[インデックス 16072] ファイルの概要
このコミットは、Go言語の標準ライブラリであるbufio
パッケージ内のScanner
型に関するコメントの変更です。bufio
パッケージは、I/O操作をバッファリングすることで効率化するための機能を提供します。特にScanner
は、入力ストリームを定義された区切り文字(トークン)で分割し、簡単に読み取るためのユーティリティです。このコミットは、Scanner
のデフォルトの行分割動作に関する説明をより明確にすることを目的としています。
コミット
このコミットは、bufio
パッケージのScanner
がデフォルトでどのように行を分割するかについての説明を、より分かりやすくするためのものです。これはコメントの変更のみであり、コードのセマンティックな(意味的な)変更は一切ありません。
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/995eb2cf5166908d2eddde6829c79aa5908ef11b
元コミット内容
commit 995eb2cf5166908d2eddde6829c79aa5908ef11b
Author: Rob Pike <r@golang.org>
Date: Wed Apr 3 10:40:04 2013 -0700
bufio: make it a little clearer how the default Scanner splits lines.
Just commentary, no semantic change.
R=golang-dev, bradfitz
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/8329043
変更の背景
bufio.Scanner
は、ファイルやネットワーク接続などのio.Reader
からデータを読み込み、それを「トークン」と呼ばれる意味のある単位に分割するための強力なツールです。デフォルトでは、Scanner
は入力を「行」に分割します。この「行」の定義には、行末の改行文字(\n
)やキャリッジリターンと改行の組み合わせ(\r\n
)をどのように扱うかというニュアンスが含まれます。
以前のコメントでは、デフォルトの分割関数が「改行が取り除かれた行」を返すという説明がありました。しかし、これは厳密には「行末の終端文字(改行やCRLF)が取り除かれた行」を意味します。この微妙な違いが、特にGo言語に慣れていない開発者にとっては混乱を招く可能性がありました。
このコミットの背景には、ドキュメントの正確性と明確性を向上させ、ユーザーがbufio.Scanner
の挙動をより正確に理解できるようにするという意図があります。セマンティックな変更がないため、これは純粋にドキュメンテーションの改善であり、ライブラリの使いやすさを向上させるためのものです。
前提知識の解説
bufio
パッケージ
bufio
パッケージは、Go言語におけるバッファリングされたI/O操作を提供します。これにより、ディスクやネットワークとのやり取りの回数を減らし、プログラムのパフォーマンスを向上させることができます。主な型にはReader
、Writer
、そしてこのコミットで関連するScanner
があります。
bufio.Scanner
bufio.Scanner
は、io.Reader
からデータを読み込み、それをトークン(単語、行、バイトなど)に分割するための高レベルなインターフェースを提供します。これは、テキストファイルを1行ずつ読み込んだり、単語を抽出したりするのに非常に便利です。
Scanner
の主要なメソッドは以下の通りです。
Scan()
: 次のトークンに進みます。トークンが見つかればtrue
を、それ以上トークンがなければfalse
を返します。Text()
: 現在のトークンを文字列として返します。Bytes()
: 現在のトークンをバイトスライスとして返します。Err()
: スキャン中に発生したエラーを返します。
bufio.SplitFunc
SplitFunc
は、Scanner
がどのように入力をトークンに分割するかを定義する関数型です。この関数は以下のシグネチャを持ちます。
type SplitFunc func(data []byte, atEOF bool) (advance int, token []byte, err error)
data []byte
: スキャン対象の入力データの一部。atEOF bool
: 入力の終端に達したかどうかを示すフラグ。advance int
:data
スライス内で、次のスキャンを開始する位置までのバイト数。token []byte
: 見つかったトークン。err error
: エラーが発生した場合に返されるエラー。
Scanner
は、このSplitFunc
を使用して、入力ストリームからトークンを抽出し、それらの間の区切り文字をスキップします。
bufio.ScanLines
bufio
パッケージには、いくつかの組み込みのSplitFunc
が提供されています。ScanLines
はその一つで、入力を各行に分割します。ScanLines
は、行末のマーカー(\n
または\r\n
)を取り除いたテキスト行を返します。
技術的詳細
このコミットの技術的詳細は、主にドキュメンテーションの用語の選択とその影響にあります。
変更前:
// function breaks the input into lines with newlines stripped.
(関数は入力を改行が取り除かれた行に分割します。)
変更後:
// function breaks the input into lines with line termination stripped.
