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[インデックス 16831] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のランタイムライブラリであるlibmachlib9における、未使用パラメータに関するコンパイラ警告を抑制し、Windowsビルドの問題を修正することを目的としています。具体的には、Windows環境でビルドする際に発生する、一部の関数引数が使用されていないことによる警告を回避するための変更が加えられています。

コミット

commit dfbe467eda17d720ba33b83a0482a3fd03d52aa8
Author: Alex Brainman <alex.brainman@gmail.com>
Date:   Sat Jul 20 12:43:50 2013 +1000

    libmach,lib9: override unused parameter warnings (fixes windows build)
    
    R=golang-dev, dave
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/11620044

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/dfbe467eda17d720ba33b83a0482a3fd03d52aa8

元コミット内容

libmach,lib9: override unused parameter warnings (fixes windows build)

このコミットは、libmachおよびlib9ライブラリにおいて、未使用のパラメータに関する警告を抑制し、それによってWindowsビルドが正常に完了するように修正します。

変更の背景

Go言語のランタイムは、様々なオペレーティングシステムやアーキテクチャをサポートするために、C言語で書かれた部分を含んでいます。特に、lib9libmachといったライブラリは、システムコールや低レベルの操作を抽象化するために使用されます。

コンパイラは、コードの品質を向上させ、潜在的なバグを早期に発見するために、様々な警告を発します。その一つに「未使用のパラメータ」に関する警告があります。これは、関数が引数を受け取るものの、その引数が関数本体の中で一度も使用されていない場合に発生します。

この警告は、通常は開発者が意図しないコードや、将来的に使用される予定だったがまだ実装されていないコードを示唆することがあります。しかし、クロスプラットフォーム開発においては、特定のプラットフォームでは必要だが、別のプラットフォームでは不要な引数を持つ関数が存在することがあります。このような場合、不要な引数に対してコンパイラが警告を発することがあります。

このコミットの背景には、GoのWindowsビルドプロセスにおいて、このような未使用パラメータの警告がエラーとして扱われたり、ビルドの妨げになったりする問題があったと考えられます。開発者は、コードの意図的な設計(例えば、将来的な拡張性や、他のプラットフォームとの互換性のために引数を残している場合)と、コンパイラの警告の厳格さとの間でバランスを取る必要があります。この場合、警告を抑制することで、Windows上でのビルドを成功させることが喫緊の課題でした。

前提知識の解説

1. コンパイラの警告とエラー

  • 警告 (Warning): コンパイラがコード内で潜在的な問題や非推奨の記述を見つけた場合に発するメッセージです。通常、警告が出てもプログラムのコンパイルは成功し、実行可能です。しかし、警告は将来のバグやパフォーマンスの問題につながる可能性があるため、無視すべきではありません。
  • エラー (Error): コンパイラがコード内で文法的な誤りや、実行不可能な記述を見つけた場合に発するメッセージです。エラーが出た場合、プログラムのコンパイルは失敗し、実行可能なバイナリは生成されません。

一部のビルドシステムやコンパイラ設定では、特定の警告をエラーとして扱うように設定されている場合があります(例: -Werrorフラグ)。これにより、警告が一つでもあればビルドが失敗するようになり、コード品質の厳格な維持に役立ちます。このコミットのケースでは、Windowsビルド環境が未使用パラメータの警告をエラーとして扱っていた可能性があります。

2. 未使用パラメータの警告

関数が引数を受け取るが、その引数が関数本体のどこでも使用されていない場合に発生する警告です。

例 (C言語):

void myFunction(int usedParam, int unusedParam) {
    printf("Used parameter: %d\n", usedParam);
    // unusedParam はここで使用されていない
}

この場合、unusedParamに対してコンパイラが警告を発する可能性があります。

3. USED マクロ

C言語の慣用的なテクニックとして、コンパイラが未使用の変数やパラメータに対して警告を発するのを抑制するために、ダミーの「使用」を行うマクロが使われることがあります。最も一般的なのは、変数を揮発性として宣言したり、変数のアドレスをどこかに渡したり、あるいは単に変数に対して何らかの操作(例えば、(void)variable;のようにキャストするだけ)を行うことです。

このコミットで導入されているUSEDマクロは、おそらく以下のような定義を持つものと推測されます(GoのCコードベースでよく見られるパターン)。

#define USED(x) (void)(x)

このマクロは、引数xvoid型にキャストするだけの操作を行います。これにより、コンパイラはxが「使用された」と判断し、未使用の警告を発しなくなります。この方法は、コードの実行には影響を与えず、コンパイラの警告を抑制する目的のみで使用されます。

