[インデックス 1753] ファイルの概要
このコミットは、Go言語の標準ライブラリsrc/lib/math
パッケージ内の複数のファイルにわたる変更を含んでいます。主な変更は、関数のドキュメンテーションコメントの追加と、関数引数名の統一です。具体的には、以下のファイルが影響を受けています。
src/lib/math/asin.go
src/lib/math/atan.go
src/lib/math/atan2.go
src/lib/math/const.go
src/lib/math/exp.go
src/lib/math/fabs.go
src/lib/math/floor.go
src/lib/math/fmod.go
src/lib/math/hypot.go
src/lib/math/log.go
src/lib/math/pow.go
src/lib/math/pow10.go
src/lib/math/runtime.go
src/lib/math/sin.go
src/lib/math/sinh.go
src/lib/math/sqrt.go
src/lib/math/tan.go
src/lib/math/tanh.go
これらの変更は、math
パッケージのAPIの可読性と理解度を向上させることを目的としています。
コミット
commit dfc3910afabf5f9df2ba7b3924b30347ce210b1c
Author: Russ Cox <rsc@golang.org>
Date: Thu Mar 5 13:31:01 2009 -0800
math: doc
R=r
DELTA=173 (74 added, 14 deleted, 85 changed)
OCL=25753
CL=25767
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/dfc3910afabf5f9df2ba7b3924b30347ce210b1c
元コミット内容
math: doc
R=r
DELTA=173 (74 added, 14 deleted, 85 changed)
OCL=25753
CL=25767
変更の背景
このコミットの背景には、Go言語の標準ライブラリ、特にmath
パッケージのドキュメンテーションを改善し、APIの使いやすさを向上させるという明確な意図があります。Go言語では、関数や型の定義の直前に記述されたコメントがgodoc
ツールによって自動的にドキュメンテーションとして生成されます。このコミットは、このgodoc
の仕組みを最大限に活用し、各数学関数の目的、引数、戻り値、そして特殊なケース(例: NaN
、Inf
の扱い)について明確な説明を提供することを目的としています。
初期のGo言語開発段階において、コードの機能が実装された後、そのAPIがどのように振る舞うべきか、特にエッジケースでの挙動を明文化する必要がありました。これにより、開発者がmath
パッケージの関数をより正確に、かつ自信を持って使用できるようになります。また、引数名をarg
のような一般的なものからx
やy
といった数学的な文脈でより意味のあるものに変更することで、コードの可読性も向上させています。
前提知識の解説
このコミットを理解するためには、以下のGo言語の基本的な概念と数学的な知識が役立ちます。
-
Go言語の関数定義とコメント:
- Go言語では、関数の定義は
func 関数名(引数名 引数型) 戻り値型 { ... }
の形式を取ります。 - 関数の直前に記述された単一行コメント(
//
)や複数行コメント(/* ... */
)は、godoc
ツールによって自動的にドキュメンテーションとして抽出されます。特に、エクスポートされた(大文字で始まる)関数や型の直前のコメントは、そのAPIの公式ドキュメントとなります。このコミットでは、このgodoc
の慣習に従ってコメントが追加されています。 - 変数の宣言には
var 変数名 型
または短縮宣言変数名 := 値
が使われます。このコミットでは、一部の関数でvar
宣言から:=
への変更も見られますが、これは主にコードの簡潔化のためです。
- Go言語では、関数の定義は
-
IEEE 754 浮動小数点数標準:
- Go言語の
float64
型は、IEEE 754倍精度浮動小数点数標準に準拠しています。この標準は、浮動小数点数の表現だけでなく、特殊な値(NaN
- Not a Number,Inf
- Infinity)の扱いも定義しています。 NaN
は、0/0やSqrt(-1)
のような未定義または表現不可能な結果を表します。Inf
は、数値が表現可能な最大値を超えた場合(オーバーフロー)や、0による除算の結果として生じる無限大を表します。math
パッケージの関数は、これらの特殊な入力値に対して特定の出力(例:Sqrt(-1)
はNaN
を返す)を返すことが期待されており、このコミットで追加されたドキュメントはその挙動を明記しています。
- Go言語の
-
数学関数と特殊ケース:
math
パッケージに含まれる関数(Sin
,Cos
,Log
,Sqrt
など)は、一般的な数学関数です。- これらの関数には、定義域外の入力(例:
Log(負の数)
