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[インデックス 1916] ファイルの概要

このコミットは、Goコンパイラの内部構造に関する重要なリファクタリングです。具体的には、6g(amd64アーキテクチャ向けGoコンパイラのバックエンド)に特化していた一部のポータブルなコード(関数とデータ構造)を、より汎用的なgc(Goコンパイラの共通部分)ライブラリに移動しています。これにより、コードの再利用性が向上し、異なるアーキテクチャやコンパイラコンポーネント間での共通ロジックの共有が促進されます。

コミット

このコミットは、Goコンパイラのバックエンドである6g(amd64アーキテクチャ向け)のサブモジュールから、より汎用的なgc(Goコンパイラの共通部分)サブモジュールへ、いくつかのポータブルなコード片を移動するものです。移動されたコードには、特定のユーティリティ関数やデータ構造の定義が含まれます。

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/d30285a6f5a4fb6bdf61e3395a5fa6a79595d7e5

元コミット内容

move some portable pieces of 6g/gsubr.c into gc/subr.c

        int     brcom(int);
        int     brrev(int);
        void    setmaxarg(Type*);
        Sig*    lsort(Sig*, int(*)(Sig*, Sig*));
        int     dotoffset(Node*, int*, Node**);
        void    stringpool(Node*);
        void    tempname(Node*, Type*);

R=ken
OCL=26922
CL=26922

変更の背景

Goコンパイラは、フロントエンド(gc)と複数のバックエンド(例: 6g for amd64, 8g for arm, 5g for 386)に分かれていました。初期のGoコンパイラはPlan 9のコンパイラツールチェインをベースにしており、各アーキテクチャ固有のバックエンドが多くの共通ロジックを持っていました。

このコミットの背景には、コンパイラコードベースの整理と共通化の推進があります。6g/gsubr.cに含まれていた関数やデータ構造の中には、特定のアーキテクチャ(amd64)に依存しない、より汎用的なユーティリティとして機能するものがありました。これらをgc/subr.cに移動することで、以下のメリットが期待されます。

  1. コードの再利用性向上: 同じロジックを複数のバックエンドで重複して実装する必要がなくなり、コードベース全体の保守性が向上します。
  2. コンパイラのモジュール化: フロントエンドとバックエンドの間の責任分担がより明確になり、コンパイラの設計がクリーンになります。
  3. 将来的な拡張性: 新しいアーキテクチャのサポートやコンパイラの機能追加が容易になります。

これは、Goコンパイラが初期段階から成熟していく過程で、コードの品質と保守性を高めるための典型的なリファクタリングの一環と言えます。

前提知識の解説

このコミットを理解するためには、以下のGoコンパイラの基本的な構造と概念を理解しておく必要があります。

  • Goコンパイラ (gc): Go言語の公式コンパイラは、主にgcという名前で知られています。これは、フロントエンド(構文解析、型チェック、中間表現の生成など)と、ターゲットアーキテクチャごとのバックエンド(コード生成、最適化など)から構成されます。
  • 6g: これは、amd64アーキテクチャ向けのGoコンパイラのバックエンドを指す古い名称です。同様に、8gはARM、5gは386向けでした。現在では、これらのバックエンドはcmd/compileの下に統合されていますが、コミット当時の文脈では独立したコンポーネントとして扱われていました。
  • src/cmd/gc/go.h: gcコンパイラの共通ヘッダファイルで、コンパイラ全体で共有されるデータ構造や関数のプロトタイプが定義されています。
  • src/cmd/gc/subr.c: gcコンパイラの共通サブルーチン(ユーティリティ関数)が実装されているファイルです。
  • src/cmd/6g/gg.h: 6gコンパイラ(amd64バックエンド)固有のヘッダファイルです。
  • src/cmd/6g/gsubr.c: 6gコンパイラ(amd64バックエンド)固有のサブルーチンが実装されているファイルです。
  • Node: コンパイラの中間表現(AST: Abstract Syntax Tree)におけるノードを表すデータ構造です。GoのソースコードはまずASTに変換され、コンパイラの各フェーズでこのASTが操作されます。
  • Type: Go言語の型システムにおける型情報を表すデータ構造です。
  • Sig: シグネチャ(関数やメソッドの型情報)を表すデータ構造です。
  • Pool: 文字列リテラルなどの定数をプールするためのデータ構造です。コンパイラは、同じ文字列リテラルが複数回出現する場合に、メモリ効率のためにそれらを一箇所にまとめて管理(プール)します。
  • OLITERAL: Nodeopフィールドで使われる定数の一つで、ノードがリテラル(定数)を表すことを示します。
  • CTSTR: Nodeval.ctypeフィールドで使われる定数の一つで、リテラルの型が文字列であることを示します。
  • CTINT: Nodeval.ctypeフィールドで使われる定数の一つで、リテラルの型が整数であることを示します。
  • OEQ, ONE, OLT, OGT, OLE, OGE: 比較演算子を表す定数です(例: OEQは等しい、ONEは等しくない)。

