[インデックス 18960] ファイルの概要
このコミットは、Goランタイムのガベージコレクタ(GC)における文字列スキャン処理の軽微な最適化に関するものです。具体的には、GCがメモリ上のオブジェクトをスキャンし、到達可能なオブジェクトをマークするフェーズにおいて、文字列オブジェクトの処理方法を改善しています。これにより、不要な処理を削減し、GCの効率をわずかに向上させています。
コミット
commit 40f5e67571d6ce299140638e40bea6b00cc76330
Author: Dmitriy Vyukov <dvyukov@google.com>
Date: Wed Mar 26 15:03:58 2014 +0400
runtime: minor improvement of string scanning
If we set obj, then it will be enqueued for marking at the end of the scanning loop.
This is not necessary, since we've already marked it.
This can wait for 1.4 if you wish.
LGTM=rsc
R=rsc
CC=golang-codereviews
https://golang.org/cl/80030043
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/40f5e67571d6ce299140638e40bea6b00cc76330
元コミット内容
このコミットは、src/pkg/runtime/mgc0.c
ファイル内の scanblock
関数における GC_STRING
型の処理を修正しています。
変更前のコードでは、文字列のデータポインタ (stringptr->str
) を一時変数 obj
に代入してから markonly(obj)
を呼び出していました。
case GC_STRING:
stringptr = (String*)(stack_top.b + pc[1]);
if(stringptr->len != 0) {
obj = stringptr->str; // ここで一時変数 obj に代入
markonly(obj);
}
pc += 2;
continue;
変更の背景
Goのガベージコレクタは、プログラムが使用しているメモリを効率的に管理するために、到達可能なオブジェクトを特定し、不要になったオブジェクトを解放する役割を担っています。このプロセスには、メモリをスキャンしてポインタをたどり、到達可能なオブジェクトにマークを付ける「マークフェーズ」が含まれます。
scanblock
関数は、このマークフェーズにおいて、特定のメモリブロックをスキャンし、そこに含まれるポインタを解析して、参照先のオブジェクトをマークする役割を担っています。文字列 (GC_STRING
) もGCの対象となるオブジェクトの一つです。
このコミットの背景にある問題は、変更前のコードが文字列のデータポインタを obj
という一時変数に代入していた点にあります。コミットメッセージによると、「obj
を設定すると、スキャンループの最後にマークのためにキューに入れられる」という動作がありました。しかし、markonly
関数が既にそのオブジェクトをマークしているため、この追加のキューイングは不要であり、冗長な処理となっていました。
つまり、既にマーク済みのオブジェクトに対して、さらにマーク処理のためのキューイングを行うという無駄なオーバーヘッドが発生していたため、これを排除することが目的でした。これはGCの効率をわずかに向上させるための、比較的小規模な最適化です。コミットメッセージに「This can wait for 1.4 if you wish.」とあるように、Go 1.4リリースに向けて検討された、緊急性の低い改善点であったことが伺えます。
前提知識の解説
このコミットを理解するためには、以下のGoランタイムとガベージコレクションに関する基本的な知識が必要です。
-
Goのガベージコレクション (GC): GoのGCは、主に「マーク&スイープ」アルゴリズムに基づいています。これは、プログラムが現在使用しているオブジェクト(到達可能なオブジェクト)を特定し、それらにマークを付け、マークされなかったオブジェクト(到達不可能なオブジェクト、つまり不要なオブジェクト)をメモリから解放するプロセスです。
- マークフェーズ (Mark Phase): GCのルート(グローバル変数、スタック上の変数など)から開始し、ポインタをたどって到達可能なすべてのオブジェクトにマークを付けます。
- スキャン (Scanning): マークフェーズの一部として、GCはメモリブロックやオブジェクト内部をスキャンし、他のオブジェクトへのポインタを見つけ出します。見つかったポインタの参照先のオブジェクトもマークの対象となります。
- スイープフェーズ (Sweep Phase): マークされなかったオブジェクトが占めていたメモリを解放し、再利用可能にします。
-
src/pkg/runtime/mgc0.c
(またはmgc.go
): これはGoランタイムのガベージコレクタのコア部分を実装しているC言語のファイル(Go 1.5以降はGo言語で再実装されmgc.go
などに移行)です。GCのマークフェーズやスキャンロジックなど、低レベルなメモリ管理の処理が含まれています。 -
