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[インデックス 16510] ファイルの概要

このコミットは、Goランタイムから未使用のmid関数を削除するものです。mid関数は、現在のOSスレッド(M)のIDを返すことを目的としていましたが、コードベース内で使用されていないため、クリーンアップの一環として削除されました。

コミット

commit b6e52ecffa5e6c0673ecfc93837d23fbcf256752
Author: Ian Lance Taylor <iant@golang.org>
Date:   Thu Jun 6 18:10:42 2013 -0700

    runtime: remove unused mid function
    
    R=golang-dev, r
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/10036047

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/b6e52ecffa5e6c0673ecfc93837d23fbcf256752

元コミット内容

このコミットの元々の内容は、Goランタイムからmidという名前の未使用の関数を削除することです。この関数は、Goのランタイム内部でOSスレッドのIDを取得するために定義されていましたが、実際にはどこからも呼び出されていなかったため、デッドコードとして認識され削除されました。

変更の背景

ソフトウェア開発において、未使用のコード(デッドコード)は、コードベースの複雑性を増し、可読性を低下させ、将来的なメンテナンスの妨げとなる可能性があります。また、コンパイル時間やバイナリサイズにも影響を与えることがあります。このコミットは、Goランタイムのコードベースを整理し、不要なコードを削除することで、これらの問題を軽減することを目的とした一般的なコードクリーンアップの一環です。特に、ランタイムのような低レベルでパフォーマンスが重視される部分では、コードの簡潔さと効率性が重要視されます。

前提知識の解説

このコミットを理解するためには、以下のGo言語およびランタイムに関する基本的な知識が必要です。

  • Goランタイム (Go Runtime): Goプログラムの実行を管理する低レベルのシステムです。ガベージコレクション、ゴルーチン(goroutine)のスケジューリング、チャネル(channel)の管理、メモリ割り当てなど、Go言語の並行処理モデルとメモリ管理を支える重要な役割を担っています。GoランタイムはGo言語で書かれた部分とC言語(またはアセンブリ言語)で書かれた部分から構成されており、OSとのインタラクションを抽象化します。
  • ゴルーチン (Goroutine): Go言語における軽量な実行スレッドです。OSスレッドよりもはるかに軽量で、数千から数百万のゴルーチンを同時に実行できます。GoランタイムがゴルーチンをOSスレッドにマッピングし、スケジューリングを行います。
  • OSスレッド (OS Thread): オペレーティングシステムによって管理される実行単位です。CPUによって直接実行される最小の単位であり、プロセス内で並行して実行されるコードのシーケンスを表します。Goランタイムは、複数のゴルーチンを少数のOSスレッド上で多重化して実行します。
  • M (Machine): Goランタイムの内部概念で、OSスレッドを表します。Goランタイムは、P(Processor)とG(Goroutine)とともに、Mを組み合わせてゴルーチンのスケジューリングを行います。MはOSスレッドと1対1で対応し、実際にCPU上でコードを実行する役割を担います。
  • デッドコード (Dead Code): プログラム内で定義されているにもかかわらず、決して実行されることのないコードのことです。通常、機能が削除された後や、開発中に試行錯誤された結果として残ることがあります。デッドコードは、コンパイラによって最適化の対象となることがありますが、ソースコード上には残るため、メンテナンスの負担となります。
  • extern.go: Goランタイムの一部で、C言語で実装された関数やアセンブリ言語で実装された関数など、Go言語以外のコードとGo言語のコード間のインターフェースを定義するファイルです。GoのコードからCの関数を呼び出すための宣言などが含まれます。
  • proc.c: GoランタイムのC言語で書かれた部分で、主にプロセスの管理、スケジューリング、OSとのインタラクションなど、低レベルな処理を実装しています。

技術的詳細

このコミットは、Goランタイムの内部構造におけるクリーンアップ作業を示しています。削除されたmid関数は、src/pkg/runtime/extern.goでGo言語の関数として宣言され、src/pkg/runtime/proc.cでC言語の関数として実装されていました。

extern.goにおけるmid()の宣言は、GoコードからこのC関数を呼び出すためのGo側のシグネチャを提供していました。

// mid returns the current OS thread (m) id.
func mid() uint32

そして、proc.cにおけるruntime·midの実装は、現在のM(OSスレッド)のIDをm->idから取得し、それを戻り値として設定していました。

// for testing of wire, unwire
void
runtime·mid(uint32 ret)
{
	ret = m->id;
	FLUSH(&ret);
}