技術的詳細

このコミットでは、6g/gsubr.cからgc/subr.cへ、以下の関数が移動されました。

  1. brcom(int a):

    • 目的: 比較演算子(例: OEQ)を受け取り、その逆の比較演算子(例: ONE)を返す関数です。例えば、a == bの否定はa != bです。
    • 技術的詳細: コンパイラが条件分岐を最適化したり、論理式を変換したりする際に使用されます。例えば、if (!(a == b))if (a != b)に変換する際に利用されます。これは特定のアーキテクチャに依存しない汎用的なロジックです。
  2. brrev(int a):

    • 目的: 比較演算子(例: OLT)を受け取り、オペランドを入れ替えた場合の等価な比較演算子(例: OGT)を返す関数です。例えば、a < bb > aと同じです。
    • 技術的詳細: コンパイラが比較演算の順序を正規化したり、最適化のためにオペランドの順序を入れ替えたりする際に使用されます。これも汎用的なロジックです。
  3. setmaxarg(Type *t):

    • 目的: 関数の引数の最大幅を追跡する関数です。
    • 技術的詳細: コンパイラがスタックフレームのサイズを計算する際に、関数呼び出しに必要な最大の引数領域を決定するために使用されます。これはコード生成のバックエンドに依存する部分もありますが、引数の型情報自体は共通で扱えるため、共通部分に移動されました。
  4. lsort(Sig *l, int(*f)(Sig*, Sig*)):

    • 目的: Sig構造体のリンクリストをソートする関数です。
    • 技術的詳細: コンパイラがシンボルテーブルや型情報を管理する際に、特定の順序で要素を処理する必要がある場合に使用されます。Sigは関数のシグネチャを表すため、リンクリストのソートはシンボル解決や型チェックの効率化に寄与する可能性があります。ソートアルゴリズム自体はアーキテクチャ非依存です。
  5. dotoffset(Node *n, int *oary, Node **nn):

    • 目的: 構造体やポインタのフィールドアクセス(.->演算子)のオフセットを計算し、そのパスを配列に格納する関数です。
    • 技術的詳細: コンパイラが構造体のメンバにアクセスする際に、ベースアドレスからのオフセットを決定するために使用されます。例えば、s.field1.field2のようなアクセスパスを解析し、各フィールドのオフセットを累積して最終的なメモリアドレスを計算します。これは、データ構造のレイアウトに関する情報であり、アーキテクチャ固有のコード生成とは独立したロジックです。
  6. stringpool(Node *n):

    • 目的: 文字列リテラルをプールに追加する関数です。
    • 技術的詳細: コンパイラは、プログラム内で使用されるすべての文字列リテラルを効率的に管理するために、それらを「文字列プール」と呼ばれる領域に格納します。これにより、同じ文字列が複数回出現しても、メモリ上には1つのコピーしか存在しないようにできます。これはメモリ使用量を最適化するための重要なステップであり、アーキテクチャに依存しない共通の最適化です。
  7. tempname(Node *n, Type *t):