scanblock
関数:mgc0.c
内の重要な関数の一つで、GCのマークフェーズ中にメモリブロックをスキャンする役割を担います。この関数は、与えられたメモリブロック内のデータ型を解析し、ポインタがあればその参照先のオブジェクトをマークします。 -
GC_STRING
: Goランタイム内部で定義されている、文字列型を示す定数または識別子です。scanblock
関数は、スキャン中にこの型に遭遇すると、文字列のデータ部分(実際の文字データが格納されているメモリ領域)をGCの対象として適切に処理します。 -
String
構造体: Goの文字列は、ランタイム内部では通常、ポインタと長さを持つ構造体として表現されます。typedef struct String { byte* str; // 文字列データへのポインタ intgo len; // 文字列の長さ } String;
stringptr->str
は、このString
構造体のstr
フィールド、つまり実際の文字列データが格納されているメモリ領域へのポインタを指します。 -
markonly
関数: GoランタイムのGCの一部であり、指定されたオブジェクトを「マーク済み」として記録する関数です。この関数が呼び出されると、GCはそのオブジェクトが到達可能であると認識し、スイープフェーズで解放されるのを防ぎます。
技術的詳細
このコミットの技術的詳細は、Goランタイムのガベージコレクタにおける「マークフェーズ」の効率化にあります。
scanblock
関数は、GCがメモリをスキャンする際に、様々な型のオブジェクトを処理します。GC_STRING
型に遭遇した場合、その文字列が指す実際のデータ領域もGCの対象としてマークする必要があります。
変更前のコードでは、以下のステップで処理が行われていました。
stringptr = (String*)(stack_top.b + pc[1]);
: 現在スキャンしているメモリ位置 (stack_top.b + pc[1]
) からString
構造体へのポインタを取得します。if(stringptr->len != 0)
: 文字列の長さが0でないことを確認します。長さが0の文字列はデータを持たないため、マークする必要がありません。obj = stringptr->str;
: ここが変更のポイントです。文字列のデータへのポインタ (stringptr->str
) を一時変数obj
に代入していました。markonly(obj);
:obj
が指すオブジェクト(文字列データ)をマークします。
コミットメッセージが指摘するように、この obj = stringptr->str;
の代入が問題でした。GoのGCの内部ロジックでは、scanblock
のようなスキャンループ内で obj
のようなローカル変数にポインタが代入されると、その obj
自体がスキャンループの終了時(または別のタイミング)に、再度マーク処理のためにキューに入れられる可能性がありました。
しかし、markonly(obj)
が既に呼び出されているため、stringptr->str
が指す文字列データは既にマーク済みです。したがって、obj
を介して再度キューに入れる処理は冗長であり、CPUサイクルとメモリ帯域の無駄になります。
変更後のコードでは、この冗長性を排除するために、obj = stringptr->str;
の行が削除されました。
case GC_STRING:
stringptr = (String*)(stack_top.b + pc[1]);
if(stringptr->len != 0)
markonly(stringptr->str); // 直接 markonly に渡す
pc += 2;
continue;
これにより、stringptr->str
が指す文字列データは直接 markonly
関数に渡され、一度だけマークされます。一時変数 obj
を介した不要なキューイング処理が回避され、GCの効率がわずかに向上します。これは、特に大量の文字列が生成・処理されるアプリケーションにおいて、GCの一時停止時間(stop-the-world時間)の短縮に寄与する可能性があります。
コアとなるコードの変更箇所
変更は src/pkg/runtime/mgc0.c
ファイルの scanblock
関数内、GC_STRING
のケースにあります。
--- a/src/pkg/runtime/mgc0.c
+++ b/src/pkg/runtime/mgc0.c
@@ -913,10 +913,8 @@ scanblock(Workbuf *wbuf, bool keepworking)
case GC_STRING:
stringptr = (String*)(stack_top.b + pc[1]);
- if(stringptr->len != 0) {
- obj = stringptr->str;
- markonly(obj);
- }
+ if(stringptr->len != 0)
+ markonly(stringptr->str);
pc += 2;
continue;
コアとなるコードの解説
変更されたコードは、scanblock
関数内の switch
ステートメントの一部です。この switch
は、GCがスキャンしているメモリ領域内のオブジェクトの型に基づいて異なる処理を行います。GC_STRING
は、現在処理しているオブジェクトがGoの文字列であることを示します。
