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[インデックス 16410] ファイルの概要

このコミットは、Goランタイムのスタックアロケータに関するコメントの更新です。具体的には、src/pkg/runtime/stack.c ファイル内の runtime·stackalloc 関数におけるスタック割り当てのメカニズムに関する説明が修正されています。この変更は、コードの動作自体を変更するものではなく、その動作に関するドキュメントとしてのコメントをより正確に、または現在の実装の理解に合わせて調整することを目的としています。

コミット

commit 46137f227bd11777f535271e842eac14fc65fd1c
Author: Dmitriy Vyukov <dvyukov@google.com>
Date:   Sat May 25 22:47:36 2013 +0400

    runtime: update comment on stack allocator

    R=golang-dev, r
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/9665046

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/46137f227bd11777f535271e842eac14fc65fd1c

元コミット内容

--- a/src/pkg/runtime/stack.c
+++ b/src/pkg/runtime/stack.c
@@ -81,13 +81,10 @@ runtime·stackalloc(uint32 n)
 	if(g != m->g0)
 		runtime·throw("stackalloc not on scheduler stack");

-// Stack allocator uses malloc/free most of the time,
-// but if we're in the middle of malloc and need stack,
-// we have to do something else to avoid deadlock.
-// In that case, we fall back on a fixed-size free-list
-// allocator, assuming that inside malloc all the stack
-// frames are small, so that all the stack allocations
-// will be a single size, the minimum (right now, 5k).
+// Stacks are usually allocated with a fixed-size free-list allocator,
+// but if we need a stack of non-standard size, we fall back on malloc
+// (assuming that inside malloc and GC all the stack frames are small,
+// so that we do not deadlock).
 	if(n == FixedStack || m->mallocing || m->gcing) {
 		if(n != FixedStack) {
 			runtime·printf("stackalloc: in malloc, size=%d want %d\\n\", FixedStack, n);

変更の背景

このコミットの背景には、Goランタイムのスタックアロケータの動作に関する理解の深化または実装の詳細の明確化があります。元のコメントは、スタックアロケータが「ほとんどの場合malloc/freeを使用するが、mallocの途中でスタックが必要になった場合にデッドロックを避けるために固定サイズのフリーリストアロケータにフォールバックする」と説明していました。

しかし、新しいコメントでは、「スタックは通常、固定サイズのフリーリストアロケータで割り当てられるが、非標準サイズのスタックが必要な場合はmallocにフォールバックする」と記述されています。この変更は、Goランタイムのスタック割り当て戦略における主要なメカニズムが、malloc/freeではなく、固定サイズのフリーリストアロケータであることを明確にしています。そして、mallocへのフォールバックは、特定の状況(非標準サイズ、mallocやGCの実行中)でのみ発生するというニュアンスが強調されています。

これは、Goランタイムのメモリ管理が進化する中で、スタック割り当ての主要なパスとエッジケースの処理に関する内部的な理解がより洗練された結果であると考えられます。コメントの更新は、開発者がコードの意図を正確に理解するために不可欠です。

前提知識の解説

このコミットを理解するためには、Goランタイムのメモリ管理、特にスタックとヒープの概念、およびそれらの割り当て戦略に関する基本的な知識が必要です。

  1. Goランタイム (Go Runtime): Goプログラムの実行を管理するシステムです。スケジューラ、ガベージコレクタ (GC)、メモリ管理、ゴルーチン (goroutine) の管理など、多岐にわたる機能を提供します。Goプログラムは、OSのプロセス上で直接実行されるのではなく、このランタイム上で動作します。

  2. スタック (Stack): プログラムの実行中に、関数呼び出し、ローカル変数、関数の引数などが一時的に格納されるメモリ領域です。Goでは、各ゴルーチンが独自のスタックを持っています。スタックはLIFO (Last-In, First-Out) 構造で、非常に高速な割り当てと解放が可能です。Goのスタックは動的に伸縮する特徴があり、必要に応じて自動的にサイズが調整されます。

  3. ヒープ (Heap): プログラムの実行中に動的にメモリを割り当てるための領域です。スタックとは異なり、ヒープに割り当てられたメモリは、関数呼び出しの終了後も保持されます。Goでは、makenewで作成されたオブジェクト、またはエスケープ解析によってヒープに割り当てられると判断された変数がヒープに配置されます。ヒープメモリの管理はガベージコレクタによって行われます。

  4. メモリ割り当て (Memory Allocation):