コメントには「for testing of wire, unwire」とありますが、この関数が実際にテストや他のコードパスから呼び出されていないことが判明したため、削除の対象となりました。このような未使用の関数は、コードベースを不必要に肥大化させ、将来の変更やデバッグの際に混乱を招く可能性があります。特にランタイムのようなクリティカルなコンポーネントでは、コードの正確性と簡潔性が極めて重要です。

この削除は、Goランタイムの継続的な改善と最適化の一環であり、コードの品質と保守性を高めるための典型的なプラクティスです。

コアとなるコードの変更箇所

このコミットによる変更は、以下の2つのファイルにわたります。

  1. src/pkg/runtime/extern.go:

    • mid()関数のGo言語での宣言が削除されました。
  2. src/pkg/runtime/proc.c:

    • runtime·mid関数のC言語での実装が削除されました。

具体的には、以下の行が削除されています。

src/pkg/runtime/extern.go の変更点:

--- a/src/pkg/runtime/extern.go
+++ b/src/pkg/runtime/extern.go
@@ -112,9 +112,6 @@ func (f *Func) FileLine(pc uintptr) (file string, line int) {
 // implemented in symtab.c
 func funcline_go(*Func, uintptr) (string, int)
 
-// mid returns the current OS thread (m) id.
-func mid() uint32
-
 // SetFinalizer sets the finalizer associated with x to f.
 // When the garbage collector finds an unreachable block
 // with an associated finalizer, it clears the association and runs

src/pkg/runtime/proc.c の変更点:

--- a/src/pkg/runtime/proc.c
+++ b/src/pkg/runtime/proc.c
@@ -1732,14 +1732,6 @@ runtime·golockedOSThread(bool ret)
 	FLUSH(&ret);\n
 }\n
 
-// for testing of wire, unwire
-void
-runtime·mid(uint32 ret)
-{
-	ret = m->id;
-	FLUSH(&ret);
-}
-
 void
 runtime·NumGoroutine(intgo ret)
 {

コアとなるコードの解説

削除されたmid関数は、Goランタイムの内部でOSスレッドのIDを取得するためのものでした。

  • src/pkg/runtime/extern.go: このファイルは、GoランタイムのGo言語部分とC言語部分の間の「外部」インターフェースを定義します。Go言語のコードがC言語で実装された関数を呼び出す場合、そのC関数のGo言語でのシグネチャ(関数名、引数、戻り値の型)をここに宣言します。func mid() uint32という行は、C言語で実装されたruntime·mid関数に対応するGo言語の宣言でした。この宣言が削除されたことで、Go言語側からmid関数を呼び出すことができなくなりました。

  • src/pkg/runtime/proc.c: このファイルは、GoランタイムのC言語部分で、プロセスの管理やスケジューリングなど、OSと密接に関わる低レベルな処理を実装しています。runtime·mid関数は、C言語で書かれたmid関数の実際のロジックを含んでいました。ret = m->id;という行は、現在のOSスレッド(M)の構造体からidフィールドの値を取得し、それを戻り値retに設定しています。FLUSH(&ret);は、コンパイラの最適化によって変数がレジスタに保持されることを防ぎ、メモリに書き込まれることを保証するためのマクロです。このC言語の実装が削除されたことで、mid関数の具体的な処理がコードベースから完全に消滅しました。

この変更は、単に未使用のコードを削除するものであり、Goランタイムの機能や外部APIに影響を与えるものではありません。これは、コードベースの健全性を維持し、将来の開発者がよりクリーンで理解しやすいコードで作業できるようにするための、典型的な保守作業です。

関連リンク

参考にした情報源リンク

  • Go言語のソースコード
  • Go言語の公式ドキュメント
  • Goのコードレビューシステム (Gerrit) の変更リスト (CL)
  • 一般的なソフトウェア開発におけるデッドコードの概念に関する情報