[インデックス 1669] ファイルの概要
このコミットは、Go言語のコンパイラがラベル宣言を正しく処理していなかったバグを修正するものです。具体的には、break
ステートメントが特定のラベルを認識できず、コンパイルエラーとなっていた問題に対処しています。この修正により、Go言語の制御フローにおけるラベル付き break
の挙動が仕様通りに機能するようになりました。
コミット
- コミットハッシュ:
920ab67b4c7f33ecb4fa10f34babe4c181742151
- Author: Robert Griesemer gri@golang.org
- Date: Fri Feb 13 13:42:43 2009 -0800
- 元コミット内容:
label declarations not handled properly R=rsc DELTA=27 (27 added, 0 deleted, 0 changed) OCL=25015 CL=25015
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/920ab67b4c7f33ecb4fa10f34babe4c181742151
元コミット内容
label declarations not handled properly
R=rsc
DELTA=27 (27 added, 0 deleted, 0 changed)
OCL=25015
CL=25015
変更の背景
このコミットは、Go言語の初期段階におけるコンパイラのバグ修正の一環として行われました。当時のGoコンパイラは、コード内で宣言されたラベル(L1:
, L2:
など)を、対応する break
または continue
ステートメントのターゲットとして正しく認識できていませんでした。その結果、有効なラベル付き break
ステートメントを含むコードが「break label is not defined」という誤ったコンパイルエラーを発生させていました。
この問題は、Go言語の制御フローの重要な機能であるラベル付きステートメントの利用を妨げるものであり、言語の安定性と正確性を確保するために修正が必要でした。test/bugs/bug137.go
という新しいテストケースが追加され、このバグの存在と修正後の正しい挙動を検証するために使用されました。
前提知識の解説
Go言語におけるラベルとbreak
/continue
ステートメント
Go言語では、for
、switch
、select
ステートメントに対してラベルを付けることができます。ラベルは識別子にコロン(:
)を付けた形式で宣言され、そのラベルが付いたステートメントの直前に配置されます。
break
および continue
ステートメントは、通常、最も内側のループや switch
/select
ステートメントの実行を制御します。しかし、ラベルを伴うことで、これらのステートメントはネストされた構造の外側にある特定のラベル付きステートメントの実行を制御できるようになります。
break LabelName;
:LabelName
で指定されたラベル付きステートメントの実行を終了し、そのステートメントの直後のコードに制御を移します。これは、ネストされたループから一度に複数レベル抜け出す場合などに特に有用です。continue LabelName;
:LabelName
で指定されたラベル付きループの次のイテレーションを開始します。
このコミットの背景にある問題は、コンパイラがこれらのラベル宣言を正しく解析し、break
ステートメントの有効なターゲットとして認識するメカニズムに欠陥があったことに起因します。
技術的詳細
このコミット自体は、Goコンパイラの内部的な変更(おそらくパーサーやセマンティックアナライザーの修正)を直接示していません。代わりに、バグを再現し、修正が正しく適用されたことを検証するためのテストケースを追加しています。
test/bugs/bug137.go
ファイルは、このバグを具体的に示すためのものです。このテストケースでは、以下のようなコード構造が使用されています。
package main
func main() {
L1:
L2: for i := 0; i < 10; i++ {
print(i);
break L2; // ここでエラーが発生していた
}
L3: ; // 空のステートメントにラベルを付ける例
L4: for i := 0; i < 10; i++ {
print(i);
break L4; // ここでもエラーが発生していた
}
}
このコードでは、L2
と L4
というラベルが for
ループに付けられています。そして、それぞれのループ内で break L2;
および break L4;
というラベル付き break
ステートメントが使用されています。
コミット前のコンパイラは、これらのラベルを正しく解決できず、bug137.go:9: break label is not defined: L2
および bug137.go:15: break label is not defined: L4
といったエラーを出力していました。これは、コンパイラがラベルのスコープや宣言を適切に追跡できていなかったことを示唆しています。
test/golden.out
ファイルは、Goテストスイートの期待される出力("golden" output)を定義するものです。このコミットでは、test/golden.out
に bug137.go
のテスト結果が追加されています。
+=========== bugs/bug137.go
+bugs/bug137.go:9: break label is not defined: L2
+bugs/bug137.go:15: break label is not defined: L4
+BUG should compile
この golden.out
のエントリは、このテストケースが元々コンパイルエラーを出すべきではない(BUG should compile
)にもかかわらず、実際にはエラーを出していたことを記録しています。コミットの目的は、このテストケースがエラーなくコンパイルされるようにコンパイラを修正することです。
したがって、このコミットの技術的詳細は、Goコンパイラのラベル解決ロジック、特にbreak
およびcontinue
ステートメントが参照するラベルのスコープと可視性を管理する部分に修正が加えられたことを意味します。これにより、Go言語の制御フローがより堅牢になり、開発者が意図した通りにラベル付きステートメントを使用できるようになりました。
コアとなるコードの変更箇所
このコミットで直接変更されたファイルは以下の通りです。
test/bugs/bug137.go
: 新しいテストケースファイル。ラベル付きbreak
ステートメントのバグを再現し、修正を検証するために追加されました。test/golden.out
: テストスイートの期待される出力ファイル。bug137.go
のテスト結果が追加され、このテストがコンパイルエラーを発生させないことを期待する(または、以前はエラーを発生させていたことを記録する)ように更新されました。
実際のコンパイラのソースコード(例えば、src/cmd/gc
ディレクトリ内のファイル)は、このコミットでは直接示されていません。これは、このコミットがバグ修正の「結果」としてのテストケースの追加と、そのテスト結果の更新に焦点を当てているためです。実際の修正は、このコミットの前に別の内部コミットとして行われたか、あるいはこのコミットの一部としてコンパイラコードベースの他の場所で変更された可能性があります。
コアとなるコードの解説
test/bugs/bug137.go
このファイルは、Go言語のコンパイラにおけるラベル処理のバグを検証するために作成されたテストケースです。
// $G $D/$F.go || echo BUG should compile
//
// Copyright 2009 The Go Authors. All rights reserved.
