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[インデックス 15979] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のツールである cmd/vet のテスト用アセンブリファイル (.s 拡張子) のビルドタグとパッケージ宣言を修正するものです。具体的には、これらのテストファイルが vet ツールによって正しく扱われるように、ビルドタグを ignore から vet_test に変更し、不要な package main 宣言を削除しています。

コミット

commit f3eaaa62a1969161a4d580db0532cb8a771259f0
Author: Rob Pike <r@golang.org>
Date:   Wed Mar 27 16:29:12 2013 -0700

    cmd/vet: fix assembly test files
    They should be build-tagged for vet_test not ignore,
    and not have a Go package clause.
    
    R=golang-dev, bradfitz
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/8016047

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/f3eaaa62a1969161a4d580db0532cb8a771259f0

元コミット内容

src/cmd/vet/test_asm1.s, src/cmd/vet/test_asm2.s, src/cmd/vet/test_asm3.s の3つのファイルに対して以下の変更が行われています。

  • // +build ignore の行が削除され、// +build vet_test が追加されました。
  • package main の行が削除されました。

これにより、各ファイルで合計4行が変更され、3行が追加され、9行が削除されています。

変更の背景

このコミットの背景には、Go言語の静的解析ツール cmd/vet のテストハーネスの改善があります。cmd/vet はGoのソースコードを検査し、疑わしい構成要素や潜在的なエラーを報告するツールです。このツール自体もテストされており、そのテストにはアセンブリ言語で書かれたファイル (.s 拡張子) が含まれていました。

元々、これらのアセンブリテストファイルは // +build ignore というビルドタグを持っていました。ignore ビルドタグは、Goツールチェインがそのファイルをビルドプロセスから完全に除外するために使用されます。しかし、cmd/vet のテストスイートがこれらのアセンブリファイルを適切に検査するためには、ビルド時に無視されるべきではありませんでした。

また、これらのアセンブリファイルには package main というGoのパッケージ宣言が含まれていました。アセンブリファイルはGoのソースファイルとは異なり、Goのパッケージシステムには直接属しません。特に、cmd/vet のテストコンテキストでは、これらのファイルが独立したGoプログラムとして扱われる必要はなく、むしろ vet が解析すべき対象として提供されるべきでした。package main の存在は、vet がこれらのファイルを解析する際に誤解を招いたり、不必要な処理を引き起こしたりする可能性がありました。

このコミットは、これらの問題を修正し、cmd/vet のテストがより正確かつ効率的に実行されるようにすることを目的としています。

前提知識の解説

Go言語の cmd/vet ツール

cmd/vet は、Go言語の標準ツールの一つで、Goのソースコードを静的に解析し、潜在的なバグや疑わしいコード構成を検出します。例えば、Printf フォーマット文字列と引数の不一致、到達不能なコード、ロックの誤用などを検出できます。開発者がコードの品質を維持し、一般的な落とし穴を避けるのに役立ちます。

Goアセンブリファイル (.s ファイル)

Go言語は、パフォーマンスが重要な部分や、特定のハードウェア機能にアクセスする必要がある場合に、アセンブリ言語でコードを書くことをサポートしています。Goのアセンブリファイルは通常 .s 拡張子を持ち、Goのツールチェインによってコンパイルされます。これらはGoの関数として呼び出せるように設計されており、Goのランタイムと連携して動作します。ただし、Goの通常のソースファイルとは異なり、Goのパッケージ宣言やインポートパスは持ちません。

Goビルドタグ (// +build ディレクティブ)

Go言語には「ビルドタグ」という機能があり、ソースファイルの先頭に // +build tag の形式でコメントとして記述することで、そのファイルを特定の条件でのみビルドに含めるように制御できます。これは条件付きコンパイルの一種です。

  • // +build ignore: このタグが付与されたファイルは、Goツールチェインによってビルドプロセスから完全に無視されます。これは、例えばテストデータファイルや、特定のツールが処理するが通常のビルドには不要なファイルなどに使用されます。
  • // +build tag_name: tag_name は任意の文字列で、go build -tags tag_name のようにコマンドラインで指定された場合にのみ、そのファイルがビルドに含まれます。このコミットでは vet_test というカスタムタグが使用されています。これは cmd/vet のテスト実行時にのみこれらのアセンブリファイルが考慮されるようにするためのものです。

Goのパッケージ宣言 (package main)

Goのソースファイルは、必ず package name という形式でパッケージ宣言を持ちます。

  • package main は、そのファイルが実行可能なプログラムのエントリポイントであることを示します。main パッケージ内の main 関数がプログラムの開始点となります。
  • それ以外のパッケージは、ライブラリとして他のパッケージからインポートされて使用されます。

アセンブリファイルはGoのパッケージシステムとは異なる方法でGoのコードベースに統合されるため、通常は package main のようなGoのパッケージ宣言は持ちません。