)や、特定の境界値(例:Sqrt(0)
)に対する挙動が数学的に、あるいはIEEE 754標準によって定められています。ドキュメンテーションは、これらの「特殊ケース」を明確にすることで、関数の堅牢な利用を促します。
技術的詳細
このコミットの技術的な詳細は、主にGo言語のmath
パッケージ内の各関数のドキュメンテーションコメントの追加と、引数名の統一に集約されます。
-
Godocコメントの追加:
- 各関数の定義の直前に、その関数の目的、引数、戻り値、そして「Special cases are:」として特殊な入力値に対する挙動を記述したコメントが追加されています。
- 例:
Exp
関数にはExp(+Inf) = +Inf
,Exp(NaN) = NaN
といった特殊ケースが明記されています。 - これにより、
godoc
ツールで生成されるドキュメントがより詳細になり、開発者が関数の挙動を正確に理解できるようになります。
-
引数名の統一と明確化:
- 多くの関数で、引数名が
arg
やarg1
,arg2
といった一般的なものから、x
,y
,p
,q
など、その関数の数学的な文脈により適した名前に変更されています。 - 例:
Asin(arg float64)
がAsin(x float64)
に、Atan2(arg1, arg2 float64)
がAtan2(x, y float64)
に変更されています。 - この変更は、コードの可読性を向上させ、関数のシグネチャを見ただけで引数の意味を推測しやすくすることを目的としています。
- 多くの関数で、引数名が
-
runtime.go
におけるコメントの追加:src/lib/math/runtime.go
ファイルには、Goランタイムに実装されている低レベルの浮動小数点数操作関数(例:Float64bits
,Frexp
,IsNaN
など)の宣言が含まれています。- これらの関数にも、それぞれの目的と挙動を説明する詳細なコメントが追加されています。特に、
Frexp
やLdexp
のような関数は、浮動小数点数の内部表現を扱うため、その挙動の正確な説明が不可欠です。
-
const.go
におけるパッケージコメントとBUGコメント:src/lib/math/const.go
には、math
パッケージ全体の目的を説明するパッケージコメント// The math package provides basic constants and mathematical functions.
が追加されました。- また、
// BUG(rsc): The manual should define the special cases for all of these functions.
というコメントが追加されており、これは将来的にGo言語の公式マニュアルでこれらの関数の特殊ケースがより詳細に定義されるべきであるという開発者の意図を示しています。
これらの変更は、Go言語のAPI設計における「明確さ」と「使いやすさ」という原則を反映しています。
コアとなるコードの変更箇所
このコミットにおけるコアとなるコードの変更は、主に以下のパターンに従っています。
-
関数の引数名の変更とドキュメンテーションコメントの追加:
src/lib/math/asin.go
のAsin
関数:--- a/src/lib/math/asin.go +++ b/src/lib/math/asin.go @@ -13,21 +13,18 @@ import "math" * Arctan is called after appropriate range reduction. */ -func Asin(arg float64) float64 { - var temp, x float64; - var sign bool; - - sign = false; - x = arg; +// Asin returns the arc sine of x. +func Asin(x float64) float64 { + sign := false; if x < 0 { x = -x; sign = true; } - if arg > 1 { + if x > 1 { return NaN(); } - temp = Sqrt(1 - x*x); + temp := Sqrt(1 - x*x); if x > 0.7 { temp = Pi/2 - Atan(temp/x); } else { @@ -40,9 +37,10 @@ func Asin(arg float64) float64 { return temp; } -func Acos(arg float64) float64 { - if arg > 1 || arg < -1 { +// Acos returns the arc cosine of x. +func Acos(x float64) float64 { + if x > 1 || x < -1 { return NaN(); } - return Pi/2 - Asin(arg); + return Pi/2 - Asin(x); }
Asin
関数の引数名がarg
からx
に変更され、// Asin returns the arc sine of x.