// Use of this source code is governed by a BSD-style
// license that can be found in the LICENSE file.
package main
func main() {
L1: // 単純なラベル宣言
L2: for i := 0; i < 10; i++ { // L2ラベル付きのforループ
print(i);
break L2; // L2ラベルへのbreak
}
L3: ; // 空のステートメントにラベルを付ける例
L4: for i := 0; i < 10; i++ { // L4ラベル付きのforループ
print(i);
break L4; // L4ラベルへのbreak
}
}
/*
bug137.go:9: break label is not defined: L2
bug137.go:15: break label is not defined: L4
*/
// $G $D/$F.go || echo BUG should compile
: これはGoのテストスクリプトが解釈する特別なコメントです。$G
はGoコンパイラ、$D/$F.go
は現在のテストファイルを示します。|| echo BUG should compile
は、「もしコンパイルが失敗したら(||
)、BUG should compile
と出力せよ」という意味です。これは、このファイルがエラーなくコンパイルされるべきであることを示しています。L1:
,L2:
,L3:
,L4:
: これらはGo言語のラベル宣言です。L2
とL4
はfor
ループに直接付けられています。L3
は空のステートメントに付けられています。break L2;
,break L4;
: これらはラベル付きbreak
ステートメントです。このステートメントは、対応するラベルが付いたfor
ループの実行を終了することを意図しています。- コメントブロック
/* ... */
: このブロックには、コミット前のコンパイラがこのコードに対して出力していたであろうエラーメッセージが記載されています。bug137.go:9: break label is not defined: L2
とbug137.go:15: break label is not defined: L4
は、コンパイラがラベルL2
とL4
を認識できなかったことを示しています。
このテストケースは、コンパイラがラベル宣言を正しく解析し、ラベル付き break
ステートメントがそのラベルを有効なターゲットとして認識できるようになったことを確認するために重要です。
test/golden.out
このファイルは、Goテストスイートの期待される出力("golden" output)を記録するものです。
--- a/test/golden.out
+++ b/test/golden.out
@@ -166,6 +166,11 @@ BUG: compilation succeeds incorrectly
=========== bugs/bug136.go
BUG: should not compile
+=========== bugs/bug137.go
+bugs/bug137.go:9: break label is not defined: L2
+bugs/bug137.go:15: break label is not defined: L4
+BUG should compile
+
=========== fixedbugs/bug016.go
fixedbugs/bug016.go:7: overflow converting constant to uint
この差分は、test/golden.out
に bug137.go
のエントリが追加されたことを示しています。追加された行は、bug137.go
が以前にどのようなエラーを出力していたか、そして最終的に「コンパイルされるべき」であったことを記録しています。この golden.out
の更新は、テストが実行された際に、これらのエラーメッセージがもはや表示されず、テストが成功すること(つまり、bug137.go
がエラーなくコンパイルされること)を期待していることを意味します。
関連リンク
- Go言語の仕様(The Go Programming Language Specification):
- Statements - The Go Programming Language Specification (特に "Break statements" と "Labeled statements" のセクション)
- [Go言語の仕様書は、Go言語の公式ウェブサイトで常に最新版が公開されています。このコミットが作成された2009年当時の仕様は、現在のものとは異なる可能性がありますが、ラベルとbreak/continueの基本的な概念は一貫しています。]
参考にした情報源リンク
- Go言語の公式ドキュメント
- Go言語のソースコードリポジトリ (GitHub: golang/go)
- Go言語の初期のコミット履歴とテストスイートの構造
- Go言語のコンパイラ設計に関する一般的な知識
- Go言語の
break
およびcontinue
ステートメントに関する一般的なプログラミング知識