[インデックス 1836] ファイルの概要
このコミットは、Goコンパイラの一つであるgccgo
が生成するエラーメッセージの認識を改善するためのものです。具体的には、const2.go
というテストファイルにおいて、gccgo
が「expected '='」というエラーメッセージを出力する際に、引用符の表示がユーザーのロケール設定によって変化する可能性に対応するため、正規表現のパターンをより汎用的に変更しています。
コミット
commit bd64e8104175ef68911180f1d0dbbd79e247e555
Author: Ian Lance Taylor <iant@golang.org>
Date: Mon Mar 16 21:48:07 2009 -0700
Recognize gccgo error message.
const2.go:7:9: error: expected '='
Uses '.' to recognize the quotation marks, as the actual
characters printed depend on the user's locale.
R=rsc
DELTA=1 (0 added, 0 deleted, 1 changed)
OCL=26360
CL=26373
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/bd64e8104175ef68911180f1d0dbbd79e247e555
元コミット内容
Recognize gccgo error message.
const2.go:7:9: error: expected '='
Uses '.' to recognize the quotation marks, as the actual
characters printed depend on the user's locale.
変更の背景
Go言語の初期段階において、複数のコンパイラが存在しました。このコミットが作成された2009年当時、gc
(現在の公式コンパイラ)とgccgo
(GCCのフロントエンドとして実装されたGoコンパイラ)が主要なコンパイラでした。テストスイートは、これらの異なるコンパイラが生成する可能性のあるエラーメッセージを適切に認識し、テストが正しくパスするように設計されていました。
このコミットの背景にある問題は、gccgo
がエラーメッセージを出力する際に、特定の文字列(この場合は「=
」記号を囲む引用符)が、コンパイラが実行されているシステムのロケール設定によって異なる文字で表示される可能性があるという点です。例えば、英語ロケールではストレートクォート('
または"
)が使われるかもしれませんが、他の言語や地域設定では異なる種類の引用符(例: 引用符「‘」や「’」)が使われる可能性があります。
テストコード内でエラーメッセージを正規表現でマッチングする場合、このロケール依存性は問題となります。もし正規表現が特定の引用符文字に厳密に依存していると、異なるロケール環境でテストを実行した際に、gccgo
が正しいエラーを出力しているにもかかわらず、テストがエラーメッセージを認識できずに失敗してしまう可能性があります。
このコミットは、この問題を解決するために、引用符の部分を任意の1文字にマッチする.
(ドット)に変更することで、ロケールに依存しない柔軟なエラーメッセージ認識を実現しています。
前提知識の解説
gccgo
gccgo
は、GCC(GNU Compiler Collection)のフロントエンドとして実装されたGo言語のコンパイラです。GCCのインフラストラクチャを利用しているため、GCCがサポートする多くのアーキテクチャや最適化機能をGoプログラムに適用できるという利点がありました。Go言語の初期開発段階では、gc
コンパイラと並行して開発が進められていましたが、現在ではgc
がGo言語の公式コンパイラとして主流となっています。しかし、gccgo
は現在でも特定のユースケース(例: GCCのツールチェインとの統合が重要な場合)で利用されています。
エラーメッセージの正規表現マッチング
ソフトウェア開発において、特にコンパイラやリンタなどのツールでは、出力されるエラーメッセージをプログラム的に解析する必要がある場合があります。テストスイートでは、特定のコードが期待通りのエラーを生成するかどうかを確認するために、コンパイラの出力するエラーメッセージを正規表現(Regular Expression)を用いてマッチングすることが一般的です。正規表現は、文字列のパターンを記述するための強力なツールであり、特定の文字列の存在、位置、形式などを柔軟に指定できます。
ロケール(Locale)
ロケールとは、ユーザーの言語、地域、および文化的な慣習(日付と時刻の形式、通貨記号、数値の区切り文字、文字のソート順、メッセージの言語など)を定義する一連のパラメータのことです。オペレーティングシステムは、これらのロケール設定に基づいて、プログラムの動作や表示を調整します。
特に、文字の表示に関しては、ロケールが重要な役割を果たします。例えば、引用符の種類は言語や地域によって異なります。英語ではストレートクォート('
や"
)が一般的ですが、フランス語ではギユメ(«
»
)、ドイツ語では異なる形の引用符が使われることがあります。コンパイラがエラーメッセージを生成する際、これらの引用符がロケール設定に基づいて出力されることがあるため、プログラムによるエラーメッセージの解析時には注意が必要です。
技術的詳細
このコミットの技術的な核心は、正規表現の.