(関数は入力を行終端が取り除かれた行に分割します。)
この変更は、「newlines stripped」(改行が取り除かれた)という表現を「line termination stripped」(行終端が取り除かれた)という表現に置き換えることで、より正確な意味を伝えることを目的としています。
- "newlines stripped" の曖昧さ: 「改行(newlines)」という言葉は、一般的に
\n
(ラインフィード)を指すことが多いです。しかし、Windows環境などでは行末が\r\n
(キャリッジリターンとラインフィード)で表現されることがあります。bufio.ScanLines
は、\r?\n
という正規表現で示されるように、\r\n
も\n
も行終端として認識し、これらを取り除きます。 - "line termination stripped" の正確性: 「行終端(line termination)」という言葉は、
\n
と\r\n
の両方を含む、より一般的な行の終わりを示すシーケンスを指します。これにより、ScanLines
が単に\n
だけでなく、\r\n
も適切に処理し、それらを行のデータから取り除くという事実がより明確に伝わります。
また、NewScanner
関数のコメントにも以下の行が追加されました。
// The split function defaults to ScanLines.
(分割関数はデフォルトでScanLinesです。)
この追加により、NewScanner
がデフォルトでScanLines
を使用することが明示され、ユーザーがScanner
のデフォルトの挙動をより迅速に理解できるようになります。これは、Scanner
を初めて使用する開発者にとって特に有用な情報です。
ScanLines
関数のコメントも同様に修正されています。
変更前:
// by one mandatory newline. In regular expression notation, it is
\r?\n'.`
変更後:
// by one mandatory newline. In regular expression notation, it is
\r?\n.
これは、正規表現の表記を囲むバッククォートの扱いに関する修正であり、ドキュメントのレンダリングにおける表示の問題を修正するものです。
これらの変更は、コードの動作には影響を与えませんが、ドキュメンテーションの品質と正確性を大幅に向上させ、Go言語のbufio
パッケージの使いやすさに貢献します。
コアとなるコードの変更箇所
diff --git a/src/pkg/bufio/scan.go b/src/pkg/bufio/scan.go
index d94f7f9adc..486853e6bc 100644
--- a/src/pkg/bufio/scan.go
+++ b/src/pkg/bufio/scan.go
@@ -16,7 +16,7 @@ import (
// the Scan method will step through the 'tokens' of a file, skipping
// the bytes between the tokens. The specification of a token is
// defined by a split function of type SplitFunc; the default split
-// function breaks the input into lines with newlines stripped. Split
+// function breaks the input into lines with line termination stripped. Split
// functions are defined in this package for scanning a file into
// lines, bytes, UTF-8-encoded runes, and space-delimited words. The
// client may instead provide a custom split function.
@@ -70,6 +70,7 @@ const (
)
// NewScanner returns a new Scanner to read from r.
+// The split function defaults to ScanLines.
func NewScanner(r io.Reader) *Scanner {
return &Scanner{
r: r,
@@ -257,7 +258,7 @@ func dropCR(data []byte) []byte {
// ScanLines is a split function for a Scanner that returns each line of
// text, stripped of any trailing end-of-line marker. The returned line may
// be empty. The end-of-line marker is one optional carriage return followed
-// by one mandatory newline. In regular expression notation, it is `\\r?\\n\'.
+// by one mandatory newline. In regular expression notation, it is `\\r?\\n`.\n
// The last non-empty line of input will be returned even if it has no
// newline.
func ScanLines(data []byte, atEOF bool) (advance int, token []byte, err error) {
コアとなるコードの解説
変更はsrc/pkg/bufio/scan.go
ファイル内のコメントに集中しています。
-
Scanner
の概要コメントの変更:- // function breaks the input into lines with newlines stripped. Split + // function breaks the input into lines with line termination stripped. Split
Scanner
のデフォルトのSplitFunc
がどのように動作するかを説明する部分です。「newlines stripped」(改行が取り除かれた)から「line termination stripped」(行終端が取り除かれた)に変更され、ScanLines
が\n
だけでなく\r\n
も処理することの正確性が向上しました。 -
NewScanner
関数のコメント追加:+ // The split function defaults to ScanLines. func NewScanner(r io.Reader) *Scanner {
NewScanner
がデフォルトでScanLines
を使用することを明示するコメントが追加されました。これにより、Scanner
の初期設定がより明確になります。 -
ScanLines
関数のコメント修正:- // by one mandatory newline. In regular expression notation, it is `\\r?\\n\'. + // by one mandatory newline. In regular expression notation, it is `\\r?\\n`.
ScanLines
が認識する行終端マーカーの正規表現表記に関するコメントの修正です。これは、バッククォートの閉じ方が正しくなるように修正されたもので、ドキュメントの表示上の問題に対応しています。
これらの変更はすべてコメントの修正であり、bufio
パッケージのScanner
の動作自体には影響を与えません。しかし、ドキュメンテーションの正確性と明確性を高めることで、開発者がこのライブラリをより効果的に使用できるようになります。
関連リンク
- Go言語
bufio
パッケージの公式ドキュメント: https://pkg.go.dev/bufio
参考にした情報源リンク
このコミットは、Go言語の公式リポジトリ内の変更であり、その内容はコミットメッセージと差分から直接読み取れるため、外部の参考情報源は特にありません。