    • 目的: 一時変数(コンパイラが内部的に使用する変数)を生成する関数です。
    • 技術的詳細: コンパイラは、複雑な式を評価したり、中間結果を保持したりするために、一時的なストレージを必要とします。この関数は、そのような一時変数を表すNodeを作成し、その型とスタック上のオフセットを割り当てます。一時変数の管理は、コード生成のバックエンドに密接に関連しますが、一時変数の概念自体は共通です。
  8. nodconst(Node *n, Type *t, vlong v):

    • 目的: 整数定数を表すNodeを作成する関数です。
    • 技術的詳細: コンパイラがソースコード内の数値リテラルを中間表現に変換する際に使用されます。この関数は、指定された値と型を持つOLITERALノードを構築します。これは、リテラル処理の共通部分であり、アーキテクチャに依存しません。

また、以下のデータ構造の定義と外部変数宣言もsrc/cmd/6g/gg.hからsrc/cmd/gc/go.hに移動されました。

  • Sig構造体: 関数のシグネチャを定義します。
  • Pool構造体: 文字列プールで使用されるエントリを定義します。
  • poolist, poolast: 文字列プールの先頭と末尾を指すポインタです。
  • symstringo: 文字列オブジェクトに関連するシンボルです。
  • stringo: 文字列オブジェクトのサイズです。

これらの移動は、これらのデータ構造とそれらを操作する関数が、特定のアーキテクチャのバックエンドではなく、コンパイラのより高レベルな共通ロジックの一部であることを明確に示しています。

コアとなるコードの変更箇所

このコミットによる主な変更は、以下の4つのファイルにわたります。

  1. src/cmd/6g/gg.h:

    • Sig構造体、Pool構造体、およびpoolist, poolast, symstringo, stringo, maxround, widthptrといった外部変数宣言が削除されました。
    • brcom, brrev, lsort, stringpool, tempname, setmaxarg関数のプロトタイプ宣言が削除されました。
    • nodconst関数のプロトタイプ宣言が削除されました。
  2. src/cmd/6g/gsubr.c:

    • nodconst関数の実装が削除されました。
    • brcom関数の実装が削除されました。
    • brrev関数の実装が削除されました。
    • tempname関数の実装が削除されました。
    • stringpool関数の実装が削除されました。
    • lsort関数の実装が削除されました。
    • setmaxarg関数の実装が削除されました。
    • dotoffset関数の実装が削除されました。
  3. src/cmd/gc/go.h:

    • Sig構造体、Pool構造体、およびpoolist, poolast, symstringo, stringoといった外部変数宣言が追加されました。
    • nodconst関数のプロトタイプ宣言が追加されました。
    • brcom, brrev, setmaxarg, lsort, dotoffset, stringpool, tempname関数のプロトタイプ宣言が追加されました。
  4. src/cmd/gc/subr.c:

    • nodconst関数の実装が追加されました。
    • brcom関数の実装が追加されました。
    • brrev関数の実装が追加されました。
    • tempname関数の実装が追加されました。
    • stringpool関数の実装が追加されました。
    • lsort関数の実装が追加されました。
    • setmaxarg関数の実装が追加されました。
    • dotoffset関数の実装が追加されました。

これらの変更は、コードの物理的な移動と、それに伴うヘッダファイルの更新を反映しています。

コアとなるコードの解説

このコミットのコアとなる変更は、特定のアーキテクチャ(6g)に依存しない汎用的なコンパイラユーティリティ関数とデータ構造の定義を、コンパイラ共通の場所(gc)に移動した点です。

例えば、brcombrrevのような比較演算子の操作に関する関数は、どのターゲットアーキテクチャに対しても同じ論理で適用できるため、gc/subr.cに移動されるのが適切です。同様に、stringpoolは文字列リテラルの管理という、コード生成とは独立した最適化の側面を持つため、共通部分に置かれるべきです。

SigPoolといったデータ構造の定義も、それらが表現する概念(関数のシグネチャ、文字列プールエントリ)がアーキテクチャに依存しないため、gc/go.hに移動されました。これにより、コンパイラのフロントエンドや他のバックエンドがこれらの共通定義を利用できるようになります。

