[インデックス 17683] ファイルの概要
このコミットは、Go言語のcmd/cgo
ツールにおける#cgo
ディレクティブのドキュメントを更新するものです。具体的には、#cgo
ディレクティブが受け入れる構文が、単なるGOOS
、GOARCH
、またはGOOS/GOARCH
の組み合わせだけでなく、より広範なビルド制約(build constraints)をサポートしていることを明確にするための変更です。
コミット
commit 3c1ece2cb4caeb1a7ed6954e456dbe5bd6fd4c24
Author: Russ Cox <rsc@golang.org>
Date: Mon Sep 23 16:29:53 2013 -0400
cmd/cgo: update #cgo docs to reflect reality
The syntax accepted is full build constraints, not just
GOOS, GOARCH, and GOOS/GOARCH.
R=golang-dev, iant
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/13504048
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/3c1ece2cb4caeb1a7ed6954e456dbe5bd6fd4c24
元コミット内容
src/cmd/cgo/doc.go
ファイルのドキュメントが更新され、#cgo
ディレクティブの条件指定に関する記述が修正されました。
変更前:
Options prefixed by $GOOS, $GOARCH, or $GOOS/$GOARCH are only defined in matching systems.
($GOOS
、$GOARCH
、または$GOOS/$GOARCH
でプレフィックスされたオプションは、一致するシステムでのみ定義されます。)
変更後:
The directive can include a list of build constraints limiting its effect to systems satisfying one of the constraints (see http://golang.org/pkg/go/build/#hdr-Build_Constraints for details about the constraint syntax).
(ディレクティブは、制約のいずれかを満たすシステムにその効果を制限するビルド制約のリストを含めることができます(制約構文の詳細については、http://golang.org/pkg/go/build/#hdr-Build_Constraints を参照してください)。)
また、例も更新されました。
変更前:
// #cgo linux CFLAGS: -DLINUX=1
変更後:
// #cgo amd64 386 CFLAGS: -DX86=1
変更の背景
このコミットの背景には、cmd/cgo
ツールにおける#cgo
ディレクティブの実際の挙動と、それに関する既存のドキュメントとの間に乖離があったことが挙げられます。以前のドキュメントでは、#cgo
ディレクティブの条件指定がGOOS
(オペレーティングシステム)やGOARCH
(アーキテクチャ)といった限定的なものにしか対応していないかのように記述されていました。しかし、実際のcgo
の実装では、Goのビルドシステムが提供する「ビルド制約(build constraints)」の完全な構文をサポートしていました。
この乖離は、開発者が#cgo
ディレクティブを使用する際に誤解を招く可能性がありました。例えば、特定のGoバージョン、タグ、またはその他のカスタムビルド制約に基づいてC/C++コンパイラのフラグやリンカフラグを条件付きで適用したい場合、ドキュメントの記述だけを見ると、それが不可能であるかのように思えてしまいます。
Russ Cox氏によるこのコミットは、このドキュメントの不正確さを修正し、#cgo
ディレクティブがGoのビルド制約の全機能を活用できることを明確にすることで、開発者がより柔軟かつ正確にC/C++コードとGoコードを連携させられるようにすることを目的としています。これにより、クロスプラットフォーム開発や特定の環境に特化したビルド設定がより容易になります。
前提知識の解説
このコミットを理解するためには、以下のGo言語の概念について理解しておく必要があります。
-
Cgo: Cgoは、GoプログラムからC言語のコードを呼び出すためのGoのツールです。また、C言語のコードからGoの関数を呼び出すことも可能です。Cgoを使用することで、既存のCライブラリをGoプロジェクトに統合したり、Goでは実装が難しい低レベルの操作を行ったりすることができます。Cgoは、Goのソースファイル内に特別なコメントブロック(
