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[インデックス 16409] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のcgoツールにおいて、空のC言語の構造体(struct)がGoの定義に変換される際に、不要な空のGoの構造体が出力されるのを抑制する変更です。具体的には、cmd/cgo/godefs.goファイルが修正され、空の構造体定義が生成されないように改善されました。

コミット

commit a2ec8abd2d1f6b1ac0cdbfc4a66677308f6a5cd9
Author: Alex Brainman <alex.brainman@gmail.com>
Date:   Sat May 25 20:53:55 2013 +1000

    cmd/cgo: do not output empty struct for -cdefs

    R=golang-dev, iant
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/9574043

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/a2ec8abd2d1f6b1ac0cdbfc4a66677308f6a5cd9

元コミット内容

cmd/cgo: do not output empty struct for -cdefs

変更の背景

cgoツールは、C言語のコードをGo言語のコードから呼び出すためのメカニズムを提供します。その機能の一つに、C言語の型定義をGo言語の型定義に変換する-cdefsオプションがあります。

このコミットが導入される前は、C言語のソースコード内に定義された空の構造体(例: struct MyEmptyStruct {};)がGo言語の型定義に変換される際、cgoは対応する空のGo言語の構造体(例: type MyEmptyStruct struct {})を生成していました。

しかし、Go言語において空の構造体は通常、特定の目的(例えば、セットの実装や、チャネルのシグナルとしてメモリを消費しない値)のために使用されますが、C言語の空の構造体は、単にプレースホルダーであったり、特定のコンパイラ拡張機能(例: GCCのzero-length array)のために使われたりすることがあります。このようなC言語の空の構造体がGo言語に変換される際に、意味のない空のGo構造体として出力されることは、生成されるコードの冗長性を高め、可読性を損なう可能性がありました。

この変更は、このような不要な空のGo構造体の出力を抑制し、cgoが生成するコードをよりクリーンで効率的なものにすることを目的としています。

前提知識の解説

cgoとは

cgoは、Go言語のプログラムからC言語のコードを呼び出すためのGoツールチェーンの一部です。また、C言語のコードからGo言語の関数を呼び出すことも可能です。cgoを使用することで、既存のCライブラリをGoプロジェクトに統合したり、Go言語では実装が難しい低レベルの操作を行ったりすることができます。

cgoは、Goのソースファイル内にCのコードを直接記述したり、既存のCのヘッダファイルをインポートしたりする機能を提供します。cgoツールは、これらのCの定義をGoの型や関数に変換し、GoとCの間でデータをやり取りするための接着コード(glue code)を生成します。

godefs.goとは

src/cmd/cgo/godefs.goは、cgoツールの一部であり、C言語の型定義をGo言語の型定義に変換するロジックを主に担当しています。特に、cgo -cdefsコマンドが実行された際に、Cの構造体、共用体、列挙型などをGoの対応する型にマッピングするためのコードがここに記述されています。

このファイル内の関数は、Cのソースコードを解析し、Goの構文に変換された型定義を文字列として生成します。生成されたGoの型定義は、通常、Goのソースファイルとして出力され、GoプログラムからCの型を安全に参照できるようにします。

C言語の構造体とGo言語の構造体

  • C言語の構造体 (struct): 複数の異なる型のデータを一つにまとめるための複合データ型です。メモリレイアウトはコンパイラやプラットフォームに依存しますが、通常はメンバが宣言された順にメモリに配置されます。空の構造体は、標準Cでは許可されていませんが、GCCなどのコンパイラ拡張として、ゼロ長配列(flexible array member)を持つ構造体や、単に型名を定義するためだけに空の構造体が使われることがあります。
  • Go言語の構造体 (struct): C言語の構造体と同様に、複数の異なる型のフィールドをまとめるための複合データ型です。Goの構造体は、フィールドの順序が重要であり、メモリレイアウトも明確に定義されています。Goの空の構造体struct {}は、メモリを消費しないという特性があり、チャネルのシグナルやセットのキーなど、特定のイディオムで利用されます。

技術的詳細

このコミットの技術的な核心は、cgoがC言語の型定義をGo言語の型定義に変換する際の、特定のケース(空の構造体)のハンドリングを改善することにあります。

godefs.go内のcdefs関数は、CのソースコードからGoの型定義を生成する主要なロジックを含んでいます。この関数は、Cの型定義を一行ずつ読み込み、Goの対応する構文に変換します。

変更前のコードでは、type SomeStruct struct {で始まる行を検出すると、それがGoの構造体定義の開始であると認識し、その後の行を読み進めて}で終わるまでを構造体の内容として処理していました。この処理は、構造体内にメンバが存在する場合に正しく機能しますが、Cの空の構造体(例: struct Empty {};)がGoのtype Empty struct {}に変換される場合、type Empty struct {の直後に}が続くことになります。

このコミットは、この特定のパターンを検出するための条件を追加します。具体的には、type ... struct {という行の直後に}という行が続く場合、それは空の構造体であると判断し、そのGoの構造体定義全体をスキップするようにします。これにより、生成されるGoのコードから不要な空の構造体定義が取り除かれます。

この変更は、cgoが生成するGoコードの品質を向上させ、特にC言語のヘッダファイルに多くの空の構造体が含まれている場合に、生成されるGoコードのサイズと複雑さを軽減する効果があります。

コアとなるコードの変更箇所

--- a/src/cmd/cgo/godefs.go
+++ b/src/cmd/cgo/godefs.go
@@ -204,6 +204,11 @@ func (p *Package) cdefs(f *File, srcfile string) string {
 		//		byte Z[4];
 		//	}
 		if strings.HasPrefix(line, "type ") && strings.HasSuffix(line, " struct {") {
+			if len(lines) > i+1 && lines[i+1] == "}" {
+				// do not output empty struct
+				i++
+				continue
+			}
 			s := line[len("type ") : len(line)-len(" struct {")]
 			printf("struct %s {\n", s)
 			for i++; i < len(lines) && lines[i] != "}"; i++ {

コアとなるコードの解説

変更はsrc/cmd/cgo/godefs.goファイルのcdefs関数内で行われています。

  1. if strings.HasPrefix(line, "type ") && strings.HasSuffix(line, " struct {") {

    • この行は、現在の処理対象の行がGoの構造体定義の開始(例: type MyStruct struct {)であるかどうかをチェックしています。cgoはCの構造体をGoのtypeキーワードで始まる構造体に変換するため、このパターンを検出します。
  2. if len(lines) > i+1 && lines[i+1] == "}" {

    • この新しい条件文が追加されました。
    • len(lines) > i+1: 次の行が存在するかどうかを確認します。iは現在の行のインデックスです。
    • lines[i+1] == "}": 次の行が単独の閉じブレース}であるかどうかをチェックします。
    • この2つの条件が同時に真である場合、それはtype SomeStruct struct {の直後に}が続く、つまり空のGo構造体定義であることを意味します。
  3. // do not output empty struct

    • 追加されたコードの目的を説明するコメントです。
  4. i++

    • 現在の行(type ... struct {)と次の行(})の両方をスキップするために、行インデックスiを1つ進めます。これにより、}の行も処理済みとみなされます。
  5. continue

    • 現在のループの残りの処理をスキップし、次の行の処理に移ります。これにより、空の構造体定義に対応するprintf呼び出し(Goの構造体を出力する部分)が実行されなくなり、結果として空の構造体が生成されなくなります。

この変更により、cgoはCの空の構造体からGoの空の構造体を生成するのを避け、より簡潔なGoコードを出力するようになります。

関連リンク

参考にした情報源リンク