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[インデックス 16958] ファイルの概要

このコミットは、Go言語の公式仕様書(doc/go_spec.html)に対して行われた変更であり、チャネル(channels)の2つの重要な特性、すなわち「FIFO(First-In, First-Out)キューとしての動作」と「並行アクセスに対する安全性」を明確にすることを目的としています。これにより、Go言語のチャネルの振る舞いに関する誤解を解消し、より正確な理解を促進します。

コミット

commit bd65404eef75fb7e37e50cb70721fe707f346792
Author: Rob Pike <r@golang.org>
Date:   Thu Aug 1 07:12:32 2013 +1000

    spec: clarify a couple of issues about channels
    
    1. They are FIFOs.
    2. They are safe for concurrent access.
    
    Fixes #5911.
    
    R=golang-dev, dvyukov, adg
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/11549043

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/bd65404eef75fb7e37e50cb70721fe707f346792

元コミット内容

spec: clarify a couple of issues about channels

1. They are FIFOs.
2. They are safe for concurrent access.

Fixes #5911.

R=golang-dev, dvyukov, adg
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/11549043

変更の背景

Go言語のチャネルは、ゴルーチン間の通信と同期のための強力なプリミティブです。しかし、その動作に関する一部の側面、特にメッセージの順序付けと並行アクセス時の安全性について、初期の仕様では明示的な記述が不足していた可能性があります。

このコミットは、Go言語のIssue #5911("spec: clarify channel ordering and concurrency")に対応するものです。このIssueでは、チャネルがFIFO(First-In, First-Out)であること、および複数のゴルーチンから同時にアクセスされた場合の安全性が仕様に明記されていない点が指摘されていました。

Go言語の設計思想として、並行処理を安全かつ容易に行えるようにすることが挙げられます。チャネルはその中心的な要素であり、その振る舞いが曖昧であると、開発者が誤った仮定に基づいてコードを記述し、デッドロックやデータ競合といった問題を引き起こす可能性がありました。このコミットは、チャネルの基本的な保証を明確にすることで、開発者がより堅牢で正しい並行プログラムを構築できるようにするための重要な一歩です。

前提知識の解説

Go言語のチャネル (Channels)

Go言語におけるチャネルは、ゴルーチン(軽量スレッド)間で値を送受信するための通信メカニズムです。チャネルは型付けされており、特定の型の値のみを送受信できます。

  • チャネルの作成: make(chan Type) で作成します。バッファなしチャネル(同期チャネル)とバッファ付きチャネル(非同期チャネル)があります。
    • make(chan Type): バッファなしチャネル。送信操作は受信操作が完了するまでブロックし、受信操作は送信操作が完了するまでブロックします。
    • make(chan Type, capacity): バッファ付きチャネル。バッファが満杯になるまで送信はブロックせず、バッファが空になるまで受信はブロックしません。
  • 送信操作: ch <- value でチャネルに値を送信します。
  • 受信操作: value := <-ch または <-ch でチャネルから値を受信します。

FIFO (First-In, First-Out)

FIFOは「先入れ先出し」を意味するデータ構造の原則です。キュー(待ち行列)がこの原則に従います。チャネルがFIFOであるということは、チャネルに送信された値は、送信された順序と同じ順序で受信されることを意味します。これは、特に複数のゴルーチンが同じチャネルに送信したり、同じチャネルから受信したりする場合に、メッセージの順序保証が重要であることを示します。

並行アクセスに対する安全性 (Concurrency Safety)

並行アクセスに対する安全性とは、複数のゴルーチン(またはスレッド)が同時に同じリソース(この場合はチャネル)にアクセスしても、データ競合やその他の未定義の動作が発生しないことを保証する特性です。Go言語のチャネルは、その内部で適切な同期メカニズム(ミューテックスなど)を実装しており、複数のゴルーチンが同時にチャネルに対して送信、受信、caplenといった操作を行っても、安全に動作するように設計されています。これにより、開発者はチャネルを使用する際に、明示的なロックやその他の同期プリミティブを自分で実装する必要がなくなります。

