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[インデックス 17175] ファイルの概要

このコミットは、Goプロジェクトのcmd/apiツールにおけるAPIチェックの挙動を改善するものです。具体的には、go.toolsリポジトリのMercurial (hg) チェックアウトがネットワーク接続の問題で失敗した場合に、APIチェック全体が不必要に失敗するのを防ぐための変更が加えられています。ネットワークが利用できない状況では、APIチェックをスキップし、その旨をログに出力して正常終了するように修正されています。

コミット

  • コミットハッシュ: 4d2494330eff67b8f67eb8af165dbcfc3c2aabdf
  • Author: Brad Fitzpatrick bradfitz@golang.org
  • Date: Mon Aug 12 19:18:47 2013 -0700

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/4d2494330eff67b8f67eb8af165dbcfc3c2aabdf

元コミット内容

    cmd/api: don't fail API check if there's no network
    
    If the hg checkout of go.tools fails, check for Internet
    connectivity before failing.
    
    R=golang-dev, shivakumar.gn
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/12814043

変更の背景

Goプロジェクトでは、APIの互換性を維持するためにcmd/apiというツールが使用されています。このツールは、Goの標準ライブラリや関連ツールのAPIが意図せず変更されていないかを検証する役割を担っています。この検証プロセスの一環として、golang.org/x/toolsリポジトリ(当時はMercurialリポジトリとして管理されていた可能性が高い)をローカルにチェックアウトする必要がありました。

しかし、このチェックアウト処理がネットワーク接続がない環境や、一時的なネットワークの問題によって失敗した場合、cmd/apiツールはネットワークの問題であるにもかかわらず、APIチェック自体が失敗したと判断し、エラーとして終了していました。これは、開発者がオフライン環境で作業している場合や、CI/CD環境で一時的なネットワーク障害が発生した場合に、誤ったエラー報告につながる可能性がありました。

このコミットは、このような誤った失敗を防ぎ、より堅牢なAPIチェックプロセスを実現することを目的としています。具体的には、go.toolsのチェックアウトが失敗した際に、それが本当にネットワークの問題によるものなのかを事前に確認し、ネットワークが利用できない場合はAPIチェックをスキップして正常終了するように変更されました。

前提知識の解説

cmd/api

cmd/apiは、Go言語の標準ライブラリや公開APIの互換性を検証するための内部ツールです。Go言語は後方互換性を非常に重視しており、既存のコードが新しいバージョンのGoでも問題なく動作することを保証しています。cmd/apiは、Goのリリースプロセスにおいて、APIの変更が互換性を損なわないことを確認するために利用されます。このツールは、Goのソースコードツリー内に存在し、通常は開発者やGoのリリースエンジニアによって使用されます。

golang.org/x/tools (旧 go.tools)

golang.org/x/toolsは、Go言語の公式な拡張ツール群を含むリポジトリです。これには、静的解析ツール、コード生成ツール、デバッグツールなど、Go開発を支援する様々なユーティリティが含まれています。例えば、goimports(インポートの自動整理)、vet(潜在的なバグの検出)、gopls(Go言語サーバー)などがこのリポジトリに含まれています。cmd/apiがこのリポジトリを参照するのは、GoのAPIチェックが、これらのツール群のAPIも対象としているか、またはこれらのツール群がAPIチェックに必要な情報を提供しているためと考えられます。

Mercurial (hg)

Mercurial (hg) は、Gitと同様の分散型バージョン管理システムです。Goプロジェクトは初期にはMercurialを使用していましたが、後にGitに移行しました。このコミットが2013年のものであることから、当時はまだMercurialがGoプロジェクトの一部で利用されていたことがわかります。hg checkoutコマンドは、Mercurialリポジトリから特定のバージョンやブランチのコードをローカルに取得するために使用されます。

http://ip.appspot.com/

http://ip.appspot.com/は、Google App Engine上でホストされているシンプルなサービスで、リクエスト元のIPアドレスを返すことを目的としていました。このようなサービスは、クライアントがインターネットに接続されているかどうかを簡易的に確認するための「ネットワーク接続性チェック」によく利用されます。このコミットでは、このURLへのHTTP HEADリクエストを送信することで、インターネット接続の有無を判断しています。HEADリクエストは、GETリクエストと同様にヘッダー情報のみを取得し、ボディは取得しないため、ネットワーク接続の確認には効率的です。

技術的詳細

このコミットの技術的な核心は、hg cloneコマンドの失敗がネットワークの問題によるものかどうかを判断するためのヒューリスティックなチェックを追加した点にあります。