4. プリプロセッサディレクティブ #ifdef _WIN32

C/C++言語のプリプロセッサディレクティブの一つで、条件付きコンパイルを可能にします。

  • #ifdef _WIN32: _WIN32というマクロが定義されている場合に、その後のコードブロックをコンパイルに含めます。_WIN32は通常、Microsoft Windows環境でコンパイルする際に自動的に定義されるマクロです。
  • #endif: #ifdefまたは#ifndefで始まった条件付きコンパイルブロックの終わりを示します。

このディレクティブを使用することで、特定のオペレーティングシステム(この場合はWindows)に特化したコードを記述し、他のプラットフォームではそのコードがコンパイルされないようにすることができます。これにより、クロスプラットフォーム対応のコードベースを管理しやすくなります。

技術的詳細

このコミットの技術的詳細は、GoランタイムのC言語部分におけるクロスプラットフォーム対応とコンパイラ警告の管理に集約されます。

Goランタイムは、OS固有の機能にアクセスするために、C言語で書かれた低レベルのコード(通常はsrc/lib9src/libmachディレクトリに配置される)を使用します。これらのライブラリは、ファイルシステム操作、プロセス管理、メモリマッピングなど、OSに依存する機能を提供します。

問題は、これらのC言語関数が、異なるOS間で共通のインターフェースを持つように設計されている一方で、特定のOSでは一部の引数が実際に使用されない場合があることです。例えば、ある関数がUnix系OSでは特定のフラグ引数を必要とするが、Windowsではそのフラグが意味を持たない、あるいは別の方法で処理される、といったケースです。

このような状況で、Windows環境でコンパイルする際に、コンパイラが未使用の引数に対して警告を発します。もしビルド設定がこれらの警告をエラーとして扱っていた場合、Windowsビルドは失敗します。

このコミットの解決策は、以下の2つの主要なテクニックを組み合わせています。

  1. USEDマクロの導入: 未使用のパラメータに対してUSED(parameter_name);という形式でマクロを適用します。これにより、コンパイラは形式的にそのパラメータが「使用された」と判断し、警告を発しなくなります。このマクロは、コードの実行には影響を与えず、コンパイル時の警告抑制のみを目的とします。
  2. #ifdef _WIN32による条件付きコンパイル: USEDマクロの適用をWindows環境に限定するために、#ifdef _WIN32プリプロセッサディレクティブを使用しています。これは、Unix系OSなど、Windows以外の環境ではこれらのパラメータが実際に使用されるか、あるいは未使用警告が問題とならないためです。これにより、コードの可読性を保ちつつ、特定のプラットフォームでのみ必要な警告抑制を適用できます。

このアプローチにより、Goのランタイムコードは、異なるプラットフォーム間で共通の関数シグネチャを維持しつつ、各プラットフォームのコンパイラの特性(特に警告の厳格さ)に対応できるようになります。これは、大規模なクロスプラットフォームプロジェクトにおいて、ビルドの安定性とコードベースの保守性を確保するための一般的なプラクティスです。

コアとなるコードの変更箇所

このコミットでは、以下の4つのファイルが変更されています。

  1. src/lib9/_p9dir.c
  2. src/lib9/dirfwstat.c
  3. src/lib9/windows.c
  4. src/libmach/windows.c

それぞれのファイルで、特定の関数の引数に対してUSED()マクロが適用されています。

src/lib9/_p9dir.c

--- a/src/lib9/_p9dir.c
+++ b/src/lib9/_p9dir.c
@@ -43,6 +43,9 @@ _p9dir(struct stat *lst, struct stat *st, char *name, Dir *d, char **str, char *
 	char tmp[20];
 	int sz, fd;
 
+#ifdef _WIN32
+	USED(lst);
+#endif
 	fd = -1;
 	USED(fd);
 	sz = 0;

src/lib9/dirfwstat.c

--- a/src/lib9/dirfwstat.c
+++ b/src/lib9/dirfwstat.c
@@ -48,6 +48,8 @@ futimes(int fd, struct timeval *tv)
 static int
 futimes(int fd, struct timeval *tv)
 {
+	USED(fd);
+	USED(tv);
 	werrstr("futimes not available");
 	return -1;
 }

src/lib9/windows.c

--- a/src/lib9/windows.c
+++ b/src/lib9/windows.c
@@ -14,6 +14,7 @@ fork(void)
 int
 p9rfork(int flags)
 {
+	USED(flags);
 	return -1;
 }