-
stringptr = (String*)(stack_top.b + pc[1]);
:pc
はプログラムカウンタのようなもので、stack_top.b + pc[1]
は現在のスキャン位置から文字列オブジェクトのメタデータ(String
構造体)へのオフセットを示します。これにより、stringptr
はメモリ上のString
構造体を指すポインタとなります。 -
if(stringptr->len != 0)
: 文字列の長さが0でない場合のみ、その文字列データが有効であるため、マーク処理に進みます。長さが0の文字列は、実際のデータ領域を持たないため、GCの対象としてマークする必要がありません。 -
markonly(stringptr->str);
(変更後): この行が変更の核心です。変更前はobj = stringptr->str; markonly(obj);
となっていましたが、変更後はstringptr->str
を直接markonly
関数に渡しています。stringptr->str
は、Goの文字列が実際に格納されているバイト配列の先頭へのポインタです。markonly
関数は、このポインタが指すメモリ領域を「到達可能」としてマークします。これにより、GCはこの文字列データを解放せず、プログラムが引き続き使用できるようにします。
この変更により、obj
という一時変数を介した冗長な処理が排除され、GCのマークフェーズにおける文字列スキャンの効率が向上しました。これは、Goランタイムのガベージコレクタが、いかに細部にわたる最適化を追求しているかを示す良い例です。
関連リンク
-
Goのガベージコレクションに関する公式ドキュメントやブログ記事:
- Go's Garbage Collector: A Brief History (Go 1.5でのGCの大きな変更についてですが、GCの基本的な概念を理解するのに役立ちます)
- The Go Programming Language Specification - Strings (Go言語における文字列の基本的な定義)
-
Goのソースコードリポジトリ:
参考にした情報源リンク
- golang/go commit 40f5e67571d6ce299140638e40bea6b00cc76330 on GitHub
- Go Code Review 80030043 (このコミットに対応するGoのコードレビューページ)
- Goランタイムのガベージコレクションに関する一般的な知識と、
mgc0.c
やscanblock
,markonly
といった関数がGCのマークフェーズで果たす役割についての理解。 - Go言語の文字列の内部表現に関する知識。```markdown
[インデックス 18960] ファイルの概要
このコミットは、Goランタイムのガベージコレクタ(GC)における文字列スキャン処理の軽微な最適化に関するものです。具体的には、GCがメモリ上のオブジェクトをスキャンし、到達可能なオブジェクトをマークするフェーズにおいて、文字列オブジェクトの処理方法を改善しています。これにより、不要な処理を削減し、GCの効率をわずかに向上させています。
コミット
commit 40f5e67571d6ce299140638e40bea6b00cc76330
Author: Dmitriy Vyukov <dvyukov@google.com>
Date: Wed Mar 26 15:03:58 2014 +0400
runtime: minor improvement of string scanning
If we set obj, then it will be enqueued for marking at the end of the scanning loop.
This is not necessary, since we've already marked it.
This can wait for 1.4 if you wish.
LGTM=rsc
R=rsc
CC=golang-codereviews
https://golang.org/cl/80030043
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/40f5e67571d6ce299140638e40bea6b00cc76330
元コミット内容
このコミットは、src/pkg/runtime/mgc0.c
ファイル内の scanblock
関数における GC_STRING
型の処理を修正しています。
変更前のコードでは、文字列のデータポインタ (stringptr->str
) を一時変数 obj
に代入してから markonly(obj)
を呼び出していました。
case GC_STRING:
stringptr = (String*)(stack_top.b + pc[1]);
if(stringptr->len != 0) {
obj = stringptr->str; // ここで一時変数 obj に代入
markonly(obj);
}
pc += 2;
continue;
変更の背景
Goのガベージコレクタは、プログラムが使用しているメモリを効率的に管理するために、到達可能なオブジェクトを特定し、不要になったオブジェクトを解放する役割を担っています。このプロセスには、メモリをスキャンしてポインタをたどり、到達可能なオブジェクトにマークを付ける「マークフェーズ」が含まれます。