というドキュメンテーションコメントが追加されています。Acos
も同様です。
-
runtime.go
における関数のドキュメンテーションコメントの追加:src/lib/math/runtime.go
のFloat32bits
関数:--- a/src/lib/math/runtime.go +++ b/src/lib/math/runtime.go @@ -7,14 +7,46 @@ package math // implemented in C, in ../../runtime // perhaps one day the implementations will move here. -func Float32bits(f float32) (b uint32) -func Float32frombits(b uint32) (f float32) -func Float64bits(f float64) (b uint64) -func Float64frombits(b uint64) (f float64) -func Frexp(f float64) (frac float64, exp int) -func Inf(sign int32) (f float64) -func IsInf(f float64, sign int) (is bool) -func IsNaN(f float64) (is bool) -func Ldexp(frac float64, exp int) (f float64) -func Modf(f float64) (integer float64, frac float64) -func NaN() (f float64) +// Float32bits returns the IEEE 754 binary representation of f. +func Float32bits(f float32) (b uint32) + +// Float32frombits returns the floating point number corresponding +// to the IEEE 754 binary representation b. +func Float32frombits(b uint32) (f float32) + +// Float64bits returns the IEEE 754 binary representation of f. +func Float64bits(f float64) (b uint64) + +// Float64frombits returns the floating point number corresponding +// the IEEE 754 binary representation b. +func Float64frombits(b uint64) (f float64) + +// Frexp breaks f into a normalized fraction +// and an integral power of two. +// It returns frac and exp satisfying f == frac × 2<sup>exp</sup>, +// with the absolute value of frac in the interval [½, 1). +func Frexp(f float64) (frac float64, exp int) + +// Inf returns positive infinity if sign >= 0, negative infinity if sign < 0. +func Inf(sign int32) (f float64) + +// IsInf returns whether f is an infinity, according to sign. +// If sign > 0, IsInf returns whether f is positive infinity. +// If sign < 0, IsInf returns whether f is negative infinity. +// If sign == 0, IsInf returns whether f is either infinity. +func IsInf(f float64, sign int) (is bool) + +// IsNaN returns whether f is an IEEE 754 ``not-a-number'' value. +func IsNaN(f float64) (is bool) + +// Ldexp is the inverse of Frexp. +// It returns frac × 2<sup>exp</sup>. +func Ldexp(frac float64, exp int) (f float64) + +// Modf returns integer and fractional floating-point numbers +// that sum to f. +// Integer and frac have the same sign as f. +func Modf(f float64) (integer float64, frac float64) + +// NaN returns an IEEE 754 ``not-a-number'' value. +func NaN() (f float64)
runtime.go
内の各関数宣言に、その機能と挙動を説明する詳細なコメントが追加されています。
コアとなるコードの解説
このコミットのコアとなるコードの変更は、Go言語のgodoc
ツールが生成するドキュメンテーションの品質を向上させることにあります。
-
引数名の変更:
arg
のような汎用的な引数名をx
やy
といった具体的な名前に変更することは、コードの自己文書化能力を高めます。これにより、開発者は関数のシグネチャを見ただけで、その引数が何を表しているのかを直感的に理解できるようになります。例えば、Asin(x float64)
はx
が角度のサイン値であることを明確に示唆します。 -
