[インデックス 16267] ファイルの概要
このコミットは、Go言語のビルドシステムに関するドキュメント、具体的にはsrc/pkg/go/build/doc.goファイルに対する変更です。go/buildパッケージは、Goプログラムのビルドプロセスにおいて、ソースファイルの選択やコンパイル条件の適用を司る重要な役割を担っています。doc.goファイルは、Goのパッケージにおける慣例として、そのパッケージ全体の概要や重要な概念、使用方法などを記述するためのドキュメントファイルです。このファイルは、go docコマンドなどで参照される公式ドキュメントの一部となります。
このコミットの目的は、Goのビルド制約(build constraints)に関するドキュメントをより明確にし、特にファイル名に基づく暗黙的なビルド制約について、GOOS.goのような形式のファイルも対象となることを追記することにあります。
コミット
commit a21b36da1cd1e00941536ee1b4e33f456a4500dc
Author: Shenghou Ma <minux.ma@gmail.com>
Date: Sun May 5 02:23:19 2013 +0800
go/build: document GOOS.go also has implicit GOOS build constraint
R=golang-dev, i.caught.air, alexb, r
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/9064044
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/a21b36da1cd1e00941536ee1b4e33f456a4500dc
元コミット内容
go/build: document GOOS.go also has implicit GOOS build constraint
このコミットメッセージは、「go/buildパッケージにおいて、GOOS.go形式のファイルも暗黙的なGOOSビルド制約を持つことをドキュメント化する」という変更の意図を簡潔に示しています。
変更の背景
Go言語のビルドシステムには、特定のオペレーティングシステム(GOOS)やアーキテクチャ(GOARCH)に特化したコードを条件付きでコンパイルするための「ビルド制約」という機能があります。これは、ソースファイルの内容に// +buildディレクティブを記述する方法と、ファイル名に特定のパターンを含めることで暗黙的に適用される方法の2種類があります。
以前のドキュメントでは、ファイル名に基づく暗黙的なビルド制約について、*_GOOS.go、*_GOARCH.go、*_GOOS_GOARCH.goといったパターンが明記されていました。しかし、実際にはwindows.goやlinux.goのように、ファイル名が直接GOOSやGOARCHの値と一致する場合も、そのOSやアーキテクチャに特化したファイルとして扱われ、暗黙的なビルド制約が適用されていました。
このコミットは、この「GOOS.goやGOARCH.goのようなリテラルなファイル名も暗黙的なビルド制約の対象となる」という重要な挙動がドキュメントに明記されていなかったため、その不足を補うために行われました。これにより、開発者がGoのビルドシステムをより正確に理解し、意図しないコンパイルエラーやビルドの失敗を防ぐことが期待されます。
前提知識の解説
Goのビルド制約 (Build Constraints)
Go言語のビルド制約は、特定の環境(OS、アーキテクチャ、Goのバージョン、カスタムタグなど)でのみコンパイルされるべきソースファイルを指定するためのメカニズムです。これにより、クロスプラットフォーム開発において、プラットフォーム固有のコードを適切に分離し、管理することができます。
ビルド制約の指定方法は主に以下の2つです。
// +buildディレクティブ: ソースファイルの先頭(パッケージ宣言の前)に// +build tag1,tag2 !tag3のような形式で記述します。これは、指定されたタグが有効な場合にのみファイルがコンパイルされることを意味します。!は否定を意味します。- ファイル名による暗黙的な制約: 特定の命名規則に従うファイルは、自動的にビルド制約が適用されます。これがこのコミットの主題です。
GOOSとGOARCH
GOOS(Go Operating System): Goプログラムが実行されるターゲットのオペレーティングシステムを示します。例えば、linux、windows、darwin(macOS)、freebsdなどがあります。GOARCH(Go Architecture): Goプログラムが実行されるターゲットのCPUアーキテクチャを示します。例えば、amd64、arm、arm64、386などがあります。
これらの環境変数は、Goのツールチェーンがプログラムをビルドする際に参照し、どのソースファイルをコンパイルに含めるかを決定するために使用されます。
go/build パッケージ
go/buildパッケージは、Goのソースコードを解析し、ビルド制約に基づいてどのファイルをコンパイルに含めるかを決定するロジックを提供します。go buildコマンドやgo installコマンドなどのGoツールは、内部的にこのパッケージの機能を利用して、ビルドプロセスを管理しています。このパッケージのドキュメントは、Goのビルドシステムの挙動を理解する上で非常に重要です。
技術的詳細
このコミットは、src/pkg/go/build/doc.goファイル内のコメントを修正することで、Goのビルドシステムにおけるファイル名ベースの暗黙的なビルド制約のルールをより正確に記述しています。
変更前は、ファイル名が*_GOOS、*_GOARCH、または*_GOOS_GOARCHのパターンに一致する場合に暗黙的なビルド制約が適用されると説明されていました。例えば、source_windows.goやsource_amd64.go、source_windows_amd64.goのようなファイルです。
このコミットによって、以下の2つのパターンが追加されました。
GOOS: ファイル名が直接オペレーティングシステム名と一致する場合。例:windows.go、linux.go。GOARCH: ファイル名が直接アーキテクチャ名と一致する場合。例:amd64.go、arm.go。
