[インデックス 17610] ファイルの概要
このコミットは、Go言語のツールチェインに含まれる go tool nm
コマンドの利用方法に関するドキュメントと、実際の使用法メッセージを更新するものです。具体的には、シンボルサイズを表示する -S
フラグが、これまで利用法メッセージに記載されていなかった問題を修正しています。
コミット
commit 2ec53b07053fa8d974759661de3881aacef8c6db
Author: Rob Pike <r@golang.org>
Date: Mon Sep 16 16:13:27 2013 +1000
cmd/nm: put the -S flag in the usage message
The -S flag reports symbol size, but is missing from the usage message.
R=golang-dev, dsymonds
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/13660046
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/2ec53b07053fa8d974759661de3881aacef8c6db
元コミット内容
cmd/nm: put the -S flag in the usage message
The -S flag reports symbol size, but is missing from the usage message.
変更の背景
go tool nm
は、Go言語のバイナリファイル(実行可能ファイルやライブラリ)内のシンボル情報を表示するためのコマンドです。シンボルとは、プログラム内の関数名、変数名、セクション名など、コンパイラやリンカが生成する識別子のことです。これらのシンボルは、デバッグやプロファイリング、バイナリの解析において非常に重要な情報を提供します。
このコミットが作成された背景には、go tool nm
コマンドが既に -S
フラグをサポートしており、このフラグがシンボルのサイズ情報(例えば、関数が占めるメモリ量や変数のサイズ)を表示する機能を提供していたにもかかわらず、その存在がコマンドのヘルプメッセージやドキュメントに明記されていなかったという問題がありました。これにより、ユーザーは -S
フラグの存在やその機能を知ることができず、ツールの全機能を活用できていませんでした。
この変更は、ツールの使いやすさとドキュメントの正確性を向上させることを目的としています。ユーザーが go tool nm
のヘルプメッセージを見た際に、利用可能なすべてのオプションを正確に把握できるようにすることで、ツールの発見可能性と利便性を高めます。
前提知識の解説
go tool nm
コマンド
go tool nm
は、Go言語のビルド済みバイナリファイル(実行ファイルやアーカイブファイル)からシンボルテーブルの情報を表示するためのコマンドです。Unix系のシステムにおける nm
コマンドに似ています。
nm
コマンドは、主に以下の情報を表示します。
- アドレス: シンボルがメモリ上で配置されているアドレス。
- タイプ: シンボルの種類(例:
T
はテキストセクションのグローバル関数、D
は初期化済みデータセクションのグローバル変数、U
は未定義シンボルなど)。 - 名前: シンボルの実際の名前(関数名、変数名など)。
この情報は、プログラムの構造を理解したり、デバッグ時に特定の関数や変数のメモリ上の位置を特定したり、バイナリのサイズを分析したりする際に役立ちます。
シンボルサイズ
プログラム内の各シンボルは、それぞれ特定のメモリ領域を占有します。例えば、関数は実行コードのバイト数を持ち、変数はそのデータ型に応じたバイト数を持ちます。シンボルサイズは、これらのシンボルが占めるメモリの量をバイト単位で示します。
シンボルサイズの情報は、以下のような場面で有用です。
- パフォーマンス分析: 特定の関数がどれくらいのコードサイズを持っているかを知ることで、コードの肥大化や最適化の余地を特定できます。
- メモリ使用量分析: グローバル変数やデータ構造がどれくらいのメモリを消費しているかを把握し、メモリフットプリントの最適化に役立てることができます。
- バイナリ解析: 逆アセンブルやバイナリパッチを行う際に、シンボルの境界とサイズを正確に知ることで、より正確な解析が可能になります。
doc.go
と nm.c
doc.go
: Go言語のパッケージやコマンドには、doc.go
というファイルが慣習的に存在することがあります。このファイルは、パッケージ全体のドキュメンテーションコメントを記述するために使用されます。go doc
コマンドやgodoc
ツールがこのファイルから情報を抽出し、ドキュメントを生成します。このコミットでは、go tool nm
の使用法に関するコメントが更新されています。nm.c
:go tool nm
コマンドの実際のロジックがC言語で実装されているファイルです。Go言語のツールチェインの一部には、パフォーマンスや既存のCライブラリとの連携のためにC言語で書かれた部分も存在します。このファイルには、コマンドライン引数のパースや、ヘルプメッセージの表示ロジックが含まれています。
技術的詳細
このコミットは、go tool nm
コマンドのユーザーインターフェースとドキュメンテーションの整合性を改善するためのものです。技術的には、以下の2つのファイルを修正することで実現されています。
-
src/cmd/nm/doc.go
の修正: このファイルは、go tool nm