src/libmach/windows.c

--- a/src/libmach/windows.c
+++ b/src/libmach/windows.c
@@ -7,6 +7,8 @@
 int
 ctlproc(int pid, char *msg)
 {
+	USED(pid);
+	USED(msg);
 	sysfatal("ctlproc unimplemented in Windows");
 	return -1;
 }
@@ -14,6 +16,7 @@ ctlproc(int pid, char *msg)
 char*
 proctextfile(int pid)
 {
+	USED(pid);
 	sysfatal("proctextfile unimplemented in Windows");
 	return nil;
 }
@@ -21,6 +24,7 @@ proctextfile(int pid)
 char*
 procstatus(int pid)
 {
+	USED(pid);
 	sysfatal("procstatus unimplemented in Windows");
 	return nil;
 }
@@ -28,12 +32,16 @@ procstatus(int pid)
 Map*
 attachproc(int pid, Fhdr *fp)
 {
+	USED(pid);
+	USED(fp);
 	sysfatal("attachproc unimplemented in Windows");
 	return nil;
 }
@@ -35,12 +41,16 @@ attachproc(int pid, Fhdr *fp)
 void
 detachproc(Map *m)
 {
+	USED(m);
 	sysfatal("detachproc unimplemented in Windows");
 }
 
 int
 procthreadpids(int pid, int *p, int np)
 {
+	USED(pid);
+	USED(p);
+	USED(np);
 	sysfatal("procthreadpids unimplemented in Windows");
 	return -1;
 }
@@ -59,6 +69,10 @@ pread(int fd, void *buf, int count, int offset)
 int 
 pwrite(int fd, void *buf, int count, int offset)
 {
+	USED(fd);
+	USED(buf);
+	USED(count);
+	USED(offset);
 	sysfatal("pwrite unimplemented in Windows");
 	return -1;
 }
@@ -66,6 +80,8 @@ pwrite(int fd, void *buf, int count, int offset)
 int 
 nanosleep(const struct timespec *rqtp, struct timespec *rmtp)
 {
+	USED(rqtp);
+	USED(rmtp);
 	sysfatal("nanosleep unimplemented in Windows");
 	return -1;
 }

コアとなるコードの解説

このコミットの核心は、C言語のプリプロセッサとUSEDマクロを組み合わせて、Windows環境でのみ発生する未使用パラメータの警告を抑制することです。

各変更箇所では、以下のようなパターンが見られます。

  1. _p9dir.cにおけるlstパラメータ: _p9dir関数は、struct stat *lstという引数を受け取ります。この引数は、Unix系システムでは使用される可能性がありますが、Windowsでは不要であるか、別の方法で処理されるため、#ifdef _WIN32ブロック内でUSED(lst);が追加されています。これにより、Windowsコンパイラがlstが使用されていないと判断して警告を発するのを防ぎます。

  2. dirfwstat.cにおけるfd, tvパラメータ: futimes関数は、int fdstruct timeval *tvという引数を受け取ります。この関数はWindowsでは「futimes not available」として実装されており、引数が実際に使用されないため、USED(fd);USED(tv);が追加されています。ここでは#ifdef _WIN32がないため、この関数はすべてのプラットフォームで引数が未使用であると見なされているか、あるいはこのファイルがWindows固有のビルドでのみコンパイルされることを前提としている可能性があります。

  3. windows.cにおけるflagsパラメータ: p9rfork関数は、int flagsという引数を受け取ります。この関数はWindowsでは常に-1を返す(実装されていない)ため、USED(flags);が追加されています。

  4. libmach/windows.cにおける複数の関数: libmach/windows.cファイルには、ctlproc, proctextfile, procstatus, attachproc, detachproc, procthreadpids, pwrite, nanosleepなど、多くの関数が含まれています。これらの関数は、Windows環境では「unimplemented in Windows」として実装されており、実際には引数が使用されずにsysfatalを呼び出すだけです。そのため、それぞれの関数の引数に対してUSED()マクロが適用され、未使用パラメータの警告が抑制されています。

これらの変更は、Goのクロスコンパイル戦略において非常に重要です。Goは単一のソースコードから複数のプラットフォーム向けのバイナリを生成できることを強みとしていますが、その実現のためには、C言語で書かれた低レベルのランタイムコードが各プラットフォームの特性に適切に対応する必要があります。このコミットは、その対応の一環として、コンパイラの警告を管理し、Windowsビルドの安定性を確保するための具体的なステップを示しています。

関連リンク

参考にした情報源リンク

  • C言語のプリプロセッサディレクティブ (#ifdef, #defineなど) に関する一般的な情報源 (例: C言語の標準仕様、GCCのドキュメントなど)
  • Go言語のランタイム構造に関する一般的な情報源 (例: Goの公式ドキュメント、Goのソースコード解説記事など)
  • クロスプラットフォーム開発におけるコンパイラ警告の管理に関する一般的なプログラミングプラクティス。
  • Go言語のソースコード内のUSEDマクロの定義 (通常はsrc/runtime/go_asm.hや関連するヘッダファイルに存在する可能性がありますが、このコミットの時点ではCコードに直接定義されている可能性もあります)。
  • Go言語のWindowsビルドに関する情報。