    • malloc/free: C言語などで一般的に使用される動的メモリ割り当て関数です。mallocは指定されたサイズのメモリブロックをヒープから割り当て、freeはそのメモリを解放します。これらの操作はシステムコールを伴うことが多く、オーバーヘッドが発生する可能性があります。
    • 固定サイズのフリーリストアロケータ (Fixed-size Free-list Allocator): 特定の固定サイズのメモリブロックを効率的に管理するためのアロケータです。事前に定義されたサイズのブロックのリスト(フリーリスト)を保持し、割り当て要求があった際にはリストからブロックを渡し、解放された際にはリストに戻します。これにより、malloc/freeのような汎用アロケータよりも高速に、かつ断片化を抑えてメモリを割り当てることができます。Goランタイムでは、特に小さなオブジェクトや、スタックのような特定の用途のためにこのようなアロケータが内部的に使用されます。
  5. デッドロック (Deadlock): 複数のプロセスやスレッドが、互いに相手が保持しているリソースの解放を待っている状態になり、結果としてどのプロセスも処理を進められなくなる状況です。メモリ管理の文脈では、例えば、メモリを割り当てるためのロックを保持しているスレッドが、さらにメモリを割り当てようとして別のロックを待つ、といった状況で発生する可能性があります。

  6. m->mallocingm->gcing: Goランタイムの内部構造体 m (Machine、OSスレッドを表す) に含まれるフラグです。

    • m->mallocing: 現在のOSスレッドがメモリ割り当て(malloc)処理中であることを示します。
    • m->gcing: 現在のOSスレッドがガベージコレクション(GC)処理中であることを示します。 これらのフラグは、ランタイムが特定のクリティカルな操作を実行中であることを示し、デッドロックを避けるために特別な処理が必要となる場合があります。
  7. FixedStack: Goランタイムで定義されている、標準的なスタックの初期サイズまたは最小サイズを示す定数です。Goのスタックは動的に伸縮しますが、このFixedStackは、特に固定サイズのフリーリストアロケータが扱うデフォルトのスタックサイズに関連している可能性があります。

技術的詳細

Goランタイムのスタック割り当ては、パフォーマンスと効率性を追求するために複数の戦略を組み合わせています。このコミットが示唆するように、その中心には「固定サイズのフリーリストアロケータ」があります。

  1. 固定サイズのフリーリストアロケータの役割: Goのゴルーチンスタックは、通常、FixedStack(例えば、初期のGoでは5KBなど)のような標準的なサイズで開始されます。多くのゴルーチンは、この標準サイズで十分なスタック空間で動作します。このような頻繁に要求される固定サイズのスタック割り当てに対しては、専用のフリーリストアロケータが非常に効率的です。このアロケータは、事前に確保されたメモリプールから固定サイズのブロックを迅速に提供し、解放されたブロックを再利用することで、mallocのような汎用的なシステムコールを回避し、オーバーヘッドを最小限に抑えます。

  2. mallocへのフォールバック: しかし、すべてのスタック割り当てが固定サイズで済むわけではありません。例えば、非常に深い再帰呼び出しや、大量のローカル変数を持つ関数など、標準サイズを超えるスタック空間が必要になる場合があります。このような「非標準サイズ」のスタックが必要な場合、Goランタイムは汎用的なmalloc(Goランタイム自身のヒープアロケータ、TCMallocに似た設計)にフォールバックします。 また、コメントが示唆するように、ランタイムがすでにmalloc処理中(m->mallocingが真)であったり、ガベージコレクション中(m->gcingが真)であったりする場合も、特別な考慮が必要です。これらの状況下でスタック割り当てが必要になった場合、デッドロックを避けるためにmallocにフォールバックすることがあります。これは、mallocやGCの内部処理自体がスタックを必要とする可能性があり、その際に通常のスタック割り当てパスが別のロックを必要とする場合、循環的な依存関係が生じてしまうためです。コメントでは、「mallocとGCの内部では、すべてのスタックフレームが小さいと仮定しているため、デッドロックしない」という前提が述べられています。これは、これらのクリティカルなパスでは、スタックの急激な増加は想定されず、mallocへのフォールバックが安全であるという設計判断を示しています。

  3. スタックの伸縮: Goのスタックは、必要に応じて動的に伸縮します。これは、スタックのオーバーフローを防ぎつつ、メモリ使用量を最適化するための重要な機能です。スタックが不足しそうになると、より大きなスタックが割り当てられ、古い内容が新しいスタックにコピーされます。逆に、スタックが過剰に大きい場合は、縮小されることもあります。この伸縮メカニズム自体も、内部的にはメモリ割り当て(mallocへのフォールバックを含む)を伴う可能性があります。