コマンドのドキュメンテーションを記述しています。変更前は、Usage:
セクションに-S
フラグが含まれていませんでした。変更後には、go tool nm [-aghnsTu] file
という記述がgo tool nm [-aghnsSTu] file
に修正され、-S
フラグが明示的に追加されました。これにより、go doc cmd/nm
のようなコマンドで表示されるドキュメントが正確になります。 -
src/cmd/nm/nm.c
の修正: このファイルは、go tool nm
コマンドのC言語による実装です。特にusage()
関数は、ユーザーが不正な引数を指定したり、ヘルプを要求したりした際に表示されるコマンドの利用法メッセージを生成します。変更前は、fprintf(2, "usage: nm [-aghnsTu] file ...\\n");
という行で-S
フラグが欠落していました。変更後には、fprintf(2, "usage: nm [-aghnsSTu] file ...\\n");
に修正され、標準エラー出力に表示される利用法メッセージにも-S
フラグが追加されました。
これらの変更は、機能的な振る舞いを変更するものではなく、既存の機能(-S
フラグによるシンボルサイズ表示)の可視性とドキュメンテーションを向上させるためのものです。これにより、ユーザーはコマンドの全機能をより容易に発見し、利用できるようになります。
コアとなるコードの変更箇所
src/cmd/nm/doc.go
--- a/src/cmd/nm/doc.go
+++ b/src/cmd/nm/doc.go
@@ -17,7 +17,7 @@ This implementation adds the flag -S, which prints each symbol\'s size
in decimal after its address.
Usage:
- go tool nm [-aghnsTu] file
+ go tool nm [-aghnsSTu] file
*/
package main
src/cmd/nm/nm.c
--- a/src/cmd/nm/nm.c
+++ b/src/cmd/nm/nm.c
@@ -72,7 +72,7 @@ void
zenter(Sym*);
void
usage(void)
{
- fprintf(2, "usage: nm [-aghnsTu] file ...\\n");
+ fprintf(2, "usage: nm [-aghnsSTu] file ...\\n");
exits("usage");
}
コアとなるコードの解説
src/cmd/nm/doc.go
の変更
この変更は、Goのドキュメンテーションシステムが利用するコメントブロック内の Usage:
行を更新しています。
元の行: go tool nm [-aghnsTu] file
変更後の行: go tool nm [-aghnsSTu] file
ここで追加された S
は、-S
フラグが利用可能であることを示しています。この doc.go
ファイルのコメントは、go doc cmd/nm
コマンドを実行した際に表示されるドキュメントの基になります。したがって、この修正により、Goの公式ドキュメントやローカルで生成されるドキュメントに -S
フラグの情報が正しく反映されるようになります。
src/cmd/nm/nm.c
の変更
この変更は、C言語で実装された nm
コマンドの usage()
関数内の fprintf
ステートメントを更新しています。
元の行: fprintf(2, "usage: nm [-aghnsTu] file ...\\n");
変更後の行: fprintf(2, "usage: nm [-aghnsSTu] file ...\\n");
fprintf(2, ...)
は、標準エラー出力(ファイルディスクリプタ2)に文字列を出力するためのC標準ライブラリ関数です。usage()
関数は通常、コマンドの引数が不正である場合や、ユーザーがヘルプを要求した場合に呼び出されます。この修正により、コマンドラインで go tool nm
を実行してヘルプメッセージが表示された際に、-S
フラグが利用可能なオプションとして正しくリストされるようになります。
両方のファイルでの変更は、単に文字列リテラルに S
を追加するだけの非常にシンプルなものです。これは、機能の追加ではなく、既存の機能に関する情報の欠落を修正する「ドキュメンテーションの修正」に分類される変更です。しかし、このような小さな修正が、ツールの使いやすさやユーザー体験に大きく貢献します。
関連リンク
- Go言語の
nm
コマンドに関する公式ドキュメント(このコミットの変更が反映された後のもの): https://pkg.go.dev/cmd/nm - Unix
nm
コマンドのmanページ(一般的なnm
コマンドの機能理解のため): https://man7.org/linux/man-pages/man1/nm.1.html
参考にした情報源リンク
- Go言語のソースコードリポジトリ: https://github.com/golang/go
- Go言語のコードレビューシステム (Gerrit): https://go.dev/cl/13660046 (コミットメッセージに記載されているCLリンク)
- Go言語のドキュメンテーション慣習(
doc.go
について): https://go.dev/blog/godoc - C言語の
fprintf
関数に関する情報: https://www.cplusplus.com/reference/cstdio/fprintf/