[インデックス 18706] ファイルの概要
このコミットは、Go言語の net
パッケージにおけるSolaris関連のビルドタグの修正と、それに伴うSolaris上での netgo
テストの有効化を目的としています。具体的には、CGOを利用するネットワーク実装 (cgo_unix.go
) からSolarisのビルドタグを削除し、純粋なGo言語によるネットワーク実装 (netgo_unix_test.go
) のテストにSolarisを含めることで、Solaris環境でのネットワーク機能の整合性を確保し、テストカバレッジを向上させています。
コミット
- コミットハッシュ:
f706d707b7f36d3465fdb2fb1489eb5ad3709d3d
- Author: Mikio Hara mikioh.mikioh@gmail.com
- Date: Mon Mar 3 07:09:28 2014 +0900
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/f706d707b7f36d3465fdb2fb1489eb5ad3709d3d
元コミット内容
net: remove the dreg of solaris merge
Also enables netgo test on solaris.
LGTM=aram, jsing
R=golang-codereviews, dave, aram, jsing
CC=golang-codereviews
https://golang.org/cl/70300043
変更の背景
このコミットの背景には、Go言語の net
パッケージにおけるSolarisサポートの進化と、それに伴うビルド設定の調整があります。コミットメッセージにある「remove the dreg of solaris merge」という表現は、過去のSolaris関連のコードマージにおいて、不要な、あるいは誤った設定が残存していたことを示唆しています。
Go言語のネットワークパッケージは、C言語のライブラリ(libcなど)を呼び出す cgo
を利用する実装と、完全にGo言語で書かれた netgo
と呼ばれる純粋なGo実装の2種類をサポートしています。通常、パフォーマンスや特定のシステムコールへのアクセスが必要な場合は cgo
が利用されますが、クロスコンパイルの容易さやCGOの依存関係を排除したい場合には netgo
が選択されます。
Solaris環境において、以前のコミットで cgo_unix.go
がSolaris向けにビルドされるように設定されていた可能性があります。しかし、何らかの理由(例えば、Solaris上でのCGOベースのネットワーク実装に問題があった、あるいは netgo
の方がSolarisに適していると判断されたなど)で、この設定が不適切であると判断されたと考えられます。その結果、Solaris環境で netgo
のテストが適切に実行されない、あるいは netgo
の利用が妨げられるといった問題が発生していた可能性があります。
このコミットは、その「dreg」(残滓、不要物)を削除し、Solaris環境で netgo
のテストが正しく実行されるようにすることで、SolarisにおけるGoのネットワーク機能の安定性と信頼性を向上させることを目的としています。
前提知識の解説
1. Go言語のビルドタグ (Build Tags)
Go言語には、ソースコードのコンパイル時に特定の条件に基づいてファイルを含めたり除外したりするための「ビルドタグ」という仕組みがあります。これは、ファイルの先頭に // +build
という形式のコメントとして記述されます。
- 構文:
// +build tag1 tag2
- 論理演算:
- スペース区切り: 論理OR (
tag1 || tag2
) - いずれかのタグが有効であればファイルがビルドに含まれる。 - カンマ区切り: 論理AND (
tag1 && tag2
) - すべてのタグが有効でなければファイルがビルドに含まれない。 - 否定:
!tag
- 指定されたタグが有効でない場合にファイルがビルドに含まれる。
- スペース区切り: 論理OR (
例えば、// +build linux darwin
はLinuxまたはmacOSでビルドされるファイルを示し、// +build !cgo netgo
はCGOが無効で netgo
が有効な場合にビルドされるファイルを示します。
2. cgo
と netgo
Go言語の net
パッケージは、ネットワーク操作を扱うための標準ライブラリです。このパッケージには、主に2つの実装パスがあります。
-
cgo
(CGO-enabled network resolver):- これは、GoプログラムがC言語のライブラリ(特にシステムにインストールされているDNSリゾルバやその他のネットワーク関連のCライブラリ)を呼び出すことを可能にするGoの機能である
cgo
