[インデックス 19113] ファイルの概要
このコミットは、Go言語の標準ライブラリ os/signal
パッケージ内のWindows固有のテストファイル src/pkg/os/signal/signal_windows_test.go
に関連する変更です。具体的には、TestCtrlBreak
というテスト関数が、テスト中に生成する一時的なプログラムファイルの名前をユニークにするように修正されています。
コミット
commit 3ca788de64bd7938efba378668e6ac65ff4b65ca
Author: Alex Brainman <alex.brainman@gmail.com>
Date: Fri Apr 11 16:43:36 2014 +1000
os/signal: use unique program name during TestCtrlBreak
LGTM=bradfitz
R=golang-codereviews, bradfitz
CC=golang-codereviews
https://golang.org/cl/84650047
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/3ca788de64bd7938efba378668e6ac65ff4b65ca
元コミット内容
os/signal: use unique program name during TestCtrlBreak
このコミットの目的は、TestCtrlBreak
テスト実行中に使用されるプログラム名(一時ファイル名)をユニークにすることです。
変更の背景
Goのテストスイートでは、並列実行されるテストが多数存在します。以前の TestCtrlBreak
テストでは、一時ファイルを作成する際に os.TempDir()
と固定のファイル名 "ctlbreak" を組み合わせていました。
name := filepath.Join(os.TempDir(), "ctlbreak")
src := name + ".go"
defer os.Remove(src) // この行は削除される
このアプローチには以下の問題がありました。
- テストの並列実行における競合: 複数の
TestCtrlBreak
テストが同時に実行された場合、同じ一時ファイル名 (ctlbreak.go
) を使用しようとするため、ファイル作成や削除の際に競合が発生し、テストが不安定になったり失敗したりする可能性がありました。 - クリーンアップの不確実性: テストが予期せず終了した場合、一時ファイルが残り、後続のテストやシステムに影響を与える可能性がありました。
これらの問題を解決し、テストの信頼性と堅牢性を向上させるために、ユニークな一時ディレクトリとファイル名を使用する変更が導入されました。
前提知識の解説
Go言語の os/signal
パッケージ
os/signal
パッケージは、Goプログラムがオペレーティングシステムからのシグナル(信号)を処理するための機能を提供します。シグナルは、プログラムに対して特定のイベントが発生したことを通知する非同期の通知メカニズムです。例えば、Ctrl+C(SIGINT)、Ctrl+Break(SIGBREAK)、ターミナルからの終了シグナル(SIGTERM)などがあります。
Windowsにおける Ctrl+Break
シグナル
Windowsオペレーティングシステムでは、Ctrl+Break
キーの組み合わせは、フォアグラウンドで実行されているコンソールアプリケーションに CTRL_BREAK_EVENT
シグナルを送信します。これはUnix系の SIGQUIT
に似ており、通常はプログラムを即座に終了させるために使用されますが、プログラムがこのシグナルを捕捉して適切に処理することも可能です。os/signal
パッケージは、GoプログラムがこのようなWindows固有のシグナルを捕捉し、カスタムのハンドラを実行できるようにします。
Go言語のテストにおける一時ファイル
Goのテストでは、ファイルシステム操作を伴う機能をテストするために一時ファイルや一時ディレクトリが頻繁に利用されます。テストの独立性と再現性を保証するためには、以下が重要です。
- ユニークな名前: 他のテストやシステム上のファイルと競合しないように、ユニークな名前を持つ一時ファイル/ディレクトリを使用します。
- 確実なクリーンアップ: テストの実行後には、作成された一時ファイル/ディレクトリが確実に削除されるようにします。Goの
defer
ステートメントは、このクリーンアップ処理を保証するのに非常に役立ちます。
os.TempDir()
と io/ioutil.TempDir()
os.TempDir()
: オペレーティングシステムが一時ファイルを保存するために推奨するデフォルトのディレクトリのパスを返します。このディレクトリはシステム全体で共有されます。io/ioutil.TempDir(dir, pattern string) (name string, err error)
: 指定されたディレクトリ (dir
、空文字列の場合はos.TempDir()
を使用) 内に、ユニークな名前を持つ新しい一時ディレクトリを作成します。pattern
は作成されるディレクトリ名のプレフィックスとして使用されます。この関数は、テストやアプリケーションで一時的な作業スペースが必要な場合に、名前の衝突を避けるために非常に有用です。
技術的詳細
このコミットの核心は、TestCtrlBreak
テストが一時的な実行可能ファイルを生成する際に、固定のファイル名ではなく、動的に生成されるユニークなディレクトリ内にそのファイルを配置するように変更した点です。
変更前は、os.TempDir()
が返すシステムの一時ディレクトリ直下に ctlbreak.go
という名前でソースファイルを作成し、それをコンパイルして実行していました。
// 変更前
name := filepath.Join(os.TempDir(), "ctlbreak")
src := name + ".go"
defer os.Remove(src) // ソースファイルの削除
// ... コンパイルと実行 ...
