[インデックス 16209] ファイルの概要
このコミットは、Go言語の標準ライブラリのAPI定義ファイルである api/next.txt
を更新し、io
パッケージに新しいエラー変数 io.ErrNoProgress
を追加するものです。これは、Goの将来のリリースで導入されるAPI変更を追跡し、新しい機能や振る舞いを文書化するプロセスの一部です。
コミット
- コミットハッシュ:
c546e9d2c22f8d6149bc8050a94eb0a221553d3e5
- 作者: Brad Fitzpatrick bradfitz@golang.org
- コミット日時: 2013年4月20日 土曜日 17:20:58 -0700
- コミットメッセージ:
api: update next.txt; add io.ErrNoProgress R=golang-dev, r CC=golang-dev https://golang.org/cl/8887043
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/c546e9d2c22f8d6149bc8050a94eb0a22153d3e5
元コミット内容
api: update next.txt; add io.ErrNoProgress
R=golang-dev, r
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/8887043
変更の背景
この変更の主な背景は、Go言語の標準ライブラリにおけるAPIの進化と、io
パッケージにおける特定のシナリオでのエラーハンドリングの改善です。api/next.txt
は、Goの次期リリースで導入される予定のAPI変更を記録するための重要なファイルです。このファイルに io.ErrNoProgress
が追加されたということは、io
パッケージ内の何らかの操作において、「進行がない」状態を明示的に示す新しいエラーが必要とされたことを意味します。
具体的には、io.Reader
や io.Writer
のようなインターフェースを実装する際に、呼び出しが成功したにもかかわらず、期待されるデータの読み書きが全く進まない(例えば、0バイトしか読み書きできない)状況が発生する可能性があります。このような状況は、デッドロックや無限ループにつながる可能性があり、アプリケーションの堅牢性を損なう原因となります。io.ErrNoProgress
の導入は、このような特定の「進行なし」の状態を明確に区別し、開発者が適切に処理できるようにするためのものです。
前提知識の解説
api/next.txt
と Go APIの安定性
Go言語は、後方互換性を非常に重視しており、既存のコードが新しいGoのバージョンでも動作し続けることを保証しています。この互換性を維持するために、Goの開発チームはAPIの変更を厳密に管理しています。api/next.txt
は、Goの次期メジャーリリースで公開される予定のAPI変更(新しい関数、型、変数など)を事前に記録するためのテキストファイルです。
このファイルは、GoのAPIチェッカーによって利用され、Goのソースコードに対する変更がAPIの互換性を損なわないかを確認するために使用されます。新しいAPI要素が追加される際、まずこの api/next.txt
にその情報が追記され、その後に実際のコード変更が行われます。これにより、APIの変更が意図的かつ計画的に行われ、開発者コミュニティに透明性を提供します。
io
パッケージと io.Reader
/io.Writer
インターフェース
io
パッケージは、Go言語におけるI/Oプリミティブを提供します。これは、データの読み書きに関する基本的なインターフェースと関数を含んでいます。
-
io.Reader
インターフェース:type Reader interface { Read(p []byte) (n int, err error) }
Read
メソッドは、データをp
に読み込み、読み込んだバイト数n
とエラーerr
を返します。n
が0でerr
がnil
でない場合、エラーが発生したことを意味します。n
が0でerr
がnil
の場合、それはRead
がブロックしたが、まだデータが利用可能でないことを意味します。 -
io.Writer
インターフェース:type Writer interface { Write(p []byte) (n int, err error) }
Write
メソッドは、p
からデータを書き込み、書き込んだバイト数n
とエラーerr
を返します。
これらのインターフェースは、ファイル、ネットワーク接続、メモリバッファなど、さまざまなI/Oソースとシンクに対して統一されたアクセスを提供します。
Goにおけるエラーハンドリング
Go言語では、エラーは多値戻り値の最後の要素として返される慣習があります。通常、nil
はエラーがないことを意味し、非 nil
の error
インターフェースの値はエラーが発生したことを示します。io
パッケージには、io.EOF
(ファイルの終端に達したことを示す)や io.ErrUnexpectedEOF
(予期せぬファイルの終端)など、いくつかの標準的なエラーが定義されています。
技術的詳細
io.ErrNoProgress
は、io
