[インデックス 15982] ファイルの概要
このコミットは、Go言語の公式ツールである vet
コマンドの一部である src/cmd/vet/asmdecl.go
ファイルに対する変更です。asmdecl.go
は、Goのアセンブリファイル(.s
拡張子を持つファイル)内の宣言を検証するためのロジックを含んでいます。具体的には、アセンブリコードがGoのリンケージ規約やその他の規則に準拠しているかを確認する役割を担っています。
コミット
- コミットハッシュ:
ab962c8da2f970cfb62450bf63d6c9e48eaab201
- 作者: Rob Pike r@golang.org
- 日付: Wed Mar 27 16:55:16 2013 -0700
- コミットメッセージ:
vet: add a progress message to asmdecl.go Analogous to the one for .go files, it's for .s only and is protected by the verbose flag. R=golang-dev, bradfitz CC=golang-dev https://golang.org/cl/8030046
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/ab962c8da2f970cfb62450bf63d6c9e48eaab201
元コミット内容
vet: add a progress message to asmdecl.go
Analogous to the one for .go files, it's for .s only and is protected
by the verbose flag.
R=golang-dev, bradfitz
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/8030046
変更の背景
この変更の背景には、go vet
ツールが大規模なコードベースに対して実行される際に、ユーザーに処理の進行状況をより明確に伝えるという目的があります。go vet
は、Goのソースコードやアセンブリコードに対して静的解析を行い、潜在的なバグや疑わしい構成を検出するツールです。
以前から .go
ファイルのチェック時には進行状況を示すメッセージが表示されていましたが、アセンブリファイル(.s
)のチェック時には同様のメッセージがありませんでした。アセンブリファイルのチェックは、特に複雑なアセンブリコードや多数のアセンブリファイルが存在する場合に時間がかかることがあります。このような状況でユーザーがツールの実行中に何も出力されないと、ツールがフリーズしているのか、それとも単に処理に時間がかかっているだけなのかが判断しにくくなります。
このコミットは、.s
ファイルのチェック時にも進行状況メッセージを追加することで、ユーザーエクスペリエンスを向上させ、ツールの動作状況をより透過的にすることを目的としています。このメッセージは、go vet
コマンドが冗長モード(verbose flag)で実行された場合にのみ表示されるように設計されており、通常の実行時には余分な出力を避けるよう配慮されています。
前提知識の解説
go vet
コマンド
go vet
は、Go言語の標準ツールチェーンに含まれる静的解析ツールです。Goのソースコードを分析し、コンパイルは通るものの、潜在的なバグや疑わしいコードパターン(例: Printf
のフォーマット文字列と引数の不一致、到達不能なコード、ロックの誤用など)を検出します。開発者がコードの品質を維持し、一般的な間違いを早期に発見するのに役立ちます。
Goにおけるアセンブリファイル(.s
)
Go言語は、パフォーマンスが重要な部分や、特定のハードウェア機能にアクセスする必要がある場合に、アセンブリ言語でコードを記述することをサポートしています。これらのファイルは通常 .s
拡張子を持ちます。Goのアセンブリは、一般的なアセンブリ言語とは異なる独自の構文(Plan 9アセンブラの派生)を持っています。Goのランタイムや標準ライブラリの一部には、最適化のためにアセンブリコードが使用されています。go vet
は、これらのアセンブリファイルも解析対象とし、Goのリンケージ規約やその他の規則に準拠しているかを確認します。
verbose flag (冗長フラグ)
コマンドラインツールにおいて、「verbose flag」(通常 -v
や --verbose
などで指定)は、ツールの実行時に通常よりも詳細な情報を出力させるためのオプションです。これにより、ユーザーはツールの内部動作や進行状況をより深く理解できます。デバッグや問題の診断に役立ちますが、通常の運用では出力を簡潔にするために使用されないことが多いです。このコミットでは、進行状況メッセージがこの冗長フラグによって保護されているため、ユーザーが明示的に詳細な出力を要求した場合にのみ表示されます。
