Keyboard shortcuts

Press or to navigate between chapters

Press S or / to search in the book

Press ? to show this help

Press Esc to hide this help

[インデックス 16286] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のランタイムにおけるデータ競合検出機能(race detector)に関する公開ドキュメントの改善を目的としています。具体的には、既存のドキュメントをrace.goファイルからdoc.goファイルへ移動し、エンドユーザー向けに内容を再構成し、データ競合検出器のマニュアルへのリンクを提供しています。

コミット

commit 5a7e14c143333a0769b1f54e7373e8fc43f3acd5
Author: Dmitriy Vyukov <dvyukov@google.com>
Date:   Mon May 13 10:28:12 2013 +0400

    runtime/race: improve public documentation
    Move the documentation from race.go to doc.go, because
    race.go uses +build race, so it's not normally parsed by go doc.
    Rephrase the documentation for end users, provide link to race
    detector manual.
    Fixes #5444.
    
    R=golang-dev, minux.ma, adg, r
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/9144050

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/5a7e14c143333a0769b1f54e7373e8fc43f3acd5

元コミット内容

runtime/race: improve public documentation (runtime/race: 公開ドキュメントの改善)

Move the documentation from race.go to doc.go, because race.go uses +build race, so it's not normally parsed by go doc. (ドキュメントをrace.goからdoc.goへ移動。なぜならrace.go+build raceを使用しており、通常go docによってパースされないため。)

Rephrase the documentation for end users, provide link to race detector manual. (エンドユーザー向けにドキュメントを再構成し、データ競合検出器のマニュアルへのリンクを提供する。)

Fixes #5444. (Issue #5444 を修正。)

変更の背景

このコミットの主な背景は、Go言語のドキュメンテーションツールであるgo docが、ビルドタグ(+buildディレクティブ)を持つファイルをデフォルトでパースしないという問題にあります。src/pkg/runtime/race/race.goファイルは、データ競合検出器が有効な場合にのみビルドされるように+build raceというビルドタグを持っていました。このため、go docコマンドを実行しても、race.go内に記述されていたパッケージレベルのドキュメントが適切に抽出されず、ユーザーがgo doc runtime/raceを実行しても情報が表示されないという問題が発生していました。

この問題を解決するため、パッケージの公開ドキュメントを、ビルドタグの影響を受けない専用のdoc.goファイルに移動する必要がありました。これにより、go docが常にパッケージドキュメントを正しく表示できるようになります。また、ドキュメントの内容もエンドユーザーにとってより分かりやすく、データ競合検出器の詳細なマニュアルへのリンクも追加することで、利便性の向上も図られています。

前提知識の解説

Go言語のドキュメンテーションとgo doc

Go言語には、ソースコードから自動的にドキュメントを生成する強力な機能が組み込まれています。この機能はgo docコマンドによって利用されます。go docは、パッケージ、関数、型、変数などの公開された要素に付随するコメントを解析し、整形されたドキュメントとして表示します。

  • パッケージドキュメント: パッケージの概要を説明するコメントは、通常、パッケージ宣言の直前に記述されます。
  • doc.goファイル: Go言語の慣習として、パッケージ全体のドキュメントや、パッケージに関するより詳細な説明は、doc.goという名前のファイルに記述されることが推奨されます。doc.goファイルは、そのパッケージの他のソースファイルと同様に扱われますが、その目的はドキュメンテーションに特化しています。go docは、このdoc.goファイルに記述されたパッケージコメントを優先的に読み込みます。

Go言語のビルドタグ(+buildディレクティブ)

Go言語のソースファイルには、特定のビルド条件を指定するための「ビルドタグ」を記述することができます。これは、ファイルの先頭に// +build tagのような形式で記述される特殊なコメントです。

  • 条件付きコンパイル: ビルドタグを使用すると、特定のオペレーティングシステム、アーキテクチャ、またはカスタムタグが指定された場合にのみ、そのファイルをコンパイルに含めるように制御できます。例えば、// +build linux,amd64と記述されたファイルは、LinuxかつAMD64アーキテクチャの場合にのみビルドされます。
  • go docとビルドタグ: go docコマンドは、デフォルトではビルドタグを持つファイルをパースしません。これは、特定の環境に依存するコードのドキュメントが、一般的なドキュメントとして表示されるのを避けるためです。しかし、パッケージ全体のドキュメントがビルドタグを持つファイルに記述されている場合、この挙動が問題となります。

Go言語のデータ競合検出器(Race Detector)

Go言語には、並行処理におけるデータ競合(data race)を検出するための組み込みツールである「Race Detector」が提供されています。

  • データ競合とは: 複数のゴルーチンが同時に同じメモリ位置にアクセスし、少なくとも1つのアクセスが書き込みであり、かつそれらのアクセスが同期メカニズムによって保護されていない場合に発生するバグです。データ競合は予測不能なプログラムの挙動を引き起こし、デバッグが非常に困難です。
  • 使用方法: Goプログラムをビルドする際にgo run -racego build -raceのように-raceフラグを付けることで、Race Detectorを有効にできます。有効にすると、プログラムの実行中にデータ競合が検出された場合に、詳細なレポートが出力されます。
  • runtime/raceパッケージ: Race Detectorの実装は、Goランタイムの一部であるruntime/raceパッケージに含まれています。このパッケージは、Race Detectorが有効な場合にのみビルドされるように、+build raceタグが付けられています。

