[インデックス 17795] ファイルの概要
このコミットは、Go言語のランタイムプロファイリングツールであるpprof
パッケージ内のテストファイルpprof_test.go
に対する変更です。具体的には、TestGoroutineSwitch
というテストがWindows環境で不安定(flaky)であったため、そのテストをWindows上ではスキップするように修正しています。
コミット
commit 9a420b79d741b3343c96e56fbfabc528f4c231a1
Author: Alex Brainman <alex.brainman@gmail.com>
Date: Tue Oct 15 13:00:06 2013 +1100
runtime/pprof: disable flaky TestGoroutineSwitch on windows
Update #6417
R=golang-dev, rsc
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/14604043
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/9a420b79d741b3343c96e56fbfabc528f4c231a1
元コミット内容
runtime/pprof: disable flaky TestGoroutineSwitch on windows
このコミットは、runtime/pprof
パッケージ内のTestGoroutineSwitch
テストがWindows環境で不安定であるため、そのテストを無効化(スキップ)するものです。
変更の背景
Go言語のテストスイートにおいて、runtime/pprof
パッケージに含まれるTestGoroutineSwitch
というテストが、Windowsオペレーティングシステム上で実行された際に、時折失敗するという問題(flaky test)を抱えていました。このような不安定なテストは、CI/CDパイプラインの信頼性を低下させ、開発者が実際のバグとテストの不安定さを区別するのを困難にします。
コミットメッセージには「Update #6417」と記載されており、これはGoのIssueトラッカーにおける特定の課題(Issue 6417)に関連する変更であることを示唆しています。不安定なテストは、開発プロセスを妨げるため、一時的または恒久的にそのテストを特定の環境でスキップする決定がなされたと考えられます。この変更の目的は、Windows環境でのビルドやテストの安定性を向上させることにあります。
前提知識の解説
runtime/pprof
パッケージ: Go言語の標準ライブラリの一部で、Goプログラムのプロファイリング機能を提供します。CPUプロファイル、メモリプロファイル、ゴルーチンプロファイルなどを生成するために使用されます。これにより、プログラムのパフォーマンスボトルネックを特定できます。- ゴルーチン (Goroutine): Go言語における軽量な並行処理の単位です。OSのスレッドよりもはるかに軽量で、数百万のゴルーチンを同時に実行することも可能です。Goランタイムがゴルーチンのスケジューリングを管理します。
TestGoroutineSwitch
: このテストは、ゴルーチンの切り替え(コンテキストスイッチ)が正しく行われることを検証することを目的としています。特に、プロファイリング中にゴルーチンが頻繁に切り替わる状況下でのランタイムの安定性やプロファイリングデータの正確性を確認しようとしていたと考えられます。- Flaky Test (不安定なテスト): 特定の環境や条件下で、コードの変更がないにもかかわらず、成功したり失敗したりするテストのことです。並行処理のタイミングの問題、外部リソースの可用性、環境設定の差異などが原因で発生することがあります。
runtime.GOOS
: Go言語の標準ライブラリruntime
パッケージで提供される定数で、プログラムが実行されているオペレーティングシステム(OS)の名前を表します。例えば、Windowsでは"windows"
、Linuxでは"linux"
、macOSでは"darwin"
となります。t.Skip()
: Go言語のテストフレームワーク(testing
パッケージ)で提供されるメソッドです。このメソッドが呼び出されると、現在のテストはスキップされ、テスト結果には「SKIP」として記録されます。これは、特定の環境で実行できないテストや、一時的に無効にしたいテストに使用されます。
技術的詳細
TestGoroutineSwitch
がWindowsで不安定であった具体的な原因は、コミットメッセージからは明確ではありませんが、一般的にゴルーチンの切り替えに関連するテストが特定のOSで不安定になる場合、以下のような要因が考えられます。
- OSスケジューラの挙動の違い: GoランタイムはゴルーチンをOSスレッド上でスケジューリングしますが、OSごとのスレッドスケジューラの挙動やプリエンプションのタイミングが異なることがあります。これにより、テストが期待する特定のタイミングがWindowsでは保証されず、競合状態やデッドロックのような問題が発生しやすくなる可能性があります。
- プロファイリングメカニズムのOS依存性:
pprof
パッケージは、OS固有のシステムコールやメカニズム(例: シグナルハンドリング、タイマー、デバッグAPIなど)を利用してプロファイリングデータを収集します。これらのメカニズムの実装がOS間で異なると、特定の条件下でデータ収集が不安定になったり、ランタイムの状態を不整合にしたりする可能性があります。 - リソースの競合: テストが多数のゴルーチンを生成し、頻繁に切り替えることで、ファイルディスクリプタ、ネットワークソケット、メモリなどのシステムリソースが枯渇したり、OSの制限に達したりすることがあります。OSごとのリソース管理ポリシーの違いが、テストの成功/失敗に影響を与える可能性があります。