従来のコードでは、hg cloneコマンドがエラーを返した場合、即座にlog.Fatalfを呼び出してプログラムを終了させていました。しかし、この変更では、hg cloneが失敗した際に、まずhttp.Head("http://ip.appspot.com/")を呼び出してネットワーク接続を試みます。

  • net/httpパッケージの利用: Goの標準ライブラリであるnet/httpパッケージがインポートされ、HTTPリクエストを送信する機能が利用されています。
  • http.Headの利用: http.Head関数は、指定されたURLに対してHTTP HEADリクエストを送信します。HEADリクエストは、サーバーからレスポンスヘッダーのみを取得し、レスポンスボディは取得しません。これにより、ネットワーク接続の有無を軽量かつ効率的に確認できます。
  • エラーハンドリング: http.Headがエラーを返した場合(例: ホストに到達できない、DNS解決に失敗する、タイムアウトするなど)、それはネットワーク接続がないことを示唆します。この場合、if _, err := http.Head("http://ip.appspot.com/"); err != nilの条件が真となり、ネットワークが利用できないと判断されます。
  • APIチェックのスキップ: ネットワークが利用できないと判断された場合、log.Printfで「# Skipping API check; network appears to be unavailable」(APIチェックをスキップします。ネットワークが利用できないようです)というメッセージを出力し、os.Exit(0)を呼び出してプログラムを正常終了させます。os.Exit(0)は、プログラムがエラーなく終了したことをオペレーティングシステムに伝えます。
  • 既存のエラー処理の維持: http.Headが成功したにもかかわらずhg cloneが失敗した場合は、ネットワーク以外の問題(例: リポジトリが存在しない、権限の問題など)であると判断され、従来のlog.Fatalfによるエラー終了処理が実行されます。これにより、真のエラーは引き続き報告されます。

このアプローチにより、ネットワーク接続がないという一時的または環境的な要因によって、APIチェックが不必要に失敗するのを防ぎ、ツールの使いやすさと堅牢性が向上しました。

コアとなるコードの変更箇所

--- a/src/cmd/api/run.go
+++ b/src/cmd/api/run.go
@@ -16,6 +16,7 @@ package main
 import (
 	"fmt"
 	"log"
+	"net/http"
 	"os"
 	"os/exec"
 	"path/filepath"
@@ -109,6 +110,10 @@ func prepGoPath() string {
 	cmd.Dir = cloneDir
 	out, err := cmd.CombinedOutput()
 	if err != nil {
+		if _, err := http.Head("http://ip.appspot.com/"); err != nil {
+			log.Printf("# Skipping API check; network appears to be unavailable")
+			os.Exit(0)
+		}
 		log.Fatalf("Error running hg clone on go.tools: %v\n%s", err, out)
 	}
 	if err := os.Rename(tmpDir, finalDir); err != nil {

コアとなるコードの解説

変更はsrc/cmd/api/run.goファイルのprepGoPath関数内で行われています。この関数は、go.toolsリポジトリを準備(おそらくクローンまたは更新)する役割を担っています。

  1. import "net/http"の追加:

    +	"net/http"
    

    HTTPリクエストを送信するために、Goの標準ライブラリであるnet/httpパッケージがインポートされています。

  2. エラーチェックの追加:

    	if err != nil {
    +		if _, err := http.Head("http://ip.appspot.com/"); err != nil {
    +			log.Printf("# Skipping API check; network appears to be unavailable")
    +			os.Exit(0)
    +		}
    		log.Fatalf("Error running hg clone on go.tools: %v\n%s", err, out)
    	}
    

    cmd.CombinedOutput()hg cloneコマンドの実行結果)がエラーを返した場合(if err != nil)、以下の新しいロジックが実行されます。

    • http.Head("http://ip.appspot.com/")を呼び出し、http://ip.appspot.com/へのHEADリクエストを試みます。このリクエストがエラーを返した場合(err != nil)、それはネットワーク接続がないことを意味します。
    • ネットワークがないと判断された場合、log.Printfで「APIチェックをスキップします。ネットワークが利用できないようです」というメッセージを標準出力に表示します。
    • os.Exit(0)を呼び出して、プログラムを正常終了させます。これにより、ネットワークの問題によるhg cloneの失敗が、APIチェック全体の失敗として扱われることを防ぎます。
    • もしhttp.Headが成功した(つまりネットワーク接続がある)にもかかわらずhg cloneが失敗した場合は、引き続き元のlog.Fatalfが実行され、hg cloneのエラーメッセージと共にプログラムが異常終了します。これは、ネットワーク以外の原因(例: リポジトリURLの間違い、権限不足など)による失敗であることを示します。

この変更により、cmd/apiツールはネットワークの状況を考慮し、よりインテリジェントにエラーを処理できるようになりました。

関連リンク

参考にした情報源リンク