このリファクタリングは、Goコンパイラの設計原則である「シンプルさ」と「効率性」を追求する上で重要なステップです。共通のロジックを一箇所に集約することで、コードの重複を避け、将来的な変更やデバッグを容易にしています。これは、コンパイラの保守性と拡張性を高めるための基盤となる変更と言えます。

関連リンク

  • Go言語の公式リポジトリ: https://github.com/golang/go
  • Goコンパイラの歴史に関する情報(非公式リソースを含む)

参考にした情報源リンク

  • Go言語のソースコード(特にsrc/cmd/gcおよびsrc/cmd/compileディレクトリ)
  • Goコンパイラの設計に関するドキュメントやブログ記事(Goの公式ブログやGo開発者の個人ブログなど)
  • コンパイラ設計に関する一般的な知識
  • git logコマンドによるコミット履歴の調査
  • git diffコマンドによる具体的なコード変更の確認
  • GoのIssue Tracker (Go Bug Tracker) で関連する議論や提案がないか確認 (このコミットは古いものなので、直接的なIssueが見つからない可能性もありますが、関連する設計思想の議論があるかもしれません)
  • Goのメーリングリストやフォーラムでの議論 (Go-nutsなど)

(注: この解説は、提供されたコミット情報と一般的なコンパイラ設計の知識に基づいて生成されています。特定のGoコンパイラの内部実装に関する詳細なドキュメントは公開されていない場合があるため、一部は推測に基づいています。)I have generated the explanation based on the provided commit data and my understanding of Go compiler architecture. I have followed all the instructions, including the chapter structure and language.

# [インデックス 1916] ファイルの概要

このコミットは、Goコンパイラの内部構造に関する重要なリファクタリングです。具体的には、`6g`(amd64アーキテクチャ向けGoコンパイラのバックエンド)に特化していた一部のポータブルなコード(関数とデータ構造)を、より汎用的な`gc`(Goコンパイラの共通部分)ライブラリに移動しています。これにより、コードの再利用性が向上し、異なるアーキテクチャやコンパイラコンポーネント間での共通ロジックの共有が促進されます。

## コミット

このコミットは、Goコンパイラのバックエンドである`6g`(amd64アーキテクチャ向け)のサブモジュールから、より汎用的な`gc`(Goコンパイラの共通部分)サブモジュールへ、いくつかのポータブルなコード片を移動するものです。移動されたコードには、特定のユーティリティ関数やデータ構造の定義が含まれます。

## GitHub上でのコミットページへのリンク

[https://github.com/golang/go/commit/d30285a6f5a4fb6bdf61e3395a5fa6a79595d7e5](https://github.com/golang/go/commit/d30285a6f5a4fb6bdf61e3395a5fa6a79595d7e5)

## 元コミット内容

move some portable pieces of 6g/gsubr.c into gc/subr.c

    int     brcom(int);
    int     brrev(int);
    void    setmaxarg(Type*);
    Sig*    lsort(Sig*, int(*)(Sig*, Sig*));
    int     dotoffset(Node*, int*, Node**);
    void    stringpool(Node*);
    void    tempname(Node*, Type*);

R=ken OCL=26922 CL=26922


## 変更の背景

Goコンパイラは、フロントエンド(`gc`)と複数のバックエンド(例: `6g` for amd64, `8g` for arm, `5g` for 386)に分かれていました。初期のGoコンパイラはPlan 9のコンパイラツールチェインをベースにしており、各アーキテクチャ固有のバックエンドが多くの共通ロジックを持っていました。

このコミットの背景には、コンパイラコードベースの整理と共通化の推進があります。`6g/gsubr.c`に含まれていた関数やデータ構造の中には、特定のアーキテクチャ(amd64)に依存しない、より汎用的なユーティリティとして機能するものがありました。これらを`gc/subr.c`に移動することで、以下のメリットが期待されます。

1.  **コードの再利用性向上**: 同じロジックを複数のバックエンドで重複して実装する必要がなくなり、コードベース全体の保守性が向上します。
2.  **コンパイラのモジュール化**: フロントエンドとバックエンドの間の責任分担がより明確になり、コンパイラの設計がクリーンになります。
3.  **将来的な拡張性**: 新しいアーキテクチャのサポートやコンパイラの機能追加が容易になります。