import "C"
の直前)を記述することで有効になります。このコメントブロック内にCのコードを直接記述したり、Cのヘッダーファイルをインクルードしたりできます。 -
#cgo
ディレクティブ:#cgo
ディレクティブは、CgoがC/C++コンパイラやリンカを呼び出す際に使用するフラグ(CFLAGS
,CPPFLAGS
,CXXFLAGS
,LDFLAGS
など)をGoのソースコード内で指定するための特別なコメント行です。これにより、Goのビルドプロセスの一部としてC/C++コードをコンパイル・リンクする際の挙動を制御できます。例えば、特定のライブラリをリンクしたり、プリプロセッサマクロを定義したりするのに使われます。 -
ビルド制約 (Build Constraints): Go言語には、特定のファイルが特定のビルド環境でのみコンパイルされるように制御するための「ビルド制約」という強力なメカニズムがあります。これは、ファイルの先頭に
// +build
または//go:build
(Go 1.17以降)コメント行を記述することで指定されます。ビルド制約は、論理AND (,
で区切る) や論理OR (GOOS
(例:linux
,windows
)、GOARCH
(例:amd64
,arm64
)、Goのバージョン(例:go1.18
)、カスタムタグ(例:debug
,integration
)など、様々な条件を指定できます。 例えば、// +build linux,amd64
はLinuxかつamd64アーキテクチャの場合にのみファイルをコンパイルし、// +build debug || release
はdebug
タグまたはrelease
タグが指定された場合にコンパイルします。
このコミットは、#cgo
ディレクティブが、このビルド制約の完全な構文をサポートしているにもかかわらず、ドキュメントがその事実を反映していなかったという点に焦点を当てています。
技術的詳細
このコミットの技術的な核心は、#cgo
ディレクティブの条件指定が、Goのビルド制約パーサーと同じロジックを使用しているという点にあります。つまり、#cgo
ディレクティブの後に続く条件は、go/build
パッケージで定義されているビルド制約の構文規則に完全に準拠しています。
具体的には、#cgo
ディレクティブは以下のような形式を取ります。
// #cgo [build constraints] CFLAGS: -D_SOME_MACRO
// #cgo [build constraints] LDFLAGS: -lfoo
ここで[build constraints]
の部分は、go/build
パッケージが解釈する任意のビルド制約の組み合わせが可能です。例えば、以下のような複雑な条件も指定できます。
// #cgo linux,amd64 CFLAGS: -D_LINUX_AMD64
- LinuxかつAMD64アーキテクチャの場合にのみ適用。
// #cgo !windows CFLAGS: -D_NOT_WINDOWS
- Windows以外のシステムの場合にのみ適用。
// #cgo debug,go1.16 CFLAGS: -D_DEBUG_GO116
debug
タグが有効で、かつGoのバージョンが1.16以上の場合にのみ適用。
// #cgo arm || arm64 CFLAGS: -D_ARM_OR_ARM64
- ARMまたはARM64アーキテクチャの場合にのみ適用。
以前のドキュメントでは、この[build constraints]
の部分がGOOS
、GOARCH
、またはGOOS/GOARCH
の単純な組み合わせに限定されているかのように誤解を招く記述がされていました。このコミットは、この誤解を解消し、#cgo
ディレクティブがGoのビルド制約の柔軟性を完全に享受できることを明示しています。
これにより、Cgoを使用するGoパッケージは、よりきめ細かくプラットフォーム固有のコンパイル・リンクオプションを制御できるようになります。例えば、特定のOSバージョンやCPUの機能拡張(例: AVX命令セットの有無)に基づいて異なるC/C++コンパイルフラグを適用するといった高度なビルド設定が可能になります。これは、特にクロスコンパイル環境や、多様なハードウェア環境をターゲットとする組み込みシステム開発において非常に有用です。
コアとなるコードの変更箇所
変更は src/cmd/cgo/doc.go
ファイルに集中しています。
--- a/src/cmd/cgo/doc.go
+++ b/src/cmd/cgo/doc.go
@@ -27,11 +27,13 @@ http://golang.org/doc/articles/c_go_cgo.html.