技術的詳細

このコミットの技術的詳細は、Goのビルドシステムと cmd/vet のテストメカニズムの相互作用にあります。

  1. ignore タグの削除と vet_test タグの追加:

    • // +build ignore が存在すると、Goのビルドツールはこれらのアセンブリファイルを完全に無視します。これは、cmd/vet がこれらのファイルをテスト対象として読み込むことを妨げます。
    • // +build vet_test に変更することで、これらのファイルは通常のビルドプロセスからは除外されますが、cmd/vet のテストスイートが go test -tags vet_test のような形で実行された際に、これらのファイルがテスト対象として含まれるようになります。これにより、vet がアセンブリコードを正しく解析できるかどうかのテストが可能になります。
  2. package main の削除:

    • アセンブリファイルはGoのソースファイルとは異なり、Goのパッケージシステムに直接属しません。アセンブリファイルは、Goの関数を実装するために使用される低レベルのコードであり、GoのコンパイラによってGoのオブジェクトファイルに変換されます。
    • package main のようなGoのパッケージ宣言がアセンブリファイルに存在すると、vet ツールがこれらのファイルをGoの通常のソースファイルとして誤って解釈し、不適切な警告を発したり、解析ロジックが混乱したりする可能性がありました。
    • package main を削除することで、これらのファイルは純粋なアセンブリテストファイルとして扱われ、vet が意図した通りにその内容を検査できるようになります。

この変更により、cmd/vet のテストカバレッジが向上し、アセンブリコードに対する vet の振る舞いがより正確に検証されるようになります。

コアとなるコードの変更箇所

--- a/src/cmd/vet/test_asm1.s
+++ b/src/cmd/vet/test_asm1.s
@@ -3,9 +3,7 @@
 // license that can be found in the LICENSE file.
 
 // +build amd64
-// +build ignore
-
-package main
+// +build vet_test
 
 TEXT ·arg1(SB),0,$0-2
 	MOVB	x+0(FP), AX
--- a/src/cmd/vet/test_asm2.s
+++ b/src/cmd/vet/test_asm2.s
@@ -3,9 +3,7 @@
 // license that can be found in the LICENSE file.
 
 // +build 386
-// +build ignore
-
-package main
+// +build vet_test
 
 TEXT ·arg1(SB),0,$0-2
 	MOVB	x+0(FP), AX
--- a/src/cmd/vet/test_asm3.s
+++ b/src/cmd/vet/test_asm3.s
@@ -3,9 +3,7 @@
 // license that can be found in the LICENSE file.
 
 // +build arm
-// +build ignore
-
-package main
+// +build vet_test
 
 TEXT ·arg1(SB),0,$0-2
 	MOVB	x+0(FP), AX

コアとなるコードの解説

上記の差分は、src/cmd/vet/test_asm1.ssrc/cmd/vet/test_asm2.ssrc/cmd/vet/test_asm3.s の3つのファイルに対する変更を示しています。

各ファイルで共通して行われている変更は以下の2点です。

  1. // +build ignore の削除と // +build vet_test の追加:

    • // +build ignore は、Goのビルドシステムに対して、このファイルをビルドプロセスから完全に除外するよう指示します。これは、通常のアプリケーションビルドには不要なテストデータや補助ファイルによく使われます。
    • // +build vet_test は、このファイルが vet_test というビルドタグが指定された場合にのみビルドに含まれることを示します。cmd/vet のテストスイートが実行される際に、このタグが使用されることで、これらのアセンブリファイルが vet の解析対象として適切にロードされるようになります。これにより、vet がアセンブリコードを正しく処理できるかどうかのテストが可能になります。
  2. package main の削除:

    • package main はGoのソースファイルが実行可能なプログラムのエントリポイントであることを示すパッケージ宣言です。
    • しかし、これらのファイルはGoのアセンブリファイルであり、Goの通常のパッケージシステムには直接属しません。これらはGoの関数を実装するための低レベルのコードであり、Goのコンパイラによって処理されます。
    • アセンブリファイルに package main が存在すると、cmd/vet がこれらのファイルを通常のGoソースファイルとして誤って解釈し、不適切な警告を発したり、解析ロジックが混乱したりする可能性がありました。この行を削除することで、ファイルは純粋なアセンブリテストファイルとして扱われ、vet が意図した通りにその内容を検査できるようになります。

これらの変更により、cmd/vet のテストハーネスがより堅牢になり、アセンブリコードに対する vet の振る舞いが正確に検証されるようになりました。

関連リンク

参考にした情報源リンク

  • Go言語の公式ドキュメント
  • Go言語のソースコードリポジトリ (GitHub)
  • Go言語のIssueトラッカー (Go Issues)
  • Go言語のメーリングリスト (golang-dev)
  • Stack Overflowなどの技術Q&Aサイト (Go build tags, Go assembly, cmd/vet 関連の質問と回答)
  • Go言語に関する技術ブログや記事