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[インデックス 17682] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のランタイムプロファイリングツールである runtime/pprof パッケージ内のテストコードにおけるプロファイルパーサーのバグ修正に関するものです。具体的には、プロファイルデータの最小長をチェックするロジックが誤っていた点を修正しています。

コミット

commit 05ff4d7a1aa18811d12e9ccaa774b6e71dc613b8
Author: Russ Cox <rsc@golang.org>
Date:   Mon Sep 23 16:05:36 2013 -0400

    runtime/pprof: fix profile parser in test

    Fixes #6417.

    R=golang-dev, bradfitz
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/13843043

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/05ff4d7a1aa18811d12e9ccaa774b6e71dc613b8

元コミット内容

runtime/pprof: fix profile parser in test

Fixes #6417.

R=golang-dev, bradfitz
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/13843043

変更の背景

この変更は、Go言語のIssue #6417 を修正するために行われました。Issue #6417 は、「runtime/pprof: profile parser in test is too strict」というタイトルで、runtime/pprof パッケージのテストコード pprof_test.go 内の parseProfile 関数が、プロファイルデータの最小長を誤ってチェックしているために、一部の有効なプロファイルデータが「短すぎる」と誤判定され、テストが失敗する問題が報告されていました。

具体的には、parseProfile 関数はプロファイルデータのバイトスライスを uintptr のスライスとして解釈し、その長さ l が特定の閾値より小さい場合にエラーとしていました。しかし、この閾値 13 が実際のプロファイルデータの構造と合致しておらず、特にヘッダー、サンプルごとのヘッダー、トレーラーの各要素のサイズを考慮すると、より小さな有効なプロファイルデータも存在し得るため、テストが不必要に厳しくなっていました。

この誤ったチェックにより、特定の環境やプロファイル生成条件でテストが不安定になる可能性がありました。

前提知識の解説

  • runtime/pprof パッケージ: Go言語の標準ライブラリの一部で、Goプログラムのプロファイリング機能を提供します。CPUプロファイル、メモリプロファイル、ゴルーチンプロファイルなどを生成できます。これらのプロファイルは、プログラムのパフォーマンスボトルネックを特定するために使用されます。
  • プロファイルデータ: runtime/pprof が生成するプロファイルデータは、特定のフォーマットに従ってバイナリ形式で表現されます。このデータには、サンプリングされたスタックトレースや、各スタックトレースに関連付けられた数値(例: CPU時間、メモリ割り当て量)が含まれます。
  • pprof_test.go: runtime/pprof パッケージのテストファイルです。このファイルには、プロファイルデータの生成、解析、検証を行うためのテストコードが含まれています。
  • parseProfile 関数: pprof_test.go 内に定義されているテストヘルパー関数で、バイトスライスとして与えられたプロファイルデータを解析し、その構造が期待通りであるかを検証します。この関数は、プロファイルデータの内部構造を理解し、テスト目的でその内容を検査するために使用されます。
  • uintptr: Go言語の型で、ポインタを保持するのに十分な大きさの符号なし整数型です。プロファイルデータは、内部的に uintptr のシーケンスとして扱われることがあります。
  • プロファイルデータの構造 (簡略化):
    • ヘッダー: プロファイルデータの先頭に位置し、プロファイルの種類やバージョンなどのメタデータを含みます。
    • サンプル: 実際のプロファイリングデータ(スタックトレースと関連する数値)の集合です。各サンプルには独自のヘッダーを持つ場合があります。
    • トレーラー: プロファイルデータの末尾に位置し、データの整合性チェックなどに使用される情報を含みます。

技術的詳細

このコミットの技術的な核心は、pprof_test.go 内の parseProfile 関数におけるプロファイルデータの最小長チェックの修正です。

変更前は、プロファイルデータの uintptr スライスとしての長さ l13 未満の場合に、プロファイルが短すぎると判断していました。

// 変更前
if l < 13 {
    t.Logf("profile too short: %#x", val)
    // ...
}

この 13 というマジックナンバーは、プロファイルデータの実際の構造を正確に反映していませんでした。プロファイルデータは、ヘッダー、少なくとも1つのサンプル(そのサンプルごとのヘッダーを含む)、およびトレーラーで構成されます。これらの要素がそれぞれ特定の uintptr 数を占めます。