を利用する実装です。 cgo
を使用すると、GoプログラムはOSネイティブのネットワークスタックやDNS解決メカニズムを直接利用できるため、一部の環境ではパフォーマンスが向上したり、より複雑なネットワーク設定に対応できたりします。- しかし、
cgo
を使用すると、クロスコンパイルが複雑になったり、CコンパイラやCライブラリへの依存関係が生じたりするというデメリットがあります。 - ビルド時に
CGO_ENABLED=1
(デフォルト) で有効になります。
- これは、GoプログラムがC言語のライブラリ(特にシステムにインストールされているDNSリゾルバやその他のネットワーク関連のCライブラリ)を呼び出すことを可能にするGoの機能である
-
netgo
(Pure Go network resolver):- これは、完全にGo言語で書かれたネットワークリゾルバの実装です。C言語のライブラリに依存しません。
netgo
は、クロスコンパイルを容易にし、Cコンパイラや特定のCライブラリへの依存を排除したい場合に特に有用です。- ただし、一部の複雑なネットワーク環境や、特定のOSネイティブの機能に依存する場合には、
cgo
実装と比較して機能が制限される可能性があります。 - ビルド時に
CGO_ENABLED=0
またはgo build -tags netgo
のようにnetgo
ビルドタグを指定することで有効になります。
3. Solaris
Solarisは、Sun Microsystems(現在はOracleが所有)によって開発されたUNIXベースのオペレーティングシステムです。特にエンタープライズ環境やサーバー分野で利用されてきました。Go言語は、Linux、macOS、Windowsなどと同様に、Solarisもサポート対象のOSの一つとしています。
技術的詳細
このコミットの技術的詳細は、Goのビルドシステムと、net
パッケージの cgo
および netgo
実装の選択メカニズムに深く関連しています。
Goのビルドプロセスでは、ソースファイルのビルドタグを評価し、現在のビルド環境(OS、アーキテクチャ、指定されたビルドタグなど)に合致するファイルのみをコンパイルに含めます。
変更前は、以下のようになっていました。
-
src/pkg/net/cgo_unix.go
:// +build !netgo // +build darwin dragonfly freebsd linux netbsd openbsd solaris
この設定は、「
netgo
タグが指定されておらず、かつ、darwin
、dragonfly
、freebsd
、linux
、netbsd
、openbsd
、またはsolaris
のいずれかのOSでビルドされる場合」にこのファイルがコンパイルされることを意味します。つまり、Solaris環境でnetgo
タグが明示的に指定されていない場合(通常はCGO_ENABLED=1
の場合)、cgo_unix.go
がビルドに含まれていました。 -
src/pkg/net/netgo_unix_test.go
:// +build !cgo netgo // +build darwin dragonfly freebsd linux netbsd openbsd
この設定は、「
cgo
タグが指定されておらず(つまりCGO_ENABLED=0
)、かつnetgo
タグが指定されており、かつ、darwin
、dragonfly
、freebsd
、linux
、netbsd
、またはopenbsd
のいずれかのOSでビルドされる場合」にこのファイルがコンパイルされることを意味します。重要なのは、Solarisがこのリストに含まれていなかった点です。
この状態では、Solaris環境で netgo
を使用しようとしても、netgo_unix_test.go
がコンパイル対象から外れてしまうため、netgo
のテストが実行できませんでした。また、cgo_unix.go
がSolaris向けにビルドされることで、意図しないCGO依存が発生したり、netgo
の純粋なGo実装がSolarisで適切に機能しない原因となっていた可能性があります。
このコミットによる変更は以下の通りです。
-
src/pkg/net/cgo_unix.go
からsolaris
ビルドタグを削除。- これにより、Solaris環境では
cgo_unix.go
がデフォルトでビルドされなくなります。これは、Solarisではnetgo
実装を優先するか、あるいはcgo
ベースの実装に問題があったため、その「dreg」を排除する意図があります。
- これにより、Solaris環境では
-
src/pkg/net/netgo_unix_test.go
にsolaris
ビルドタグを追加。- これにより、Solaris環境で
CGO_ENABLED=0
かつnetgo
タグが指定された場合に、netgo_unix_test.go