(ドット)メタ文字の利用にあります。
正規表現において、.
は「改行文字(\n
)を除く任意の1文字」にマッチするメタ文字です。この特性を利用することで、ロケールによって変化する可能性のある引用符文字を抽象化し、テストコードがより堅牢になるようにしています。
元の正規表現は、おそらく「expected '
」のように、特定の引用符文字(この場合はシングルクォート)を直接指定していたと考えられます。しかし、gccgo
が実行される環境のロケールが異なると、このシングルクォートが別の引用符文字(例: ‘
や ’
)に置き換わってしまう可能性がありました。その結果、テストが期待するエラーメッセージを正確に認識できず、テストが失敗するという問題が発生します。
このコミットでは、正規表現のパターンを「expected .=.
」に変更しています。ここで、=
記号を囲む2つの引用符がそれぞれ.
に置き換えられています。これにより、gccgo
がどのような引用符文字を出力したとしても、その部分が任意の1文字であればマッチするようになります。例えば、expected '='
、expected ‘=’
、expected “=”
のいずれの形式で出力されても、この正規表現は正しくマッチします。
この変更は、テストの信頼性を高め、異なる国際化された環境でのGoコンパイラのテストの安定性を確保するために重要です。
コアとなるコードの変更箇所
--- a/test/const2.go
+++ b/test/const2.go
@@ -8,5 +8,5 @@ package main
const (
A int = 1;
- B byte; // ERROR "type without expr"
+ B byte; // ERROR "type without expr|expected .=."
)
コアとなるコードの解説
変更されたファイルは test/const2.go
です。これはGo言語のテストスイートの一部であり、特定のコンパイラエラーを意図的に発生させ、そのエラーメッセージが期待通りに出力されるかを確認するためのテストケースです。
変更箇所は以下の行です。
B byte; // ERROR "type without expr|expected .=."
この行のコメント部分に注目してください。// ERROR "..."
という形式は、Goのテストフレームワークがコンパイラの出力するエラーメッセージを検証するために使用する特別なディレクティブです。このディレクティブに続く文字列は正規表現であり、コンパイラがこの行で出力するエラーメッセージがこの正規表現にマッチすることを期待しています。
元のコードでは、// ERROR "type without expr"
の後に、おそらくgccgo
のエラーメッセージを捕捉するための別の正規表現が記述されていたと考えられますが、このコミットではそれが |expected .=.
に変更されています。
|
(パイプ) は正規表現におけるOR演算子です。これは「type without expr
」というエラーメッセージ、または「expected .=.
」というパターンにマッチするエラーメッセージのいずれかが検出されれば良い、ということを意味します。expected .=.
は、前述の通り、expected
の後に任意の1文字、その後に=
、さらにその後に任意の1文字が続くパターンにマッチします。これにより、gccgo
がロケールに依存して出力する引用符の種類に関わらず、「expected '='
」のようなエラーメッセージを確実に捕捉できるようになります。
この変更により、const2.go
のテストは、gc
コンパイラが生成する「type without expr
」エラーと、gccgo
がロケール依存の引用符で生成する可能性のある「expected '='
」エラーの両方を正しく認識できるようになり、テストの堅牢性が向上しました。
関連リンク
特になし。