- デバッグ情報の収集: プロファイリングツールは、スタックトレースなどのデバッグ情報を収集するために、ランタイムの内部状態にアクセスすることがあります。このアクセスが、ゴルーチンの切り替えと同時に行われると、データ競合や不整合な状態の読み取りが発生し、テストが失敗する原因となることがあります。
このコミットでは、問題の根本原因を特定して修正するのではなく、一時的な回避策としてWindows環境でのテスト実行をスキップすることを選択しています。これは、テストの不安定さが開発の妨げになっている場合に、迅速にCI/CDパイプラインを安定させるための一般的なプラクティスです。ただし、これによりWindows環境でのゴルーチン切り替えに関する潜在的な問題が未検出のままになるリスクも伴います。
コアとなるコードの変更箇所
変更はsrc/pkg/runtime/pprof/pprof_test.go
ファイルに対して行われています。
--- a/src/pkg/runtime/pprof/pprof_test.go
+++ b/src/pkg/runtime/pprof/pprof_test.go
@@ -184,6 +184,9 @@ func TestCPUProfileWithFork(t *testing.T) {
// If it did, it would see inconsistent state and would either record an incorrect stack
// or crash because the stack was malformed.
func TestGoroutineSwitch(t *testing.T) {
+ if runtime.GOOS == "windows" {
+ t.Skip("flaky test; see http://golang.org/issue/6417")
+ }
// How much to try. These defaults take about 1 seconds
// on a 2012 MacBook Pro. The ones in short mode take
// about 0.1 seconds.
コアとなるコードの解説
追加されたコードは以下の3行です。
if runtime.GOOS == "windows" {
t.Skip("flaky test; see http://golang.org/issue/6417")
}
-
if runtime.GOOS == "windows"
:- この行は、現在のプログラムが実行されているオペレーティングシステムがWindowsであるかどうかをチェックします。
runtime.GOOS
はGoランタイムが提供する定数で、現在のOSの名前(例: "windows", "linux", "darwin"など)を文字列で返します。 - この条件が真(つまり、Windows上でテストが実行されている)の場合にのみ、ブロック内のコードが実行されます。
- この行は、現在のプログラムが実行されているオペレーティングシステムがWindowsであるかどうかをチェックします。
-
t.Skip("flaky test; see http://golang.org/issue/6417")
:t
は*testing.T
型のインスタンスで、Goのテスト関数に渡されるテストヘルパーオブジェクトです。t.Skip()
メソッドは、現在のテストをスキップするようにテストフレームワークに指示します。引数として渡された文字列は、テストがスキップされた理由としてテスト結果に表示されます。- ここでは、「flaky test; see http://golang.org/issue/6417」というメッセージが指定されており、テストが不安定であることと、関連するIssueへのリンクが示されています。これにより、テストがスキップされた理由が明確になります。
この変更により、TestGoroutineSwitch
テストはWindows環境では実行されなくなり、テストスイートの全体的な安定性が向上します。
関連リンク
- GitHubコミットページ: https://github.com/golang/go/commit/9a420b79d741b3343c96e56fbfabc528f4c231a1
- Go CL (Change List) 14604043: https://golang.org/cl/14604043
- 関連Issue (コミットメッセージに記載): http://golang.org/issue/6417 (※このIssueは現在のGoのIssueトラッカーでは見つかりませんでした。非常に古いIssueであるか、リンクが変更された可能性があります。)
参考にした情報源リンク
- Go言語公式ドキュメント:
runtime
パッケージ (https://pkg.go.dev/runtime) - Go言語公式ドキュメント:
testing
パッケージ (https://pkg.go.dev/testing) - Go言語公式ドキュメント:
runtime/pprof
パッケージ (https://pkg.go.dev/runtime/pprof) - Go言語のテストに関する一般的な情報源
- Go言語の並行処理に関する情報源