がコンパイル対象に含まれるようになります。結果として、Solaris上でのnetgo
のテストが有効になり、純粋なGoネットワーク実装の動作が検証できるようになります。
- これにより、Solaris環境で
この修正により、GoのビルドシステムはSolaris環境において、net
パッケージの netgo
実装を正しく選択し、そのテストを実行できるようになります。これは、SolarisにおけるGoアプリケーションのネットワーク機能の信頼性と互換性を向上させる上で重要なステップです。
コアとなるコードの変更箇所
このコミットでは、以下の2つのファイルのビルドタグが変更されています。
-
src/pkg/net/cgo_unix.go
--- a/src/pkg/net/cgo_unix.go +++ b/src/pkg/net/cgo_unix.go @@ -3,7 +3,7 @@ // license that can be found in the LICENSE file. // +build !netgo -// +build darwin dragonfly freebsd linux netbsd openbsd solaris +// +build darwin dragonfly freebsd linux netbsd openbsd package net
// +build darwin dragonfly freebsd linux netbsd openbsd solaris
の行からsolaris
が削除されました。
-
src/pkg/net/netgo_unix_test.go
--- a/src/pkg/net/netgo_unix_test.go +++ b/src/pkg/net/netgo_unix_test.go @@ -3,7 +3,7 @@ // license that can be found in the LICENSE file. // +build !cgo netgo -// +build darwin dragonfly freebsd linux netbsd openbsd +// +build darwin dragonfly freebsd linux netbsd openbsd solaris package net
// +build darwin dragonfly freebsd linux netbsd openbsd
の行にsolaris
が追加されました。
コアとなるコードの解説
src/pkg/net/cgo_unix.go
の変更
このファイルは、Goの net
パッケージがCGOを利用してネットワーク操作を行うためのUnix系OS向けの実装を含んでいます。変更前は、このファイルがSolaris環境でもビルドされるように指定されていました。
solaris
タグの削除は、Solaris環境において、デフォルトでCGOベースのネットワーク実装がビルドされないようにすることを意味します。これは、SolarisでのCGO実装に問題があったか、あるいは netgo
(純粋なGo実装) の方がSolaris環境に適していると判断されたためと考えられます。これにより、SolarisでのGoプログラムが意図せずCGOに依存することを防ぎ、より安定した netgo
パスを利用するよう促します。
src/pkg/net/netgo_unix_test.go
の変更
このファイルは、Goの net
パッケージの純粋なGo実装 (netgo
) のテストコードを含んでいます。変更前は、このテストがSolaris環境では実行されないように設定されていました。
solaris
タグの追加は、Solaris環境で netgo
が有効な場合に、このテストファイルがコンパイルされ、テストスイートに含まれるようにすることを意味します。これにより、Solaris上での netgo
の動作が自動テストによって検証されるようになり、SolarisにおけるGoのネットワーク機能の品質と信頼性が向上します。
これらの変更は、Goの net
パッケージがSolaris環境でどのようにビルドされ、テストされるかを正確に制御し、SolarisにおけるGoのネットワーク機能の健全性を保証するために不可欠です。
関連リンク
- Go言語のビルドタグに関する公式ドキュメント: https://pkg.go.dev/cmd/go#hdr-Build_constraints
- Go言語の
net
パッケージに関するドキュメント: https://pkg.go.dev/net
参考にした情報源リンク
- https://golang.org/cl/70300043 (元のGo Gerrit Code Reviewリンク)
- Go言語のビルドタグに関する一般的な情報源 (例: Go公式ドキュメント、Goブログ記事など)
cgo
とnetgo
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