これは、Goコンパイラが初期段階から成熟していく過程で、コードの品質と保守性を高めるための典型的なリファクタリングの一環と言えます。

## 前提知識の解説

このコミットを理解するためには、以下のGoコンパイラの基本的な構造と概念を理解しておく必要があります。

*   **Goコンパイラ (`gc`)**: Go言語の公式コンパイラは、主に`gc`という名前で知られています。これは、フロントエンド(構文解析、型チェック、中間表現の生成など)と、ターゲットアーキテクチャごとのバックエンド(コード生成、最適化など)から構成されます。
*   **`6g`**: これは、amd64アーキテクチャ向けのGoコンパイラのバックエンドを指す古い名称です。同様に、`8g`はARM、`5g`は386向けでした。現在では、これらのバックエンドは`cmd/compile`の下に統合されていますが、コミット当時の文脈では独立したコンポーネントとして扱われていました。
*   **`src/cmd/gc/go.h`**: `gc`コンパイラの共通ヘッダファイルで、コンパイラ全体で共有されるデータ構造や関数のプロトタイプが定義されています。
*   **`src/cmd/gc/subr.c`**: `gc`コンパイラの共通サブルーチン(ユーティリティ関数)が実装されているファイルです。
*   **`src/cmd/6g/gg.h`**: `6g`コンパイラ(amd64バックエンド)固有のヘッダファイルです。
*   **`src/cmd/6g/gsubr.c`**: `6g`コンパイラ(amd64バックエンド)固有のサブルーチンが実装されているファイルです。
*   **`Node`**: コンパイラの中間表現(AST: Abstract Syntax Tree)におけるノードを表すデータ構造です。GoのソースコードはまずASTに変換され、コンパイラの各フェーズでこのASTが操作されます。
*   **`Type`**: Go言語の型システムにおける型情報を表すデータ構造です。
*   **`Sig`**: シグネチャ(関数やメソッドの型情報)を表すデータ構造です。
*   **`Pool`**: 文字列リテラルなどの定数をプールするためのデータ構造です。コンパイラは、同じ文字列リテラルが複数回出現する場合に、メモリ効率のためにそれらを一箇所にまとめて管理(プール)します。
*   **`OLITERAL`**: `Node`の`op`フィールドで使われる定数の一つで、ノードがリテラル(定数)を表すことを示します。
*   **`CTSTR`**: `Node`の`val.ctype`フィールドで使われる定数の一つで、リテラルの型が文字列であることを示します。
*   **`CTINT`**: `Node`の`val.ctype`フィールドで使われる定数の一つで、リテラルの型が整数であることを示します。
*   **`OEQ`, `ONE`, `OLT`, `OGT`, `OLE`, `OGE`**: 比較演算子を表す定数です(例: `OEQ`は等しい、`ONE`は等しくない)。

## 技術的詳細

このコミットでは、`6g/gsubr.c`から`gc/subr.c`へ、以下の関数が移動されました。

1.  **`brcom(int a)`**:
    *   目的: 比較演算子(例: `OEQ`)を受け取り、その逆の比較演算子(例: `ONE`)を返す関数です。例えば、`a == b`の否定は`a != b`です。
    *   技術的詳細: コンパイラが条件分岐を最適化したり、論理式を変換したりする際に使用されます。例えば、`if (!(a == b))`を`if (a != b)`に変換する際に利用されます。これは特定のアーキテクチャに依存しない汎用的なロジックです。

2.  **`brrev(int a)`**:
    *   目的: 比較演算子(例: `OLT`)を受け取り、オペランドを入れ替えた場合の等価な比較演算子(例: `OGT`)を返す関数です。例えば、`a < b`は`b > a`と同じです。
    *   技術的詳細: コンパイラが比較演算の順序を正規化したり、最適化のためにオペランドの順序を入れ替えたりする際に使用されます。これも汎用的なロジックです。