CFLAGS, CPPFLAGS, CXXFLAGS and LDFLAGS may be defined with pseudo #cgo
directives within these comments to tweak the behavior of the C or C++
compiler. Values defined in multiple directives are concatenated
-together. Options prefixed by $GOOS, $GOARCH, or $GOOS/$GOARCH are
-only defined in matching systems. For example:\n
+together. The directive can include a list of build constraints limiting its
+effect to systems satisfying one of the constraints
+(see http://golang.org/pkg/go/build/#hdr-Build_Constraints for details about the constraint syntax).\n
+For example:\n
\n \t// #cgo CFLAGS: -DPNG_DEBUG=1\n
-\t// #cgo linux CFLAGS: -DLINUX=1\n
+\t// #cgo amd64 386 CFLAGS: -DX86=1\n
\t// #cgo LDFLAGS: -lpng\n
\t// #include <png.h>\n
\timport "C"\n
コアとなるコードの解説
このコミットの変更は、src/cmd/cgo/doc.go
内のコメント、つまりcgo
ツールのドキュメント部分のみです。実際のcgo
のコード(パーサーやビルド制約の評価ロジック)自体には変更がありません。これは、cgo
が既にビルド制約の完全な構文をサポートしていたため、ドキュメントを「現実(reality)」に合わせるだけでよかったことを意味します。
具体的には、以下の2点が変更されています。
-
条件指定の記述の修正:
- 変更前:
Options prefixed by $GOOS, $GOARCH, or $GOOS/$GOARCH are only defined in matching systems.
- これは、条件が
GOOS
やGOARCH
といった環境変数に限定されるかのような印象を与えていました。
- これは、条件が
- 変更後:
The directive can include a list of build constraints limiting its effect to systems satisfying one of the constraints (see http://golang.org/pkg/go/build/#hdr-Build_Constraints for details about the constraint syntax).
- この新しい記述は、
#cgo
ディレクティブが「ビルド制約のリスト」を受け入れることを明確にしています。さらに、go/build
パッケージのドキュメントへのリンクを提供することで、ビルド制約の完全な構文とセマンティクスを開発者が参照できるようにしています。これは、Goのドキュメントにおける一般的なパターンであり、関連する詳細情報へのポインタを提供することで、ドキュメントの簡潔さを保ちつつ、必要に応じて深い情報にアクセスできるようにします。
- この新しい記述は、
- 変更前:
-
例の更新:
- 変更前:
// #cgo linux CFLAGS: -DLINUX=1
- これは
GOOS
による単純な条件の例でした。
- これは
- 変更後:
// #cgo amd64 386 CFLAGS: -DX86=1
- この新しい例は、複数のアーキテクチャ(
amd64
と386
)をOR条件で指定できることを示しています。これは、GOOS
やGOARCH
の単純な組み合わせだけでなく、より複雑なビルド制約が機能することを示す良い例です。amd64
または386
のいずれかのアーキテクチャでビルドされる場合に-DX86=1
というCフラグが適用されることを意味します。
- この新しい例は、複数のアーキテクチャ(
- 変更前:
これらの変更は、cgo
のドキュメントの正確性を向上させ、開発者が#cgo
ディレクティブの真の能力を理解し、活用できるようにするための重要な改善です。
関連リンク
- Go言語のCgoドキュメント: https://golang.org/doc/articles/c_go_cgo.html
- Go言語のビルド制約に関するドキュメント (
go/build
パッケージ): https://golang.org/pkg/go/build/#hdr-Build_Constraints
参考にした情報源リンク
- Go言語の公式ドキュメント
- Go言語のソースコード (
src/cmd/cgo/doc.go
,go/build
パッケージ) - GitHubのコミット履歴
- Go言語のメーリングリストやIssueトラッカー(
golang-dev
など)での議論(コミットメッセージにR=golang-dev
などの記述があるため) - 一般的なGo言語のビルドシステムに関する知識
- Cgoに関する技術記事やチュートリアル
[インデックス 17683] ファイルの概要
このコミットは、Go言語のcmd/cgo
ツールにおける#cgo
ディレクティブのドキュメントを更新するものです。具体的には、#cgo
ディレクティブが受け入れる構文が、単なるGOOS
、GOARCH
、またはGOOS/GOARCH
の組み合わせだけでなく、より広範なビルド制約(build constraints)をサポートしていることを明確にするための変更です。
コミット
commit 3c1ece2cb4caeb1a7ed6954e456dbe5bd6fd4c24
Author: Russ Cox <rsc@golang.org>
Date: Mon Sep 23 16:29:53 2013 -0400
cmd/cgo: update #cgo docs to reflect reality
The syntax accepted is full build constraints, not just
GOOS, GOARCH, and GOOS/GOARCH.