技術的詳細

このコミットの技術的な核心は、Goのツールチェイン、特にgo docコマンドの動作と、ビルドタグ(+buildディレクティブ)の相互作用を理解している点にあります。

  1. go docのビルドタグ無視: go docは、デフォルトで+buildタグを持つGoソースファイルを無視します。これは、特定のプラットフォームやビルド設定に依存するコードが、一般的なAPIドキュメントに混入するのを防ぐための設計上の決定です。しかし、runtime/raceパッケージのように、パッケージの主要なドキュメントがビルドタグを持つファイル(この場合はrace.go)に記述されている場合、go doc runtime/raceを実行してもドキュメントが表示されないという問題が発生します。

  2. doc.goの役割: Goの慣習では、パッケージ全体のドキュメントはdoc.goという名前のファイルに記述することが推奨されています。doc.goファイルは、通常、ビルドタグを持たず、go docによって常にパースされることが期待されます。これにより、パッケージのドキュメントが常に利用可能になります。

  3. 変更のメカニズム:

    • race.goからパッケージコメント// Package race provides low-level facilities for data race detection.が削除されました。このコメントは、+build raceタグのためにgo docから見えませんでした。
    • 新たにdoc.goファイルが作成され、そこにパッケージコメント// Package race implements data race detection logic.が記述されました。この新しいコメントは、go docが常にアクセスできる場所に配置されました。
    • doc.goには、エンドユーザー向けの簡潔な説明と、データ競合検出器の詳細なマニュアルへの公式リンクhttp://golang.org/doc/articles/race_detector.htmlが追加されました。これにより、ユーザーはより深い情報を容易に参照できるようになりました。

この変更により、go doc runtime/raceを実行すると、doc.goに記述された最新かつエンドユーザー向けのドキュメントが表示されるようになり、Goのドキュメンテーションシステムの意図に沿った形に修正されました。これは、Goのツールチェインの挙動を深く理解し、それに対応した適切なコード構造を採用した良い例と言えます。

コアとなるコードの変更箇所

このコミットでは、以下の2つのファイルが変更されています。

  1. src/pkg/runtime/race/doc.go: 新規作成されたファイル。

    --- /dev/null
    +++ b/src/pkg/runtime/race/doc.go
    @@ -0,0 +1,9 @@
    +// Copyright 2013 The Go Authors. All rights reserved.
    +// Use of this source code is governed by a BSD-style
    +// license that can be found in the LICENSE file.
    +
    +// Package race implements data race detection logic.
    +// No public interface is provided.
    +// For details about the race detector see
    +// http://golang.org/doc/articles/race_detector.html
    +package race
    
  2. src/pkg/runtime/race/race.go: 既存のファイルから1行削除。

    --- a/src/pkg/runtime/race/race.go
    +++ b/src/pkg/runtime/race/race.go
    @@ -4,7 +4,6 @@
     
     // +build race,linux,amd64 race,darwin,amd64 race,windows,amd64
     
    -// Package race provides low-level facilities for data race detection.
     package race
     
     /*
    

コアとなるコードの解説

src/pkg/runtime/race/doc.go (新規作成)

このファイルは、runtime/raceパッケージの公開ドキュメントを格納するために新しく作成されました。

  • // Copyright 2013 The Go Authors. All rights reserved. から始まるコメントは、Goプロジェクトの標準的なライセンスヘッダーです。
  • // Package race implements data race detection logic. は、このパッケージの主要な目的を説明するパッケージコメントです。go docコマンドはこのコメントを読み取り、runtime/raceパッケージの概要として表示します。
  • // No public interface is provided. は、このパッケージが内部的な実装であり、外部から直接利用されることを意図していないことを示しています。
  • // For details about the race detector see // http://golang.org/doc/articles/race_detector.html は、Goのデータ競合検出器に関する詳細な公式ドキュメントへのリンクを提供しています。これにより、ユーザーはgo docから直接、より深い情報を得ることができます。
  • package race は、このファイルがraceパッケージの一部であることを宣言しています。

このdoc.goファイルは、+buildタグを持たないため、go docコマンドによって常にパースされ、パッケージのドキュメントが適切に表示されるようになります。

src/pkg/runtime/race/race.go (変更)

このファイルからは、以前にパッケージドキュメントとして機能していた以下の1行が削除されました。

  • // Package race provides low-level facilities for data race detection.

この行は、race.goファイルが+build raceタグを持っていたため、go docによって無視されていました。ドキュメントがdoc.goに移動されたため、この冗長でアクセスできないコメントは不要となり削除されました。これにより、ドキュメントの一元化とgo docの正確な動作が保証されます。

関連リンク

参考にした情報源リンク