18 12:19:04 2012 +1100
  • コミットメッセージ:
    go/doc: add "hdr-" prefix to headers generated from package overviews.
    
    R=golang-dev, bradfitz, gri
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/6935071
    

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/5b46fc417fdc908fd41d1e88a909d8e92a29504c

元コミット内容

go/doc: add "hdr-" prefix to headers generated from package overviews.

R=golang-dev, bradfitz, gri
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/6935071

変更の背景

このコミットの背景には、Go言語のドキュメンテーションツールであるgo/docパッケージが生成するHTMLドキュメントにおける、HTMLアンカーIDの衝突の可能性を回避するという目的があります。

Go言語では、ソースコード内のコメントから自動的にドキュメントを生成する仕組みが提供されています。特に、パッケージの概要(package overviews)から生成される見出し(headers)は、HTMLドキュメント内で特定のセクションへの直接リンクを可能にするために、HTMLのアンカーIDとして使用されます。

しかし、これらの見出しから生成されるアンカーIDが、Goのパッケージ内のシンボル(関数、変数、型など)に対して自動的に割り当てられるIDと重複する可能性がありました。HTMLの仕様では、同一ドキュメント内でアンカーIDは一意である必要があります。IDが重複すると、リンクが意図しない場所に飛んだり、JavaScriptによるDOM操作が正しく機能しなかったりするなど、ドキュメントの表示や機能に問題が生じる可能性があります。

この問題を解決するため、パッケージ概要から生成される見出しのアンカーIDに一意のプレフィックス(hdr-)を追加することで、既存のシンボルIDとの衝突を確実に回避し、ドキュメントの堅牢性と正確性を向上させることを目的としています。

前提知識の解説

1. HTMLアンカーID

HTMLにおいて、id属性は要素に一意の識別子を割り当てるために使用されます。このidは、CSSで特定の要素をスタイル付けしたり、JavaScriptで要素を操作したり、そして最も関連性が高いのは、ページ内の特定の位置へのハイパーリンク(アンカーリンク)を作成するために使用されます。

例えば、<h2 id="section-title">セクションタイトル</h2> という見出しがあった場合、<a href="#section-title">セクションタイトルへジャンプ</a> のようにリンクを作成することで、クリック時にページ内の該当する見出しまでスクロールさせることができます。

HTMLの仕様では、id属性の値はドキュメント内で一意である必要があります。重複するIDが存在すると、ブラウザの動作が不安定になったり、アクセシビリティの問題を引き起こしたりする可能性があります。

2. Go言語のgo/docパッケージ

go/docパッケージは、Go言語の標準ライブラリの一部であり、Goのソースコードからドキュメンテーションを抽出・生成するための機能を提供します。このパッケージは、Goのコメント規約(特に、エクスポートされた識別子の直前のコメント)を解析し、構造化されたドキュメントデータ(パッケージ、関数、型、変数などの情報)を生成します。

このパッケージは、go docコマンドや、pkg.go.dev(旧godoc.org)のようなGoの公式ドキュメントサイトの基盤となっています。go/docは、抽出した情報からHTMLなどの形式でドキュメントをレンダリングする際に、見出しやシンボルに対して自動的にHTMLアンカーIDを割り当てます。

3. 正規表現 (regexpパッケージ)

Go言語のregexpパッケージは、正規表現を扱うための機能を提供します。正規表現は、文字列のパターンマッチングや置換を行うための強力なツールです。

  • regexp.MustCompile(pattern string): 指定された正規表現パターンをコンパイルし、*regexp.Regexpオブジェクトを返します。パターンが無効な場合はパニック(panic)を引き起こします。
  • Regexp.ReplaceAllString(src, repl string) string: src文字列内で正規表現にマッチするすべての部分をrepl文字列で置換した新しい文字列を返します。

このコミットでは、nonAlphaNumRx = regexp.MustCompile([^a-zA-Z0-9]) という正規表現が使用されています。これは、「英数字(a-z, A-Z, 0-9)以外の任意の文字」にマッチします。つまり、アンカーIDとして使用できない特殊文字やスペースなどをアンダースコア(_)に置換するために使われています。