このコメントの変更は、Goランタイムのスタック割り当ての「通常パス」が固定サイズのフリーリストアロケータであり、mallocは特定の「例外パス」であるという、より正確な内部動作の記述に修正されたことを意味します。

コアとなるコードの変更箇所

変更は src/pkg/runtime/stack.c ファイルの runtime·stackalloc 関数内のコメント部分です。

--- a/src/pkg/runtime/stack.c
+++ b/src/pkg/runtime/stack.c
@@ -81,13 +81,10 @@ runtime·stackalloc(uint32 n)
 	if(g != m->g0)
 		runtime·throw("stackalloc not on scheduler stack");

-// Stack allocator uses malloc/free most of the time,
-// but if we're in the middle of malloc and need stack,
-// we have to do something else to avoid deadlock.
-// In that case, we fall back on a fixed-size free-list
-// allocator, assuming that inside malloc all the stack
-// frames are small, so that all the stack allocations
-// will be a single size, the minimum (right now, 5k).
+// Stacks are usually allocated with a fixed-size free-list allocator,
+// but if we need a stack of non-standard size, we fall back on malloc
+// (assuming that inside malloc and GC all the stack frames are small,
+// so that we do not deadlock).
 	if(n == FixedStack || m->mallocing || m->gcing) {
 		if(n != FixedStack) {
 			runtime·printf("stackalloc: in malloc, size=%d want %d\\n\", FixedStack, n);

具体的には、84行目から90行目までのコメントが削除され、84行目から87行目までの新しいコメントに置き換えられています。

コアとなるコードの解説

変更されたコメントは、runtime·stackalloc 関数がどのようにスタックを割り当てるかについて説明しています。

変更前のコメントの解釈: 「スタックアロケータはほとんどの場合、malloc/freeを使用するが、mallocの途中でスタックが必要になった場合は、デッドロックを避けるために何か別のことをしなければならない。その場合、固定サイズのフリーリストアロケータにフォールバックする。これは、mallocの内部ではすべてのスタックフレームが小さく、すべてのスタック割り当てが単一のサイズ(現在の最小値は5k)になることを前提としている。」

このコメントは、malloc/freeが主要な割り当てメカニズムであり、固定サイズのフリーリストが特定のデッドロック回避のためのフォールバックであることを示唆していました。

変更後のコメントの解釈: 「スタックは通常、固定サイズのフリーリストアロケータで割り当てられるが、非標準サイズのスタックが必要な場合はmallocにフォールバックする(mallocとGCの内部ではすべてのスタックフレームが小さいと仮定しているため、デッドロックしない)。」

この新しいコメントは、スタック割り当ての「通常パス」が固定サイズのフリーリストアロケータであることを明確にしています。そして、mallocへのフォールバックは、以下の2つの主要なシナリオで発生すると説明しています。

  1. 非標準サイズのスタックが必要な場合 (n != FixedStack): FixedStackで定義された標準サイズ以外のスタックが必要な場合、汎用的なmallocが使用されます。
  2. mallocまたはGCの実行中 (m->mallocing || m->gcing): ランタイムがすでにメモリ割り当て処理中 (m->mallocing) またはガベージコレクション処理中 (m->gcing) である場合、デッドロックを避けるためにmallocにフォールバックします。この際、mallocやGCの内部で割り当てられるスタックフレームは小さいという前提があり、これによりデッドロックが回避されると説明されています。

if(n == FixedStack || m->mallocing || m->gcing) という条件文は、このコメントの意図を直接反映しています。この条件が真の場合、つまり要求されたサイズがFixedStackであるか、またはランタイムがmalloc中かGC中である場合に、特別な処理(おそらく固定サイズのフリーリストからの割り当て、またはデッドロック回避のためのmallocへのフォールバック)が行われることを示唆しています。

このコメントの更新は、Goランタイムのスタック割り当て戦略に関するより正確な理解を反映しており、固定サイズのフリーリストアロケータが主要な役割を担い、mallocは特定の状況下での補完的な役割を果たすという設計思想を明確にしています。

関連リンク

  • Go言語のメモリ管理に関する公式ドキュメントやブログ記事
  • Goランタイムのソースコード(特にsrc/runtimeディレクトリ)
  • Goのガベージコレクションに関する解説記事

参考にした情報源リンク

  • Goのメモリ管理に関する様々な技術ブログや記事 (例: Medium, dev.to, sobyte.net など)
  • Goの公式ドキュメント (go.dev)
  • GitHub上のGoリポジトリのソースコード
  • Stack OverflowなどのQ&Aサイト