scanblock
関数は、このマークフェーズにおいて、特定のメモリブロックをスキャンし、そこに含まれるポインタを解析して、参照先のオブジェクトをマークする役割を担っています。文字列 (GC_STRING
) もGCの対象となるオブジェクトの一つです。
このコミットの背景にある問題は、変更前のコードが文字列のデータポインタを obj
という一時変数に代入していた点にあります。コミットメッセージによると、「obj
を設定すると、スキャンループの最後にマークのためにキューに入れられる」という動作がありました。しかし、markonly
関数が既にそのオブジェクトをマークしているため、この追加のキューイングは不要であり、冗長な処理となっていました。
つまり、既にマーク済みのオブジェクトに対して、さらにマーク処理のためのキューイングを行うという無駄なオーバーヘッドが発生していたため、これを排除することが目的でした。これはGCの効率をわずかに向上させるための、比較的小規模な最適化です。コミットメッセージに「This can wait for 1.4 if you wish.」とあるように、Go 1.4リリースに向けて検討された、緊急性の低い改善点であったことが伺えます。
前提知識の解説
このコミットを理解するためには、以下のGoランタイムとガベージコレクションに関する基本的な知識が必要です。
-
Goのガベージコレクション (GC): GoのGCは、主に「マーク&スイープ」アルゴリズムに基づいています。これは、プログラムが現在使用しているオブジェクト(到達可能なオブジェクト)を特定し、それらにマークを付け、マークされなかったオブジェクト(到達不可能なオブジェクト、つまり不要なオブジェクト)をメモリから解放するプロセスです。
- マークフェーズ (Mark Phase): GCのルート(グローバル変数、スタック上の変数など)から開始し、ポインタをたどって到達可能なすべてのオブジェクトにマークを付けます。
- スキャン (Scanning): マークフェーズの一部として、GCはメモリブロックやオブジェクト内部をスキャンし、他のオブジェクトへのポインタを見つけ出します。見つかったポインタの参照先のオブジェクトもマークの対象となります。
- スイープフェーズ (Sweep Phase): マークされなかったオブジェクトが占めていたメモリを解放し、再利用可能にします。
-
src/pkg/runtime/mgc0.c
(またはmgc.go
): これはGoランタイムのガベージコレクタのコア部分を実装しているC言語のファイル(Go 1.5以降はGo言語で再実装されmgc.go
などに移行)です。GCのマークフェーズやスキャンロジックなど、低レベルなメモリ管理の処理が含まれています。 -
scanblock
関数:mgc0.c
内の重要な関数の一つで、GCのマークフェーズ中にメモリブロックをスキャンする役割を担います。この関数は、与えられたメモリブロック内のデータ型を解析し、ポインタがあればその参照先のオブジェクトをマークします。 -
GC_STRING
: Goランタイム内部で定義されている、文字列型を示す定数または識別子です。scanblock
関数は、スキャン中にこの型に遭遇すると、文字列のデータ部分(実際の文字データが格納されているメモリ領域)をGCの対象として適切に処理します。 -
String
構造体: Goの文字列は、ランタイム内部では通常、ポインタと長さを持つ構造体として表現されます。typedef struct String { byte* str; // 文字列データへのポインタ intgo len; // 文字列の長さ } String;
stringptr->str
は、このString
構造体のstr
フィールド、つまり実際の文字列データが格納されているメモリ領域へのポインタを指します。 -
markonly
関数: GoランタイムのGCの一部であり、指定されたオブジェクトを「マーク済み」として記録する関数です。この関数が呼び出されると、GCはそのオブジェクトが到達可能であると認識し、スイープフェーズで解放されるのを防ぎます。
技術的詳細
このコミットの技術的詳細は、Goランタイムのガベージコレクタにおける「マークフェーズ」の効率化にあります。
scanblock
関数は、GCがメモリをスキャンする際に、様々な型のオブジェクトを処理します。GC_STRING
型に遭遇した場合、その文字列が指す実際のデータ領域もGCの対象としてマークする必要があります。
変更前のコードでは、以下のステップで処理が行われていました。
stringptr = (String*)(stack_top.b + pc[1]);
: 現在スキャンしているメモリ位置 (stack_top.b + pc[1]
) からString
構造体へのポインタを取得します。if(stringptr->len != 0)
: 文字列の長さが0でないことを確認します。長さが0の文字列はデータを持たないため、マークする必要がありません。obj = stringptr->str;
: ここが変更のポイントです。文字列のデータへのポインタ (stringptr->str
) を一時変数obj
に代入していました。markonly(obj);
:obj
が指すオブジェクト(文字列データ)をマークします。
コミットメッセージが指摘するように、この obj = stringptr->str;
