[インデックス 17561] ファイルの概要
コミット
このコミットは、Goプロジェクトのcmd/api
ツールに関連するもので、ビルドシステムが正しく機能しているかを確認するための意図的な変更です。具体的には、cmd/api/goapi.go
ファイルにpanic
ステートメントを追加することで、ビルドを強制的に失敗させ、ダッシュボード(CI/CDシステム)がその失敗を検知できるかをテストしています。
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/89a6a8fdb3d63c828e9ee710a9beedc2a7bbe48c
元コミット内容
commit 89a6a8fdb3d63c828e9ee710a9beedc2a7bbe48c
Author: Russ Cox <rsc@golang.org>
Date: Wed Sep 11 14:34:11 2013 -0400
cmd/api: break the builds
There is some question about whether the api tool is
running on Windows (see issue 6124), and now I'm
starting to question whether it runs on any of the builders,
since both darwin/amd64 and linux/amd64 are crashing for me
in the api tool due to a recent cgo-related change, and yet
the dashboard is happy.
If the dashboard is still happy after this CL, we have a problem.
Update #6124
TBR=golang-dev
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/13632053
---
src/cmd/api/goapi.go | 2 ++\n 1 file changed, 2 insertions(+)\n
diff --git a/src/cmd/api/goapi.go b/src/cmd/api/goapi.go
index 7102e9d409..320474368f 100644
--- a/src/cmd/api/goapi.go
+++ b/src/cmd/api/goapi.go
@@ -110,6 +110,8 @@ func setContexts() {
func main() {
flag.Parse()\n
+\tpanic("yes, the api checks are really running")
+\n
if !strings.Contains(runtime.Version(), "weekly") && !strings.Contains(runtime.Version(), "devel") {
if *nextFile != "" {
fmt.Printf("Go version is %q, ignoring -next %s\\n", runtime.Version(), *nextFile)\n
変更の背景
このコミットの主な背景は、Goプロジェクトの継続的インテグレーション(CI)システム、特にcmd/api
ツールが様々なプラットフォーム(特にWindows)で適切に実行され、その結果がダッシュボードに正確に反映されているかという疑問にありました。
コミットメッセージによると、以下の問題意識がありました。
cmd/api
ツールの実行状況の不透明性:cmd/api
ツールがWindows環境で実行されているかどうかに疑問があり、issue 6124で議論されていました。- ビルドのクラッシュとダッシュボードの矛盾: コミッター(Russ Cox)のローカル環境では、最近のcgo関連の変更により、darwin/amd64およびlinux/amd64環境で
cmd/api
ツールがクラッシュしていました。しかし、Goプロジェクトの公式ダッシュボード(CIの結果を表示するシステム)は「happy」(つまり、ビルドが成功している)と表示されていました。 - CIシステムの健全性確認: この矛盾は、CIシステムがビルドの失敗を正しく検知し、報告できていない可能性を示唆していました。CIシステムが正しく機能していなければ、コードベースに問題が混入しても早期に発見できません。
これらの背景から、コミッターは「ビルドを壊す」という意図的な変更を導入し、ダッシュボードがその失敗を検知するかどうかを検証しようとしました。もしこの変更後もダッシュボードが「happy」なままであれば、CIシステムに深刻な問題があることを意味します。
前提知識の解説
このコミットを理解するためには、以下の概念が重要です。
- Go言語の
cmd/api
ツール:- Go言語の標準ライブラリのAPI互換性をチェックするためのツールです。Goは後方互換性を非常に重視しており、新しいバージョンで既存のAPIが変更されると、既存のコードが動かなくなる可能性があります。
cmd/api
ツールは、Goのリリース間でAPIの変更がないか、あるいは意図された変更のみが行われているかを検証するために使用されます。これにより、Goの安定性と互換性が保たれます。- このツールは、Goのビルドプロセスの一部として、またはCIシステム内で実行されることが一般的です。
- 継続的インテグレーション (CI) とダッシュボード:
- CI (Continuous Integration): ソフトウェア開発の手法の一つで、開発者がコードの変更を頻繁に共有リポジトリにマージし、その都度自動的にビルドとテストを実行することで、問題を早期に発見し、統合の衝突を減らすことを目指します。
- ダッシュボード: CIシステムの結果(ビルドの成功/失敗、テスト結果など)を視覚的に表示するインターフェースです。開発者はダッシュボードを見ることで、現在のコードベースの健全性を一目で把握できます。Goプロジェクトでは、Go Dashboardのようなシステムがこれに該当します。
panic
関数:- Go言語におけるエラーハンドリングメカニズムの一つで、回復不可能なエラーが発生した場合にプログラムの実行を停止するために使用されます。
panic
が呼び出されると、現在の関数の実行が停止し、遅延関数(defer
)が実行され、その後呼び出し元の関数にパニックが伝播していきます。最終的に、どの関数もパニックを回復(recover
)しない場合、プログラムはクラッシュし、スタックトレースが出力されます。 - このコミットでは、意図的に
panic
を発生させることで、cmd/api
ツールの実行が強制的に失敗するようにしています。
- Go言語におけるエラーハンドリングメカニズムの一つで、回復不可能なエラーが発生した場合にプログラムの実行を停止するために使用されます。