ドキュメンテーションコメントの追加: Go言語の
godoc
の慣習に従い、エクスポートされた関数(大文字で始まる関数名)の直前にコメントを追加することで、そのコメントが公式ドキュメントの一部となります。これらのコメントは、関数の基本的な機能だけでなく、NaN
やInf
といった特殊な浮動小数点数入力に対する挙動を詳細に記述しています。これは、数学関数がしばしばこれらの特殊なケースで予期せぬ結果を返す可能性があるため、APIの堅牢な利用には不可欠な情報です。例えば、Sqrt
関数が負の数に対してNaN
を返すことや、+Inf
に対して+Inf
を返すことを明記することで、開発者はこれらの挙動を考慮したコードを書くことができます。 -
runtime.go
のドキュメンテーション:runtime.go
に宣言されている関数は、Go言語のランタイムと密接に関連しており、浮動小数点数の低レベルな操作を提供します。これらの関数に対する詳細なドキュメンテーションは、Go言語の内部動作を理解しようとする開発者や、特定の浮動小数点数処理を必要とする高度なアプリケーションを開発する際に非常に価値があります。
これらの変更は、Go言語の設計哲学である「シンプルさ」と「実用性」を反映しており、開発者がより効率的かつ正確にコードを書けるようにするための基盤を強化しています。
関連リンク
- Go言語の
math
パッケージの公式ドキュメント: https://pkg.go.dev/math - Go言語の
godoc
に関する公式ドキュメント: https://go.dev/blog/godoc - IEEE 754 浮動小数点数標準 (Wikipedia): https://ja.wikipedia.org/wiki/IEEE_754
参考にした情報源リンク
- Go言語の公式ドキュメント (pkg.go.dev)
- Go言語のブログ (go.dev/blog)
- Wikipedia (IEEE 754)
- コミット差分情報 (
git diff
) - Go言語のソースコード (
src/lib/math
ディレクトリ)
[インデックス 1753] ファイルの概要
このコミットは、Go言語の標準ライブラリsrc/lib/math
パッケージ内の複数のファイルにわたる変更を含んでいます。主な変更は、関数のドキュメンテーションコメントの追加と、関数引数名の統一です。具体的には、以下のファイルが影響を受けています。
src/lib/math/asin.go
src/lib/math/atan.go
src/lib/math/atan2.go
src/lib/math/const.go
src/lib/math/exp.go
src/lib/math/fabs.go
src/lib/math/floor.go
src/lib/math/fmod.go
src/lib/math/hypot.go
src/lib/math/log.go
src/lib/math/pow.go
src/lib/math/pow10.go
src/lib/math/runtime.go
src/lib/math/sin.go
src/lib/math/sinh.go
src/lib/math/sqrt.go
src/lib/math/tan.go
src/lib/math/tanh.go
これらの変更は、math
パッケージのAPIの可読性と理解度を向上させることを目的としています。
コミット
commit dfc3910afabf5f9df2ba7b3924b30347ce210b1c
Author: Russ Cox <rsc@golang.org>
Date: Thu Mar 5 13:31:01 2009 -0800
math: doc
R=r
DELTA=173 (74 added, 14 deleted, 85 changed)
OCL=25753
CL=25767
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/dfc3910afabf5f9df2ba7b3924b30347ce210b1c
元コミット内容
math: doc
R=r
DELTA=173 (74 added, 14 deleted, 85 changed)
OCL=25753
CL=25767
変更の背景
このコミットの背景には、Go言語の標準ライブラリ、特にmath
パッケージのドキュメンテーションを改善し、APIの使いやすさを向上させるという明確な意図があります。Go言語では、関数や型の定義の直前に記述されたコメントがgodoc
ツールによって自動的にドキュメンテーションとして生成されます。このコミットは、このgodoc
の仕組みを最大限に活用し、各数学関数の目的、引数、戻り値、そして特殊なケース(例: NaN
、Inf
の扱い)について明確な説明を提供することを目的としています。
初期のGo言語開発段階において、コードの機能が実装された後、そのAPIがどのように振る舞うべきか、特にエッジケースでの挙動を明文化する必要がありました。これにより、開発者がmath
パッケージの関数をより正確に、かつ自信を持って使用できるようになります。また、引数名をarg
のような一般的なものからx
やy
といった数学的な文脈でより意味のあるものに変更することで、コードの可読性も向上させています。
前提知識の解説
このコミットを理解するためには、以下のGo言語の基本的な概念と数学的な知識が役立ちます。
-
Go言語の関数定義とコメント:
- Go言語では、関数の定義は
func 関数名(引数名 引数型) 戻り値型 { ... }
の形式を取ります。 - 関数の直前に記述された単一行コメント(
//
)や複数行コメント(/* ... */
)は、godoc
ツールによって自動的にドキュメンテーションとして抽出されます。特に、エクスポートされた(大文字で始まる)関数や型の直前のコメントは、そのAPIの公式ドキュメントとなります。このコミットでは、このgodoc
の慣習に従ってコメントが追加されています。 - 変数の宣言には
var 変数名 型
または短縮宣言変数名 := 値
が使われます。このコミットでは、一部の関数でvar
宣言から:=
への変更も見られますが、これは主にコードの簡潔化のためです。
- Go言語では、関数の定義は
-
