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[インデックス 17742] ファイルの概要

このコミットは、Go言語の公式フォーマッタであるgofmtsimplify.goファイルに説明的なコメントを追加するものです。具体的には、スライス式s[0:b]の形式がs[:b]に自動的に簡略化されない理由について、コード内に説明が加えられました。これは、0という明示的な下限が、特定の状況下でコードの意図をより明確にするために役立つ場合があるためです。

コミット

  • コミットハッシュ: a51b8cf870f5911a9785973a3362e4411d83b17d
  • 作者: Robert Hencke robert.hencke@gmail.com
  • コミット日時: 2013年10月3日 木曜日 10:55:17 -0700

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/a51b8cf870f5911a9785973a3362e4411d83b17d

元コミット内容

gofmt: explain why lower bounds aren't automatically simplified

Full credit goes to gri and rsc for their explanations.

R=golang-dev, r
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/14229043

変更の背景

gofmtはGo言語のコードを整形し、Goの慣用的なスタイルに準拠させるためのツールです。-sフラグ(simplify)を付けて実行すると、コードをより簡潔にするための様々な変換を行います。その一つに、スライス式s[0:b]s[:b]に簡略化する処理があります。これは、Goのスライス式において、下限が0である場合は省略可能であり、s[0:b]s[:b]は機能的に同等であるためです。

しかし、このコミットの背景には、gofmtが常にs[0:b]s[:b]に簡略化するわけではない、という事実があります。特定のシナリオでは、明示的に0を下限として記述することが、コードの意図をより明確にし、可読性を高める場合があります。例えば、複数のスライスが同じ基底スライスから連続的に切り出されるような場合、b[0:2], b[2:4], b[4:6]のように0を明示することで、それぞれのスライスの開始位置が視覚的に分かりやすくなります。

このコミットは、このようなgofmtの挙動の背後にある理由を、コード内のコメントとして明確にすることで、将来の開発者やコードを読む人々がその意図を理解しやすくすることを目的としています。これは、gofmtの設計思想、すなわち「常に簡潔さが最優先されるわけではなく、時には明示性が重要である」という点を反映しています。

前提知識の解説

Go言語のスライス (Slices)

Go言語のスライスは、配列のセグメントを参照するデータ構造です。スライスは、基底となる配列の一部を「ビュー」として提供し、動的な長さを持つシーケンスを扱うことができます。スライスは[low:high]または[low:high:capacity]の形式で作成されます。

  • low: スライスの開始インデックス(省略可能、デフォルトは0
  • high: スライスの終了インデックス(このインデックスの要素は含まれない、省略可能、デフォルトは基底配列の長さ)
  • capacity: スライスの容量(省略可能)

例:

  • s[0:b]: スライスsのインデックス0からb-1までの要素を含む新しいスライス。
  • s[:b]: s[0:b]と同じ。下限0が省略されている。
  • s[a:]: スライスsのインデックスaから最後までを含む新しいスライス。
  • s[:]: スライスs全体をコピーした新しいスライス。

gofmt

gofmtは、Go言語のソースコードを自動的に整形するツールです。Goのコードベース全体で一貫したコーディングスタイルを強制するために設計されており、Go開発の重要な部分を占めています。gofmtは、インデント、スペース、改行などの書式設定だけでなく、-sフラグを使用することで、冗長なコードをより簡潔な形式に自動的に書き換える「簡略化」機能も提供します。例えば、x + 0xに、if x { ... } else { ... }if !x { ... } else { ... }に変換するなどの最適化を行います。

技術的詳細

このコミットは、gofmtの簡略化ロジックが実装されているsrc/cmd/gofmt/simplify.goファイルに、新しいコメントを追加するものです。

gofmt-sフラグは、コードの簡潔性を高めることを目的としていますが、常に最も短い形式が最善とは限りません。特にスライス式s[0:b]の場合、0を省略してs[:b]とすることは、多くの場合でコードを簡潔にし、可読性を向上させます。しかし、このコミットが指摘するように、0を明示的に記述することが、特定の文脈でコードの意図をより明確にする場合があります。

追加されたコメントは、このトレードオフを説明しています。

  1. 簡略化の可能性: gofmts[0:b]s[:b]に簡略化する可能性があることを認識しています。
  2. 簡略化しない理由: しかし、0という明示的な下限が、スライスの開始位置を非常に明確にしたい場合に役立つため、gofmtは常にこの簡略化を行わない、と説明しています。
  3. 具体例:
    • x, y, z := b[0:2], b[2:4], b[4:6] のように、複数のスライスが連続的に切り出される場合、0を明示することで、それぞれのスライスの開始位置が視覚的に揃い、コードの構造が理解しやすくなります。
    • 対照的に、x, y := b[:n], b[n:] のように、0がなくても十分に明確な場合は、簡略化が適切であることも示唆しています。

この変更は、gofmtが単なる整形ツールではなく、Go言語のイディオムと可読性を深く考慮した設計思想を持っていることを示しています。簡潔さと明示性のバランスを取るという、Go言語の設計哲学がgofmtにも反映されていると言えます。

コアとなるコードの変更箇所

変更はsrc/cmd/gofmt/simplify.goファイルに対して行われました。

--- a/src/cmd/gofmt/simplify.go
+++ b/src/cmd/gofmt/simplify.go
@@ -90,6 +90,10 @@ func (s *simplifier) Visit(node ast.Node) ast.Visitor {
 		// Note: We could also simplify slice expressions of the form s[0:b] to s[:b]
 		//       but we leave them as is since sometimes we want to be very explicit
 		//       about the lower bound.
+		// An example where the 0 helps:
+		//       x, y, z := b[0:2], b[2:4], b[4:6]
+		// An example where it does not:
+		//       x, y := b[:n], b[n:]

コアとなるコードの解説

追加された4行のコメントは、simplify.go内のVisitメソッドの一部に挿入されています。このVisitメソッドは、AST (Abstract Syntax Tree) を走査し、簡略化の対象となるノードを処理する役割を担っています。

既存のコメント// Note: We could also simplify slice expressions of the form s[0:b] to s[:b] // but we leave them as is since sometimes we want to be very explicit // about the lower bound.に続いて、具体的な例が追加されました。

  • // An example where the 0 helps: // x, y, z := b[0:2], b[2:4], b[4:6] この例は、0を明示的に記述することが有益なケースを示しています。bという基底スライスから、x, y, zという3つのスライスが連続的に切り出されています。この場合、b[0:2]のように0を明示することで、b[2:4]b[4:6]とのパターンが揃い、スライスの開始位置が視覚的に明確になります。もしb[:2]と書かれていた場合、一見してb[2:4]b[4:6]との連続性が分かりにくくなる可能性があります。

  • // An example where it does not: // x, y := b[:n], b[n:] この例は、0を省略しても問題ない、あるいは省略した方が良いケースを示しています。b[:n]b[n:]は、スライスbnのインデックスで2つに分割する一般的なパターンです。この場合、0を明示する必要性は低く、b[:n]の方が簡潔でGoのイディオムに沿っています。

これらのコメントは、gofmtがスライスの簡略化を行う際に、単なる構文的な短縮だけでなく、コードの意図や可読性といったより高レベルな側面も考慮していることを明確にしています。これは、gofmtが単なる機械的な整形ツールではなく、Go言語の慣用的なスタイルと開発者の意図を尊重する設計思想を持っていることを示唆しています。

関連リンク

参考にした情報源リンク