技術的詳細

このコミットは、Go言語の仕様書であるdoc/go_spec.htmlに2つの新しいパラグラフを追加することで、チャネルの動作に関する曖昧さを解消しています。

  1. FIFOの明確化:

    • 追加された最初のパラグラフは、「チャネルは先入れ先出しキューとして機能する」と明記しています。
    • さらに、「例えば、単一のゴルーチンがチャネルに値を送信し、単一のゴルーチンがそれらの値を受信する場合、値は送信された順序で受信される」という例を挙げて、このFIFOの原則を具体的に説明しています。これは、チャネルがメッセージの順序を保証することを明確にしています。
  2. 並行アクセス安全性の明確化:

    • 追加された2番目のパラグラフは、「単一のチャネルは、追加の同期なしに、任意の数のゴルーチンによって送信および受信操作、および組み込み関数caplenの呼び出しに使用できる」と述べています。
    • これは、チャネルが本質的に並行アクセスに対して安全であり、開発者がチャネルを使用する際に手動でロックをかける必要がないことを明確に保証しています。チャネルの内部実装が、複数のゴルーチンからの同時アクセスを適切に処理することを意味します。

これらの追加により、Go言語のチャネルの振る舞いに関する公式な保証が強化され、開発者がチャネルをより自信を持って、そして正しく使用できるようになります。

コアとなるコードの変更箇所

変更はdoc/go_spec.htmlファイルに対して行われています。

--- a/doc/go_spec.html
+++ b/doc/go_spec.html
@@ -4126,6 +4126,20 @@ A send on a closed channel proceeds by causing a <a href="#Run_time_panics">run-
 A send on a <code>nil</code> channel blocks forever.
 </p>
 
+<p>
+Channels act as first-in-first-out queues.
+For example, if a single goroutine sends on a channel values
+that are received by a single goroutine, the values are received in the order sent.
+</p>
+
+<p>
+A single channel may be used for send and receive
+operations and calls to the built-in functions
+<a href="#Length_and_capacity"><code>cap</code></a> and
+<a href="#Length and_capacity"><code>len</code></a>
+by any number of goroutines without further synchronization.
+</p>
+
 <pre>
 ch &lt;- 3
 </pre>

コアとなるコードの解説

上記のdiffは、doc/go_spec.htmlの既存のチャネルに関する記述の後に、2つの新しい<p>(パラグラフ)タグを追加していることを示しています。

  1. 最初の追加パラグラフ:

    <p>
    Channels act as first-in-first-out queues.
    For example, if a single goroutine sends on a channel values
    that are received by a single goroutine, the values are received in the order sent.
    </p>
    

    このHTMLスニペットは、チャネルがFIFOキューとして機能することを明確に述べています。特に、単一の送信者と単一の受信者のシナリオを例に挙げることで、この順序保証がどのように適用されるかを具体的に示しています。これは、チャネルの基本的な動作特性を明文化するものです。

  2. 2番目の追加パラグラフ:

    <p>
    A single channel may be used for send and receive
    operations and calls to the built-in functions
    <a href="#Length_and_capacity"><code>cap</code></a> and
    <a href="#Length_and_capacity"><code>len</code></a>
    by any number of goroutines without further synchronization.
    </p>
    

    このHTMLスニペットは、チャネルが並行アクセスに対して安全であることを保証しています。sendreceivecaplenといったチャネル操作が、複数のゴルーチンから同時に実行されても、開発者が追加の同期メカニズム(例: sync.Mutex)を導入する必要がないことを明示しています。これは、Go言語のチャネルが提供する重要な安全保証の一つであり、並行プログラミングを簡素化する上で非常に重要です。

これらの変更は、Go言語のチャネルの設計意図と振る舞いを、公式仕様書においてより正確かつ包括的に記述するためのものです。

関連リンク

参考にした情報源リンク

  • Go言語の公式ドキュメント
  • Go言語のGitHubリポジトリのIssueトラッカー
  • Go言語のGerrit Code Reviewシステム
  • Go言語に関する一般的な技術記事やチュートリアル(チャネルのFIFO性や並行安全性について解説しているもの)