R=golang-dev, iant
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/13504048
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/3c1ece2cb4caeb1a7ed6954e456dbe5bd6fd4c24
元コミット内容
src/cmd/cgo/doc.go
ファイルのドキュメントが更新され、#cgo
ディレクティブの条件指定に関する記述が修正されました。
変更前:
Options prefixed by $GOOS, $GOARCH, or $GOOS/$GOARCH are only defined in matching systems.
($GOOS
、$GOARCH
、または$GOOS/$GOARCH
でプレフィックスされたオプションは、一致するシステムでのみ定義されます。)
変更後:
The directive can include a list of build constraints limiting its effect to systems satisfying one of the constraints (see http://golang.org/pkg/go/build/#hdr-Build_Constraints for details about the constraint syntax).
(ディレクティブは、制約のいずれかを満たすシステムにその効果を制限するビルド制約のリストを含めることができます(制約構文の詳細については、http://golang.org/pkg/go/build/#hdr-Build_Constraints を参照してください)。)
また、例も更新されました。
変更前:
// #cgo linux CFLAGS: -DLINUX=1
変更後:
// #cgo amd64 386 CFLAGS: -DX86=1
変更の背景
このコミットの背景には、cmd/cgo
ツールにおける#cgo
ディレクティブの実際の挙動と、それに関する既存のドキュメントとの間に乖離があったことが挙げられます。以前のドキュメントでは、#cgo
ディレクティブの条件指定がGOOS
(オペレーティングシステム)やGOARCH
(アーキテクチャ)といった限定的なものにしか対応していないかのように記述されていました。しかし、実際のcgo
の実装では、Goのビルドシステムが提供する「ビルド制約(build constraints)」の完全な構文をサポートしていました。
この乖離は、開発者が#cgo
ディレクティブを使用する際に誤解を招く可能性がありました。例えば、特定のGoバージョン、タグ、またはその他のカスタムビルド制約に基づいてC/C++コンパイラのフラグやリンカフラグを条件付きで適用したい場合、ドキュメントの記述だけを見ると、それが不可能であるかのように思えてしまいます。
Russ Cox氏によるこのコミットは、このドキュメントの不正確さを修正し、#cgo
ディレクティブがGoのビルド制約の全機能を活用できることを明確にすることで、開発者がより柔軟かつ正確にC/C++コードとGoコードを連携させられるようにすることを目的としています。これにより、クロスプラットフォーム開発や特定の環境に特化したビルド設定がより容易になります。
前提知識の解説
このコミットを理解するためには、以下のGo言語の概念について理解しておく必要があります。
-
Cgo: Cgoは、GoプログラムからC言語のコードを呼び出すためのGoのツールです。また、C言語のコードからGoの関数を呼び出すことも可能です。Cgoを使用することで、既存のCライブラリをGoプロジェクトに統合したり、Goでは実装が難しい低レベルの操作を行ったりすることができます。Cgoは、Goのソースファイル内に特別なコメントブロック(
import "C"
の直前)を記述することで有効になります。このコメントブロック内にCのコードを直接記述したり、Cのヘッダーファイルをインクルードしたりできます。 -
#cgo
ディレクティブ:#cgo
ディレクティブは、CgoがC/C++コンパイラやリンカを呼び出す際に使用するフラグ(CFLAGS
,CPPFLAGS
,CXXFLAGS
,LDFLAGS
