Keyboard shortcuts

Press or to navigate between chapters

Press S or / to search in the book

Press ? to show this help

Press Esc to hide this help

[インデックス 16073] ファイルの概要

このコミットは、Go 1.1のリリースノート(doc/go1.1.html)に、64ビットアーキテクチャにおけるヒープサイズに関する記述を追加するものです。具体的には、64ビット環境での最大ヒープサイズが大幅に拡大されたこと、およびその詳細がシステムに依存し、将来変更される可能性があることを明記しています。

コミット

commit 91cb9995c390cac1f8121f075045ad94c0086fd7
Author: Rob Pike <r@golang.org>
Date:   Wed Apr 3 10:40:33 2013 -0700

    doc/go1.1.html: state that the heap is bigger on 64-bit machines
    Be deliberately vague, since the precise details should not be depended upon.
    Fixes #5155.
    
    R=golang-dev, gri, adg
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/8283044

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/91cb9995c390cac1f8121f075045ad94c0086fd7

元コミット内容

doc/go1.1.html: state that the heap is bigger on 64-bit machines Be deliberately vague, since the precise details should not be depended upon. Fixes #5155.

変更の背景

この変更の背景には、Go 1.1におけるランタイムの改善、特にガベージコレクタ(GC)とメモリ管理の進化があります。Goはガベージコレクションによってメモリ管理を自動化していますが、大規模なアプリケーションやデータ処理においては、ヒープサイズがパフォーマンスやスケーラビリティに直結します。

Go 1.0のリリース後、ユーザーからのフィードバックやGo言語の利用が広がるにつれて、特に64ビットシステム上でのメモリ使用量が多いアプリケーションにおいて、ヒープサイズの制約が課題となるケースが出てきました。Go 1.1では、これらの課題に対応するため、ランタイムの様々な最適化が行われ、その一環として64ビット環境でのヒープサイズの上限が大幅に引き上げられました。

コミットメッセージにある Fixes #5155 は、GitHubのIssue #5155に対応するものであることを示しています。このIssueは、おそらく64ビットシステムにおけるヒープサイズの制約や、より大きなメモリ空間を効率的に利用したいという要望に関連していたと考えられます。

この変更は、Goアプリケーションがより大規模なデータセットを扱ったり、より多くの並行処理を効率的に実行したりすることを可能にし、Go言語の適用範囲を広げる上で重要な意味を持ちます。ただし、具体的なヒープサイズの上限はシステムやGoのバージョンによって変動する可能性があるため、ドキュメントでは「意図的に曖昧に」記述されています。これは、ユーザーが特定の数値に依存しないようにするための配慮です。

前提知識の解説

ヒープ (Heap)

プログラミングにおけるヒープとは、プログラムが実行時に動的にメモリを割り当てる領域のことです。Go言語では、makenewなどの関数を使って作成されるデータ構造(スライス、マップ、チャネル、構造体のインスタンスなど)は、通常ヒープに割り当てられます。ヒープに割り当てられたメモリは、不要になった際にガベージコレクタによって自動的に解放されます。

ガベージコレクション (Garbage Collection, GC)

ガベージコレクションは、プログラムが動的に確保したメモリのうち、もはやどの部分からも参照されなくなった(到達不能になった)メモリ領域を自動的に解放する仕組みです。これにより、プログラマは手動でのメモリ管理(確保と解放)から解放され、メモリリークなどのバグを減らすことができます。Go言語のガベージコレクタは、並行性(concurrent)と低遅延(low-latency)を重視して設計されており、プログラムの実行を長時間停止させることなくメモリを回収します。

32ビットと64ビットアーキテクチャ

コンピュータのアーキテクチャには、主に32ビットと64ビットがあります。この違いは、CPUが一度に処理できるデータの量や、アドレス指定できるメモリ空間の大きさに影響します。

  • 32ビットアーキテクチャ: 理論上、約4GB(2^32バイト)までのメモリ空間しか直接アドレス指定できません。これは、物理メモリが4GB以上搭載されていても、32ビットOSやアプリケーションからはそのすべてを利用できないことを意味します。
  • 64ビットアーキテクチャ: 理論上、非常に広大なメモリ空間(2^64バイト、約18エクサバイト)をアドレス指定できます。これにより、4GBを超える物理メモリをフルに活用でき、大規模なデータセットをメモリ上に展開するアプリケーションに適しています。

Goのランタイムは、実行されるアーキテクチャに応じてメモリ管理の戦略を調整します。32ビット環境ではアドレス空間の制約があるため、ヒープサイズもそれに合わせて制限されますが、64ビット環境ではより大きなヒープを利用できる柔軟性があります。

Go 1.1

Go 1.1は、2013年5月にリリースされたGo言語のメジャーバージョンアップです。このバージョンでは、パフォーマンスの向上、ランタイムの改善、標準ライブラリの拡張など、多くの重要な変更が加えられました。特に、ガベージコレクタの性能向上や、並行処理の効率化が図られ、Go言語がより大規模なシステム開発に適するようになりました。このコミットは、Go 1.1のリリースノートの一部として、これらのランタイム改善の恩恵をユーザーに伝えるためのものです。