これにより、例えばwindows.goというファイルは、GOOS=windowsの場合にのみコンパイルされるという挙動が明示的にドキュメント化されました。これは、Goのビルドシステムが、より簡潔なファイル名でもプラットフォーム固有のコードを識別できることを意味します。
この変更は、Goのビルドロジック自体を変更するものではなく、そのロジックがどのように機能するかについてのドキュメントを改善するものです。しかし、ドキュメントの正確性は、開発者がGoのツールを効果的に使用し、予期せぬビルドの問題を回避するために不可欠です。特に、Goのクロスコンパイル機能を利用する開発者にとっては、この暗黙的な制約の理解が重要となります。
コアとなるコードの変更箇所
diff --git a/src/pkg/go/build/doc.go b/src/pkg/go/build/doc.go
index 4b66b84bb6..b5fc071d61 100644
--- a/src/pkg/go/build/doc.go
+++ b/src/pkg/go/build/doc.go
@@ -97,9 +97,16 @@
// - any additional words listed in ctxt.BuildTags
//
// If a file's name, after stripping the extension and a possible _test suffix,
-// matches *_GOOS, *_GOARCH, or *_GOOS_GOARCH for any known operating
-// system and architecture values, then the file is considered to have an implicit
-// build constraint requiring those terms.
+// matches any of the following patterns:
+// *_GOOS
+// *_GOARCH
+// *_GOOS_GOARCH
+// (example: source_windows_amd64.go) or the literals:
+// GOOS
+// GOARCH
+// (example: windows.go) where GOOS and GOARCH represent any known operating
+// system and architecture values respectively, then the file is considered to
+// have an implicit build constraint requiring those terms.
//
// To keep a file from being considered for the build:
//
コアとなるコードの解説
変更はsrc/pkg/go/build/doc.goファイルの97行目から105行目にかけて行われています。
変更前:
// If a file's name, after stripping the extension and a possible _test suffix,
// matches *_GOOS, *_GOARCH, or *_GOOS_GOARCH for any known operating
// system and architecture values, then the file is considered to have an implicit
// build constraint requiring those terms.
この部分では、ファイル名が*_GOOS、*_GOARCH、または*_GOOS_GOARCHのパターンに一致する場合に、暗黙的なビルド制約が適用されると説明されていました。例としてsource_windows_amd64.goのような形式が想定されていました。
変更後:
// If a file's name, after stripping the extension and a possible _test suffix,
// matches any of the following patterns:
// *_GOOS
// *_GOARCH
// *_GOOS_GOARCH
// (example: source_windows_amd64.go) or the literals:
// GOOS
// GOARCH
// (example: windows.go) where GOOS and GOARCH represent any known operating
// system and architecture values respectively, then the file is considered to
// have an implicit build constraint requiring those terms.
変更後では、既存のパターン(*_GOOSなど)に加えて、新たに「or the literals:」という記述が追加され、その下に「GOOS」と「GOARCH」というリテラルなファイル名も暗黙的なビルド制約の対象となることが明記されました。そして、その例として「(example: windows.go)」が追加されています。
この修正により、Goのビルドシステムがファイル名からビルド制約を推論する際のルールが、より網羅的かつ正確にドキュメントに反映されました。これにより、開発者はwindows.goのようなファイルが、明示的な// +build windowsディレクティブなしでもWindows環境でのみコンパイルされることを理解できるようになります。
関連リンク
- Go CL 9064044: https://golang.org/cl/9064044
参考にした情報源リンク
- Go Command Documentation (
go build): https://pkg.go.dev/cmd/go#hdr-Build_constraints - Go
go/buildpackage documentation: https://pkg.go.dev/go/build - Go Modules: Build Constraints: https://go.dev/doc/modules/build-constraints (これはより新しいドキュメントですが、概念は共通です)