IEEE 754 浮動小数点数標準:
- Go言語の
float64
型は、IEEE 754倍精度浮動小数点数標準に準拠しています。この標準は、浮動小数点数の表現だけでなく、特殊な値(NaN
- Not a Number,Inf
- Infinity)の扱いも定義しています。 NaN
は、0/0やSqrt(-1)
のような未定義または表現不可能な結果を表します。Inf
は、数値が表現可能な最大値を超えた場合(オーバーフロー)や、0による除算の結果として生じる無限大を表します。math
パッケージの関数は、これらの特殊な入力値に対して特定の出力(例:Sqrt(-1)
はNaN
を返す)を返すことが期待されており、このコミットで追加されたドキュメントはその挙動を明記しています。
- Go言語の
-
数学関数と特殊ケース:
math
パッケージに含まれる関数(Sin
,Cos
,Log
,Sqrt
など)は、一般的な数学関数です。- これらの関数には、定義域外の入力(例:
Log(負の数)
)や、特定の境界値(例:Sqrt(0)
)に対する挙動が数学的に、あるいはIEEE 754標準によって定められています。ドキュメンテーションは、これらの「特殊ケース」を明確にすることで、関数の堅牢な利用を促します。
技術的詳細
このコミットの技術的な詳細は、主にGo言語のmath
パッケージ内の各関数のドキュメンテーションコメントの追加と、引数名の統一に集約されます。
-
Godocコメントの追加:
- 各関数の定義の直前に、その関数の目的、引数、戻り値、そして「Special cases are:」として特殊な入力値に対する挙動を記述したコメントが追加されています。
- 例:
Exp
関数にはExp(+Inf) = +Inf
,Exp(NaN) = NaN
といった特殊ケースが明記されています。 - これにより、
godoc
ツールで生成されるドキュメントがより詳細になり、開発者が関数の挙動を正確に理解できるようになります。
-
引数名の統一と明確化:
- 多くの関数で、引数名が
arg
やarg1
,arg2
といった一般的なものから、x
,y
,p
,q
など、その関数の数学的な文脈により適した名前に変更されています。 - 例:
Asin(arg float64)
がAsin(x float64)
に、Atan2(arg1, arg2 float64)
がAtan2(x, y float64)
に変更されています。 - この変更は、コードの可読性を向上させ、関数のシグネチャを見ただけで引数の意味を推測しやすくすることを目的としています。
- 多くの関数で、引数名が
-
runtime.go
におけるコメントの追加:src/lib/math/runtime.go
ファイルには、Goランタイムに実装されている低レベルの浮動小数点数操作関数(例:Float64bits
,Frexp
,IsNaN
など)の宣言が含まれています。- これらの関数にも、それぞれの目的と挙動を説明する詳細なコメントが追加されています。特に、
Frexp
やLdexp
のような関数は、浮動小数点数の内部表現を扱うため、その挙動の正確な説明が不可欠です。
-
const.go
におけるパッケージコメントとBUGコメント:src/lib/math/const.go
には、math
パッケージ全体の目的を説明するパッケージコメント// The math package provides basic constants and mathematical functions.
が追加されました。- また、
// BUG(rsc): The manual should define the special cases for all of these functions.
というコメントが追加されており、これは将来的にGo言語の公式マニュアルでこれらの関数の特殊ケースがより詳細に定義されるべきであるという開発者の意図を示しています。
これらの変更は、Go言語のAPI設計における「明確さ」と「使いやすさ」という原則を反映しています。
コアとなるコードの変更箇所
このコミットにおけるコアとなるコードの変更は、主に以下のパターンに従っています。
-
関数の引数名の変更とドキュメンテーションコメントの追加:
src/lib/math/asin.go
のAsin
関数:--- a/src/lib/math/asin.go +++ b/src/lib/math/asin.go @@ -13,21 +13,18 @@ import "math" * Arctan is called after appropriate range reduction. */ -func Asin(arg float64) float64 { - var temp, x float64; - var sign bool; - - sign = false; - x = arg; +// Asin returns the arc sine of x. +func Asin(x float64) float64 { + sign := false; if x < 0 { x = -x; sign = true; } - if arg > 1 { + if x > 1 { return NaN(); } - temp = Sqrt(1 - x*x); + temp := Sqrt(1 - x*x); if x > 0.7 { temp = Pi/2 - Atan(temp/x); } else { @@ -40,9 +37,10 @@ func Asin(arg float64) float64 { return temp; } -func Acos(arg float64) float64 { - if arg > 1 || arg < -1 { +// Acos returns the arc cosine of x. +func Acos(x float64) float64 { + if x > 1 || x < -1 { return NaN(); } - return Pi/2 - Asin(arg); + return Pi/2 - Asin(x); }
Asin
関数の引数名がarg
からx
に変更され、// Asin returns the arc sine of x.