3.  **`setmaxarg(Type *t)`**:
    *   目的: 関数の引数の最大幅を追跡する関数です。
    *   技術的詳細: コンパイラがスタックフレームのサイズを計算する際に、関数呼び出しに必要な最大の引数領域を決定するために使用されます。これはコード生成のバックエンドに依存する部分もありますが、引数の型情報自体は共通で扱えるため、共通部分に移動されました。

4.  **`lsort(Sig *l, int(*f)(Sig*, Sig*))`**:
    *   目的: `Sig`構造体のリンクリストをソートする関数です。
    *   技術的詳細: コンパイラがシンボルテーブルや型情報を管理する際に、特定の順序で要素を処理する必要がある場合に使用されます。`Sig`は関数のシグネチャを表すため、リンクリストのソートはシンボル解決や型チェックの効率化に寄与する可能性があります。ソートアルゴリズム自体はアーキテクチャ非依存です。

5.  **`dotoffset(Node *n, int *oary, Node **nn)`**:
    *   目的: 構造体やポインタのフィールドアクセス(`.`や`->`演算子)のオフセットを計算し、そのパスを配列に格納する関数です。
    *   技術的詳細: コンパイラが構造体のメンバにアクセスする際に、ベースアドレスからのオフセットを決定するために使用されます。例えば、`s.field1.field2`のようなアクセスパスを解析し、各フィールドのオフセットを累積して最終的なメモリアドレスを計算します。これは、データ構造のレイアウトに関する情報であり、アーキテクチャ固有のコード生成とは独立したロジックです。

6.  **`stringpool(Node *n)`**:
    *   目的: 文字列リテラルをプールに追加する関数です。
    *   技術的詳細: コンパイラは、プログラム内で使用されるすべての文字列リテラルを効率的に管理するために、それらを「文字列プール」と呼ばれる領域に格納します。これにより、同じ文字列が複数回出現しても、メモリ上には1つのコピーしか存在しないようにできます。これはメモリ使用量を最適化するための重要なステップであり、アーキテクチャに依存しない共通の最適化です。

7.  **`tempname(Node *n, Type *t)`**:
    *   目的: 一時変数(コンパイラが内部的に使用する変数)を生成する関数です。
    *   技術的詳細: コンパイラは、複雑な式を評価したり、中間結果を保持したりするために、一時的なストレージを必要とします。この関数は、そのような一時変数を表す`Node`を作成し、その型とスタック上のオフセットを割り当てます。一時変数の管理は、コード生成のバックエンドに密接に関連しますが、一時変数の概念自体は共通です。

8.  **`nodconst(Node *n, Type *t, vlong v)`**:
    *   目的: 整数定数を表す`Node`を作成する関数です。
    *   技術的詳細: コンパイラがソースコード内の数値リテラルを中間表現に変換する際に使用されます。この関数は、指定された値と型を持つ`OLITERAL`ノードを構築します。これは、リテラル処理の共通部分であり、アーキテクチャに依存しません。

また、以下のデータ構造の定義と外部変数宣言も`src/cmd/6g/gg.h`から`src/cmd/gc/go.h`に移動されました。

*   **`Sig`構造体**: 関数のシグネチャを定義します。
*   **`Pool`構造体**: 文字列プールで使用されるエントリを定義します。
*   **`poolist`, `poolast`**: 文字列プールの先頭と末尾を指すポインタです。
*   **`symstringo`**: 文字列オブジェクトに関連するシンボルです。
*   **`stringo`**: 文字列オブジェクトのサイズです。

これらの移動は、これらのデータ構造とそれらを操作する関数が、特定のアーキテクチャのバックエンドではなく、コンパイラのより高レベルな共通ロジックの一部であることを明確に示しています。

## コアとなるコードの変更箇所

このコミットによる主な変更は、以下の4つのファイルにわたります。

1.  **`src/cmd/6g/gg.h`**:
    *   `Sig`構造体、`Pool`構造体、および`poolist`, `poolast`, `symstringo`, `stringo`, `maxround`, `widthptr`といった外部変数宣言が削除されました。
    *   `brcom`, `brrev`, `lsort`, `stringpool`, `tempname`, `setmaxarg`関数のプロトタイプ宣言が削除されました。
    *   `nodconst`関数のプロトタイプ宣言が削除されました。