コミットでは、この 135+2+3 に変更し、その意味を明確にするコメントを追加しています。

// 変更後
// 5 for the header, 2 for the per-sample header on at least one sample, 3 for the trailer.
if l < 5+2+3 {
    t.Logf("profile too short: %#x", val)
    // ...
}

この変更は、プロファイルデータの最小構成要素をより正確に反映しています。

  • 5: プロファイルヘッダーが占める uintptr の数。
  • 2: 少なくとも1つのサンプルが存在する場合に、そのサンプルごとのヘッダーが占める uintptr の数。
  • 3: プロファイルトレーラーが占める uintptr の数。

したがって、5 + 2 + 3 = 10 となり、最小長が 10 uintptr に修正されました。これにより、以前は「短すぎる」と誤判定されていた、有効だが非常に短いプロファイルデータも正しく解析されるようになり、テストの誤検出が解消されました。

この修正は、テストの堅牢性を高め、プロファイルデータの実際の構造に対する理解を深めるものです。テストが実際のデータフォーマットに厳密に準拠することで、将来的なプロファイルフォーマットの変更があった場合にも、より正確なテストが可能になります。

コアとなるコードの変更箇所

src/pkg/runtime/pprof/pprof_test.go ファイルの parseProfile 関数内。

--- a/src/pkg/runtime/pprof/pprof_test.go
+++ b/src/pkg/runtime/pprof/pprof_test.go
@@ -58,7 +58,8 @@ func parseProfile(t *testing.T, bytes []byte, f func(uintptr, []uintptr)) {
 	val := *(*[]uintptr)(unsafe.Pointer(&bytes))
 	val = val[:l]
 
-	if l < 13 {
+	// 5 for the header, 2 for the per-sample header on at least one sample, 3 for the trailer.
+	if l < 5+2+3 {
 		t.Logf("profile too short: %#x", val)
 		if badOS[runtime.GOOS] {
 			t.Skipf("ignoring failure on %s; see golang.org/issue/6047", runtime.GOOS)

コアとなるコードの解説

変更された行は、parseProfile 関数内のプロファイルデータの長さチェックです。

元のコードでは if l < 13 { となっていましたが、これはプロファイルデータの最小長を uintptr の数で 13 と仮定していました。

修正後のコードでは、if l < 5+2+3 { と変更され、さらにその計算の根拠を説明するコメントが追加されました。

  • // 5 for the header: プロファイルデータのヘッダー部分が uintptr 5個分の長さを占めることを示しています。
  • // 2 for the per-sample header on at least one sample: 少なくとも1つのサンプルが存在する場合、そのサンプルごとのヘッダーが uintptr 2個分の長さを占めることを示しています。
  • // 3 for the trailer.: プロファイルデータのトレーラー部分が uintptr 3個分の長さを占めることを示しています。

これらの合計 5 + 2 + 3 = 10 が、有効なプロファイルデータが持つべき最小の uintptr 数であるという認識に基づいています。この修正により、テストがプロファイルデータの実際の構造に即した形で最小長をチェックするようになり、不必要なテストの失敗が回避されます。

unsafe.Pointer を使用してバイトスライスを uintptr スライスに変換しているのは、プロファイルデータがバイトのシーケンスとして読み込まれるが、その内容を uintptr の配列として解釈して処理する必要があるためです。これは低レベルの操作であり、Goの型システムをバイパスしてメモリを直接操作するものです。

関連リンク

参考にした情報源リンク

  • Go Issue #6417 の内容
  • Go CL 13843043 の内容
  • Go言語の runtime/pprof パッケージのドキュメント (一般的な情報)
  • Go言語の unsafe パッケージのドキュメント (一般的な情報)
  • Go言語のテストに関する一般的な知識