[インデックス 17562] ファイルの概要
このコミットは、Go言語のツールチェインの一部である cmd/api
ツールに対する以前の変更(コミットハッシュ dc7bfe0f022d
、Change List 13632053)を元に戻すものです。具体的には、src/cmd/api/goapi.go
ファイルに追加されていた意図的なパニック(panic("yes, the api checks are really running")
)を削除し、元の状態に戻しています。この元に戻された変更は、Goプロジェクトのビルドシステムとダッシュボードの健全性をテストするために一時的に導入されたものでした。
コミット
commit 6624b708660460600041bf7391e4f03b13b6edef
Author: Russ Cox <rsc@golang.org>
Date: Wed Sep 11 14:35:08 2013 -0400
undo CL 13632053 / dc7bfe0f022d
It was never going to last.
««« original CL description
cmd/api: break the builds
There is some question about whether the api tool is
running on Windows (see issue 6124), and now I'm
starting to question whether it runs on any of the builders,
since both darwin/amd64 and linux/amd64 are crashing for me
in the api tool due to a recent cgo-related change, and yet
the dashboard is happy.
If the dashboard is still happy after this CL, we have a problem.
Update #6124
TBR=golang-dev
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/13632053
»»»
TBR=golang-dev
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/13474045
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/6624b708660460600041bf7391e4f03b13b6edef
元コミット内容
このコミットが元に戻しているのは、Goプロジェクトの主要開発者の一人であるRuss Cox氏によって導入された、意図的にビルドを破壊する変更です。元のコミット(CL 13632053、コミットハッシュ dc7bfe0f022d
)の目的は、Goプロジェクトのビルドダッシュボードが、実際のビルド失敗を適切に検知し、報告するかどうかを検証することでした。
元のコミットのメッセージには、cmd/api
ツールがWindows上で動作しているか、あるいは他のビルド環境(darwin/amd64
や linux/amd64
)でクラッシュしているにもかかわらず、ビルドダッシュボードが「happy」(正常)と表示されていることへの疑問が述べられています。この状況をテストするため、Russ Cox氏は src/cmd/api/goapi.go
ファイルの main
関数内に panic("yes, the api checks are really running")
という行を追加しました。これにより、cmd/api
ツールが実行されると必ずパニックが発生し、ビルドが失敗するはずでした。もしこの変更後もダッシュボードが正常と表示され続けるならば、それはダッシュボードに問題があることを意味します。
この変更は、Goプロジェクトの継続的インテグレーション(CI)システムの健全性を確認するための、一種の「カナリアテスト」として機能しました。
変更の背景
この変更の背景には、Goプロジェクトのビルドシステムと、その状態を監視するダッシュボードの信頼性に関する懸念がありました。開発者は、cmd/api
ツールが特定の環境(Windows、darwin/amd64
、linux/amd64
)でクラッシュしているにもかかわらず、ビルドダッシュボードがその問題を適切に反映していないことに気づきました。これは、ビルドシステムが実際に壊れているにもかかわらず、開発者に誤った「正常」な状態を伝えてしまう可能性を示唆していました。
Russ Cox氏は、このダッシュボードの信頼性を検証するために、意図的にビルドを失敗させるコミットを導入しました。もしダッシュボードがこの意図的な失敗を検知し、適切に「異常」な状態を報告すれば、ダッシュボードは正しく機能していることになります。逆に、もしダッシュボードが依然として「正常」と報告し続けるならば、それはダッシュボード自体に深刻な問題があることを意味します。
このコミット(インデックス17562)は、そのテストが完了し、意図的なビルド破壊がもはや不要になったため、元の状態に戻すために行われました。コミットメッセージの「It was never going to last.」という一文は、この変更が一時的なものであり、永続的なものではないことを示唆しています。
前提知識の解説
Go言語の cmd/api
ツール
cmd/api
は、Go言語の標準ライブラリのAPI(Application Programming Interface)をチェックするためのツールです。Go言語では、後方互換性を非常に重視しており、新しいバージョンで既存のAPIが意図せず変更されたり削除されたりしないように厳格なチェックが行われます。cmd/api
ツールは、このAPIの互換性を検証するために使用されます。ビルドプロセスの一部として実行され、APIの変更が検出された場合に警告やエラーを生成します。
ビルドダッシュボード
ビルドダッシュボードは、継続的インテグレーション(CI)システムの一部として、プロジェクトのビルドの状態をリアルタイムで表示するウェブインターフェースです。Goプロジェクトのような大規模なオープンソースプロジェクトでは、多数のコミットが日々行われ、様々なプラットフォームやアーキテクチャでビルドが実行されます。ビルドダッシュボードは、これらのビルドの成功/失敗、テスト結果、パフォーマンスデータなどを一元的に監視し、開発者がプロジェクトの健全性を一目で把握できるようにします。ビルドが失敗した場合、ダッシュボードは通常、赤色表示や警告アイコンなどでその状態を明確に示します。