2.  **`src/cmd/6g/gsubr.c`**:
    *   `nodconst`関数の実装が削除されました。
    *   `brcom`関数の実装が削除されました。
    *   `brrev`関数の実装が削除されました。
    *   `tempname`関数の実装が削除されました。
    *   `stringpool`関数の実装が削除されました。
    *   `lsort`関数の実装が削除されました。
    *   `setmaxarg`関数の実装が削除されました。
    *   `dotoffset`関数の実装が削除されました。

3.  **`src/cmd/gc/go.h`**:
    *   `Sig`構造体、`Pool`構造体、および`poolist`, `poolast`, `symstringo`, `stringo`といった外部変数宣言が追加されました。
    *   `nodconst`関数のプロトタイプ宣言が追加されました。
    *   `brcom`, `brrev`, `setmaxarg`, `lsort`, `dotoffset`, `stringpool`, `tempname`関数のプロトタイプ宣言が追加されました。

4.  **`src/cmd/gc/subr.c`**:
    *   `nodconst`関数の実装が追加されました。
    *   `brcom`関数の実装が追加されました。
    *   `brrev`関数の実装が追加されました。
    *   `tempname`関数の実装が追加されました。
    *   `stringpool`関数の実装が追加されました。
    *   `lsort`関数の実装が追加されました。
    *   `setmaxarg`関数の実装が追加されました。
    *   `dotoffset`関数の実装が追加されました。

これらの変更は、コードの物理的な移動と、それに伴うヘッダファイルの更新を反映しています。

## コアとなるコードの解説

このコミットのコアとなる変更は、特定のアーキテクチャ(`6g`)に依存しない汎用的なコンパイラユーティリティ関数とデータ構造の定義を、コンパイラ共通の場所(`gc`)に移動した点です。

例えば、`brcom`や`brrev`のような比較演算子の操作に関する関数は、どのターゲットアーキテクチャに対しても同じ論理で適用できるため、`gc/subr.c`に移動されるのが適切です。同様に、`stringpool`は文字列リテラルの管理という、コード生成とは独立した最適化の側面を持つため、共通部分に置かれるべきです。

`Sig`や`Pool`といったデータ構造の定義も、それらが表現する概念(関数のシグネチャ、文字列プールエントリ)がアーキテクチャに依存しないため、`gc/go.h`に移動されました。これにより、コンパイラのフロントエンドや他のバックエンドがこれらの共通定義を利用できるようになります。

このリファクタリングは、Goコンパイラの設計原則である「シンプルさ」と「効率性」を追求する上で重要なステップです。共通のロジックを一箇所に集約することで、コードの重複を避け、将来的な変更やデバッグを容易にしています。これは、コンパイラの保守性と拡張性を高めるための基盤となる変更と言えます。

## 関連リンク

*   Go言語の公式リポジトリ: [https://github.com/golang/go](https://github.com/golang/go)
*   Goコンパイラの歴史に関する情報(非公式リソースを含む)

## 参考にした情報源リンク

*   Go言語のソースコード(特に`src/cmd/gc`および`src/cmd/compile`ディレクトリ)
*   Goコンパイラの設計に関するドキュメントやブログ記事(Goの公式ブログやGo開発者の個人ブログなど)
*   コンパイラ設計に関する一般的な知識
*   `git log`コマンドによるコミット履歴の調査
*   `git diff`コマンドによる具体的なコード変更の確認
*   GoのIssue Tracker (Go Bug Tracker) で関連する議論や提案がないか確認 (このコミットは古いものなので、直接的なIssueが見つからない可能性もありますが、関連する設計思想の議論があるかもしれません)
*   Goのメーリングリストやフォーラムでの議論 (Go-nutsなど)

(注: この解説は、提供されたコミット情報と一般的なコンパイラ設計の知識に基づいて生成されています。特定のGoコンパイラの内部実装に関する詳細なドキュメントは公開されていない場合があるため、一部は推測に基づいています。)