など)をGoのソースコード内で指定するための特別なコメント行です。これにより、Goのビルドプロセスの一部としてC/C++コードをコンパイル・リンクする際の挙動を制御できます。例えば、特定のライブラリをリンクしたり、プリプロセッサマクロを定義したりするのに使われます。 -
ビルド制約 (Build Constraints): Go言語には、特定のファイルが特定のビルド環境でのみコンパイルされるように制御するための「ビルド制約」という強力なメカニズムがあります。これは、ファイルの先頭に
// +build
または//go:build
(Go 1.17以降)コメント行を記述することで指定されます。ビルド制約は、論理AND (,
で区切る) や論理OR (GOOS
(例:linux
,windows
)、GOARCH
(例:amd64
,arm
)、Goのバージョン(例:go1.18
)、カスタムタグ(例:debug
,integration
)など、様々な条件を指定できます。 例えば、// +build linux,amd64
はLinuxかつamd64アーキテクチャの場合にのみファイルをコンパイルし、// +build debug || release
はdebug
タグまたはrelease
タグが指定された場合にコンパイルします。
このコミットは、#cgo
ディレクティブが、このビルド制約の完全な構文をサポートしているにもかかわらず、ドキュメントがその事実を反映していなかったという点に焦点を当てています。
技術的詳細
このコミットの技術的な核心は、#cgo
ディレクティブの条件指定が、Goのビルド制約パーサーと同じロジックを使用しているという点にあります。つまり、#cgo
ディレクティブの後に続く条件は、go/build
パッケージで定義されているビルド制約の構文規則に完全に準拠しています。
具体的には、#cgo
ディレクティブは以下のような形式を取ります。
// #cgo [build constraints] CFLAGS: -D_SOME_MACRO
// #cgo [build constraints] LDFLAGS: -lfoo
ここで[build constraints]
の部分は、go/build
パッケージが解釈する任意のビルド制約の組み合わせが可能です。例えば、以下のような複雑な条件も指定できます。
// #cgo linux,amd64 CFLAGS: -D_LINUX_AMD64
- LinuxかつAMD64アーキテクチャの場合にのみ適用。
// #cgo !windows CFLAGS: -D_NOT_WINDOWS
- Windows以外のシステムの場合にのみ適用。
// #cgo debug,go1.16 CFLAGS: -D_DEBUG_GO116
debug
タグが有効で、かつGoのバージョンが1.16以上の場合にのみ適用。
// #cgo arm || arm64 CFLAGS: -D_ARM_OR_ARM64
- ARMまたはARM64アーキテクチャの場合にのみ適用。
以前のドキュメントでは、この[build constraints]
の部分がGOOS
、GOARCH
、またはGOOS/GOARCH
の単純な組み合わせに限定されているかのように誤解を招く記述がされていました。このコミットは、この誤解を解消し、#cgo
ディレクティブがGoのビルド制約の柔軟性を完全に享受できることを明示しています。
これにより、Cgoを使用するGoパッケージは、よりきめ細かくプラットフォーム固有のコンパイル・リンクオプションを制御できるようになります。例えば、特定のOSバージョンやCPUの機能拡張(例: AVX命令セットの有無)に基づいて異なるC/C++コンパイルフラグを適用するといった高度なビルド設定が可能になります。これは、特にクロスコンパイル環境や、多様なハードウェア環境をターゲットとする組み込みシステム開発において非常に有用です。
コアとなるコードの変更箇所
変更は src/cmd/cgo/doc.go
ファイルに集中しています。
--- a/src/cmd/cgo/doc.go
+++ b/src/cmd/cgo/doc.go
@@ -27,11 +27,13 @@ http://golang.org/doc/articles/c_go_cgo.html.