というドキュメンテーションコメントが追加されています。Acos
も同様です。
-
runtime.go
における関数のドキュメンテーションコメントの追加:src/lib/math/runtime.go
のFloat32bits
関数:--- a/src/lib/math/runtime.go +++ b/src/lib/math/runtime.go @@ -7,14 +7,46 @@ package math // implemented in C, in ../../runtime // perhaps one day the implementations will move here. -func Float32bits(f float32) (b uint32) -func Float32frombits(b uint32) (f float32) -func Float64bits(f float64) (b uint64) -func Float64frombits(b uint64) (f float64) -func Frexp(f float64) (frac float64, exp int) -func Inf(sign int32) (f float64) -func IsInf(f float64, sign int) (is bool) -func IsNaN(f float64) (is bool) -func Ldexp(frac float64, exp int) (f float64) -func Modf(f float64) (integer float64, frac float64) -func NaN() (f float64) +// Float32bits returns the IEEE 754 binary representation of f. +func Float32bits(f float32) (b uint32) + +// Float32frombits returns the floating point number corresponding +// to the IEEE 754 binary representation b. +func Float32frombits(b uint32) (f float32) + +// Float64bits returns the IEEE 754 binary representation of f. +func Float64bits(f float64) (b uint64) + +// Float64frombits returns the floating point number corresponding +// the IEEE 754 binary representation b. +func Float64frombits(b uint64) (f float64) + +// Frexp breaks f into a normalized fraction +// and an integral power of two. +// It returns frac and exp satisfying f == frac × 2<sup>exp</sup>, +// with the absolute value of frac in the interval [½, 1). +func Frexp(f float64) (frac float64, exp int) + +// Inf returns positive infinity if sign >= 0, negative infinity if sign < 0. +func Inf(sign int32) (f float64) + +// IsInf returns whether f is an infinity, according to sign. +// If sign > 0, IsInf returns whether f is positive infinity. +// If sign < 0, IsInf returns whether f is negative infinity. +// If sign == 0, IsInf returns whether f is either infinity. +func IsInf(f float64, sign int) (is bool) + +// IsNaN returns whether f is an IEEE 754 ``not-a-number'' value. +func IsNaN(f float64) (is bool) + +// Ldexp is the inverse of Frexp. +// It returns frac × 2<sup>exp</sup>. +func Ldexp(frac float64, exp int) (f float64) + +// Modf returns integer and fractional floating-point numbers +// that sum to f. +// Integer and frac have the same sign as f. +func Modf(f float64) (integer float64, frac float64) + +// NaN returns an IEEE 754 ``not-a-number'' value. +func NaN() (f float64)
runtime.go
内の各関数宣言に、その機能と挙動を説明する詳細なコメントが追加されています。
コアとなるコードの解説
このコミットのコアとなるコードの変更は、Go言語のgodoc
ツールが生成するドキュメンテーションの品質を向上させることにあります。
-
引数名の変更:
arg
のような汎用的な引数名をx
やy
といった具体的な名前に変更することは、コードの自己文書化能力を高めます。これにより、開発者は関数のシグネチャを見ただけで、その引数が何を表しているのかを直感的に理解できるようになります。例えば、Asin(x float64)
はx
が角度のサイン値であることを明確に示唆します。 -
ドキュメンテーションコメントの追加: Go言語の
godoc
の慣習に従い、エクスポートされた関数(大文字で始まる関数名)の直前にコメントを追加することで、そのコメントが公式ドキュメントの一部となります。これらのコメントは、関数の基本的な機能だけでなく、NaN
やInf
といった特殊な浮動小数点数入力に対する挙動を詳細に記述しています。これは、数学関数がしばしばこれらの特殊なケースで予期せぬ結果を返す可能性があるため、APIの堅牢な利用には不可欠な情報です。例えば、Sqrt
関数が負の数に対してNaN
を返すことや、+Inf
に対して+Inf
を返すことを明記することで、開発者はこれらの挙動を考慮したコードを書くことができます。 -
runtime.go
のドキュメンテーション:runtime.go
に宣言されている関数は、Go言語のランタイムと密接に関連しており、浮動小数点数の低レベルな操作を提供します。これらの関数に対する詳細なドキュメンテーションは、Go言語の内部動作を理解しようとする開発者や、特定の浮動小数点数処理を必要とする高度なアプリケーションを開発する際に非常に価値があります。
これらの変更は、Go言語の設計哲学である「シンプルさ」と「実用性」を反映しており、開発者がより効率的かつ正確にコードを書けるようにするための基盤を強化しています。
関連リンク
- Go言語の
math
パッケージの公式ドキュメント: https://pkg.go.dev/math - Go言語の
godoc
に関する公式ドキュメント: https://go.dev/blog/godoc - IEEE 754 浮動小数点数標準 (Wikipedia): https://ja.wikipedia.org/wiki/IEEE_754
参考にした情報源リンク
- Go言語の公式ドキュメント (pkg.go.dev)
- Go言語のブログ (go.dev/blog)
- Wikipedia (IEEE 754)
- コミット差分情報 (
git diff
) - Go言語のソースコード (
src/lib/math
ディレクトリ) - Google Web Search (query: "Go math package documentation")