の代入が問題でした。GoのGCの内部ロジックでは、scanblock
のようなスキャンループ内で obj
のようなローカル変数にポインタが代入されると、その obj
自体がスキャンループの終了時(または別のタイミング)に、再度マーク処理のためにキューに入れられる可能性がありました。
しかし、markonly(obj)
が既に呼び出されているため、stringptr->str
が指す文字列データは既にマーク済みです。したがって、obj
を介して再度キューに入れる処理は冗長であり、CPUサイクルとメモリ帯域の無駄になります。
変更後のコードでは、この冗長性を排除するために、obj = stringptr->str;
の行が削除されました。
case GC_STRING:
stringptr = (String*)(stack_top.b + pc[1]);
if(stringptr->len != 0)
markonly(stringptr->str); // 直接 markonly に渡す
pc += 2;
continue;
これにより、stringptr->str
が指す文字列データは直接 markonly
関数に渡され、一度だけマークされます。一時変数 obj
を介した不要なキューイング処理が回避され、GCの効率がわずかに向上します。これは、特に大量の文字列が生成・処理されるアプリケーションにおいて、GCの一時停止時間(stop-the-world時間)の短縮に寄与する可能性があります。
コアとなるコードの変更箇所
変更は src/pkg/runtime/mgc0.c
ファイルの scanblock
関数内、GC_STRING
のケースにあります。
--- a/src/pkg/runtime/mgc0.c
+++ b/src/pkg/runtime/mgc0.c
@@ -913,10 +913,8 @@ scanblock(Workbuf *wbuf, bool keepworking)
case GC_STRING:
stringptr = (String*)(stack_top.b + pc[1]);
- if(stringptr->len != 0) {
- obj = stringptr->str;
- markonly(obj);
- }
+ if(stringptr->len != 0)
+ markonly(stringptr->str);
pc += 2;
continue;
コアとなるコードの解説
変更されたコードは、scanblock
関数内の switch
ステートメントの一部です。この switch
は、GCがスキャンしているメモリ領域内のオブジェクトの型に基づいて異なる処理を行います。GC_STRING
は、現在処理しているオブジェクトがGoの文字列であることを示します。
-
stringptr = (String*)(stack_top.b + pc[1]);
:pc
はプログラムカウンタのようなもので、stack_top.b + pc[1]
は現在のスキャン位置から文字列オブジェクトのメタデータ(String
構造体)へのオフセットを示します。これにより、stringptr
はメモリ上のString
構造体を指すポインタとなります。 -
if(stringptr->len != 0)
: 文字列の長さが0でない場合のみ、その文字列データが有効であるため、マーク処理に進みます。長さが0の文字列は、実際のデータ領域を持たないため、GCの対象としてマークする必要がありません。 -
markonly(stringptr->str);
(変更後): この行が変更の核心です。変更前はobj = stringptr->str; markonly(obj);
となっていましたが、変更後はstringptr->str
を直接markonly
関数に渡しています。stringptr->str
は、Goの文字列が実際に格納されているバイト配列の先頭へのポインタです。markonly
関数は、このポインタが指すメモリ領域を「到達可能」としてマークします。これにより、GCはこの文字列データを解放せず、プログラムが引き続き使用できるようにします。
この変更により、obj
という一時変数を介した冗長な処理が排除され、GCのマークフェーズにおける文字列スキャンの効率が向上しました。これは、Goランタイムのガベージコレクタが、いかに細部にわたる最適化を追求しているかを示す良い例です。
関連リンク
-
Goのガベージコレクションに関する公式ドキュメントやブログ記事:
- Go's Garbage Collector: A Brief History (Go 1.5でのGCの大きな変更についてですが、GCの基本的な概念を理解するのに役立ちます)
- The Go Programming Language Specification - Strings (Go言語における文字列の基本的な定義)
-
Goのソースコードリポジトリ:
参考にした情報源リンク
- golang/go commit 40f5e67571d6ce299140638e40bea6b00cc76330 on GitHub
- Go Code Review 80030043 (このコミットに対応するGoのコードレビューページ)
- Goランタイムのガベージコレクションに関する一般的な知識と、
mgc0.c
やscanblock
,markonly
といった関数がGCのマークフェーズで果たす役割についての理解。 - Go言語の文字列の内部表現に関する知識。