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[インデックス 17638] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のテストファイル test/escape2.go における変更です。具体的には、将来的に発生しうる「declared and not used (宣言されたが使用されていない)」エラーを回避するための修正が加えられています。test/escape2.go は、Goコンパイラの「エスケープ解析 (escape analysis)」の挙動をテストするために使用されるファイルです。

コミット

  • コミットハッシュ: 99d87720ad8bf1390f87f441a811f28702934196
  • 作者: Robert Griesemer gri@golang.org
  • 日付: Tue Sep 17 15:24:54 2013 -0700
  • コミットメッセージ:
    test: avoid future 'declared and not used' error
    
    See also issue 6414.
    
    R=r
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/13683044
    

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/99d87720ad8bf1390f87f441a811f28702934196

元コミット内容

test: avoid future 'declared and not used' error

See also issue 6414.

R=r
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/13683044

変更の背景

この変更は、Goコンパイラが将来的に「declared and not used」エラーをより厳密に検出するようになることを見越して行われました。コミットメッセージに「See also issue 6414」とあるように、GoのIssue 6414(および関連するIssue 6415)は、Goコンパイラ(gc)が「declared and not used」エラーを報告すべき状況で報告していなかったバグを指摘していました。

Go言語では、宣言された変数、インポート、関数がコード内で一度も参照または使用されない場合、コンパイルエラーとなります。これは、コードの品質を保ち、デッドコードや潜在的なバグを防ぐためのGo言語の設計思想の一部です。このコミットは、test/escape2.go 内の特定のコードパスが、将来のコンパイラの改善によってこのエラーを引き起こす可能性があるため、それを事前に回避するために導入されました。

前提知識の解説

Go言語の「declared and not used」エラー

Go言語は、コードの簡潔さと品質を重視しており、その一環として「declared and not used」エラーという厳格なルールを設けています。これは、プログラム内で宣言された変数、インポートされたパッケージ、または定義された関数が、そのスコープ内で一度も使用されない場合に発生するコンパイルエラーです。

なぜこのエラーが存在するのか?

  1. コードの品質向上: 未使用の宣言は、デッドコード(実行されないコード)や、プログラマが意図したものの実装し忘れた機能の兆候である可能性があります。これらをエラーとすることで、コードベースを常にクリーンで読みやすい状態に保ちます。
  2. バグの防止: 未使用の変数は、論理的な誤りやタイプミスを示唆している場合があります。例えば、変数を宣言したが、その後の計算で別の変数名を使ってしまった、といったケースです。
  3. コンパイル速度の最適化: 特に未使用のインポートは、コンパイル時間を不必要に増加させる可能性があります。
  4. 厳格な設計思想: Goは、警告ではなくエラーとして扱うことで、開発者に問題の修正を強制します。Goチームの哲学は、「もし何かについて文句を言う価値があるなら、それは修正する価値がある」というものです。このチェックをオフにするコンパイラオプションは存在しません。

エラーの対処法

  1. 未使用の宣言を削除する: 最も直接的な解決策は、使用されていない変数、インポート、または関数をコードから削除することです。
  2. ブランク識別子 (_) の使用: 変数を宣言する必要があるが、その値を使用する意図がない場合(例えば、関数の戻り値を無視したい場合など)は、ブランク識別子 (_) に代入することで、コンパイラにその値が意図的に破棄されていることを明示的に伝えます。
    • 例: _ = someVariable
    • 例: _, err := someFunction() (エラー値のみに関心がある場合)

エスケープ解析 (Escape Analysis)

エスケープ解析は、Goコンパイラが行う最適化の一つです。これは、変数がヒープに割り当てられるべきか、それともスタックに割り当てられるべきかを決定するプロセスです。

  • スタック割り当て: 関数内で宣言され、その関数が終了すると同時にスコープを抜ける変数は、通常スタックに割り当てられます。スタック割り当ては高速で、ガベージコレクションのオーバーヘッドがありません。
  • ヒープ割り当て: 変数がその宣言されたスコープを「エスケープ」し、関数の外部から参照され続ける可能性がある場合(例えば、ポインタが返される場合や、グローバル変数に代入される場合など)、その変数はヒープに割り当てられます。ヒープ割り当てされたオブジェクトは、ガベージコレクタによって管理されます。

エスケープ解析は、プログラムのパフォーマンスに大きな影響を与えます。不必要なヒープ割り当てを減らすことで、ガベージコレクションの頻度を減らし、プログラムの実行速度を向上させることができます。

test/escape2.go のようなテストファイルは、コンパイラのエスケープ解析が正しく機能しているかを確認するために、様々なエスケープシナリオを意図的に作成しています。

技術的詳細

このコミットが修正しているのは、test/escape2.go 内の foo126 関数です。この関数は、エスケープ解析の特定のケースをテストするために設計されています。

元のコードでは、foo126 関数内で px というグローバル変数にローカル変数 i のアドレスが代入されています。

var px *int // グローバル変数

func foo126() {
    var i int
    func() {
        px = &i // ERROR "&i escapes"
    }()
}

ここで、px = &i の行には ERROR "&i escapes" というコメントがあります。これは、コンパイラが i のアドレスがローカルスコープをエスケープし、グローバル変数 px に代入されることを正しく検出していることを示しています。つまり、i はスタックではなくヒープに割り当てられるべきである、というエスケープ解析の結果を期待しているわけです。

問題は、この px というグローバル変数が、foo126 関数内で値を代入された後、その関数内で使用されていないという点です。Goコンパイラが「declared and not used」エラーの検出をより厳密にするようになると、foo126 関数内で px に値が代入されたにもかかわらず、その値がその後使用されていないため、この関数がコンパイルエラーとなる可能性がありました。

このコミットは、この潜在的なエラーを回避するために、_ = px という行を追加しています。これにより、px の値が明示的に使用されている(ただし、その値は破棄されている)とコンパイラに伝えられ、「declared and not used」エラーが発生しなくなります。これは、テストコードが将来のコンパイラの変更によって壊れないようにするための予防的な修正です。

コアとなるコードの変更箇所

--- a/test/escape2.go
+++ b/test/escape2.go
@@ -1136,6 +1136,7 @@ func foo126() {\n \t\t\tpx = &i // ERROR \"&i escapes\"\n \t\t}()\n \t}\n+\t_ = px\n }\n \n var px *int

コアとなるコードの解説

追加された行は _ = px です。

  • _ (ブランク識別子): Go言語における特別な識別子で、値を破棄するために使用されます。
  • = px: グローバル変数 px の値をブランク識別子に代入しています。

この行の目的は、foo126 関数内で px に値が代入された後、その値が「使用されている」とコンパイラに認識させることです。これにより、Goコンパイラが将来的に「declared and not used」エラーの検出をより厳密にした場合でも、このテストコードがエラーにならずにコンパイルが通るようになります。

この修正は、px の値自体がプログラムのロジックに影響を与えることを意図しているわけではありません。単に、コンパイラの「未使用変数」チェックをパスするためのテクニックです。

関連リンク

参考にした情報源リンク