- 「ビルドを壊す (break the builds)」:
- ソフトウェア開発において、意図的にビルドプロセスを失敗させる行為を指します。これは通常、CIシステムがビルドの失敗を正しく検知し、報告できるかをテストするために行われます。
- 健全なCIシステムであれば、ビルドが壊れたことを即座に検知し、開発者に通知します。もしビルドが壊れてもダッシュボードが「成功」と表示され続ける場合、CIシステム自体に問題があることを示します。
技術的詳細
このコミットの技術的詳細は、cmd/api/goapi.go
ファイル内のmain
関数にpanic
ステートメントを挿入することに集約されます。
変更前後のコードは以下の通りです。
変更前:
func main() {
flag.Parse()
if !strings.Contains(runtime.Version(), "weekly") && !strings.Contains(runtime.Version(), "devel") {
if *nextFile != "" {
fmt.Printf("Go version is %q, ignoring -next %s\\n", runtime.Version(), *nextFile)
}
}
// ... 続くコード
}
変更後:
func main() {
flag.Parse()
panic("yes, the api checks are really running")
if !strings.Contains(runtime.Version(), "weekly") && !strings.Contains(runtime.Version(), "devel") {
if *nextFile != "" {
fmt.Printf("Go version is %q, ignoring -next %s\\n", runtime.Version(), *nextFile)
}
}
// ... 続くコード
}
この変更により、cmd/api
ツールが実行されると、main
関数の冒頭でpanic
が即座に発生します。panic
メッセージは "yes, the api checks are really running"
となっており、これはこのpanic
が意図的なものであり、cmd/api
ツールが実際に実行されていることを確認するためのものであることを明確に示しています。
このpanic
は回復されないため、cmd/api
ツールのプロセスは異常終了します。CIシステムは、この異常終了を検知し、ビルドまたはテストの失敗として報告するはずです。もしCIダッシュボードがこの失敗を報告しない場合、それはCIシステム自体がビルドの健全性を正しく監視できていないことを意味します。
このコミットは、CIシステムの「自己診断」または「健全性チェック」の一種として機能します。これは、CIシステムが複雑になり、様々な環境で実行される場合に、その信頼性を定期的に検証するための重要なプラクティスです。
コアとなるコードの変更箇所
変更はsrc/cmd/api/goapi.go
ファイルにのみ行われています。
--- a/src/cmd/api/goapi.go
+++ b/src/cmd/api/goapi.go
@@ -110,6 +110,8 @@ func setContexts() {
func main() {
flag.Parse()
+\tpanic("yes, the api checks are really running")
+\
if !strings.Contains(runtime.Version(), "weekly") && !strings.Contains(runtime.Version(), "devel") {
if *nextFile != "" {
fmt.Printf("Go version is %q, ignoring -next %s\\n", runtime.Version(), *nextFile)
具体的には、main
関数のflag.Parse()
呼び出しの直後に、以下の行が追加されています。
panic("yes, the api checks are really running")
コアとなるコードの解説
追加されたpanic("yes, the api checks are really running")
という一行が、このコミットの全てです。
panic
: Go言語の組み込み関数で、現在のゴルーチンを停止させ、パニック状態に入ります。パニックは、通常、プログラムが回復できないような致命的なエラーに遭遇したときに使用されます。"yes, the api checks are really running"
:panic
関数に渡される文字列引数です。この文字列は、パニックが発生した際にエラーメッセージとして出力されます。このメッセージは、このパニックが意図的なものであり、cmd/api
ツールが実際に実行されていることを確認するためのものであることを示唆しています。
このコードが実行されると、main
関数が開始され、コマンドライン引数のパース(flag.Parse()
)が完了した直後に、プログラムは強制的に終了します。これにより、cmd/api
ツールは正常に完了せず、エラーコードを返して終了します。CIシステムは、この非ゼロの終了コードを検知し、ビルドの失敗として記録するはずです。
この変更は、cmd/api
ツールの機能自体を変更するものではなく、その実行パスとCIシステムとの連携をテストするための「プローブ」として機能します。
関連リンク
- Go言語の公式ウェブサイト: https://golang.org/
- GoプロジェクトのIssue Tracker (GitHub): https://github.com/golang/go/issues
- Goの継続的ビルドダッシュボード: https://build.golang.org/ (当時のダッシュボードの具体的なURLは異なる可能性がありますが、概念としてはこれに該当します)
参考にした情報源リンク
- コミットメッセージと差分: https://github.com/golang/go/commit/89a6a8fdb3d63c828e9ee710a9beedc2a7bbe48c
- Go言語の
panic
とrecover
に関するドキュメント (Go公式ドキュメント): https://go.dev/blog/defer-panic-and-recover - 継続的インテグレーション (CI) の概念に関する一般的な情報源 (例: Wikipedia, Martin Fowler's websiteなど)
- Goの
cmd/api
ツールの目的に関する情報 (Goのソースコードや関連する設計ドキュメント) - Go issue 6124 (ただし、Web検索では直接的な情報が見つからなかったため、コミットメッセージからの推測に留まります)