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[インデックス 16171] ファイルの概要

このコミットは、Go言語の標準ライブラリのテストコードである test/chan/select2.go に関連するものです。このファイルは、Goの並行処理の主要な要素であるチャネル(channel)と select ステートメントの挙動、特に多数のチャネルと select 操作がメモリ使用量に与える影響をテストするために設計されています。具体的には、100,000個のチャネルと select ステートメントを生成し、その後のメモリ割り当て量を測定することで、メモリリークや過剰なメモリ消費がないかを確認しています。

コミット

commit 14cb1a1da98bbecaf64c8393138b845ce5562c23
Author: Carl Shapiro <cshapiro@google.com>
Date:   Fri Apr 12 15:58:34 2013 -0700

    test: raise the allocation threshold for chan/select2.go failure
    
    Updates #5282
    
    R=golang-dev, r
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/8718045

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/14cb1a1da98bbecaf64c8393138b845ce5562c23

元コミット内容

test: raise the allocation threshold for chan/select2.go failure

このコミットは、test/chan/select2.go テストにおけるメモリ割り当ての閾値を引き上げることを目的としています。これは、特定の条件下でテストが失敗するのを防ぐための変更です。コミットメッセージには Updates #5282 とあり、これは関連する問題追跡システムのエントリを示唆しています。

変更の背景

この変更の背景には、test/chan/select2.go テストが、本来バグではないメモリ使用量のわずかな変動によって失敗する可能性があったことが考えられます。Goのランタイム、特にガベージコレクション(GC)の挙動や、OSレベルでのメモリ管理の細かな違いにより、同じコードを実行してもメモリ割り当て量が厳密に一定になるとは限りません。

元のテストでは、100,000個のチャネルと select ステートメントを生成した後のメモリ割り当て量が 1e5 (100,000バイト) を超えると「BUG: too much memory」として報告していました。しかし、この閾値が厳しすぎたため、環境やGoのバージョン、あるいはランタイムのわずかな最適化の違いによって、許容範囲内のメモリ使用量であってもテストが失敗してしまう「flaky test」(不安定なテスト)となっていた可能性があります。

このコミットは、このような不安定なテストを修正し、テストの信頼性を向上させるために、メモリ割り当ての許容範囲を広げることを目的としています。これにより、実際のメモリリークや過剰なメモリ消費が発生した場合のみテストが失敗するように調整されます。

前提知識の解説

Goのチャネル (Channels)

Goにおけるチャネルは、ゴルーチン(goroutine)間で値を送受信するための通信メカニズムです。チャネルは型付けされており、特定の型の値のみを送受信できます。チャネルは、並行処理における同期と通信を安全に行うための強力なプリミティブです。

select ステートメント

select ステートメントは、複数のチャネル操作を待機し、準備ができた最初の操作を実行するために使用されます。これは、他の言語における switch ステートメントに似ていますが、チャネル操作に特化しています。select は、デッドロックを回避し、複数の並行イベントを効率的に処理するために不可欠です。

ガベージコレクション (GC) と runtime.GC()

Goは自動メモリ管理(ガベージコレクション)を採用しています。開発者は手動でメモリを解放する必要がありません。ガベージコレクタは、不要になったメモリを自動的に回収します。 runtime.GC() 関数は、Goのガベージコレクタを明示的に実行するよう要求します。テストコードでこれを使用するのは、メモリ使用量を測定する前に、到達不能なオブジェクトが確実に回収されるようにするためです。これにより、測定されるメモリ使用量がより正確になります。

メモリ統計 (runtime.ReadMemStatsMemStats.Alloc)

runtime.ReadMemStats 関数は、Goランタイムのメモリ統計情報を MemStats 構造体に読み込みます。MemStats 構造体には、ヒープの使用量、ガベージコレクションの統計など、さまざまなメモリ関連の情報が含まれています。 MemStats.Alloc フィールドは、現在ヒープに割り当てられているオブジェクトの合計バイト数を示します。このテストでは、特定の操作(100,000個のチャネルと select の生成)の前後でこの値を比較し、その差分がメモリ割り当て量として評価されます。

技術的詳細

test/chan/select2.go テストは、大量のチャネルと select ステートメントを生成し、それらがメモリに与える影響を評価します。テストのロジックは以下の通りです。

  1. 初期のメモリ割り当て量 (alloc) を記録します。
  2. 100,000個のチャネルと、それらに対する select ステートメントを含むゴルーチンを生成します。
  3. runtime.GC() を呼び出し、ガベージコレクションを強制的に実行します。これにより、テスト対象の操作によって一時的に割り当てられたが、もはや参照されていないメモリが確実に回収されます。
  4. 現在のメモリ割り当て量 (memstats.Alloc) を再度記録します。
  5. memstats.Alloc - alloc の差分を計算し、これがテスト対象の操作によって追加で割り当てられたメモリ量と見なします。
  6. この差分が特定の閾値を超えた場合、テストは失敗し、「BUG: too much memory」というメッセージを出力します。

このコミットでは、その閾値が 1e5 (100,000バイト) から 1.1e5 (110,000バイト) に変更されました。これは、許容されるメモリ割り当て量を10,000バイト(約10KB)増加させることを意味します。

この変更が必要になった理由は、Goのランタイムが進化するにつれて、あるいは異なる実行環境(OS、CPUアーキテクチャなど)において、チャネルや select の内部実装がわずかに変更されたり、ガベージコレクタの挙動が最適化されたりすることで、メモリ使用量が以前よりもわずかに増加する可能性があったためと考えられます。例えば、内部的なデータ構造のパディング、アライメントの変更、あるいは特定の最適化による一時的なメモリ使用量の増加などが考えられます。

テストの目的は、メモリリークのような深刻なバグを検出することであり、わずかなメモリ使用量の変動でテストが失敗することは望ましくありません。この閾値の引き上げは、テストの堅牢性を高め、Goランタイムの正常な変動を許容しつつ、依然として過剰なメモリ消費を検出できるようにするための調整です。

コアとなるコードの変更箇所

--- a/test/chan/select2.go
+++ b/test/chan/select2.go
@@ -47,7 +47,7 @@ func main() {
 	runtime.GC()
 	runtime.ReadMemStats(memstats)
 
-	if memstats.Alloc-alloc > 1e5 {
+	if memstats.Alloc-alloc > 1.1e5 {
 		println("BUG: too much memory for 100,000 selects:", memstats.Alloc-alloc)
 	}
 }

コアとなるコードの解説

変更された行は test/chan/select2.gomain 関数内にあります。

元のコード: if memstats.Alloc-alloc > 1e5 {

変更後のコード: if memstats.Alloc-alloc > 1.1e5 {

この変更は、メモリ割り当て量のチェックを行う条件式を修正しています。

  • memstats.Alloc: runtime.ReadMemStats によって取得された、現在のヒープに割り当てられているオブジェクトの合計バイト数。
  • alloc: テスト開始前に記録された初期のメモリ割り当て量。
  • memstats.Alloc - alloc: テスト対象の操作(100,000個のチャネルと select の生成)によって追加で割り当てられたメモリ量。

1e51 * 10^5、つまり 100,000 を意味します。 1.1e51.1 * 10^5、つまり 110,000 を意味します。

したがって、この変更は、追加で割り当てられたメモリ量が100,000バイトを超えた場合にテストを失敗させるのではなく、110,000バイトを超えた場合にのみ失敗させるように閾値を緩和しています。これにより、テストがより寛容になり、Goランタイムのわずかなメモリ使用量の変動によって誤って失敗することがなくなります。

関連リンク

参考にした情報源リンク