パッケージに新しく追加されたエラー変数です。このエラーは、io.Reader
や io.Writer
の操作において、呼び出し自体は成功したものの、実際に読み書きされたバイト数が0であり、かつエラーも発生していないという、特定の「進行がない」状態を示すために導入されました。
このエラーがなぜ重要なのかを理解するために、io.Copy
のような関数を考えてみましょう。io.Copy
は io.Reader
から io.Writer
へデータをコピーしますが、内部的には Reader.Read
と Writer.Write
を繰り返し呼び出します。もし Read
や Write
の呼び出しが常に0バイトを返し、かつエラーも返さない場合、io.Copy
は無限ループに陥る可能性があります。これは、特にネットワークI/OやパイプのようなブロックするI/O操作で発生しうる問題です。
io.ErrNoProgress
の導入により、このような状況を明示的に検出できるようになります。例えば、io.Reader
の実装が、特定の条件下で0バイトを返し、かつ nil
エラーを返す場合、その実装は io.ErrNoProgress
を返すように変更される可能性があります。これにより、io.Copy
のような高レベルのI/O関数が、無限ループに陥ることなく、この「進行なし」の状態を検出し、適切にエラーを返すことができるようになります。
このエラーは、特にカスタムの io.Reader
や io.Writer
を実装する際に、その振る舞いをより正確に表現し、利用側がより堅牢なコードを書くための手がかりとなります。
コアとなるコードの変更箇所
このコミットによるコードの変更は、api/next.txt
ファイルへの1行の追加のみです。
--- a/api/next.txt
+++ b/api/next.txt
@@ -122,6 +122,7 @@ pkg go/printer, type Config struct, Indent int
pkg image, const YCbCrSubsampleRatio440 YCbCrSubsampleRatio
pkg io, type ByteWriter interface { WriteByte }\n pkg io, type ByteWriter interface, WriteByte(uint8) error
+pkg io, var ErrNoProgress error
pkg log/syslog (darwin-386), const LOG_AUTH Priority
pkg log/syslog (darwin-386), const LOG_AUTHPRIV Priority
pkg log/syslog (darwin-386), const LOG_CRON Priority
具体的には、+pkg io, var ErrNoProgress error
の行が追加されています。
コアとなるコードの解説
追加された +pkg io, var ErrNoProgress error
の行は、Goの次期リリースで io
パッケージに ErrNoProgress
という名前の error
型の変数が追加されることを示しています。
api/next.txt
は、GoのAPI互換性チェックツールが使用するファイルであり、このファイルにエントリが追加されることで、Goの標準ライブラリに新しい公開API要素が導入されることが公式に宣言されます。
この行が意味することは以下の通りです。
pkg io
: この新しいAPI要素がio
パッケージに属することを示します。var ErrNoProgress error
:ErrNoProgress
という名前の変数が追加され、その型が組み込みのerror
インターフェースであることを示します。これは、io.EOF
のように、特定の状況を示すための事前定義されたエラー値として利用されることを意味します。
この変更自体は、実際のGoのソースコード(例: src/io/io.go
)に var ErrNoProgress = errors.New("io: no progress")
のような定義が追加されることを前提としています。api/next.txt
への追加は、そのAPIがGoの将来のバージョンで利用可能になることを示す最初のステップです。
関連リンク
- Go CL 8887043: https://golang.org/cl/8887043 (このコミットに対応するGoのコードレビューシステム上のチェンジリスト)
参考にした情報源リンク
- Go言語の公式ドキュメント (ioパッケージ): https://pkg.go.dev/io
- Go言語のAPI互換性に関するドキュメント (Go 1 and the Future of Go Programs): https://go.dev/doc/go1compat
- GoのAPIチェッカーに関する情報 (Go source code): https://github.com/golang/go/tree/master/api
- Goの
errors
パッケージに関する情報: https://pkg.go.dev/errors - Goの
io.Copy
に関する情報: https://pkg.go.dev/io#Copy