技術的詳細

このコミット自体はコードの機能変更ではなく、Go 1.1のリリースノート(doc/go1.1.html)に新しいセクションを追加するものです。追加される内容は、64ビットアーキテクチャにおけるGoランタイムのヒープ管理の改善についてです。

Goランタイムは、プログラムが使用するメモリを管理するために、ヒープ領域を確保します。このヒープ領域の最大サイズは、オペレーティングシステム、利用可能な物理メモリ、そしてGoランタイム自体の設計によって決定されます。

Go 1.1では、特に64ビットシステムにおいて、ランタイムがより大きな仮想アドレス空間を効率的に利用できるように内部的な変更が加えられました。これにより、Goプログラムが利用できる最大ヒープサイズが、Go 1.0以前の数ギガバイトから、数十ギガバイトへと大幅に拡大されました。この変更は、大規模なデータ構造をメモリに保持する必要があるアプリケーションや、多数のゴルーチン(Goの軽量スレッド)が同時に動作するような並行性の高いアプリケーションにとって非常に重要です。

ドキュメントで「正確な詳細はシステムに依存し、変更される可能性がある」と述べられているのは、以下の理由によります。

  1. OSとハードウェアの制約: 実際の最大ヒープサイズは、実行されるOS(Linux, Windows, macOSなど)や、利用可能な物理メモリ、スワップ領域の有無など、システム全体の構成に依存します。
  2. Goランタイムの進化: Goのガベージコレクタやメモリ管理のアルゴリズムは、将来のバージョンでさらに最適化される可能性があります。これにより、ヒープ管理の内部的な詳細や、実質的な最大ヒープサイズが変更される可能性があります。Go開発チームは、ユーザーが特定の内部実装の詳細に依存しないように促しています。
  3. 仮想メモリの利用: 64ビットシステムでは、物理メモリよりもはるかに大きな仮想アドレス空間を利用できます。Goランタイムはこの仮想アドレス空間を効率的にマッピングし、必要に応じて物理メモリを割り当てます。ヒープサイズの上限は、この仮想アドレス空間の利用可能性に大きく影響されます。

この変更は、既存のGoプログラムに対しては、より大きなヒープで実行できるというメリットのみを提供し、互換性を損なうものではありません。つまり、既存のプログラムは変更なしに、より多くのメモリを消費できるようになります。

コアとなるコードの変更箇所

このコミットは、doc/go1.1.html ファイルに以下のHTMLスニペットを追加します。

--- a/doc/go1.1.html
+++ b/doc/go1.1.html
@@ -201,6 +201,24 @@ would instead say:
 i := int(int32(x))\n </pre>\n \n+<h3 id=\"heap\">Heap size on 64-bit architectures</h3>\n+\n+<p>\n+On 64-bit architectures only, the maximum heap size has been enlarged substantially,\n+from a few gigabytes to several tens of gigabytes.\n+(The exact details depend on the system and may change.)\n+</p>\n+\n+<p>\n+On 32-bit architectures, the heap size has not changed.\n+</p>\n+\n+<p>\n+<em>Updating</em>:\n+This change should have no effect on existing programs beyond allowing them\n+to run with larger heaps.\n+</p>\n+\n <h3 id=\"unicode\">Unicode</h3>

具体的には、<h3 id="heap"> から始まる新しいセクションが追加されています。

コアとなるコードの解説

追加されたHTMLコードは、Go 1.1のリリースノートに「Heap size on 64-bit architectures」という新しいセクションを設けています。

このセクションの主要なポイントは以下の通りです。

  1. 64ビットアーキテクチャのみ: ヒープサイズの大幅な拡大は、64ビットアーキテクチャに限定されることを明記しています。これは、32ビットシステムではアドレス空間の制約があるため、同様の拡大が困難であることを示唆しています。
  2. 大幅な拡大: 最大ヒープサイズが「数ギガバイトから数十ギガバイト」へと「大幅に拡大された」と説明しています。これにより、Goアプリケーションがより多くのメモリを効率的に利用できるようになり、大規模なデータ処理やメモリ集約型アプリケーションの実行能力が向上します。
  3. 詳細の曖昧さ: 「正確な詳細はシステムに依存し、変更される可能性がある」と注意書きがあります。これは、ユーザーが特定の数値に依存すべきではないという開発者の意図を反映しています。Goランタイムの内部実装やOSのメモリ管理の挙動によって、具体的な上限は変動しうるため、抽象的な表現に留めています。
  4. 32ビットアーキテクチャへの影響なし: 32ビットアーキテクチャではヒープサイズに変更がないことを明確に述べています。
  5. 既存プログラムへの影響: この変更は「既存のプログラムに影響を与えない」と強調しています。唯一の影響は、既存のプログラムがより大きなヒープで実行できるようになること、つまり、メモリ使用量が多いプログラムが以前よりも安定して動作する可能性があるというポジティブな影響のみです。

このドキュメントの追加は、Go 1.1におけるランタイムの重要な改善点をユーザーに伝え、特に64ビット環境でのGoの利用を促進することを目的としています。

関連リンク

参考にした情報源リンク