継続的インテグレーション (CI)
継続的インテグレーション(CI)は、ソフトウェア開発のプラクティスの一つで、開発者がコードの変更を頻繁に共有リポジトリに統合(マージ)し、そのたびに自動的にビルドとテストを実行するものです。これにより、統合の問題を早期に発見し、修正することができます。Goプロジェクトでは、GitHubなどのバージョン管理システムと連携し、コミットがプッシュされるたびに自動ビルドとテストがトリガーされるCIパイプラインが構築されています。
panic
関数
Go言語における panic
は、プログラムの実行を即座に停止させるための組み込み関数です。通常、回復不可能なエラーや予期せぬ状況が発生した場合に使用されます。panic
が呼び出されると、現在の関数の実行が停止し、遅延関数(defer
)が実行された後、呼び出し元の関数へとパニックが伝播していきます。最終的に、パニックがどこでも回復されなければ、プログラムはクラッシュし、スタックトレースが出力されます。このコミットの背景では、意図的に panic
を発生させることで、ビルドプロセスを確実に失敗させる目的で使用されました。
技術的詳細
このコミットは、Go言語のソースコード管理における典型的な「リバート(revert)」操作です。元のコミット(CL 13632053)は、src/cmd/api/goapi.go
ファイルの main
関数に以下の行を追加しました。
panic("yes, the api checks are really running")
この一行は、cmd/api
ツールが実行されるたびに、無条件にパニックを引き起こし、プログラムを異常終了させます。これは、ビルドプロセスにおいて cmd/api
ツールが実行されるステップで、必ずビルドが失敗するように仕向けたものです。
このコミット(インデックス17562)は、その追加された panic
の行を削除することで、元のコミットの変更を完全に元に戻しています。これにより、cmd/api
ツールは再び正常に実行されるようになり、ビルドプロセスも意図的な失敗なしに進行するようになります。
この一連の操作は、Goプロジェクトのビルドダッシュボードの信頼性を検証するための巧妙なテスト戦略でした。
- 問題の特定:
cmd/api
ツールがクラッシュしているにもかかわらず、ダッシュボードが正常と報告しているという矛盾が発見されました。 - テストの設計: ダッシュボードが本当にビルド失敗を検知できるかを検証するため、最も確実な方法である「意図的なパニック」を導入する決定がなされました。
- 変更の適用:
panic
を含むコミット(CL 13632053)がプッシュされました。これにより、ビルドシステムは確実に失敗するはずです。 - 結果の観察: ダッシュボードがこの失敗を適切に反映するかどうかが監視されました。もし反映されれば、ダッシュボードは機能していることになります。
- 変更の巻き戻し: テストが完了し、ダッシュボードの挙動が確認された後、この一時的な
panic
は不要となるため、このコミット(インデックス17562)によって元に戻されました。
このようなテストは、大規模なソフトウェアプロジェクトにおいて、CI/CDパイプラインの健全性を維持するために不可欠です。特に、ビルドシステムや監視ツール自体が正しく機能していることを定期的に検証することは、開発プロセス全体の信頼性を高める上で重要です。
コアとなるコードの変更箇所
--- a/src/cmd/api/goapi.go
+++ b/src/cmd/api/goapi.go
@@ -110,8 +110,6 @@ func setContexts() {
func main() {
flag.Parse()
- panic("yes, the api checks are really running")
-
if !strings.Contains(runtime.Version(), "weekly") && !strings.Contains(runtime.Version(), "devel") {
if *nextFile != "" {
fmt.Printf("Go version is %q, ignoring -next %s\n", runtime.Version(), *nextFile)
コアとなるコードの解説
上記の diff
は、src/cmd/api/goapi.go
ファイルの main
関数から2行が削除されたことを示しています。
削除された行は以下の通りです。
panic("yes, the api checks are really running")
この行は、cmd/api
ツールのエントリポイントである main
関数が実行されると、無条件にプログラムをパニックさせて終了させる役割を持っていました。これは、前述の通り、ビルドダッシュボードがビルド失敗を適切に検知するかどうかをテストするために、意図的に導入されたものです。
このコミットによってこれらの行が削除されたことで、main
関数はパニックすることなく、その後の通常のロジック(runtime.Version()
のチェックなど)を実行するようになります。これにより、cmd/api
ツールは再び正常な動作に戻り、Goプロジェクトのビルドプロセスも通常のフローで進行するようになります。
関連リンク
- Go言語の公式GitHubリポジトリ: https://github.com/golang/go
- このコミットのGitHubページ: https://github.com/golang/go/commit/6624b708660460600041bf7391e4f03b13b6edef
- 元の変更リスト (CL 13632053): https://golang.org/cl/13632053 (ただし、このリンクは古いコードレビューシステムのものであり、直接アクセスしても詳細な内容は表示されない可能性があります。)
- この変更リスト (CL 13474045): https://golang.org/cl/13474045 (こちらも古いコードレビューシステムのものであり、直接アクセスしても詳細な内容は表示されない可能性があります。)
参考にした情報源リンク
- Web search results for "golang.org/cl/13632053"
- Web search results for "golang.org/cl/13474045"
- Web search results for "Go issue 6124" (ただし、このIssue番号は直接関連する情報が見つかりませんでした。コミットメッセージに記載されているものの、公開されているGoのIssueトラッカーでは確認できませんでした。)