技術的詳細
go vet
ツールは、Goのパッケージを解析する際に、そのパッケージに含まれるGoソースファイル(.go
)とアセンブリファイル(.s
)の両方を処理します。asmdecl.go
ファイルは、特にアセンブリファイルの解析を担当する部分です。
このコミットが追加する機能は、asmCheck
関数内でアセンブリファイルを個別に処理する際に、そのファイル名をコンソールに出力するというものです。この出力は、Println
関数(go vet
ツール内で定義されている、標準出力にメッセージを出力するためのヘルパー関数)を通じて行われます。
重要なのは、この Println
の呼び出しが、go vet
が冗長モードで実行されている場合にのみ有効になるという点です。これは、go vet
の内部で verbose
というグローバルなフラグや設定が管理されており、Println
関数がそのフラグの状態をチェックして、出力を行うかどうかを決定するためです。これにより、ユーザーが冗長な出力を望まない場合には、進行状況メッセージが表示されず、クリーンな出力を維持できます。
この変更は、特に多数のアセンブリファイルを含む大規模なプロジェクトで go vet
を実行する際に、ユーザーがツールの進行状況を視覚的に把握できるようになるため、ツールの使いやすさを向上させます。
コアとなるコードの変更箇所
--- a/src/cmd/vet/asmdecl.go
+++ b/src/cmd/vet/asmdecl.go
@@ -104,6 +104,7 @@ func asmCheck(pkg *Package) {
if !strings.HasSuffix(f.name, ".s") {
continue
}
+ Println("Checking file", f.name)
// Determine architecture from file name if possible.
var arch string
コアとなるコードの解説
変更は src/cmd/vet/asmdecl.go
ファイルの asmCheck
関数内で行われています。
asmCheck
関数は、Goパッケージ内のアセンブリファイルをチェックするための主要な関数です。この関数は、パッケージ内の各ファイル(f
)をループで処理します。
変更前のコードでは、まず if !strings.HasSuffix(f.name, ".s") { continue }
という行で、現在のファイルが .s
拡張子を持つアセンブリファイルであるかどうかを確認しています。もしアセンブリファイルでなければ、次のファイルへと処理をスキップします。
このコミットによって追加された行は以下の通りです。
Println("Checking file", f.name)
この行は、ファイルがアセンブリファイル(.s
)であることが確認された直後に実行されます。
Println
は、go vet
ツール内で定義されている、メッセージを標準出力に出力するための関数です。この関数は、go vet
が冗長モード(verbose flagが有効)で実行されている場合にのみ実際に出力を行います。"Checking file"
は、出力されるメッセージの固定部分です。f.name
は、現在処理中のアセンブリファイルの名前(例:foo.s
)です。
したがって、この行が追加されたことにより、go vet
が冗長モードで実行され、かつアセンブリファイルをチェックする際に、以下のような形式の進行状況メッセージがコンソールに表示されるようになります。
Checking file some_assembly_file.s
Checking file another_assembly_file.s
...
これにより、ユーザーは現在どのファイルが vet
ツールによってチェックされているのかをリアルタイムで把握できるようになり、特に多数のアセンブリファイルがある場合にツールの進行状況を理解しやすくなります。
関連リンク
- Go言語公式ドキュメント: https://go.dev/
go vet
コマンドに関する情報:go help vet
または Goの公式ドキュメントで "vet" を検索- Goのアセンブリに関するドキュメント: https://go.dev/doc/asm
参考にした情報源リンク
- Go言語のソースコード (GitHub): https://github.com/golang/go
- Goのコードレビューシステム (Gerrit): https://go.dev/cl/8030046 (コミットメッセージに記載されているChange-ID)
go vet
の一般的な機能に関する情報 (例: 各種ブログ記事や技術解説サイト)