[インデックス 17790] ファイルの概要
このコミットは、Go言語のcmd/api
ツールがCgoが無効な環境でも動作するように修正するものです。具体的には、現在のユーザー名を特定する際に、os/user
パッケージがCgoに依存している場合に備え、環境変数$USER
(Unix系) または %USERNAME%
(Windows系) をフォールバックとして利用するように変更されています。これにより、Cgoが利用できない環境でもcmd/api
ツールが正常に機能するようになります。
コミット
commit 89ebc28b587228c6ce90b78db33925e19aeba7d5
Author: Shenghou Ma <minux.ma@gmail.com>
Date: Mon Oct 14 00:18:46 2013 -0400
cmd/api: make it work even when cgo is disabled
make use of $USER or %USERNAME% to determine the current user.
Fixes #6578.
R=golang-dev, bradfitz, alex.brainman
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/14649043
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/89ebc28b587228c6ce90b78db33925e19aeba7d5
元コミット内容
cmd/api: make it work even when cgo is disabled
make use of $USER or %USERNAME% to determine the current user.
Fixes #6578.
変更の背景
この変更の背景には、Go言語のos/user
パッケージが、一部のプラットフォーム(特にUnix系システム)において、ユーザー情報を取得するためにCgo(C言語のコードをGoから呼び出す機能)に依存しているという問題がありました。Cgoが無効化されているビルド環境や実行環境では、user.Current()
関数がエラーを返す可能性があり、その結果、cmd/api
ツールが正常に動作しなくなるというバグ(Issue #6578)が存在していました。
cmd/api
ツールは、GoのAPIドキュメントを生成するために、一時的なGOPATHを設定します。このGOPATHのパスには、ユーザー名が含まれることがあり、そのユーザー名を取得するためにos/user
パッケージが使用されていました。Cgoが利用できない状況でこのツールを使用すると、ユーザー名の取得に失敗し、ツールがクラッシュしてしまうという問題が発生していました。
このコミットは、この問題を解決し、Cgoが利用できない環境でもcmd/api
ツールが堅牢に動作するようにするためのものです。
前提知識の解説
Cgo
Cgoは、GoプログラムからC言語のコードを呼び出すためのGoの機能です。また、C言語のコードからGoの関数を呼び出すことも可能です。Cgoを使用すると、既存のCライブラリをGoプロジェクトに統合したり、Goでは直接アクセスできないOSの低レベルな機能を利用したりすることができます。
しかし、Cgoを使用すると、ビルドプロセスが複雑になったり、クロスコンパイルが難しくなったり、実行時の依存関係が増えたりする可能性があります。そのため、一部の環境や特定の目的(例えば、完全に静的なバイナリを生成したい場合など)では、Cgoを無効にしてGoプログラムをビルドすることがあります。Goのビルドコマンドに-tags nocgo
オプションを付けることで、Cgoを無効にすることができます。
os/user
パッケージ
os/user
パッケージは、現在のユーザーや指定されたユーザーに関する情報を取得するためのGoの標準ライブラリです。このパッケージは、ユーザー名、ユーザーID、グループID、ホームディレクトリなどの情報を提供します。
Unix系システムでは、os/user
パッケージは通常、getpwnam
やgetpwuid
といったCライブラリ関数を内部的に呼び出してユーザー情報を取得します。これらのCライブラリ関数を呼び出すためにCgoが使用されます。したがって、Cgoが無効な環境では、user.Current()
のような関数が期待通りに動作しない可能性があります。
一方、Windowsでは、os/user
パッケージはCgoに依存せず、ネイティブのWindows API(syscall)を使用してユーザー情報を取得します。そのため、Windows環境ではCgoが無効であってもuser.Current()
は通常問題なく動作します。
環境変数 $USER
および %USERNAME%
環境変数は、オペレーティングシステムが提供する動的な名前付きの値であり、実行中のプロセスに影響を与えます。
$USER
: Unix系システム(Linux, macOSなど)で一般的に使用される環境変数で、現在のログインユーザー名が格納されています。%USERNAME%
: Windowsシステムで一般的に使用される環境変数で、現在のログインユーザー名が格納されています。
これらの環境変数は、Cgoに依存せずにGoプログラムからos.Getenv()
関数を使って簡単に取得できます。
技術的詳細
このコミットの技術的な核心は、os/user.Current()
の呼び出しが失敗した場合のフォールバックメカニズムを導入することです。
元のコードでは、user.Current()
を呼び出し、エラーが発生した場合は即座にlog.Fatalf
でプログラムを終了していました。
u, err := user.Current()
if err != nil {
log.Fatalf("Error getting current user: %v", err)
}
変更後のコードでは、user.Current()
がエラーを返した場合でも、プログラムがクラッシュするのではなく、環境変数からユーザー名を取得しようと試みます。
- まず、
username := ""
としてusername
変数を初期化します。 u, err := user.Current()
を呼び出します。err == nil
の場合、つまりuser.Current()
が成功した場合は、username = u.Username
として取得したユーザー名をusername
変数に格納します。err != nil
の場合、つまりuser.Current()
が失敗した場合は、以下のフォールバックロジックが実行されます。- コメントに「Only need to handle Unix here, as Windows's os/user uses native syscall and should work fine without cgo.」とあるように、このフォールバックは主にUnix系システムを対象としています。Windowsでは