この方法では、複数のテストが同時に ctlbreak.go
を作成しようとすると、ファイルロックの競合や、一方のテストが作成したファイルをもう一方が上書きしてしまうといった問題が発生する可能性がありました。
変更後は、io/ioutil.TempDir
を使用して、テストごとにユニークな一時ディレクトリを作成します。
// 変更後
tmp, err := ioutil.TempDir("", "TestCtrlBreak") // ユニークな一時ディレクトリを作成
if err != nil {
t.Fatal("TempDir failed: ", err)
}
defer os.RemoveAll(tmp) // テスト終了時に一時ディレクトリ全体を削除
// write ctrlbreak.go
name := filepath.Join(tmp, "ctlbreak") // ユニークなディレクトリ内にファイルを配置
src := name + ".go"
// defer os.Remove(src) は不要になった (os.RemoveAll(tmp) が処理するため)
// ... コンパイルと実行 ...
この変更により、各 TestCtrlBreak
の実行は完全に独立した一時ディレクトリ内で動作するため、並列実行時のファイル競合が解消されます。また、defer os.RemoveAll(tmp)
を使用することで、テストがどのように終了しても、作成された一時ディレクトリとその内容(コンパイルされた実行ファイルやソースファイルなど)が確実にクリーンアップされるようになります。これにより、テストの信頼性とシステムのクリーンさが向上します。
コアとなるコードの変更箇所
変更は src/pkg/os/signal/signal_windows_test.go
ファイルの TestCtrlBreak
関数内で行われています。
--- a/src/pkg/os/signal/signal_windows_test.go
+++ b/src/pkg/os/signal/signal_windows_test.go
@@ -6,6 +6,7 @@ package signal
import (
"bytes"
+ "io/ioutil"
"os"
"os/exec"
"path/filepath"
@@ -55,9 +56,15 @@ func main() {
}\n}\n`
- name := filepath.Join(os.TempDir(), "ctlbreak")
+ tmp, err := ioutil.TempDir("", "TestCtrlBreak")
+ if err != nil {
+ t.Fatal("TempDir failed: ", err)
+ }
+ defer os.RemoveAll(tmp)
+
+ // write ctrlbreak.go
+ name := filepath.Join(tmp, "ctlbreak")
src := name + ".go"
- defer os.Remove(src)
f, err := os.Create(src)
if err != nil {
t.Fatalf("Failed to create %v: %v", src, err)
コアとなるコードの解説
-
import "io/ioutil"
の追加:ioutil.TempDir
関数を使用するために、io/ioutil
パッケージがインポートされています。 -
一時ディレクトリの作成:
tmp, err := ioutil.TempDir("", "TestCtrlBreak") if err != nil { t.Fatal("TempDir failed: ", err) }
ioutil.TempDir("", "TestCtrlBreak")
は、システムの一時ディレクトリ (os.TempDir()
が返す場所) 内に、TestCtrlBreak
で始まるユニークな名前の一時ディレクトリを作成します。例えば、/tmp/TestCtrlBreak123456789/
のようなディレクトリが作成されます。エラーが発生した場合は、テストを失敗させます。 -
一時ディレクトリのクリーンアップ設定:
defer os.RemoveAll(tmp)
defer
ステートメントにより、TestCtrlBreak
関数が終了する際に、作成された一時ディレクトリtmp
とその中のすべての内容が再帰的に削除されることが保証されます。これにより、テスト実行後に不要なファイルが残ることを防ぎます。 -
一時ファイルパスの変更:
// write ctrlbreak.go name := filepath.Join(tmp, "ctlbreak") src := name + ".go"
以前は
os.TempDir()
直下にctlbreak
という名前でファイルを作成していましたが、この変更により、新しく作成されたユニークな一時ディレクトリtmp
の中にctlbreak
という名前のファイルを作成するようになりました。これにより、各テスト実行が独立したファイルパスを持つことになります。 -
古いクリーンアップの削除:
- defer os.Remove(src)
以前はソースファイル
src
を個別に削除するdefer os.Remove(src)
がありましたが、defer os.RemoveAll(tmp)
が一時ディレクトリ全体を削除するため、この行は不要となり削除されました。
これらの変更により、TestCtrlBreak
はより堅牢になり、並列テスト実行時の競合を避け、テスト後のクリーンアップを確実に実行できるようになりました。
関連リンク
- Go言語
os/signal
パッケージのドキュメント: https://pkg.go.dev/os/signal - Go言語
io/ioutil
パッケージのドキュメント (Go 1.16以降はos
およびio
パッケージに統合): https://pkg.go.dev/io/ioutil (ただし、このコミット時点ではio/ioutil
が使用されています) - Go言語
os
パッケージのドキュメント: https://pkg.go.dev/os - Go言語
path/filepath
パッケージのドキュメント: https://pkg.go.dev/path/filepath - Windowsにおけるコンソールシグナル (CTRL_BREAK_EVENT): https://learn.microsoft.com/ja-jp/windows/console/handlerroutine
参考にした情報源リンク
- Go言語の公式ドキュメント
- Go言語のソースコード
- Microsoft Learn (Windows API ドキュメント)
- Go言語のテストに関する一般的なプラクティス
- Goのコードレビューシステム (Gerrit) のCL (Change-list) ページ: https://golang.org/cl/84650047 (現在はGoのGerritはGitHubに移行しているため、このリンクは直接アクセスできない可能性がありますが、コミットメッセージに記載されています)