CFLAGS, CPPFLAGS, CXXFLAGS and LDFLAGS may be defined with pseudo #cgo
directives within these comments to tweak the behavior of the C or C++
compiler. Values defined in multiple directives are concatenated
-together. Options prefixed by $GOOS, $GOARCH, or $GOOS/$GOARCH are
-only defined in matching systems. For example:\n
+together. The directive can include a list of build constraints limiting its
+effect to systems satisfying one of the constraints
+(see http://golang.org/pkg/go/build/#hdr-Build_Constraints for details about the constraint syntax).\n
+For example:\n
\n \t// #cgo CFLAGS: -DPNG_DEBUG=1\n
-\t// #cgo linux CFLAGS: -DLINUX=1\n
+\t// #cgo amd64 386 CFLAGS: -DX86=1\n
\t// #cgo LDFLAGS: -lpng\n
\t// #include <png.h>\n
\timport "C"\n
コアとなるコードの解説
このコミットの変更は、src/cmd/cgo/doc.go
内のコメント、つまりcgo
ツールのドキュメント部分のみです。実際のcgo
のコード(パーサーやビルド制約の評価ロジック)自体には変更がありません。これは、cgo
が既にビルド制約の完全な構文をサポートしていたため、ドキュメントを「現実(reality)」に合わせるだけでよかったことを意味します。
具体的には、以下の2点が変更されています。
-
条件指定の記述の修正:
- 変更前:
Options prefixed by $GOOS, $GOARCH, or $GOOS/$GOARCH are only defined in matching systems.
- これは、条件が
GOOS
やGOARCH
といった環境変数に限定されるかのような印象を与えていました。
- これは、条件が
- 変更後:
The directive can include a list of build constraints limiting its effect to systems satisfying one of the constraints (see http://golang.org/pkg/go/build/#hdr-Build_Constraints for details about the constraint syntax).
- この新しい記述は、
#cgo
ディレクティブが「ビルド制約のリスト」を受け入れることを明確にしています。さらに、go/build
パッケージのドキュメントへのリンクを提供することで、ビルド制約の完全な構文とセマンティクスを開発者が参照できるようにしています。これは、Goのドキュメントにおける一般的なパターンであり、関連する詳細情報へのポインタを提供することで、ドキュメントの簡潔さを保ちつつ、必要に応じて深い情報にアクセスできるようにします。
- この新しい記述は、
- 変更前:
-
例の更新:
- 変更前:
// #cgo linux CFLAGS: -DLINUX=1
- これは
GOOS
による単純な条件の例でした。
- これは
- 変更後:
// #cgo amd64 386 CFLAGS: -DX86=1
- この新しい例は、複数のアーキテクチャ(
amd64
と386
)をOR条件で指定できることを示しています。これは、GOOS
やGOARCH
の単純な組み合わせだけでなく、より複雑なビルド制約が機能することを示す良い例です。amd64
または386
のいずれかのアーキテクチャでビルドされる場合に-DX86=1
というCフラグが適用されることを意味します。
- この新しい例は、複数のアーキテクチャ(
- 変更前:
これらの変更は、cgo
のドキュメントの正確性を向上させ、開発者が#cgo
ディレクティブの真の能力を理解し、活用できるようにするための重要な改善です。
関連リンク
- Go言語のCgoドキュメント: https://golang.org/doc/articles/c_go_cgo.html
- Go言語のビルド制約に関するドキュメント (
go/build
パッケージ): https://golang.org/pkg/go/build/#hdr-Build_Constraints
参考にした情報源リンク
- Go言語の公式ドキュメント
- Go言語のソースコード (
src/cmd/cgo/doc.go
,go/build
パッケージ) - GitHubのコミット履歴
- Go言語のメーリングリストやIssueトラッカー(
golang-dev
など)での議論(コミットメッセージにR=golang-dev
などの記述があるため) - 一般的なGo言語のビルドシステムに関する知識
- Cgoに関する技術記事やチュートリアル