os/user
がCgoなしで動作するため、このパスには通常入りません。 username = os.Getenv("USER")
を呼び出し、Unix系システムで一般的なUSER
環境変数の値を取得します。- もし
USER
環境変数も空文字列だった場合(つまり、環境変数からユーザー名を取得できなかった場合)、その時点で初めてlog.Fatalf
を呼び出してプログラムを終了します。これは、ユーザー名を特定する手段が完全に尽きたことを意味します。
- コメントに「Only need to handle Unix here, as Windows's os/user uses native syscall and should work fine without cgo.」とあるように、このフォールバックは主にUnix系システムを対象としています。Windowsでは
この変更により、gopath
の生成に使用されるユーザー名が、user.Current()
がCgoの制約で失敗しても、環境変数から取得できるようになり、cmd/api
ツールの堅牢性が向上しました。
コアとなるコードの変更箇所
変更は src/cmd/api/run.go
ファイルに集中しています。
--- a/src/cmd/api/run.go
+++ b/src/cmd/api/run.go
@@ -93,13 +93,21 @@ func file(s ...string) string {
func prepGoPath() string {
const tempBase = "go.tools.TMP"
+ username := ""
u, err := user.Current()
- if err != nil {
- log.Fatalf("Error getting current user: %v", err)
+ if err == nil {
+ username = u.Username
+ } else {
+ // Only need to handle Unix here, as Windows's os/user uses
+ // native syscall and should work fine without cgo.
+ username = os.Getenv("USER")
+ if username == "" {
+ log.Fatalf("Error getting current user: %v", err)
+ }
}
// The GOPATH we'll return
- gopath := filepath.Join(os.TempDir(), "gopath-api-"+cleanUsername(u.Username), goToolsVersion)
+ gopath := filepath.Join(os.TempDir(), "gopath-api-"+cleanUsername(username), goToolsVersion)
// cloneDir is where we run "hg clone".
cloneDir := filepath.Join(gopath, "src", "code.google.com", "p")
コアとなるコードの解説
変更前
変更前のコードでは、user.Current()
の呼び出しが失敗した場合、エラーメッセージを出力してプログラムを終了していました。これは、Cgoが無効な環境でuser.Current()
がエラーを返すと、cmd/api
ツールがクラッシュすることを意味します。
u, err := user.Current()
if err != nil {
log.Fatalf("Error getting current user: %v", err)
}
// ...
gopath := filepath.Join(os.TempDir(), "gopath-api-"+cleanUsername(u.Username), goToolsVersion)
変更後
変更後のコードでは、username
という新しい変数が導入され、ユーザー名の取得ロジックがより堅牢になっています。
username := ""
:ユーザー名を格納する変数を初期化します。u, err := user.Current()
:まず、標準的な方法で現在のユーザー情報を取得しようと試みます。if err == nil
:user.Current()
が成功した場合、u.Username
をusername
に代入します。else
:user.Current()
が失敗した場合(Cgoが無効な場合など)、フォールバックロジックに入ります。username = os.Getenv("USER")
:Unix系システムで一般的なUSER
環境変数からユーザー名を取得しようと試みます。Windowsではos/user
がCgoなしで動作するため、このパスは主にUnix系システム向けです。if username == ""
:もし環境変数からもユーザー名が取得できなかった場合、その時点で初めてlog.Fatalf
を呼び出してプログラムを終了します。これは、ユーザー名を特定するすべての試みが失敗したことを意味します。
gopath := filepath.Join(os.TempDir(), "gopath-api-"+cleanUsername(username), goToolsVersion)
:最後に、取得したusername
変数を使用してgopath
を構築します。これにより、user.Current()
が失敗しても、環境変数からユーザー名が取得されていれば、ツールは正常に動作を継続できます。
この変更により、cmd/api
ツールは、Cgoの有無にかかわらず、より多くの環境で安定して動作するようになりました。
関連リンク
- Go Issue #6578: https://github.com/golang/go/issues/6578
- Go Change List 14649043: https://golang.org/cl/14649043
参考にした情報源リンク
- Go Documentation:
os/user
package: https://pkg.go.dev/os/user - Go Documentation:
os
package: https://pkg.go.dev/os - Go Documentation: Cgo: https://go.dev/blog/cgo
- Environment Variables (Wikipedia): https://en.wikipedia.org/wiki/Environment_variable
getpwnam
(man page): https://man7.org/linux/man-pages/man3/getpwnam.3.htmlgetpwuid
(man page): https://man7.org/linux/man-pages/man3/getpwuid.3.html