技術的詳細

この変更は、go/docパッケージがHTMLドキュメントを生成する際のアンカーID生成ロジックを改善するものです。

Goのドキュメント生成プロセスでは、パッケージの概要コメント(通常、package宣言の直前にあるコメント)から見出しが抽出され、これらがHTMLドキュメント内のセクションとしてレンダリングされます。これらのセクションには、ブラウザのURLバーで直接アクセスできるように、一意のHTMLアンカーIDが割り当てられます。

元の実装では、見出しのテキストから直接アンカーIDが生成されていました。この生成ロジックは、見出し内の非英数字をアンダースコアに置換するものでした。例えば、「My Package Overview」という見出しは「My_Package_Overview」のようなIDになる可能性があります。

しかし、Goのドキュメントでは、パッケージ内の関数、変数、型などのシンボルにも自動的にアンカーIDが割り当てられます。これらのシンボルIDも、シンボル名から生成されるため、偶然にもパッケージ概要の見出しから生成されるIDと重複する可能性がありました。例えば、My_Package_Overviewという名前の関数が存在した場合、その関数のIDとパッケージ概要の見出しのIDが衝突する可能性があります。

HTMLのアンカーIDはドキュメント内で一意であるべきという原則に則り、この衝突の可能性を排除するために、パッケージ概要から生成される見出しのアンカーIDに「hdr-」という固定のプレフィックスを追加する変更が導入されました。

これにより、「My Package Overview」という見出しは「hdr-My_Package_Overview」のようなIDとして生成されるようになります。この「hdr-」プレフィックスは、Goのシンボル名としては通常使用されないため、シンボルIDとの衝突を効果的に回避できます。これは、IDの命名規則を明確に分離し、将来的な衝突のリスクも低減する堅牢なアプローチです。

コアとなるコードの変更箇所

--- a/src/pkg/go/doc/comment.go
+++ b/src/pkg/go/doc/comment.go
@@ -229,7 +229,8 @@ type block struct {
 var nonAlphaNumRx = regexp.MustCompile(`[^a-zA-Z0-9]`)\n 
 func anchorID(line string) string {
-\treturn nonAlphaNumRx.ReplaceAllString(line, \"_\")
+\t// Add a \"hdr-\" prefix to avoid conflicting with IDs used for package symbols.\n+\treturn \"hdr-\" + nonAlphaNumRx.ReplaceAllString(line, \"_\")
 }\n 
 // ToHTML converts comment text to formatted HTML.\n

コアとなるコードの解説

変更は、src/pkg/go/doc/comment.go ファイル内の anchorID 関数に集中しています。

元の anchorID 関数は以下のようになっていました。

func anchorID(line string) string {
	return nonAlphaNumRx.ReplaceAllString(line, "_")
}

この関数は、入力された文字列(line、これは見出しのテキストに相当します)から、正規表現 nonAlphaNumRx(英数字以外の文字にマッチ)を使用して、マッチした部分をアンダースコア(_)に置換することでアンカーIDを生成していました。

変更後の anchorID 関数は以下のようになります。

func anchorID(line string) string {
	// Add a "hdr-" prefix to avoid conflicting with IDs used for package symbols.
	return "hdr-" + nonAlphaNumRx.ReplaceAllString(line, "_")
}

この変更では、以下の2点が重要です。

  1. コメントの追加: // Add a "hdr-" prefix to avoid conflicting with IDs used for package symbols. このコメントは、変更の意図を明確に説明しています。「パッケージシンボルに使用されるIDとの衝突を避けるために、"hdr-"プレフィックスを追加する」という目的が明記されています。これは、コードの可読性と保守性を高める上で非常に重要です。

  2. プレフィックスの追加: return "hdr-" + nonAlphaNumRx.ReplaceAllString(line, "_") ここで、元のID生成ロジックの結果の文字列の先頭に、リテラル文字列 "hdr-" が連結されています。これにより、anchorID関数が返すすべてのIDは、必ず "hdr-" で始まるようになります。

このシンプルな変更により、パッケージ概要から生成される見出しのアンカーIDが、Goのシンボル名から生成されるIDと重複する可能性がなくなりました。例えば、func MyFunction() {} という関数があった場合、そのアンカーIDは通常 MyFunction となりますが、見出しが「My Function」であったとしても、そのIDは hdr-My_Function となるため、衝突は発生しません。

関連リンク

参考にした情報源リンク